MOGUMOGU食べ歩きくま

ナガノはちいかわ作家じゃない

MOGUMOGU食べ歩きくま ナガノ
アフリカ象とインド象
アフリカ象とインド象

ナガノ氏のすごいところは、そのバランス感覚だと思う。 「ちいかわ」で言うなら、 万人受けするかわいいキャラクターと、 少し毒のある世界観の両立。 「自分ツッコミくま」LINEスタンプで言うなら、 気軽な使いやすさと、 我を出しすぎないちょうどいい面白さ。 需要と表現の間を完璧にとらえる客観性。 そのバランス感覚がこそが氏の突出した部分である。 そしてそんなバランス感覚は本書「MOGUMOGU食べ歩きくま」でも、 遺憾なく発揮されている。 本文で語られることはあくまで作者視点の体験である。 エッセイである以上、主人公は作者自身であり、 そこで描かれる思想はストーリー漫画よりも直接的に読者に伝わり、 大なり小なり読者の思想との相違がある。 それがエッセイ漫画のクセであり味であるはずなのだが、 本作ではそういった作者の「クセ」にさえ共感してしまう。 高級店で食事をした時に隣の人を見てマナーを真似したり、 コース料理をアトラクションの楽しさに例えたり。 誰もが感じたことがあっても言葉にはしていなかった 「ちょうどいいあるある」が作中の節々でビシビシと投げられる。 それらはあくまで淡々と、しかし感情豊かに。 この落ち着いたテンポの良さに、読んでいて安らぎを感じる。 違和感なく自然に読めるのに、 「気持ちのいい引っ掛かり」は「作品のクセ」と理解した上で、 小気味よく用意されている。 究極の自己プロデュース力を持った作家、それがナガノ。 我々は常に彼の手のひらで転がされているのである。

アイドルを探せ

80年代カルチャーと花の女子大生ライフ♡

アイドルを探せ 吉田まゆみ
かしこ
かしこ

私は一応平成生まれなので80年代のカルチャーに疎いのですが(大江千里は名前だけ知ってる…くらいのレベル)、それでも面白かったのはやっぱりあの時代そのものに魅力があったのと、それを描き切ることが出来るパワーとセンスを持っている吉田まゆみ先生だからこそだと思いました。アイドルを探せを連載していた「mimi」という雑誌のことも初めて知りました。講談社から発行されてた10代後半の女性向けの漫画雑誌(主な連載作品はあさきゆめみしや白鳥麗子でございます!)で、アイドルを探せは当時大人気でドラマ化や映画化(ちなみに同時上映はLet’s豪徳寺!)もされたそうです。 「アイドルを探せ」といっても「私にとってのアイドルは誰?」という意味なので要は普通のラブコメなのですが、生まれも育ちも東京でオシャレな主人公のチカちゃんが風呂無しの木造アパートで一人暮らしするところとか、自分でも手が届きそうな夢の世界を見せてくれるので共感しちゃうんですよね。主人公は花野女子短大に入学したチカちゃんですが、漫画家志望のカンロちゃんとバスガイドをしている千明さんもアパートの入居者であり準主役です。ショートカットが可愛いチカちゃんはモテモテでいかにも主役って感じがいいのですが、地味でモテなかったカンロちゃんの恋が成就したことが何よりも嬉しかったです。番外編もカンロちゃんの話が一番好きでした。どうやら続編「夜をぶっとばせ」があるようなので、そちらも読んでみようと思います!

羆嵐

熊(くま)に風(かぜ)でなく、羆(ひぐま)に嵐(あらし)

羆嵐 矢口高雄 戸川幸夫
ゆゆゆ
ゆゆゆ

タイトルの漢字を一つずつ勘違いしていた。パワーダウンする方向に。 誤りに気付いたあとで、両方ともパワーアップする言葉があるなんてすごいなと思った。 さて、三毛別羆事件と呼ばれる、開拓時代の北海道で起きた事件。 凄惨さと裏腹に、作中によれば、当時の都会では数日後に小さく記事が載った(内容も正確てはない)レベルのお話らしい。 それほど、北海道の山あいは遠かったようだ。 小さな新聞記事にしかならなかった凄惨な事件を、知る人が皆いなくなる前に聴き取りをして、書きとどめた人がいて、その人の記録と話を元にタイトルの漫画は作られたそうだ。 『ふしぎの国のバード』を読んだ方には、当時の都会以外がどれほどの環境だったか(とはいえ、都会もアスファルト敷ではないですが)、想像がつくかと思うのですが、北海道の開拓地はさらに過酷だったようです。 玄関ドアがむしろ?ござ?一枚。板ですらない。 窓ガラスも障子もなく、窓からは北海道の寒風入り放題。 だから、死なぬために、火を煌々と燃やし続けなければいけない。そのための薪があったのは幸いだ。 そして、自然を開拓して、人が使えるように手を加えていっているので、そこに住んでいた動物との遭遇もなくはない。 しかし、被害があった季節は、動物は冬眠しているはずの冬。 にも関わらず、不運に不運、人災も重なり、一匹のヒグマに多くの人が殺された。 やるせないなあ、と読んでいて思った。 後編に入っていたニホンカモシカの物語は、人間の勝手さを感じて、苦手だった。 カモシカって日本にいるの?と思ったものの「カモシカのような足」という表現があるので、馴染み深い生き物だったんだろう。 ※ここまで書いて、読んだのが「羆風(ひぐまかぜ)」という作品の方だったと気づきました。 そちらでしたら、KindleUnlimitedで書いている今日現在読むことができるので、興味がある方はぜひ。