このビッグタイトルが電子書籍限定なんてもったいない! #1巻応援ナルニア国物語 C.S.ルイス 土屋京子 玉樹庵sogor25「ナルニア国物語」といえば、言わずと知れた児童文学の金字塔。もともとは岩波書店から全7巻で発売され、映画化もされるなど、何かしらの形で物語に触れたことのある方も多いのではないのでしょうか。 実は、『ナルニア国物語』の原著の著作権保護期間が終了し、2016年に光文社から新訳版が発売されています。そしてその新訳版を原作とするコミカライズが今回、電子書籍単行本として発売されました。 新訳版の特徴として、翻訳がかなり現在の言葉遣いに寄せられていることが挙げられます。岩波書店版の翻訳も、例えば"Dawn Treader"という船の名前を"朝びらき丸"と訳したり、日本で馴染みのないターキッシュ・デライトというお菓子をプリンと訳したりと、独特の翻訳が人気のある作品ではありましたが、原典に忠実かつ現代的ない日本語を用いて翻訳がされており、今の子どもたちにとって読みやすい作品になっています。 また、『ナルニア国物語』は刊行順と作品内の時系列が異なる作品で、今回のコミカライズでは作中の時系列順に物語を並び替えて描かれいます。そのため、原作では6巻目にあたる「魔術師のおい」からコミカライズされています(ちなみに刊行順ではなく年代順に読むこと自体は原作者のC・S・ルイスさんが「どちらでも問題ない」という発言を残しているそうです)。 そして今回のコミカライズは、ストーリーが面白いのは勿論のこと、人物から背景、小物に至るまで緻密に描かれていて、マンガとして非常にクオリティの高い作品に仕上がっています。1巻の時点では本当の導入部分しか描かれておらず、場面転換もほとんどないにもかかわらず、絵の力とマンガとしての画面構成の力によって最後まで飽きさせない作りになっています。 なぜこれほどのビッグタイトル、しかも高クオリティの作品が電子書籍のみで発売されているのかは分かりませんが、もっと話題になるべき作品であることは間違いありません。 初めて読まれるというかたは是非ここから入ってほしいと思いますし、どこかで作品に触れたことのあるという方は、「本がすき。」というサイト( https://honsuki.jp/series/narunia )で刊行順で1番目、時系列では2番目にあたる「ライオンと魔女」を連載中のため、こちらをチェックしてみてもいいかもしれません。 1巻まで読了。時間を"貯蓄"できる世界で得られるもの、そして失われるもの #1巻応援ヒューストン 単行本版 トラ太郎sogor25時間を貯蓄できる技術「ヒューストン」が普及した世界。 子供の頃から誰よりも時間を大切にし、「ヒューストン」による時間貯蓄を積み重ねていく主人公のエリカ。大人になって貯めた時間貯金を使って旅行する、という夢のため順調に貯蓄計画を進めていた彼女だったが、実は彼女の人生には小さな歪みが生まれていて…という物語。 エリカには幼い頃に時間を大切にするようになった背景があって、「ヒューストン」をとても有効に利用しているように見える。しかしながら、家族や周囲の人々との関わりの中で徐々に"変わっていく"彼女の様子がヒューマンドラマとして凄く面白い作品。 そして、そんな彼女の動向とは別のところで「ヒューストン」という技術の開発背景と、そこに横たわる陰謀が描かれる。このSF的視点も作品の面白さの1つであり、これがエリカの人生にどう関わってくるのかも楽しみな作品。 1巻まで読了。少女と人型ロボットのほんわか(?)終末ジャーニー #1巻応援終末世界の箱入りムスメ みああわsogor25この世界はどうやら人類が滅んでしまったらしい。廃墟だらけの中を進むのは1体の人形ロボット。そしてそのコックピットの中には1人の少女。この物語は"10番さん"と呼ばれるロボットと、10番さんが"ムスメさん" と呼ぶ少女との、滅びた人類の生き残りを探すまったり緩やかな旅路の物語。 "箱入りムスメ"というタイトルのとおり10番さんはムスメさんのことを異常なほどに過保護に扱い(世界観を考えると当たり前と言えば当たり前なんだけど)、それに反するようにムスメさんは世界のいろんなことに興味を示して好奇心旺盛な振る舞いを見せる。その姿はまるでほんとうの父娘のよう。キャラクターの配置は『鍵つきテラリウム』のようだけど、作品の雰囲気としては『少女終末旅行』に近いかもしれない。 ただ他の作品と違うのは、ムスメさんと10番さんが共に旅をすることとなった経緯の部分。彼らは姉弟ではないし元々の知り合いというわけでもない。彼らが如何にして出会い、そして"父娘"となったのか、その一端が2話で語られるので、まずは2話まで読んでみてほしい。 1巻まで読了最後までこの闘いから決して目を離すな #1巻応援泣いたって画になるね 畳ゆかsogor25三宮莉子はとても美人な女子高生。校内でもヒエラルキーの頂点にいて、女子の中の人間関係は彼女を中心に組み立てられているといっても過言ではない。 この物語の主人公・森永小枝は彼女の隣の家に住む幼馴染。莉子が引っ越してきてからずっと一緒にいる2人。小枝がカメラ部の活動で遅くなったとしてもわざわざ時間を合わせて一緒に帰ろうとするくらいの"大の仲良し"。 だけど、この物語で小枝に与えられた役割は【モブC】。なぜかというと、莉子にとって小枝の存在は大きな価値のない、幼馴染という名の"付属品"だということを、他ならぬ小枝自身が悟っているから。 この作品はそんな小枝の莉子からの"独立"のための闘いの物語。 最初から一貫してブレることのない莉子、そして対を成すかのように大きく揺れ動く小枝の心。決して最後の1ページまで見逃してはならない。 キーワードは『写真』『岡村靖幸』そして『浅野いにお』。中央線を舞台にした出会いと別れのオムニバス #1巻応援中央線沿線少女 riokasogor25吉祥寺や三鷹など、JR中央本線の各駅を舞台にしたオムニバス作品。吉祥寺の駅前の風景や三鷹の太宰治ゆかりの地など、各駅それぞれの風景が描かれ、その中で様々な登場人物の多種多様な感情が描かれる。タイトルに"少女"と入ってるけど社会人が主人公の話もあり、物語は本当にバリエーション豊か。 オムニバス作品ながら1話ごとの起承転結が丁寧に描かれ、なおかつ結末まで辿り着いたあとに強く余韻が残るような幕引きをしている作品が多いのが印象的。 また、1巻の時点で甲府まで足を伸ばしていたりして、都会から郊外まで様々な舞台の様子を楽しめるのも魅力の1つ。 1巻まで読了。剣と魔法の世界に存在する知られざる”ブラック職場”…! #1巻応援教会務めの神官ですが、勇者の惨殺死体転送されてくるの勘弁して欲しいです タナカトモ 夏川優希sogor25剣と魔法の世界に存在する知られざるブラック職場、それは"教会"…この教会の神官ユリウスは、日々強制転送されてくる勇者たちの死体の蘇生、教会の管理、更には蘇生費の徴収など、それら全ての業務をなんとワンオペで行っていたのだ!ここに知られざる神官の過酷な勤務実態が明らかになる! という、"RPGで主人公たちが全滅したときに戻される教会がもしワンオペで運営されてたら?"という切り口で描かれるファンタジーコメディ。 着想の切れ味の鋭さも素晴らしいんだけど、異常な頻度で死んで転送されてくる勇者、蘇生費を踏み倒そうとする輩、どこからともなくトラブルを運んでくるヤバい勇者、そして労働条件的にも金銭的にも限界に近づいた結果良からぬ方向に足を踏み出そうとする神官ユリウスと、コメディとしてのキャラの配置が上手くて、タイトルだけの一発ネタでは終わらせない地力を感じる。RPGをプレイしたことのある人なら親しみやすい世界観も魅力的な作品。 1巻まで読了。不良少女と熱血教師、"決して報われない恋"の物語 #1巻応援私の恋で死んでくれ 山川まち としきsogor25援助交際まがいのことをしている不良少女・愛利。彼女がラブホテルから出てきたところにたまたま巡回中だった高校教師・藤原が遭遇したところから物語が始まる。 絵に書いたような熱血教師の藤原は愛利のことを更生させようと一生懸命に動いてくれる。そんな藤原に対して最初は煙たがっていた愛利だったが、徐々に気持ちが移ろいでいく。 でも、この愛利の気持ちが恋だとしても、それはきっと"報われない恋"。そこには教師と生徒という関係以上に"越えられない壁"がある。 果たして2人を隔てるものとは何なのか。そもそも何故こんなタイトルなのか?それは1話を読んでみてのお楽しみ。 1巻まで読了。この作品、コメディ3割、尊い7割。 #1巻応援どうやら彼女は宇宙人らしい。 吟華sogor25高校1年生の春。初めて女の子に告白した。あっさりOKをもらえて有頂天だったけど、次の日「男女交際の間に嘘偽りはよろしくない」といって自分が"宇宙人"であるとまさかの告白返し。そんな無表情系天然宇宙人の彼女と地味だけど純朴な彼氏との純情ラブコメ。 突然自分が宇宙人だと告白するような彼女だからハチャメチャなコメディなのかと思いきや、突拍子もないことを言い出す彼女のことを余りある包容力で全て受け入れてくれる彼氏という場面が溢れていて、イチャイチャ成分のほうが強い作品だと気付いた頃にはもうこの2人の行く末を応援したくなってる。守りたい、この尊さ。 1巻まで読了"田中"だから歴史を変えられる、中国歴史ファンタジー #1巻応援項羽と劉邦、あと田中(コミック) 亜希乃千紗 古寺谷雉 獅子猿sogor25普通のサラリーマン・田中はある日コンビニを出た瞬間に秦の時代の中国にタイムスリップ。そこから、項羽や劉邦など、歴史上の英雄たちと出会い、さらにその後の中国の歴史を大きく変えていくという物語。 普通の日本人のサラリーマンが古代中国で歴史の中心に導かれていくというメインのプロットを動かすための、個々の設定の配置が絶妙な作品。過去の異国への転生から田中が生き抜くために必要な要素が違和感なく、かつこれしかない!という形で使われている。歴史ファンタジーとしても良くできていて、三国志等の中国史の物語が好きな人には新鮮な切り口で刺さりそうな作品。 1巻まで読了息子を奪われた哀しき獣人の復讐譚 #1巻応援獣国のパナギア メイジメロウsogor25超人的な身体能力を持つ獣人(ゾア)と呼ばれる存在がいる世界。人類は獣人を恐れ人間社会から排除しようとし、一部の獣人は迫害を逃れるために身を潜めて暮らしていた。そんな中、比較的獣人の少ない地域へと移ってきた獣人の女性ランダは、街の警察に獣人である県議を懸けられ、その騒動の中で一人息子を謎の組織に誘拐される。辛くも生き延びた彼女は、その一人息子を奪い返すために復讐心に委ね、戦いの中に身を投じてゆく。 人類側にも獣人側にもそれぞれの組織があり、物語を俯瞰すると様々な対立構造があって複雑な世界観が見て取れるんだけど、そこに行動原理の殆どを"息子を取り返す"という一点に置くランダが加わり、現状のパワーバランスに依らない異質分子として掻き乱していく。 戦闘シーンの迫力も凄くバトルマンガのような雰囲気もありつつも、基本的にランダの主観を通して描かれるために全ての景色に負の感情が掛かって見えて、それがストーリー全体をダークファンタジー足らしめている作品。 1巻まで読了。"同級生"で"幼馴染"で今は"同居人"な2人の関係性 #1巻応援アンチロマンス 日高ショーコsogor25広告代理店のライターの柿谷と美容師の周防、2人はルームシェアし始めて6年目。高校を卒業してからなし崩し的に始まって今日まで続いていた同居生活だけど、ちょっとしたきっかけで揺れる2人の関係性。 個人的に面白いと思ったのは、家での2人だけの場面よりも個々の職場での様子を多く抜き出して描いていること。6年経って煮詰まった2人の関係性のバランスを崩すのには外からの刺激が必要という事もありそうだけど、逆に2人の会話が相対的に少なくなり、同居しているのにほんとうの2人の関係性が深くは見えてこない。 "同級生"で"幼馴染"で今は"同居人"、凝り固まった関係性が崩れる時、2人の向かう先は離れていくのか、それとも…。 1巻まで読了復讐のため"ウソでウソを暴く"探偵の物語 #1巻応援アクターダンス 村上ペコsogor25探偵業を営む父親を持つ主人公の赤谷芙蓉(あかや ふよう)。ある日、その父親を殺され、その犯人に復讐するため自らも探偵となる。 犯人を追い詰めるためならどんな手でも使うという芙蓉の行動原理から、ピカレスクな雰囲気が漂っているんだけど、それとは裏腹に事件解決後にどこか心に棘が残る読後感のある作品。そして一匹狼な主人公なのかと思いきや警察に協力者がいたり仲間となる人物が現れたりと、芙蓉の人間味が見え隠れするような展開も面白い。 芙蓉の発言の1つ1つにオモテとウラがあるように、善と悪、光と影、どちらか片方の側面だけでは語れない、アンビバレンスな魅力のある作品。 1巻まで読了 « First ‹ Prev … 22 23 24 25 26 27 28 29 30 … Next › Last » もっとみる
このビッグタイトルが電子書籍限定なんてもったいない! #1巻応援ナルニア国物語 C.S.ルイス 土屋京子 玉樹庵sogor25「ナルニア国物語」といえば、言わずと知れた児童文学の金字塔。もともとは岩波書店から全7巻で発売され、映画化もされるなど、何かしらの形で物語に触れたことのある方も多いのではないのでしょうか。 実は、『ナルニア国物語』の原著の著作権保護期間が終了し、2016年に光文社から新訳版が発売されています。そしてその新訳版を原作とするコミカライズが今回、電子書籍単行本として発売されました。 新訳版の特徴として、翻訳がかなり現在の言葉遣いに寄せられていることが挙げられます。岩波書店版の翻訳も、例えば"Dawn Treader"という船の名前を"朝びらき丸"と訳したり、日本で馴染みのないターキッシュ・デライトというお菓子をプリンと訳したりと、独特の翻訳が人気のある作品ではありましたが、原典に忠実かつ現代的ない日本語を用いて翻訳がされており、今の子どもたちにとって読みやすい作品になっています。 また、『ナルニア国物語』は刊行順と作品内の時系列が異なる作品で、今回のコミカライズでは作中の時系列順に物語を並び替えて描かれいます。そのため、原作では6巻目にあたる「魔術師のおい」からコミカライズされています(ちなみに刊行順ではなく年代順に読むこと自体は原作者のC・S・ルイスさんが「どちらでも問題ない」という発言を残しているそうです)。 そして今回のコミカライズは、ストーリーが面白いのは勿論のこと、人物から背景、小物に至るまで緻密に描かれていて、マンガとして非常にクオリティの高い作品に仕上がっています。1巻の時点では本当の導入部分しか描かれておらず、場面転換もほとんどないにもかかわらず、絵の力とマンガとしての画面構成の力によって最後まで飽きさせない作りになっています。 なぜこれほどのビッグタイトル、しかも高クオリティの作品が電子書籍のみで発売されているのかは分かりませんが、もっと話題になるべき作品であることは間違いありません。 初めて読まれるというかたは是非ここから入ってほしいと思いますし、どこかで作品に触れたことのあるという方は、「本がすき。」というサイト( https://honsuki.jp/series/narunia )で刊行順で1番目、時系列では2番目にあたる「ライオンと魔女」を連載中のため、こちらをチェックしてみてもいいかもしれません。 1巻まで読了。時間を"貯蓄"できる世界で得られるもの、そして失われるもの #1巻応援ヒューストン 単行本版 トラ太郎sogor25時間を貯蓄できる技術「ヒューストン」が普及した世界。 子供の頃から誰よりも時間を大切にし、「ヒューストン」による時間貯蓄を積み重ねていく主人公のエリカ。大人になって貯めた時間貯金を使って旅行する、という夢のため順調に貯蓄計画を進めていた彼女だったが、実は彼女の人生には小さな歪みが生まれていて…という物語。 エリカには幼い頃に時間を大切にするようになった背景があって、「ヒューストン」をとても有効に利用しているように見える。しかしながら、家族や周囲の人々との関わりの中で徐々に"変わっていく"彼女の様子がヒューマンドラマとして凄く面白い作品。 そして、そんな彼女の動向とは別のところで「ヒューストン」という技術の開発背景と、そこに横たわる陰謀が描かれる。このSF的視点も作品の面白さの1つであり、これがエリカの人生にどう関わってくるのかも楽しみな作品。 1巻まで読了。少女と人型ロボットのほんわか(?)終末ジャーニー #1巻応援終末世界の箱入りムスメ みああわsogor25この世界はどうやら人類が滅んでしまったらしい。廃墟だらけの中を進むのは1体の人形ロボット。そしてそのコックピットの中には1人の少女。この物語は"10番さん"と呼ばれるロボットと、10番さんが"ムスメさん" と呼ぶ少女との、滅びた人類の生き残りを探すまったり緩やかな旅路の物語。 "箱入りムスメ"というタイトルのとおり10番さんはムスメさんのことを異常なほどに過保護に扱い(世界観を考えると当たり前と言えば当たり前なんだけど)、それに反するようにムスメさんは世界のいろんなことに興味を示して好奇心旺盛な振る舞いを見せる。その姿はまるでほんとうの父娘のよう。キャラクターの配置は『鍵つきテラリウム』のようだけど、作品の雰囲気としては『少女終末旅行』に近いかもしれない。 ただ他の作品と違うのは、ムスメさんと10番さんが共に旅をすることとなった経緯の部分。彼らは姉弟ではないし元々の知り合いというわけでもない。彼らが如何にして出会い、そして"父娘"となったのか、その一端が2話で語られるので、まずは2話まで読んでみてほしい。 1巻まで読了最後までこの闘いから決して目を離すな #1巻応援泣いたって画になるね 畳ゆかsogor25三宮莉子はとても美人な女子高生。校内でもヒエラルキーの頂点にいて、女子の中の人間関係は彼女を中心に組み立てられているといっても過言ではない。 この物語の主人公・森永小枝は彼女の隣の家に住む幼馴染。莉子が引っ越してきてからずっと一緒にいる2人。小枝がカメラ部の活動で遅くなったとしてもわざわざ時間を合わせて一緒に帰ろうとするくらいの"大の仲良し"。 だけど、この物語で小枝に与えられた役割は【モブC】。なぜかというと、莉子にとって小枝の存在は大きな価値のない、幼馴染という名の"付属品"だということを、他ならぬ小枝自身が悟っているから。 この作品はそんな小枝の莉子からの"独立"のための闘いの物語。 最初から一貫してブレることのない莉子、そして対を成すかのように大きく揺れ動く小枝の心。決して最後の1ページまで見逃してはならない。 キーワードは『写真』『岡村靖幸』そして『浅野いにお』。中央線を舞台にした出会いと別れのオムニバス #1巻応援中央線沿線少女 riokasogor25吉祥寺や三鷹など、JR中央本線の各駅を舞台にしたオムニバス作品。吉祥寺の駅前の風景や三鷹の太宰治ゆかりの地など、各駅それぞれの風景が描かれ、その中で様々な登場人物の多種多様な感情が描かれる。タイトルに"少女"と入ってるけど社会人が主人公の話もあり、物語は本当にバリエーション豊か。 オムニバス作品ながら1話ごとの起承転結が丁寧に描かれ、なおかつ結末まで辿り着いたあとに強く余韻が残るような幕引きをしている作品が多いのが印象的。 また、1巻の時点で甲府まで足を伸ばしていたりして、都会から郊外まで様々な舞台の様子を楽しめるのも魅力の1つ。 1巻まで読了。剣と魔法の世界に存在する知られざる”ブラック職場”…! #1巻応援教会務めの神官ですが、勇者の惨殺死体転送されてくるの勘弁して欲しいです タナカトモ 夏川優希sogor25剣と魔法の世界に存在する知られざるブラック職場、それは"教会"…この教会の神官ユリウスは、日々強制転送されてくる勇者たちの死体の蘇生、教会の管理、更には蘇生費の徴収など、それら全ての業務をなんとワンオペで行っていたのだ!ここに知られざる神官の過酷な勤務実態が明らかになる! という、"RPGで主人公たちが全滅したときに戻される教会がもしワンオペで運営されてたら?"という切り口で描かれるファンタジーコメディ。 着想の切れ味の鋭さも素晴らしいんだけど、異常な頻度で死んで転送されてくる勇者、蘇生費を踏み倒そうとする輩、どこからともなくトラブルを運んでくるヤバい勇者、そして労働条件的にも金銭的にも限界に近づいた結果良からぬ方向に足を踏み出そうとする神官ユリウスと、コメディとしてのキャラの配置が上手くて、タイトルだけの一発ネタでは終わらせない地力を感じる。RPGをプレイしたことのある人なら親しみやすい世界観も魅力的な作品。 1巻まで読了。不良少女と熱血教師、"決して報われない恋"の物語 #1巻応援私の恋で死んでくれ 山川まち としきsogor25援助交際まがいのことをしている不良少女・愛利。彼女がラブホテルから出てきたところにたまたま巡回中だった高校教師・藤原が遭遇したところから物語が始まる。 絵に書いたような熱血教師の藤原は愛利のことを更生させようと一生懸命に動いてくれる。そんな藤原に対して最初は煙たがっていた愛利だったが、徐々に気持ちが移ろいでいく。 でも、この愛利の気持ちが恋だとしても、それはきっと"報われない恋"。そこには教師と生徒という関係以上に"越えられない壁"がある。 果たして2人を隔てるものとは何なのか。そもそも何故こんなタイトルなのか?それは1話を読んでみてのお楽しみ。 1巻まで読了。この作品、コメディ3割、尊い7割。 #1巻応援どうやら彼女は宇宙人らしい。 吟華sogor25高校1年生の春。初めて女の子に告白した。あっさりOKをもらえて有頂天だったけど、次の日「男女交際の間に嘘偽りはよろしくない」といって自分が"宇宙人"であるとまさかの告白返し。そんな無表情系天然宇宙人の彼女と地味だけど純朴な彼氏との純情ラブコメ。 突然自分が宇宙人だと告白するような彼女だからハチャメチャなコメディなのかと思いきや、突拍子もないことを言い出す彼女のことを余りある包容力で全て受け入れてくれる彼氏という場面が溢れていて、イチャイチャ成分のほうが強い作品だと気付いた頃にはもうこの2人の行く末を応援したくなってる。守りたい、この尊さ。 1巻まで読了"田中"だから歴史を変えられる、中国歴史ファンタジー #1巻応援項羽と劉邦、あと田中(コミック) 亜希乃千紗 古寺谷雉 獅子猿sogor25普通のサラリーマン・田中はある日コンビニを出た瞬間に秦の時代の中国にタイムスリップ。そこから、項羽や劉邦など、歴史上の英雄たちと出会い、さらにその後の中国の歴史を大きく変えていくという物語。 普通の日本人のサラリーマンが古代中国で歴史の中心に導かれていくというメインのプロットを動かすための、個々の設定の配置が絶妙な作品。過去の異国への転生から田中が生き抜くために必要な要素が違和感なく、かつこれしかない!という形で使われている。歴史ファンタジーとしても良くできていて、三国志等の中国史の物語が好きな人には新鮮な切り口で刺さりそうな作品。 1巻まで読了息子を奪われた哀しき獣人の復讐譚 #1巻応援獣国のパナギア メイジメロウsogor25超人的な身体能力を持つ獣人(ゾア)と呼ばれる存在がいる世界。人類は獣人を恐れ人間社会から排除しようとし、一部の獣人は迫害を逃れるために身を潜めて暮らしていた。そんな中、比較的獣人の少ない地域へと移ってきた獣人の女性ランダは、街の警察に獣人である県議を懸けられ、その騒動の中で一人息子を謎の組織に誘拐される。辛くも生き延びた彼女は、その一人息子を奪い返すために復讐心に委ね、戦いの中に身を投じてゆく。 人類側にも獣人側にもそれぞれの組織があり、物語を俯瞰すると様々な対立構造があって複雑な世界観が見て取れるんだけど、そこに行動原理の殆どを"息子を取り返す"という一点に置くランダが加わり、現状のパワーバランスに依らない異質分子として掻き乱していく。 戦闘シーンの迫力も凄くバトルマンガのような雰囲気もありつつも、基本的にランダの主観を通して描かれるために全ての景色に負の感情が掛かって見えて、それがストーリー全体をダークファンタジー足らしめている作品。 1巻まで読了。"同級生"で"幼馴染"で今は"同居人"な2人の関係性 #1巻応援アンチロマンス 日高ショーコsogor25広告代理店のライターの柿谷と美容師の周防、2人はルームシェアし始めて6年目。高校を卒業してからなし崩し的に始まって今日まで続いていた同居生活だけど、ちょっとしたきっかけで揺れる2人の関係性。 個人的に面白いと思ったのは、家での2人だけの場面よりも個々の職場での様子を多く抜き出して描いていること。6年経って煮詰まった2人の関係性のバランスを崩すのには外からの刺激が必要という事もありそうだけど、逆に2人の会話が相対的に少なくなり、同居しているのにほんとうの2人の関係性が深くは見えてこない。 "同級生"で"幼馴染"で今は"同居人"、凝り固まった関係性が崩れる時、2人の向かう先は離れていくのか、それとも…。 1巻まで読了復讐のため"ウソでウソを暴く"探偵の物語 #1巻応援アクターダンス 村上ペコsogor25探偵業を営む父親を持つ主人公の赤谷芙蓉(あかや ふよう)。ある日、その父親を殺され、その犯人に復讐するため自らも探偵となる。 犯人を追い詰めるためならどんな手でも使うという芙蓉の行動原理から、ピカレスクな雰囲気が漂っているんだけど、それとは裏腹に事件解決後にどこか心に棘が残る読後感のある作品。そして一匹狼な主人公なのかと思いきや警察に協力者がいたり仲間となる人物が現れたりと、芙蓉の人間味が見え隠れするような展開も面白い。 芙蓉の発言の1つ1つにオモテとウラがあるように、善と悪、光と影、どちらか片方の側面だけでは語れない、アンビバレンスな魅力のある作品。 1巻まで読了
「ナルニア国物語」といえば、言わずと知れた児童文学の金字塔。もともとは岩波書店から全7巻で発売され、映画化もされるなど、何かしらの形で物語に触れたことのある方も多いのではないのでしょうか。 実は、『ナルニア国物語』の原著の著作権保護期間が終了し、2016年に光文社から新訳版が発売されています。そしてその新訳版を原作とするコミカライズが今回、電子書籍単行本として発売されました。 新訳版の特徴として、翻訳がかなり現在の言葉遣いに寄せられていることが挙げられます。岩波書店版の翻訳も、例えば"Dawn Treader"という船の名前を"朝びらき丸"と訳したり、日本で馴染みのないターキッシュ・デライトというお菓子をプリンと訳したりと、独特の翻訳が人気のある作品ではありましたが、原典に忠実かつ現代的ない日本語を用いて翻訳がされており、今の子どもたちにとって読みやすい作品になっています。 また、『ナルニア国物語』は刊行順と作品内の時系列が異なる作品で、今回のコミカライズでは作中の時系列順に物語を並び替えて描かれいます。そのため、原作では6巻目にあたる「魔術師のおい」からコミカライズされています(ちなみに刊行順ではなく年代順に読むこと自体は原作者のC・S・ルイスさんが「どちらでも問題ない」という発言を残しているそうです)。 そして今回のコミカライズは、ストーリーが面白いのは勿論のこと、人物から背景、小物に至るまで緻密に描かれていて、マンガとして非常にクオリティの高い作品に仕上がっています。1巻の時点では本当の導入部分しか描かれておらず、場面転換もほとんどないにもかかわらず、絵の力とマンガとしての画面構成の力によって最後まで飽きさせない作りになっています。 なぜこれほどのビッグタイトル、しかも高クオリティの作品が電子書籍のみで発売されているのかは分かりませんが、もっと話題になるべき作品であることは間違いありません。 初めて読まれるというかたは是非ここから入ってほしいと思いますし、どこかで作品に触れたことのあるという方は、「本がすき。」というサイト( https://honsuki.jp/series/narunia )で刊行順で1番目、時系列では2番目にあたる「ライオンと魔女」を連載中のため、こちらをチェックしてみてもいいかもしれません。 1巻まで読了。