円環のように繋がる壮大な連作短編集グッド・バイ・プロミネンス ひの宙子sogor251話の主人公・喜多さんが先生に告白するといういきなりの導入から始まる連作短編集。各話ごとに主人公が移り変わっていき、それが巻を通して読むと円環のように繋がっているという構成がまず見事。また、それぞれの話を見てみると、各話の主人公たちの人生のターニングポイントとなるような場面を切り取って描かれているけど、明確なハッピーエンドともバッドエンドとも描かれていない作品が多い。同じ事象を別視点で描いている部分も多く、受けてによってプラスにもマイナスにも捉えられるということを思い知らされる。そして何より、どんな人にでもそれぞれの物語があり結末を迎えることなく進み続けるしかないということを1冊を通して感じさせる壮大な作品。切ない雰囲気で進む不思議なミステリーまぼろしまたね 糸なつみsogor25表紙の絵柄からやや少女マンガ寄りの雰囲気なのかなと思って手にとった作品。ある事件のせいで幼馴染の穂積と疎遠になってしまった中学2年生の女の子・芽出子。どうにかして仲直りをしたいけども上手く行かなくてもどかしい様子の描写はまさしく少女マンガ。しかし、ある日の河川敷で穂積の子供の頃にそっくりの少年に出会ったことから大きく物語が動き出す。 穂積への思いと少年との出会い、どちらも並行して展開しながら芽出子の心境が変化していき、やがて大きく行動を起こしていく。 少女マンガ的な様相を保ちながら、ファンタジーのようなミステリーのような、不思議な雰囲気を併せ持っている。何よりその両方の面に馴染んだ形で主人公の芽出子の内面が前向きに変化していくのが伝わってくるので、より芽出子のことを応援したくなる。 少女マンガ的な特徴が強くなれば「orange」のような雰囲気になりそうだし、ミステリー性が高くなれば「僕だけがいない街」のような作品になるかもしれない。まだまだ先の展開は分からないけど、いろんな面で楽しめる作品になりそう。 1巻まで読了現実ともリンクした面白い企画の旅マンガざつ旅-That’s Journey- 石坂ケンタsogor25SNSで旅の行き先だけざっくり(方角とか地域程度)決めて、細かいことは決めないでまさにタイトル通りの雑な感じで旅をするという作品。 旅行の計画自体はほんとに適当に決めてるんだけど、旅マンガらしく旅行先の情報はちゃんと組み込んでいる。ただ、その情報が主人公の語りという形で書かれているので文体がどうもユルい。でもそれがクセになる感じ。 また、主人公が東京生まれ東京育ちなためか、旅行先だけではなくその過程、特に新幹線の中で彼女なりの発見をするところまで描かれており、そのあたりは旅マンガらしからぬ新鮮さを感じる。 旅に行きたくなるというよりも、彼女たちの旅路を遠くからずっと眺めていたいという気分にさせてくれる、今までにない読み口の旅マンガ。 ちなみに、作中に登場する主人公のTwitterアカウントは実際に存在し、それどころか作中で行ってる旅の行き先アンケートも実際にこのアカウントで行っている。毎月末にアンケートを採ってそこから実際に旅したあと、旅路の写真もアップされているので、興味がある人は覗いてみると面白いかも。 1巻まで読了かつてないほど現実とリアルタイムにリンクした作品ゴールデン桜 前川かずお 森橋ビンゴ 岡田紗佳sogor25みなさんは「麻雀」というものにどのようなイメージを持っているでしょうか。マンガで言えば有名なのは「アカギ」や「天牌」「むこうぶち」などでしょうか。いずれにしても、ギャンブルだとか、アングラな世界と近い存在という印象を持っている方が多いのではないでしょうか。 しかし最近、そのイメージを払拭しうる、新しいムーブメントが起こっていることはご存じでしょうか? 2018年、競技麻雀のナショナルプロリーグ「Mリーグ」が発足しました。Mリーグはプロ野球やJリーグと同様、一般企業がスポンサーとなってチームを運営し、囲碁や将棋のようなマインドスポーツとして麻雀を捉えて、賭博行為からの完全分離したプロスポーツとして運営されるプロリーグです。10月に初年度のシーズンが開幕し、全試合がAbema TVで生中継されるほか、パブリックビューイングとして、お酒や食事をしつつ、生の実況解説を聞きながら麻雀の観戦を楽しむという新たな楽しみ方も提供され始めています。 ここまでの説明でマンガ好きの方には何か思い当たる作品があるのではないでしょうか。そうです!「咲-Saki-」の世界観、これが現実世界で生まれようとしている、それがこのMリーグを中心としたムーブメントなのです! そんな近年のムーブメントを反映させ、現実に即した形で競技麻雀の世界を描いている作品がこのゴールデン桜です。 主人公はプロとしての一定の実績はありつつも日の目を浴びることのない生活を送る麻雀プロ・早乙女卓也。彼があることをきっかけに、"女性プロ雀士"として活動を始める所から物語は始まります。 競技麻雀ではかつての競技人口の少なさから女性限定の大会やリーグは存在しますが、基本的には男性と女性がフラットに闘うことのできる競技です。その点は他のプロスポーツや囲碁、将棋などとも異なる点かもしれません。また逆に、人気商売であるという側面から収入面では女性プロのほうが男性を上回りがちであるというのも麻雀プロの1つの特徴でもあります。男性が女装して活動するというのはベタな設定ではありますが、この"男女平等"と"男女格差"という相反する側面を兼ね備える麻雀業界を、フィクションの設定を用いてリアルに表現している作品です。 また、内容以外の部分でもこの作品は現実とのリンクを巻き起こしています。まず、あとがきにも描かれていますが、この作品の1話プロットが完成するのとほぼ同時期にMリーグ発足が発表、慌てて作中にMリーグの描写を取り入れるという経緯があります。更に、原作者の岡田紗佳さんは実際にプロ団体に所属する麻雀プロなのですが、2019年7月に行われた第2期のドラフト会議にて指名を受け、今年からMリーグの選手として闘うことが決定しました。しかも指名したチームの名前が"サクラ"ナイツで作品タイトルとも掛かっているという、何重にもリンクが張られた作品となっています。(ちなみに本作の連載は竹書房の近代麻雀ですが、サクラナイツのスポンサーはまさかのKADOKAWAというオマケつき) それでなくても"現役の選手が(監修ではなく)原作を担当するマンガ作品"というのは他のスポーツではなかなか実現しないことだと思いますし、内容としても麻雀の競技自体の表現は最小限に留められているので、ぜひ麻雀というものに触れたことのない方に読んで頂きたい作品です。 1巻まで読了。"自分にとっての幸せ"とは何かを見つめ直せてくれる物語三日月とネコ ウオズミアミsogor252016年の熊本地震をきっかけに同居することになった40代書店員の灯、30代女医の鹿乃子、20代インテリアショップ店員の仁、そして(元々は鹿乃子の飼い猫であった)ミカヅキ。年齢も性別も境遇もバラバラの3人が、地震という不意の出来事を契機にして共に生活を送る物語。 といっても、3人の中の誰かが付き合ったり、もしくは恋仲に発展しそうになったり、というような展開は出てこない。なんなら灯以外の2人にはどうやらちゃんと恋人がいるという描写がある。 いわゆる"シェアハウス"を舞台にした作品では、同性どうしであれば外での恋愛模様に喧々諤々としたり、もしくは異性間の同居となると同居人どうしの恋愛に発展したりしなかったりと、どうしても"シェアハウス"という空間と恋愛が相反する存在として描かれる傾向が強いように思う。しかし、この作品では3人の中での楽しい共同生活とその外の恋愛というのが完全に独立した状態で存在している。一応3人の間に恋愛が生まれなさそうな設定上の仕掛けがあるのだけども、恋愛そのものを否定せず、むしろ肯定したうえで、恋愛に囚われない幸せもあるということを描いている稀有な作品。 もちろん現実ではこんなに人たちに出会えるとは限らないし、この3人も奇跡的なバランスで関係性が成り立っていると思うけど、何が自分にとって幸せなのかを見つめ直させてくれると共に、恋愛だってなんだって、探せば幸せはいろんなところに転がっていると気付かせてくれる、読んでいて多幸感で満たされる作品。細かいこだわりがたくさん詰まった作品ひょうひょう ネルノダイスキsogor25まず目につくのはそのメタリックな装丁。そしてなんだか作画密度の濃い建築物や背景、それに不釣り合いなほど登場人物らしきなにか。そのすべてをボールペンのみで描かれているというから驚き。いざ中身を読んでみると、その作画密度のアンバランスさはそのままに、会話劇はタイトルの通り飄々としていながら、時にクスッと笑えるような、時にとんでもなくドラマチックな、でもいずれにしてもあまりに非現実的な摩訶不思議な世界観が広がっている。 ネルノダイスキさんはもともとはコミティアで活動されていたマンガ家さんで、文化庁メディア芸術祭で新人賞を受賞されてもいるけど、私の知る限りでは商業誌での活動は全くされていない方。そして出版社のアタシ社は神奈川の三浦市で夫婦お2人だけで活動されている出版社。そんな、メジャーな場所ではなかなかできないようなこだわりがたくさん詰まった珠玉の1冊。 そして、帯のスチャダラパーBoseさんの推薦文が素晴らしくエモい。内容に全く触れずに内容を端的に表してるし、この推薦文に惹かれたならば読んで間違いない作品。俺様系男子×鈍感系女子 主導権を握ってるのはどっちだ!?月のお気に召すまま 木内ラムネsogor25ややポンコツ気味の女子高生・歩の前に現れたのは中学の後輩で勉強も運動もカンペキなイケメン・月(ルナ)。事あるごとにからかってくる月に抗いながらも振り回される歩の物語。 …というのが、タイトルや表紙、あらすじから読み取れる作品の内容。でも、実際に作品を読んでみると、思っていた内容とはちょっとだけ違う。 各話の序盤は歩の視点で、「月になんて負けない!今日こそやり返してやる!」→月に返り討ちに遭って結局からかわれる、という展開に。だけど、物語が進んでいくといつの間にか視点は月のほうに。 察しのいい方はお気づきでしょうが月は歩のことが好き。からかいも当然歩のことが好きだから。だけど歩は全然気付いてくれないどころか、最後には歩の無意識の不意打ちの言動で逆に照れてしまうことに。 そう!この作品は「からかい上手の高木さん」てたまにある、西片くんの何気ない一言で無意識の反撃を食らって高木さんのほうが恥ずかしがるっていうアレ、アレをいろんな場面、あの手この手で見せてくれる作品なのです! そこに気付いてから読み進めると、毎回いつの間にか攻守が逆転していく感じがたまらないし、歩視点から月視点へのシフトがすごくナチュラルに行われるから、男女両視点を余す所なく楽しめるから1冊で何度でも楽しめるラブコメになっている。 ちなみに私には、どちらも可愛いけど僅差で月のほうが可愛く見えることが多いような気がする。みなさんはどちらでしょうか?? 1巻まで読了この関係性に"百合"以外の名前を付けたい百合と声と風纏い 蓮冥sogor25同級生の恋愛話に今ひとつ乗り切れない高校3年生の女子・纏(まとい)。テレビ番組で恋愛感情を持たない"アセクシャル"という概念を知り、自分もそうなのだと自認する。そんな中、突然の雨で人気のなくなった教習所でとある女性・百合子と出会う。 一緒に遊ぶうちに親密になっていく二人だが、百合子から見た纏は"年の近い友達"で、一方の纏から見た百合子は"年上"で"友達"以上の感情を持ち始めている。百合子もそれに気付いているが、百合子もまた、自身は恋愛感情を持たないと自認していた…というお話。 現在一般に認知されてるジャンルで言えば、百合作品の中に含めるのが一番適してるとは思う。しかしながら、お互いに好意を持って接しているけど、纏からの百合子への感情は恋愛なのかどうか自分でも判別がついてない様子で、一方の百合子は明確に恋愛ではないと自覚している。読めば読むほどこの作品を"恋愛作品"ではない別の何かのように見えてくる。だからこそ、この2人の関係性には"百合"以外の別の名前を付けたくなってしまう。 また、好意の微妙な違いもそうだけど、例えば"都会の人"と"こっち(田舎)の人"だったり、"年上の友達"と"年の近い友達"のように、2人それぞれの視点によって捉え方が微妙に違う様子が描かれていて、それもとても興味深い。こういう微妙な差異を見せられると、当たり前だけど同じものを見ててもその捉え方は人それぞれで、結局、人間関係に絶対の正解なんてなくて、あるとすれば個々の相手に対する最適解くらいなんだろうなって感じる。 お互い好意を持ちながら些細な気持ちのすれ違いがあるこの2人が、今後どんな関係性を作っていくのかが凄く楽しみ。 ちなみに本編では"アセクシャル"という単語しか出てこないが、近い概念で"ノンセクシャル"という言葉があり、実は作者のtwitterで「ノンセクシャルとアセクシャルな女の子の話」と明言されていたりする。 https://twitter.com/skRe_n/status/1172067936132988929 このあたりの単語をちょっと調べてみてから本編を読むと、2人の関係性や好意の中身がより違ったものに見えてくるかもしれない。 1巻まで読了。2巻で華麗なる変身を遂げるTwitter発マンガ可愛いだけじゃない式守さん 真木蛍五sogor25不幸体質の和泉くんとその彼女の式守さん。普通にしてると式守さんはすごく可愛いんだけど、降りかかるアクシデントから和泉くんを守ろうとする時、彼女は"可愛いだけじゃない"顔を見せる。 当初はTwitterに掲載されていた4ページマンガで、4ページ目の式守さんの表情が4コママンガでいうオチのような役割をしている。その構成のまま1巻は130ページほどで17話収録という内容で、それでも絵の魅力が高いのでラブコメとして充分に面白い内容。 しかし、2巻に入ると少し様子が変わってくる。式守さんと和泉くんだけじゃなく、和泉くんの友人の犬束くん、式守さんの友人の猫崎さんと八満さん、そして和泉くんのご両親などにもフォーカスが当たり、1話12ページ前後のストーリーマンガに華麗なる変身を遂げる。1話あたりのページ数が増えても、キーとなるキメ絵の威力は変わらないので物語に大きな波がなくてもしっかりと起承転結がある。式守さんの表情にも幅が広がり、なにより登場人物の中に悪意が存在しないので安心して読めるラブコメになっている。 きっと「からかい上手の高木さん」や「疑似ハーレム」などの作品が好きな方には気に入ってもらえるはずだし、「うたかたダイアログ」のような1話ごとにストーリーのあるようなラブコメが好きな方にも薦めたい作品。 2巻まで読了。人類には早すぎたかもしれないマンガ救国のメシア ぐんたおsogor25自らを「天の声に導かれて世界を救うために召喚された救世主」と名乗る仮面の女子高生、飯屋ちふる。彼女が成績優秀スポーツ万能のイケメン・藤原龍之介とともに、目からビームを出したり空を飛んだりしながら身の回りに起こる地球の危機に立ち向かう物語。 ここまで読んで頭の中に1つでもハテナが浮かんだ方。きっとそれが正しい反応です。そしてそのままの勢いで是非試し読みを読んでみてください。1話を読めば…いや、最初の2ページを読めば色々と察することができると思います。この作品が上の紹介文通りの作品であること、そして言葉ではこれ以上説明のできない作品であることを…。 1巻まで読了。これは是非単行本で読んでほしい作品リサの食べられない食卓 黒郷ほとりsogor25表紙に描かれている主人公・リサはお嬢様。彼女が住み込みで働く男・冬真のためにオムライスを作るが、それがどう見ても真っ黒。どうやら味見もしてないらしい。当然の如くクソ不味いわけだが、彼女はそんなことお構いなしに「今度は私の番」と冬真の首筋に噛みつき血を啜る。 そう、彼女は吸血鬼。だから『リサの"食べられない"食卓』なのである。 …というのが、冒頭10ページの内容。試し読みで1話を読んだ私は「なるほど、料理の味が分からない吸血鬼のお嬢様と彼女に捕まってしまった男とのメシマズ料理コメディなんだな」と察知する。 しかし、単行本を購入して2話以降を読み進めると、どうも様相が変わってくる。リサは吸血鬼であり、料理が下手。そのベースは変わらないのだが、話はどんどん予想外の方向に転がってゆく。そして1巻の最後になると、話は思ってもみないところに着地を決める。 ただ、それまでの過程で紆余曲折があったために予想を超えているように見えたけど、改めて1話を読み返してみると実は1話のオチから大きくは離れてない着地点に辿り着いていたことに気付かされる。 少なくとも1話の試し読みからは想像できない作品になっているのは間違いないので、試し読みで気になったひともそうでない人も、是非この1巻通しての展開のダイナミズムを感じてみてほしい。 1巻まで読了。読者の倫理観に答えのない問いを投げかける物語黒白を弁ぜず 窪谷純一sogor25「黒白(こくびゃく)を弁ぜず」 意味: 物事の正邪・善悪・是非の区別ができない。 ― デジタル大辞泉(小学館)より引用 犯罪心理学を学びながら自らも7人もの人間を殺害した連続殺人犯・黒枝生。彼を捜査に参加させる上でもしもの時に"彼を撃つことができる"という理由で彼の護衛を任された捜査一課の刑事・白葉大地。かつてなく歪な組み合わせの2人によるバディサスペンス。 絶対に理解り合わない2人が対峙するのは数々の猟奇的な連続殺人、そして決して混じり合わないはずの善悪の価値観。 それを根底からを揺るがすことで読者の倫理観の奥底に訴えかけてくる、答えのないメッセージが強い作品。 また、ストーリーもさることながら、マンガとしての画面作りの"白さ"も強烈に印象に残る。会話劇が中心のために絵の情報量を少なくしようという意図なのか、背景を極端に省略したコマを多用していることも理由の1つなのだが、それよりも黒枝と白葉、2人のコントラストとしての白さが目につく。 名前およびキャラの背景に反するように、黒枝は白髪の青年として描かれ、服装は勿論、影の描写すらも黒塗りを最小限に留めている。それに対して白葉は黒髪かつ服装もスーツなので黒なのだが、まるで照明に照らされているかのように髪や服装の大部分が白く塗られる形で描かれることが多い。言い方を変えれば黒の部分が白色に"侵食"されているようにも見えるのだが、果たしてこの表現には何か意図があるのだろうか…。 1巻まで読了 « First ‹ Prev … 30 31 32 33 34 35 36 37 38 … Next › Last » もっとみる
円環のように繋がる壮大な連作短編集グッド・バイ・プロミネンス ひの宙子sogor251話の主人公・喜多さんが先生に告白するといういきなりの導入から始まる連作短編集。各話ごとに主人公が移り変わっていき、それが巻を通して読むと円環のように繋がっているという構成がまず見事。また、それぞれの話を見てみると、各話の主人公たちの人生のターニングポイントとなるような場面を切り取って描かれているけど、明確なハッピーエンドともバッドエンドとも描かれていない作品が多い。同じ事象を別視点で描いている部分も多く、受けてによってプラスにもマイナスにも捉えられるということを思い知らされる。そして何より、どんな人にでもそれぞれの物語があり結末を迎えることなく進み続けるしかないということを1冊を通して感じさせる壮大な作品。切ない雰囲気で進む不思議なミステリーまぼろしまたね 糸なつみsogor25表紙の絵柄からやや少女マンガ寄りの雰囲気なのかなと思って手にとった作品。ある事件のせいで幼馴染の穂積と疎遠になってしまった中学2年生の女の子・芽出子。どうにかして仲直りをしたいけども上手く行かなくてもどかしい様子の描写はまさしく少女マンガ。しかし、ある日の河川敷で穂積の子供の頃にそっくりの少年に出会ったことから大きく物語が動き出す。 穂積への思いと少年との出会い、どちらも並行して展開しながら芽出子の心境が変化していき、やがて大きく行動を起こしていく。 少女マンガ的な様相を保ちながら、ファンタジーのようなミステリーのような、不思議な雰囲気を併せ持っている。何よりその両方の面に馴染んだ形で主人公の芽出子の内面が前向きに変化していくのが伝わってくるので、より芽出子のことを応援したくなる。 少女マンガ的な特徴が強くなれば「orange」のような雰囲気になりそうだし、ミステリー性が高くなれば「僕だけがいない街」のような作品になるかもしれない。まだまだ先の展開は分からないけど、いろんな面で楽しめる作品になりそう。 1巻まで読了現実ともリンクした面白い企画の旅マンガざつ旅-That’s Journey- 石坂ケンタsogor25SNSで旅の行き先だけざっくり(方角とか地域程度)決めて、細かいことは決めないでまさにタイトル通りの雑な感じで旅をするという作品。 旅行の計画自体はほんとに適当に決めてるんだけど、旅マンガらしく旅行先の情報はちゃんと組み込んでいる。ただ、その情報が主人公の語りという形で書かれているので文体がどうもユルい。でもそれがクセになる感じ。 また、主人公が東京生まれ東京育ちなためか、旅行先だけではなくその過程、特に新幹線の中で彼女なりの発見をするところまで描かれており、そのあたりは旅マンガらしからぬ新鮮さを感じる。 旅に行きたくなるというよりも、彼女たちの旅路を遠くからずっと眺めていたいという気分にさせてくれる、今までにない読み口の旅マンガ。 ちなみに、作中に登場する主人公のTwitterアカウントは実際に存在し、それどころか作中で行ってる旅の行き先アンケートも実際にこのアカウントで行っている。毎月末にアンケートを採ってそこから実際に旅したあと、旅路の写真もアップされているので、興味がある人は覗いてみると面白いかも。 1巻まで読了かつてないほど現実とリアルタイムにリンクした作品ゴールデン桜 前川かずお 森橋ビンゴ 岡田紗佳sogor25みなさんは「麻雀」というものにどのようなイメージを持っているでしょうか。マンガで言えば有名なのは「アカギ」や「天牌」「むこうぶち」などでしょうか。いずれにしても、ギャンブルだとか、アングラな世界と近い存在という印象を持っている方が多いのではないでしょうか。 しかし最近、そのイメージを払拭しうる、新しいムーブメントが起こっていることはご存じでしょうか? 2018年、競技麻雀のナショナルプロリーグ「Mリーグ」が発足しました。Mリーグはプロ野球やJリーグと同様、一般企業がスポンサーとなってチームを運営し、囲碁や将棋のようなマインドスポーツとして麻雀を捉えて、賭博行為からの完全分離したプロスポーツとして運営されるプロリーグです。10月に初年度のシーズンが開幕し、全試合がAbema TVで生中継されるほか、パブリックビューイングとして、お酒や食事をしつつ、生の実況解説を聞きながら麻雀の観戦を楽しむという新たな楽しみ方も提供され始めています。 ここまでの説明でマンガ好きの方には何か思い当たる作品があるのではないでしょうか。そうです!「咲-Saki-」の世界観、これが現実世界で生まれようとしている、それがこのMリーグを中心としたムーブメントなのです! そんな近年のムーブメントを反映させ、現実に即した形で競技麻雀の世界を描いている作品がこのゴールデン桜です。 主人公はプロとしての一定の実績はありつつも日の目を浴びることのない生活を送る麻雀プロ・早乙女卓也。彼があることをきっかけに、"女性プロ雀士"として活動を始める所から物語は始まります。 競技麻雀ではかつての競技人口の少なさから女性限定の大会やリーグは存在しますが、基本的には男性と女性がフラットに闘うことのできる競技です。その点は他のプロスポーツや囲碁、将棋などとも異なる点かもしれません。また逆に、人気商売であるという側面から収入面では女性プロのほうが男性を上回りがちであるというのも麻雀プロの1つの特徴でもあります。男性が女装して活動するというのはベタな設定ではありますが、この"男女平等"と"男女格差"という相反する側面を兼ね備える麻雀業界を、フィクションの設定を用いてリアルに表現している作品です。 また、内容以外の部分でもこの作品は現実とのリンクを巻き起こしています。まず、あとがきにも描かれていますが、この作品の1話プロットが完成するのとほぼ同時期にMリーグ発足が発表、慌てて作中にMリーグの描写を取り入れるという経緯があります。更に、原作者の岡田紗佳さんは実際にプロ団体に所属する麻雀プロなのですが、2019年7月に行われた第2期のドラフト会議にて指名を受け、今年からMリーグの選手として闘うことが決定しました。しかも指名したチームの名前が"サクラ"ナイツで作品タイトルとも掛かっているという、何重にもリンクが張られた作品となっています。(ちなみに本作の連載は竹書房の近代麻雀ですが、サクラナイツのスポンサーはまさかのKADOKAWAというオマケつき) それでなくても"現役の選手が(監修ではなく)原作を担当するマンガ作品"というのは他のスポーツではなかなか実現しないことだと思いますし、内容としても麻雀の競技自体の表現は最小限に留められているので、ぜひ麻雀というものに触れたことのない方に読んで頂きたい作品です。 1巻まで読了。"自分にとっての幸せ"とは何かを見つめ直せてくれる物語三日月とネコ ウオズミアミsogor252016年の熊本地震をきっかけに同居することになった40代書店員の灯、30代女医の鹿乃子、20代インテリアショップ店員の仁、そして(元々は鹿乃子の飼い猫であった)ミカヅキ。年齢も性別も境遇もバラバラの3人が、地震という不意の出来事を契機にして共に生活を送る物語。 といっても、3人の中の誰かが付き合ったり、もしくは恋仲に発展しそうになったり、というような展開は出てこない。なんなら灯以外の2人にはどうやらちゃんと恋人がいるという描写がある。 いわゆる"シェアハウス"を舞台にした作品では、同性どうしであれば外での恋愛模様に喧々諤々としたり、もしくは異性間の同居となると同居人どうしの恋愛に発展したりしなかったりと、どうしても"シェアハウス"という空間と恋愛が相反する存在として描かれる傾向が強いように思う。しかし、この作品では3人の中での楽しい共同生活とその外の恋愛というのが完全に独立した状態で存在している。一応3人の間に恋愛が生まれなさそうな設定上の仕掛けがあるのだけども、恋愛そのものを否定せず、むしろ肯定したうえで、恋愛に囚われない幸せもあるということを描いている稀有な作品。 もちろん現実ではこんなに人たちに出会えるとは限らないし、この3人も奇跡的なバランスで関係性が成り立っていると思うけど、何が自分にとって幸せなのかを見つめ直させてくれると共に、恋愛だってなんだって、探せば幸せはいろんなところに転がっていると気付かせてくれる、読んでいて多幸感で満たされる作品。細かいこだわりがたくさん詰まった作品ひょうひょう ネルノダイスキsogor25まず目につくのはそのメタリックな装丁。そしてなんだか作画密度の濃い建築物や背景、それに不釣り合いなほど登場人物らしきなにか。そのすべてをボールペンのみで描かれているというから驚き。いざ中身を読んでみると、その作画密度のアンバランスさはそのままに、会話劇はタイトルの通り飄々としていながら、時にクスッと笑えるような、時にとんでもなくドラマチックな、でもいずれにしてもあまりに非現実的な摩訶不思議な世界観が広がっている。 ネルノダイスキさんはもともとはコミティアで活動されていたマンガ家さんで、文化庁メディア芸術祭で新人賞を受賞されてもいるけど、私の知る限りでは商業誌での活動は全くされていない方。そして出版社のアタシ社は神奈川の三浦市で夫婦お2人だけで活動されている出版社。そんな、メジャーな場所ではなかなかできないようなこだわりがたくさん詰まった珠玉の1冊。 そして、帯のスチャダラパーBoseさんの推薦文が素晴らしくエモい。内容に全く触れずに内容を端的に表してるし、この推薦文に惹かれたならば読んで間違いない作品。俺様系男子×鈍感系女子 主導権を握ってるのはどっちだ!?月のお気に召すまま 木内ラムネsogor25ややポンコツ気味の女子高生・歩の前に現れたのは中学の後輩で勉強も運動もカンペキなイケメン・月(ルナ)。事あるごとにからかってくる月に抗いながらも振り回される歩の物語。 …というのが、タイトルや表紙、あらすじから読み取れる作品の内容。でも、実際に作品を読んでみると、思っていた内容とはちょっとだけ違う。 各話の序盤は歩の視点で、「月になんて負けない!今日こそやり返してやる!」→月に返り討ちに遭って結局からかわれる、という展開に。だけど、物語が進んでいくといつの間にか視点は月のほうに。 察しのいい方はお気づきでしょうが月は歩のことが好き。からかいも当然歩のことが好きだから。だけど歩は全然気付いてくれないどころか、最後には歩の無意識の不意打ちの言動で逆に照れてしまうことに。 そう!この作品は「からかい上手の高木さん」てたまにある、西片くんの何気ない一言で無意識の反撃を食らって高木さんのほうが恥ずかしがるっていうアレ、アレをいろんな場面、あの手この手で見せてくれる作品なのです! そこに気付いてから読み進めると、毎回いつの間にか攻守が逆転していく感じがたまらないし、歩視点から月視点へのシフトがすごくナチュラルに行われるから、男女両視点を余す所なく楽しめるから1冊で何度でも楽しめるラブコメになっている。 ちなみに私には、どちらも可愛いけど僅差で月のほうが可愛く見えることが多いような気がする。みなさんはどちらでしょうか?? 1巻まで読了この関係性に"百合"以外の名前を付けたい百合と声と風纏い 蓮冥sogor25同級生の恋愛話に今ひとつ乗り切れない高校3年生の女子・纏(まとい)。テレビ番組で恋愛感情を持たない"アセクシャル"という概念を知り、自分もそうなのだと自認する。そんな中、突然の雨で人気のなくなった教習所でとある女性・百合子と出会う。 一緒に遊ぶうちに親密になっていく二人だが、百合子から見た纏は"年の近い友達"で、一方の纏から見た百合子は"年上"で"友達"以上の感情を持ち始めている。百合子もそれに気付いているが、百合子もまた、自身は恋愛感情を持たないと自認していた…というお話。 現在一般に認知されてるジャンルで言えば、百合作品の中に含めるのが一番適してるとは思う。しかしながら、お互いに好意を持って接しているけど、纏からの百合子への感情は恋愛なのかどうか自分でも判別がついてない様子で、一方の百合子は明確に恋愛ではないと自覚している。読めば読むほどこの作品を"恋愛作品"ではない別の何かのように見えてくる。だからこそ、この2人の関係性には"百合"以外の別の名前を付けたくなってしまう。 また、好意の微妙な違いもそうだけど、例えば"都会の人"と"こっち(田舎)の人"だったり、"年上の友達"と"年の近い友達"のように、2人それぞれの視点によって捉え方が微妙に違う様子が描かれていて、それもとても興味深い。こういう微妙な差異を見せられると、当たり前だけど同じものを見ててもその捉え方は人それぞれで、結局、人間関係に絶対の正解なんてなくて、あるとすれば個々の相手に対する最適解くらいなんだろうなって感じる。 お互い好意を持ちながら些細な気持ちのすれ違いがあるこの2人が、今後どんな関係性を作っていくのかが凄く楽しみ。 ちなみに本編では"アセクシャル"という単語しか出てこないが、近い概念で"ノンセクシャル"という言葉があり、実は作者のtwitterで「ノンセクシャルとアセクシャルな女の子の話」と明言されていたりする。 https://twitter.com/skRe_n/status/1172067936132988929 このあたりの単語をちょっと調べてみてから本編を読むと、2人の関係性や好意の中身がより違ったものに見えてくるかもしれない。 1巻まで読了。2巻で華麗なる変身を遂げるTwitter発マンガ可愛いだけじゃない式守さん 真木蛍五sogor25不幸体質の和泉くんとその彼女の式守さん。普通にしてると式守さんはすごく可愛いんだけど、降りかかるアクシデントから和泉くんを守ろうとする時、彼女は"可愛いだけじゃない"顔を見せる。 当初はTwitterに掲載されていた4ページマンガで、4ページ目の式守さんの表情が4コママンガでいうオチのような役割をしている。その構成のまま1巻は130ページほどで17話収録という内容で、それでも絵の魅力が高いのでラブコメとして充分に面白い内容。 しかし、2巻に入ると少し様子が変わってくる。式守さんと和泉くんだけじゃなく、和泉くんの友人の犬束くん、式守さんの友人の猫崎さんと八満さん、そして和泉くんのご両親などにもフォーカスが当たり、1話12ページ前後のストーリーマンガに華麗なる変身を遂げる。1話あたりのページ数が増えても、キーとなるキメ絵の威力は変わらないので物語に大きな波がなくてもしっかりと起承転結がある。式守さんの表情にも幅が広がり、なにより登場人物の中に悪意が存在しないので安心して読めるラブコメになっている。 きっと「からかい上手の高木さん」や「疑似ハーレム」などの作品が好きな方には気に入ってもらえるはずだし、「うたかたダイアログ」のような1話ごとにストーリーのあるようなラブコメが好きな方にも薦めたい作品。 2巻まで読了。人類には早すぎたかもしれないマンガ救国のメシア ぐんたおsogor25自らを「天の声に導かれて世界を救うために召喚された救世主」と名乗る仮面の女子高生、飯屋ちふる。彼女が成績優秀スポーツ万能のイケメン・藤原龍之介とともに、目からビームを出したり空を飛んだりしながら身の回りに起こる地球の危機に立ち向かう物語。 ここまで読んで頭の中に1つでもハテナが浮かんだ方。きっとそれが正しい反応です。そしてそのままの勢いで是非試し読みを読んでみてください。1話を読めば…いや、最初の2ページを読めば色々と察することができると思います。この作品が上の紹介文通りの作品であること、そして言葉ではこれ以上説明のできない作品であることを…。 1巻まで読了。これは是非単行本で読んでほしい作品リサの食べられない食卓 黒郷ほとりsogor25表紙に描かれている主人公・リサはお嬢様。彼女が住み込みで働く男・冬真のためにオムライスを作るが、それがどう見ても真っ黒。どうやら味見もしてないらしい。当然の如くクソ不味いわけだが、彼女はそんなことお構いなしに「今度は私の番」と冬真の首筋に噛みつき血を啜る。 そう、彼女は吸血鬼。だから『リサの"食べられない"食卓』なのである。 …というのが、冒頭10ページの内容。試し読みで1話を読んだ私は「なるほど、料理の味が分からない吸血鬼のお嬢様と彼女に捕まってしまった男とのメシマズ料理コメディなんだな」と察知する。 しかし、単行本を購入して2話以降を読み進めると、どうも様相が変わってくる。リサは吸血鬼であり、料理が下手。そのベースは変わらないのだが、話はどんどん予想外の方向に転がってゆく。そして1巻の最後になると、話は思ってもみないところに着地を決める。 ただ、それまでの過程で紆余曲折があったために予想を超えているように見えたけど、改めて1話を読み返してみると実は1話のオチから大きくは離れてない着地点に辿り着いていたことに気付かされる。 少なくとも1話の試し読みからは想像できない作品になっているのは間違いないので、試し読みで気になったひともそうでない人も、是非この1巻通しての展開のダイナミズムを感じてみてほしい。 1巻まで読了。読者の倫理観に答えのない問いを投げかける物語黒白を弁ぜず 窪谷純一sogor25「黒白(こくびゃく)を弁ぜず」 意味: 物事の正邪・善悪・是非の区別ができない。 ― デジタル大辞泉(小学館)より引用 犯罪心理学を学びながら自らも7人もの人間を殺害した連続殺人犯・黒枝生。彼を捜査に参加させる上でもしもの時に"彼を撃つことができる"という理由で彼の護衛を任された捜査一課の刑事・白葉大地。かつてなく歪な組み合わせの2人によるバディサスペンス。 絶対に理解り合わない2人が対峙するのは数々の猟奇的な連続殺人、そして決して混じり合わないはずの善悪の価値観。 それを根底からを揺るがすことで読者の倫理観の奥底に訴えかけてくる、答えのないメッセージが強い作品。 また、ストーリーもさることながら、マンガとしての画面作りの"白さ"も強烈に印象に残る。会話劇が中心のために絵の情報量を少なくしようという意図なのか、背景を極端に省略したコマを多用していることも理由の1つなのだが、それよりも黒枝と白葉、2人のコントラストとしての白さが目につく。 名前およびキャラの背景に反するように、黒枝は白髪の青年として描かれ、服装は勿論、影の描写すらも黒塗りを最小限に留めている。それに対して白葉は黒髪かつ服装もスーツなので黒なのだが、まるで照明に照らされているかのように髪や服装の大部分が白く塗られる形で描かれることが多い。言い方を変えれば黒の部分が白色に"侵食"されているようにも見えるのだが、果たしてこの表現には何か意図があるのだろうか…。 1巻まで読了
1話の主人公・喜多さんが先生に告白するといういきなりの導入から始まる連作短編集。各話ごとに主人公が移り変わっていき、それが巻を通して読むと円環のように繋がっているという構成がまず見事。また、それぞれの話を見てみると、各話の主人公たちの人生のターニングポイントとなるような場面を切り取って描かれているけど、明確なハッピーエンドともバッドエンドとも描かれていない作品が多い。同じ事象を別視点で描いている部分も多く、受けてによってプラスにもマイナスにも捉えられるということを思い知らされる。そして何より、どんな人にでもそれぞれの物語があり結末を迎えることなく進み続けるしかないということを1冊を通して感じさせる壮大な作品。