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人生最大の嘘ついた

最高の芸術は美しく人を騙す #1巻応援

人生最大の嘘ついた 梅サト
兎来栄寿
兎来栄寿

『緑の罪代』や『お兄ちゃんは今日も少し浮いてる』など、主に女性向け雑誌で活躍されていた梅サトさんが青年誌での初連載を始めた時はビックリしました。 安藤ゆきさんが『ビッグコミックスペリオール』で『地図にない場所』を始めた時も同様の衝撃がありましたが、しかしそれまでの作品の素晴らしさや男女の枠組を越えて普遍的な面白さを描かれていたことから、青年誌でも確実に面白いものを描いてくださるだろうという期待もありました。 梅サトさんに関してもほぼ同様で、かつ梅サトさんは絵的にも男性でも非常に読みやすいタッチなのでまったく問題ないだろうと思っていました。 蓋を開けて1話を読んでみれば、期待以上の面白さ! 30半ばにして何者でもなかった画家崩れの主人公・前田薫が、オリンピック開会式総合演出の女性に見初められたことで突然のスターダムに乗せられて一躍有名になってしまうものの、本人はその「嘘」をどうしたものかと悩んでいるという物語です。 そんな彼が出逢うのが、学食で蕎麦を茹でている津崎さん。栄養士である彼女との出逢いを通して、自分の原点に立ち返り再起していく薫の物語から目が離せなくなります。 1話で描かれる津崎さんのとある「拘り」、そしてそこから生じる「行動」がとても特徴的で、小学生のころから人一倍栄養学に興味のある私はとても深く共感してしまいました。 薫は祖父が昔住んでいた家をシェアハウスとして解放しており、そこの住人たちとの日々の生活やそれぞれのキャラクターも見どころとなっています。天才・泉真之介など魅力的な人物も後から増えてきます。 そして、最大の見どころはタイトルにもなっている「嘘」との向き合い方です。世の中には「嘘から出た真」という言葉もあり、また『エアマスター』の深道いわく「それしかないなら 人間は…最後は″ハッタリ″で動く」。何が嘘で何が真実かを決めるのも、最終的には自分。 梅サトさんの作品らしい、読みやすいネームやところどころでのユーモアもとても心地良く、安心して浸ることのできる物語です。 薫と津崎さんの関係性も含めて、今後どうなっていくのかとても楽しみです。

青春プロタゴニスト 僕たちは恋愛過剰

家庭の事情が呪縛する恋愛 #1巻応援

青春プロタゴニスト 僕たちは恋愛過剰 五郎丸えみ
兎来栄寿
兎来栄寿

「自分だけ幸せになってはいけない」 という呪いを抱いて生きてきた人には、共感を抱かれる作品かもしれません。 容姿も性格も良く人気者である男子高校生・和泉の抱える闇は、とある家庭の事情。彼が中学校のころから一緒の立花への特別な想いが移動教室中の肝だめしというイベントで開花します。 そんな立花は、普段は口ごもりがちでありながら演劇の才能を持つ少女。彼女も彼女で、和泉に対しては特別な感情を抱いています。 お互いに特別な想いがありながらも、すんなりと付き合うことはできない事情を抱えたふたりを巡る物語です。恋物語は障害がある方が燃えるとはいえ、少々重いです。が、これはこれでこうした作風が好きな方も少なからずいることでしょう。 年頃の子たちが普通にしていることを、自分だけできず我慢を強いられる。そのストレスやそれによって生まれる歪みは非常に大きなものです。しかし、さまざまな理由によって現実にそうなってしまっている人は多くいます。その圧力が解き放たれる先が、内か外か。自分か他人が傷を負うことは避け難いです。 プロタゴニストは「主人公」の意。主人公になりたくてもなれない。そんな人生を、青春を過ごす少年少女たちが胸を焦がします。 立花の奥底にあるものも含めて、行末が気になります。

僕の声を聞いてほしい!!

画力が高く続きが気になる台湾マンガ #1巻応援

僕の声を聞いてほしい!! 楊基政
兎来栄寿
兎来栄寿

良い台湾マンガが最近はどんどん邦訳されて読めるようになっていて、嬉しいですね。 本作は「#続きが気になる台湾漫画大賞」を受賞した作品という触れ込みですが、1巻最後まで読んだら「続き……! 続きをください!」とならずにはいられないでしょう。 近所に住む綺麗で何でもできるお姉さんに、子供のから憧れを抱き続けていた少年の物語です。 立派で素敵な大人になると思っていたお姉さんは、ちょっと思ったのと違う感じにはなってしまいましたが、それでも惹かれる部分をたくさん持ち合わせており思春期の少年の複雑な想いが揺れ動く様を堪能できます。また、彼の周りの人物にまつわる物語も、対照的に進行していきます。 恋愛の話もありますが、思春期に誰もが悩む未来についての普遍的なパートもあり感情移入はしやすいでしょう。 何より筆者の画力がシンプルに高く、キャラクターたちの豊かで魅力的な表情やアングル、日本とかなり似ていながらも細かい違いのある台湾の日常風景(スーパー、学食、ゲーセンetc...)を絵でたっぷりと楽しむことができます。ルーローハンがチャーハンより安いのは羨ましい限り。基本的には沁みいるようなお話なので静と動で言うなら圧倒的に静のシーンが多いのですが、幕間や合間合間で激しく動く描写も挟まれます。勢いのあるアクションを描くのも得意な方のようで、そういったタイプの作品も見てみたいと思わされました。 「はっ」と日本語に訳される効果音は「回神」であるなど、中国語のまま残されたオノマトペなども楽しいです。主人公が「和」と書いて「ホー」と読むのは、麻雀好きには馴染み深いことでしょう。 おまけマンガもかなりカオスで、作者の趣味嗜好がダダ漏れている感じも好きです。余談ですが、作中で登場する城に迷い込んだ少年が幽閉された少女と城を脱出するゲームは私も大好きです。

貸人屋

アンドロイドをレンタルして何をしたいですか? #1巻応援

貸人屋 宮尾岳
兎来栄寿
兎来栄寿

ソフトバンクの孫さんが「ChatGPTを使ってない人は人生を悔い改めた方がいい」と発言して物議を醸していますが、AI分野が非常に盛り上がっている昨今。 『並木橋通りアオバ自転車店』の宮尾岳さんが描く、AIを駆使したアンドロイドをテーマにしたオムニバス作品です。 近未来の日本を舞台に、「貸人サービス」というアンドロイドを好きな容姿や人格に設定して一定期間レンタルできるサービスに関わる人々を描いていきます。 第1話の1コマ目が ″だから父さん! 免許返納してくれよ! もう80歳なんだぞ!″ というセリフから始まる辺りは現代的ですね。 家族の代わりとして利用する人もいれば、彼氏が欲しい女性や二次元の推しキャラに似せる少年など、目的やニーズは多種多様。 ヒューマンドラマの名手が描くAIと人間の交流ということで、素朴な温かさが感じられる話が多いです。派手な面白さや非常に斬新な発想や設定があるわけではないですが、それがいい。 個人的には、現在AIと人力を合わせて生み出すサービスに関わっており日々人間にできてAIにできないことやそれをどうシステムに落とし込めるかなどを考えているのですが、そのひとつの例となるお話もあってこのタイミングで読めたことに意義を感じました。ガンプラ的なものを大好きすぎる男性の話なども好きです。 「アンドロイドがいる未来に最も柔軟に付き合えるのは、アトム以来何十年もアンドロイドを見つめてきた日本人ではないでしょうか」 という宮尾さんのあとがきにも首肯します。これくらい精巧なアンドロイドが現実世界で活躍するのはいつくらいになるでしょうね。

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