牙無し吸血鬼と食用人間奴隷

官能的でもあり純愛でもある吸血鬼と少年の物語

牙無し吸血鬼と食用人間奴隷 極楽鳥
sogor25
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主人公のソルがいきなり人攫いに遭い、人身売買のオークションにかけられるところから始まる今作。 この世界は人間と吸血鬼が共存、というよりは吸血鬼に統治されており、統治が行き届いている地域では上手く両種が共存しているが、そうでない地域では….ということらしい。 そんな中でソルを落札したのは、自ら牙を落とし血液を吸うことを禁じた吸血鬼のアウロラ。血液を吸わない代わりに人間の"体液"を食糧とするため、ソルを"食用人間奴隷"としてその手にしたのであった。 "体液"を食糧にするという辺りからも察せるように、序盤からかなり際どいシーンが続くが、不思議と下品さがなくて官能的という言葉が相応しく見える。そこから中盤にかけては日常的な場面が続くが、終盤に入った所から怒涛の展開が始まり、導入からは予想できないような美しい幕引きへと繋がっていく。 個人的にこの作品の核心となる部分は、主人公の1人、ソルが序盤から徹底して"少年"であることのような気がしている。官能的な雰囲気にはともすれば不釣り合いのようにも思うソルの少年性は(人によってはそれ自体が性癖にぶっ刺さるのかもしれないけど)、序盤こそアウロラに対する抵抗心として描かれるが、中盤の日常シーンで徐々に2人が心を通わす布石として、そして終盤に物語が大きく動くそのトリガーとして、非常に効果的に作用している。 ストーリー自体が妖艶な雰囲気な上にかなりクセのある絵柄なので人を選ぶ作品なのは間違いないと思うけど、1話を試し読んでみて何か引っかかった人なら最後まで読んできっと満足してもらえると思う。 全1巻読了

アザミの城の魔女

世界観の作り込まれた上質な王道ファンタジー

アザミの城の魔女 たらちねジョン
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主人公のマリーはエディンバラに住む魔女。魔法の能力においては天才的ではあるが、とある理由によりロンドン教会からは疎まれており、また魔法を忌み嫌う人間も多いことから必要以上に他人と関わらないよう暮らしている。そんなマリーと暮らすことになった少年、テオ。彼は「義憤の血」と呼ばれる強力な魔力の持ち主で、それ故精霊たちを無闇に引き寄せてしまうため教会で長らく軟禁されていたが、半ば厄介者を押し付けるような形でマリーの元へ送られてくる。そんな異なる孤独を抱えた2人が「弟子と師匠」という形で共同生活を送る物語。 1話を読んだだけでもキャラクターや絵の魅力は伝わってくるが、精霊との"交渉"という魔法の設定もしっかりしており、ストーリーも王道のファンタジーの様相。さらに物語の舞台はエディンバラやロンドン、パリなど異国情緒があり、作品全体の雰囲気としても抜群に良い。 「魔法使いの嫁」や「とつくにの少女」など、ファンタジーの中にバディものの要素が織り込まれた作品が好きな方にはオススメしたい作品。ただ、そういった作品では割と"師匠"側のキャラは表情に乏しかったり妙に大人びたキャラクターだったりすることが多いが、この作品の場合、軟禁生活が長く外界の全てに新鮮なリアクションを魅せるテオは勿論、マリーのほうもテオや周囲の人々の一挙手一投足に対して表情豊かな反応を見せる。特にテオのマリーを慕うような言動を受けたときの表情には初々しさすら感じられる。なので他の作品と比べるとボーイミーツガール的な要素を感じるのは私だけだろうか。 (魔女だし年齢不詳だからガールじゃないんじゃね?とかいう指摘は一切受け付けません) 1巻まで読了。

まくむすび

創作活動に触れる全ての人々に送る物語

まくむすび 保谷伸
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主人公の土暮咲良(つちくれ さくら)は中学の頃から密かにマンガを描き続けていたのだが、本当に些細な、でも本人にとってはとてつもなく大きなきっかけによって、完全にマンガを書くことを諦めてしまう。そこから高校に入学し、新たに部活に入るという段階で出会ったのが"演劇"だった。 創作活動に対して挫折を味わった主人公が、それまでの経験を活かせる、でも全く違う分野で新たな創作活動に光を見出すという物語。個人的には、挫折から新たな才能を発露するという展開を高校1年生までの非常に若い年齢までの中で、しかも1話の導入の段階ではっきり描いていることを凄く新鮮に感じていて、またその導入があるからこそ、作品全体としてはとても軽妙な雰囲気なのに、作品のバックグラウンドに大きな熱量を感じられる作品になっていると思う。 この作品を読んだ時に2作品ほど頭の中をよぎった作品がある。1つは「フェルマーの料理」。こちらは数学の道に挫折した主人公が料理の道に活路を見出すという物語。主人公が目標を見つける経緯には近いものがあり、理系主人公の作品が「フェルマーの料理」なら文系の作品は「まくむすび」と言えるかもしれない。 もう1作が「イチゴーイチハチ!」。こちらも主人公は怪我という形で野球の道に挫折するが、それまでの経験とは全く異なる生徒会の活動に邁進していく物語。個人的には、最初は半ば強引に引き込まれたものの周囲の人々の影響で徐々に演劇部に馴染んでいく咲良の様子が「イチゴーイチハチ!」の主人公・烏谷や幸に重なって見え、今年惜しまれつつも完結したこの作品のロスを抱えるファンの心を埋める作品になってくれるんじゃないか、という期待をしている。 最後に、これは本当に全くの偶然なんだけど、2019年7月19日という日に「創作活動に対して挫折を経験した主人公がまた創作活動に向き合っていく物語」である今作の1巻が発売され読むことが出来たということは私にとっては救いだった。創作をする人であってもそうでなくても、この作品に触れることでどれだけ傷ついても前を向いて歩んでゆける、そんな作品になっていくのではないかと思う。 1巻まで読了

カラーレスガール

誰もが悩みを抱えながら生きている

カラーレスガール 白野ほなみ
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主人公のアオイは傍から見れば美人の美大生、しかし実は自分に自信がなく、我が身を取り繕う皮として女装をする男性であった。女装することで自らの内面を包み隠し他人と関わることが出来ていたアオイが、美大の中で友人たちと心を通わせる内に、化粧と服装で覆った内側の自分自身と向き合っていく物語。主人公視点でいうと「着たい服がある」などが近しい作品かもしれない。 しかしながらこの作品は主人公アオイの視点だけではなく、アオイの友人、またその友人と視点主を移しながら進んでいく。そしてその誰もが何かしらの悩みを抱えていて、その悩みを他者との関わりの中で少しずつ解消していく。 登場人物の悩みはアオイのようにジェンダーに関連の深いものもあれば、純粋な将来への不安や恋愛関係など様々。ジェンダーに悩みを抱える登場人物の物語は最近増えてきているが、表現の仕方によっては作品の中の人物と"当事者"ではない読者との間に距離が生まれ、どこか別の世界の物語を見ているような感覚を覚えることがある。しかし、この作品はより読者にも身近な悩みを持つキャラクターも織り交ぜながら描くことによって、本来読者が知り得ない悩みを持つアオイのような登場人物にも親近感を持って触れることができる。 また、本来"多様性"の塊のような空間である美大を舞台にすることで、その"多様性"の中でも色々な悩みを抱えながら日々の生活を送るアオイたちに共感しやすくなっている。 先に挙げた「着たい服がある」や「コンプレックス・エイジ」、もしくは「青のフラッグ」のような群像劇の要素も含んだ物語が好きな方にはオススメしたい作品。 2巻まで読了。

めんどくさがり男子が朝起きたら女の子になっていた話

シリアスなTS作品に疲れたあなたに

めんどくさがり男子が朝起きたら女の子になっていた話 小林キナ
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現実世界でセクシャルマイノリティの話題が多くなってきた影響なのか、マンガのテーマとしても近年増えてきたTS(性転換)系の作品。ある日突然異性になっていたとう作品だけでも「彼女になる日」「個人差あり〼」「トランスジッター -歪な外側-」等々…。そのような作品は往々にして、男女の性差や恋愛等のシリアスなテーマが敷かれていることが多いように思います。 その中に登場した今作。主人公もの安田くんも例に漏れず朝目覚めると女子になっていましたが、この安田くん、ざっくり言ってしまうと「田中くんはいつもけだるげ」の田中くんのような、超低血圧系でめんどくさがりの(元)少年。着替えてるところに寮の同居者がいようとも、学校で好奇の目にさらされようとも、さらに生理が来てもまだなお、安田くんの感情に大きな揺らぎはなく終始ゆるーい感じの雰囲気で話が進んでゆきます。終いには男性に戻るための方法を探す努力もめんどくさいと言い出す始末。 そんな彼の周りのキャラクターも、それぞれの思惑があって安田くんに近づくんだけど、その理由もただ単に友達になりたかったり、安田くん関係なしにTSモノが好きなオタクだったりと、およそシリアスにならなさそうな害のない人たちばかり。そして、安田くんの最も近くにいる、寮の同居者の早坂くん、彼は安田くんを元の男性に戻ってほしいと思ってるんだけど、その理由が「元男性の安田くんにときめきたくないから」という、何それ可愛すぎかよという。 そんな、シリアスとは無関係のTS作品。TS作品を初めて読むという人には勿論、普段からTS作品をよく読むという人にも、こういう優しい世界もあるんだよと知ってもらえたらということで勧めたい作品。 1巻まで読了

林檎と薔薇と吸血鬼(仮)

思ってたのと違う!なハチャメチャコメディ

林檎と薔薇と吸血鬼(仮) 新谷シンヤ
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表紙からもコメディ作品だということは何となく感じ取れるが、実際に中身を読むと表紙の印象からは若干異なる印象を受ける。 舞台は中近世のような雰囲気の架空の世界。コメディ7日と思いきやしっかり雰囲気のある世界観なのでちょっと身構えてしまう。まぁすぐにその身構えは無駄だったと気付かされるのだが。 主人公は喫茶店の看板娘のアリカ。彼女が迷子の弟を探しに立ち入り禁止の森に入り、そこで吸血鬼を名乗る男・ディーヴォと出会うところから物語が始まるのだが、ここでちょっと変わった設定が2つ。 ①ディーヴォはどうやら記憶喪失で、「自分が吸血鬼だ」ということ以外覚えてないらしい。そして記憶喪失のせいなのか、ニンニクを普通に食べたり、鏡で自分の姿を確認したり、天然で吸血鬼の禁忌を踏み抜いていく。 こう見ると、創作物としての吸血鬼をメタ的に扱ったコメディにも見える。が、次の2つ目の設定が問題。 ②主人公のアリカは吸血鬼という存在がめっちゃ好き。 どれくらい好きかというと、自分がモデルがヒロインで吸血鬼と恋する自作小説を書いて本棚の後ろに隠してるくらい。ちなみに一応この世界でも吸血鬼は架空の存在と考えられているらしい。 そんなアリカなのでディーヴォと出会った時の興奮は想像に難くない。しかしながらディーヴォは夢見ていた吸血鬼とはかけ離れていて… つまりこの作品、現代に無理やり照らし合わせると、「夢小説を書くくらい好きだった推しが目の前に現れたが、推しが想像と全然違って残念な感じだった」という作品なのです! (個人の解釈です) そして推しが残念だったと知ったアリカがはディーヴォを自分の理想の吸血鬼へと仕立て上げようと突き進み、どんどんハチャメチャな方向へと進んでゆく、という果てしなく業の深い作品でもあるのです…。 1巻まで読了。

ピーチボーイリバーサイド

"正解"のない問いの答えを探し求めるファンタジー

ピーチボーイリバーサイド クール教信者 ヨハネ
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元々はクール教信者さんが2008年からwebマンガとして投稿していた作品で、作画としてヨハネさんを迎えてマガジンRにて商業作として連載を開始した作品。 ベースとなる物語は誰もが知る御伽話「桃太郎」。小国の姫・サルトリーヌ(サリー)の住む城に日本から来た少年・キビツミコトが訪れるところから物語が始まる。ミコトを追ってきた鬼が小国を襲ったことをきっかけに、ミコトとサリーの鬼との戦いの旅が始まる…というお話なのだが、単純なバトルものとして展開していかないのがこの作品。 「正義の反対はまた別の正義」という言葉があるが、本来"悪"として描かれるはずの鬼たちの背景もページ数を割いて描かれる。最初こそ人間の生活を脅かす存在として描かれるが、鬼たちが主人公一行を襲う動機も殺された仲間の敵討ちであったり、人間社会から迫害されたことにより生まれた羨望・怨念であったり、徐々に"完全悪"ではない存在として描かれていく。そして、主人公であるミコト・サリーの存在も"完全なる正義"としては描かれない。ミコトは鬼を全て討ち滅ぼすべき存在として捉え、サリーは鬼を対話により分かり合える存在として考え、共存の道を見つけるために旅をする。特にミコトの鬼に対する感情は強烈な怨恨として描かれており、少なくとも鬼に対する思想についてはサリーと完全に対立する形をとっている。(もしかしたらミコトのこの怨恨の感情が人間の心に巣食う"鬼"である、という意味もあるのかもしれない) つまりこの作品は「人間 vs 鬼」というバトルマンガの体を取りながら、ミコト・サリー・鬼という三者の"正義"同士の戦いの物語でもある。大方この鼎立の構造に明確な"正解"を出すことは出来ないが、対立する者同士の共存という恐らく三者の中で最も困難な道を選んだサリーが旅の果てにどのような答えを出すのか、それがこの作品の最大のテーマなのではないかと思っている。 と、すごい畏まった作品紹介をしてみたが、そもそもミコトとサリーの冒険譚として読んでも、亜人との遭遇や人間社会の内部にある差別の構造など様々な困難に直面し乗り越えていく様が面白い。ちなみに共に旅をしていくっぽい書き方をしていたが、ミコトとサリーは基本的には道中を共にしない(訪れた街でたまたま出会うことはあるが)。それは上記の考えの相違も一因なのだがもっと大きな理由もあって…それは本編を読んでからのお楽しみということで。 6巻まで読了

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