祖母の髪を切った日

良い話だけではない、認知症介護のリアルも描く

祖母の髪を切った日 しかばね先生
六文銭
六文銭

自分もおばあちゃん子だっただけにタイトルだけでグッとくるものがあって読んだが、予想の斜めうえをいく展開で逆にそれが良かった。 シンプルに祖母との関係を描いた泣ける話かと思ったが、どっこい認知症になってしまった祖母の介護で精神すりへっていく苦悩も描いた作品でした。 主人公の幼少期の複雑な家庭環境、母親がおらず父親はいつもいないから、祖母に育てられたという状況も相まって、祖母への愛情と、認知症になったことで罵詈雑言を投げかけられ辛さの愛憎渦巻く感じがリアルだなと思った。 添付画像のように、介護に疲れた主人公が泣き言を吐くシーンも多々あり、人によっては嫌悪感を抱くかもしれないが、自分は共感できてしまった。 良いところばかり強調し表現されるよりも、誤魔化しがなくよっぽど良かった。実際は、こういうもんだと身につまされた。 認知症の祖母との生活や、幼少期の不幸話が多いので基本暗い展開が多いが、それでも読後感は不思議と悪くない作品でした。 死んだら思いでしかもっていけないと言われているのに、大事な人も思い出も忘れていく認知症が一番怖い病気だと改めて痛感した。

僕の声を聞いてほしい!!

画力が高く続きが気になる台湾マンガ #1巻応援

僕の声を聞いてほしい!! 楊基政
兎来栄寿
兎来栄寿

良い台湾マンガが最近はどんどん邦訳されて読めるようになっていて、嬉しいですね。 本作は「#続きが気になる台湾漫画大賞」を受賞した作品という触れ込みですが、1巻最後まで読んだら「続き……! 続きをください!」とならずにはいられないでしょう。 近所に住む綺麗で何でもできるお姉さんに、子供のから憧れを抱き続けていた少年の物語です。 立派で素敵な大人になると思っていたお姉さんは、ちょっと思ったのと違う感じにはなってしまいましたが、それでも惹かれる部分をたくさん持ち合わせており思春期の少年の複雑な想いが揺れ動く様を堪能できます。また、彼の周りの人物にまつわる物語も、対照的に進行していきます。 恋愛の話もありますが、思春期に誰もが悩む未来についての普遍的なパートもあり感情移入はしやすいでしょう。 何より筆者の画力がシンプルに高く、キャラクターたちの豊かで魅力的な表情やアングル、日本とかなり似ていながらも細かい違いのある台湾の日常風景(スーパー、学食、ゲーセンetc...)を絵でたっぷりと楽しむことができます。ルーローハンがチャーハンより安いのは羨ましい限り。基本的には沁みいるようなお話なので静と動で言うなら圧倒的に静のシーンが多いのですが、幕間や合間合間で激しく動く描写も挟まれます。勢いのあるアクションを描くのも得意な方のようで、そういったタイプの作品も見てみたいと思わされました。 「はっ」と日本語に訳される効果音は「回神」であるなど、中国語のまま残されたオノマトペなども楽しいです。主人公が「和」と書いて「ホー」と読むのは、麻雀好きには馴染み深いことでしょう。 おまけマンガもかなりカオスで、作者の趣味嗜好がダダ漏れている感じも好きです。余談ですが、作中で登場する城に迷い込んだ少年が幽閉された少女と城を脱出するゲームは私も大好きです。

彼女のそれにやられてる

健康的な、あまりに健康的な #1巻応援

彼女のそれにやられてる 大海たび
兎来栄寿
兎来栄寿

とても健康的な作品です。 表紙が何よりも雄弁にこの作品の魅力を語っていますね。 実に健康的な、陸上女子の隆々たる腹筋。 日々の弛まぬ厳しいトレーニングを経て、少しずつ形作られていった山脈。 その美しさの輝きたるや、ピレネーやマッターホルンもかくやというものでしょう。 文芸部にちょくちょくサボりにくるようになった健康的極まりない陸上部エースの先輩シホに、標準的な男子高校生である田宮が悩まされ続ける健康的ラブコメです。 健康的な10代男子が、こんな姿を見せつけられて無反応でいられるわけはありません。元々、そんな趣味嗜好がなかったとしても新たな扉を破城槌で大開放されてしまうのは無理なきことです。 シホも、こんな健康的な姿を晒し続けていながらも気質的には初心であり恥じらいもあるというのもまた健康増進ポイントです。田宮の友人である園谷や、シホの妹、田宮の姉など脇役も噛むほど味がしそうなので今後の活躍に期待が持たれます。 健康的なものに惹かれる方、表紙に言葉でなく心で理解をしてしまった方、この健康への扉を開いてみましょう。