ピリピリとビリビリ
カレーとライブハウス事情と… #1巻応援
ピリピリとビリビリ 西倉新久 印度カリー子
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
時はコロナ禍の現在。経営の苦しいライブハウス存続をかけて、女性店長はカレーに詳しい駆け出し女性ミュージシャンにスパイスカレー作りを教わる、という本作。現実的な問題に対してリアルさを失わずに、希望のある解決を見せて楽しい。 舞台は渋谷、ライブハウスとミュージシャンの苦境は報道と同じ。マスク率が高いのも含めてエッセイコミック的な現実感だ。 登場するスパイスカレーのレシピは本格的だが、料理を少しする身としては何となくできそうな気がしてくる。その辺は、スパイス監修として関わっておられる印度カリー子さんの、レシピの考え方が分かりやすいためかもしれない。そして美味しそう……。 コミカルに進む二人のカレー作り。その中で美味しいと言ってもらえる喜び、誰かと共に味わう喜び、相手のためになりたい思いなど、二人の女性の想い合いは強くなる……ので、百合とまでは言わないが、軽いロマンシス物としても時折グッと来る。 音楽も食も、日常を少し彩るスパイス。カレーを通じて食の意味を知るこのマンガも、楽しさと未知への興味と世情の緊張感を織り込んだ複雑なスパイスのような彩りを、脳にもたらしてくれた。
石神伝説
とり・みき先生の「モロ」
石神伝説 とり・みき
ナベテツ
ナベテツ
昔読んだとり先生のエッセイに、火浦功さんの「死に急ぐ奴らの街」の解説文が収録されていて、作家の持つ「作家性」がモロに発揮された傑作である、といった旨の文章を綴っていました。その文章を読んだことがあったため、この「石神伝説」という作品を初めて読んだ時、ある意味でとり・みき先生の作家性が「モロ」に発揮されている作品なんではないのだろうかと、秘かに思った記憶があります。 日本神話をモチーフに、巨大怪獣と自衛隊員が戦う-ひどく乱暴に物語を要約してしまうとこんな雑な要約になってしまうのですが、この作品には様々なフレーバーを感じます。おそらくとり先生が多大な影響を受けてきたであろう特撮映画や様々なSF、マンガ作品(残念ながら自分はそれらの作品を言挙げ出来る程の知識はありませんが)。とり・みきというクリエイターは普段ギャグをまぶして描くことが多い題材ですが、この作品は恐らくそれらを消化して、真っ向から描いており、途半ばであっても傑作と評価されるべきだと思っています。 掲載誌が休刊して未完であることが悔しいタイトルの一つではありますが、一マンガ好きとしてはこの作品が再び描かれることを気長に待ち続けています。 そして些か蛇足になるかもしれませんが、「プリニウス」を好きな方にはこちらの作品も読んで欲しいなあなんてことも思ったりもしています(プリニウスにおけるとり先生のフレーバーというものがよく分かるんじゃないかと思ったりもしています)
美は乱調にあり
大正破天荒ラブストーリー
美は乱調にあり 柴門ふみ 瀬戸内寂聴
無用ノスケ子
無用ノスケ子
瀬戸内寂聴さんの小説を漫画化したもの。史実を踏まえた歴史マンガの面白さと、愛憎入り交じったラブストーリーの描き手として、柴門ふみ先生はこれ以上ない適任者であると感じました。しかも「東京ラブストーリー」のキャラクターは「美は乱調にあり」から刺激を受けてのものだそうで、その繋がり方には妙に納得感があります。 本の主な内容としては、大正時代の雑誌「青鞜(せいとう)」で活躍されていた、今でいうフェミニストの先人となる女性達、平塚らいてう、伊藤野枝、神近市子、そして革命家で、プレイボーイの大杉栄を中心とした、それぞれの人間模様が描かれています。 主人公・伊藤野枝は、若くして結婚して子どもを出産しますが、不倫して家を出てしまう所など、瀬戸内寂聴さんの人生とも似てます。そして、不倫を超越した恋愛を「フリーラブ」と称し、互いに自立した男女関係こそが古い価値観を壊し、革命に繋がるのだ!と熱弁。当然、こうした思想・価値観は政府からの反発を受け、世間からはスキャンダラスな扱いを受けるわけですが…。 後半になるほど歴史的には面白くなるはずが、昼ドラみたいになってしまったのが少し残念。ページが足りなかったのか事実の羅列だけで、最後に甘粕さんが出てきても誰?状態になる人続出だと思います。私も村上もとか先生の「龍―RON―」で描かれた時代の知識しか無いので、この時代の事はもう少し勉強せねば。
お金さま、いらっしゃい!
姿勢も境遇も真似できない
お金さま、いらっしゃい! 高田かや
野愛
野愛
初心者に節約術とか財テクとかを教えてくれる漫画っぽい表紙なのがなんとも憎いです。何も知らずにうっかり読んだらお金よりカルト村のことが知りたくなるはず。 対価0円で毎日労働、物は共有で金銭のやりとりはない、そもそもお金を隠し持っていたら没収されてしまう。 そんなカルト村で育った高田かやさんが一般社会でどのようにお金と向き合ってきたかを描いた作品です。 ・お金に触れる機会がほぼ無かったから、お金に対して強い憧れがある。 ・ものを買うという経験がないから、自分の欲望と消費が結びつかない。 一般社会で育った者からすると、こういう感覚は自分にないもの。貧乏で我慢しながら生活していた人ともまた違う感覚だと思います。 安くていいものと高くていいものの見極めができるようになったり、共有ではなく個人で所有する感覚を掴んだり。 何気ない日常にも新鮮な喜びや学びがあるのだなと感じました。 旦那さん達の金銭感覚にはちょっとモヤるけど、かやさんが受け入れて幸せなんだから凄いよな……。 環境や他人のことを責めずに、自分が幸せであるために努力できるのは素晴らしい。 素晴らしいけど……それは村で育ったおかげなのか?という考えが一瞬よぎってしまうので、やっぱりカルトは恐ろしい。
きょうも厄日です
息の長いシリーズになってほしい #1巻応援
きょうも厄日です 山本さほ
無用ノスケ子
無用ノスケ子
何かとトラブルを引き寄せてしまう作者の実体験を綴ったエッセイ。子供時代から最近の出来事まで、いろんな"厄"をユーモアたっぷりに表現されています。厄日の話ばかりでなく、友人の話だったり、ちょっとした恋愛話(厄あり)も入ってきます。私のお気に入りは、整骨院のおじさんの話。この話、何回読んでも笑ってしまいます。行けるところまで行ってしまう作者も相当おかしいのがよく分かるエピソードでした。漫画家の友人、おぎぬまXさんの登場回はマンガ好き必見で、おぎぬまXさんがいかにして29年ぶりの赤塚賞に入選したのか、実際にどういう人物なのか、この漫画を通して知りました。そして、特別編として収録されている世田谷区役所編。Twitterで話題になり知ってる方も多いと思いますが、世田谷区役所を相手に、三軒茶屋にある「まんがの図書館ガリレオ」を巻き込んだ大騒動を漫画にしたものです。詳細は読んで頂くとして、「描く。今日の出来事マンガにする」と並々ならぬ決意をした時の山本さほさんに痺れます。文春オンラインで、まだまだ連載中の作品ですので、この先も息の長いシリーズになってくれたら嬉しいですね。