志信さんと僕の謎解きペットショップ@COMIC

動物への愛と責任がある物語 #1巻応援

志信さんと僕の謎解きペットショップ@COMIC あおのなち からけみ
兎来栄寿
兎来栄寿

最近、人の心を持たない大手ペットショップが話題に上がり怒りと悲しみに包まれますが、小説原作のこちらの作品に登場するペットショップの素敵さには膝を打ちました。 何といっても、陳列販売をしておらずブリーダーさんとの仲介に徹していること。また、餌に関しても成分表示をしっかり行なっている輸入品のみを扱っていること。また、そんなお店の心意気を汲んで多少高くても応援しようとそこで買い物を日々行う人もいて、とても良いサイクルになっているのが良いです。 何ならもう「ペットショップ」という名前を使わない方が良いのではという提言も作中でなされており、昨今のペットショップ問題がある今だからこそより考えられるべき論点も含まれていて意義のある内容です。 本作は、ペットショップ「ケネル」で働く19歳の陽斗が、大豪邸でたくさんの犬・猫・らんちゅうを飼っているお得意様の桐山家の当主で大の動物好きである志信とお近づきになり、さまざまな事件に巻き込まれていく物語です。 日本家屋と洋館両方があり、家の中にドッグランがある豪邸、良いですね。グレートピレニーズ(『SPY×FAMILY』のボンドが有名)を飼うなら、こんなお家でないとですからね。猫とらんちゅうを一緒に飼って大丈夫? などの湧きそうな疑問にも丁寧にケアがされており、何よりペットへの愛と気遣いをそこかしこから感じます。 そんな無垢な生き物たちが巻き込まれる事件が起こり人間の愚かさに腹立たしくもなりますが、そうした部分も含めて生き物を飼うということを改めて考えさせてくれます。大変ではありながらもそれ以上のものを与えてくれる共生、今一緒に暮らしている子をより一層大事にしていきたいと思いました。 コミカライズに当たってはからけみさんの絵がとても良く、人間も動物たちも魅力的に描かれています。巻末の原作者書き下ろし小説も心が和む良きものでした。

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わたしは春太くんに恋なんてしない【コミックス版】

12歳の歳の差 #1巻応援

わたしは春太くんに恋なんてしない【コミックス版】 雨水汐
兎来栄寿
兎来栄寿

『欠けた月とドーナッツ』や『女ともだちと結婚してみた。』の雨水汐さんが描く、12歳の差がある男女の恋愛物語。 強い結婚願望を持ちながら2年付き合っていた彼氏と別れ、一方で仕事では順調に出世コースに乗りますます恋愛や結婚から遠ざかりそうな30歳春を迎えたファミレス会社勤務の本田沙綾。 彼女を幼い頃から慕い、将来結婚して欲しいとおもちゃの指輪を渡して申し込んだこともある弟の友人である12歳年下の春太と再会して猛アプローチされるラブコメです。 物語の中では多少の歳の差など問題になりませんが、実際に12歳も歳が離れていたら現実的な問題も色々とあります。 結婚費用。 家賃などの生活費。 35までに子供を産みたい。 23で父親になれるか。 子育てはできるか。 総合的に考えて、「好き」という感情だけで結婚できる年齢ではない。 そうしたハードルがあることを踏まえながら、それでも歩みを進めて行こうとするふたりのラブのコメり方に「いいぞ、もっとやれ」となる作品です。 再会後最初に春太が取ったムーブには思わず『グラップラー刃牙』1話の空手家になってしまいましたが……。 何しろ、雨水汐さんの絵が綺麗で魅力的です。感情が溢れる大ゴマのときの表情など、とても良いです。 1巻完結ですが、おまけにあるようなこの先のふたりの掛け合いをもっともっと見ていたかったというのが正直なところ。多分、これからふたりには大変なことも押し寄せると思うんですが、それを乗り越えていくところなんかもあわせて見たかったなぁと。 細かいところでは、ファミレスの従業員の「推しと同じ身長なんですけど」という空気の読めない強火オタクちゃん、地味に好きです。ヤニカスの林さんなど、彼らのキャラクターの良さからエピソードもどんどん膨らみそうだったので総じて続きが読みたいなと思いました。 年上のお姉さんと子犬のような男子の関係性が好きな人にお薦めです。

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デビルズキャンディ

ハロウィンに読みたいマンガ2023第1位 #1巻応援

デビルズキャンディ Bikkuri Rem
兎来栄寿
兎来栄寿

渋谷ハロウィンにも大規模な規制が入り大人しかった今年。代わりに池袋ハロウィンでは小林幸子さんが鬼舞辻無惨のコスプレをするなど大いに盛り上がっていたようですね。 ハロウィン本番は今日10月31日なわけですが、そんな本日にこそ読みたいのがこのアメリカ発のアクションモンスターコメディです。さまざまな悪魔や怪物たちが暮らす世界で、幽霊が暴れ、コウモリが舞い、骸骨が郵便配達を行う。そして、ヒロインはフランケンシュタイン的な美少女。これ以上ハロウィンにぴったりなマンガもなかなかありません。 物語は、主にヘムロックアカデミーという学校を舞台に、人造悪魔のパンドラを作ったインプの少年・カズを中心としたドタバタ劇です。生徒も教師も軒並み強い個性を持っていて、ひとりひとりの濃ゆい特徴も見所となっています。 特に、カズのことが好きなサイクロプスの女の子・ヒトミの片思いラブコメ部分は力が入れられており注目です。 アメコミというともっとコテコテな画風をイメージすると思うのですが、本作の画風は表紙絵だけでも解るようにとても日本のマンガに寄っています。またページこそアメコミと同じく右開きですが、ネームや演出などもかなり日本のマンガに寄っており多くの日本人が親しみ易いことでしょう。 ファンタジーならではの架空のさまざまな競技が登場し、アクションの見せ場となるシーンの演出も派手で楽しく、国境を越えて目で見ているだけでも楽しめる作品です。 果たしてカズの作ったパンドラはどのように成長していくのか、その道程を見守る楽しみもあります。 皆さんが良きハロウィンを過ごせますように。 HAPPY HALLOWEEN!

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路傍のフジイ

真の自由と豊かさを謳歌する40男 #1巻応援

路傍のフジイ 鍋倉夫
兎来栄寿
兎来栄寿

『リボーンの棋士』鍋倉夫さんの新作です。 人間はどうしたって他人の目が気になる生き物。 SNS全盛の現代社会ではますますその傾向は強まり、承認欲求に囚われてしまう人は数限りありません。 しかし、そんな世の中の潮流に逆行するように自らの道をマイペースに突き進む男・藤井こそがこの作品の主人公です。 同僚から見れば、存在感がなく冴えない40歳の独身非正規社員。真面目ではあるものの鈍くて友達もいなさそうで、こうはなりたくないと思われるような存在です。しかし、そんな彼の中にはこのご時世では稀有な豊かさが宿っているのです。 映画や小説、昆虫の飼育、DIY、絵画や陶芸、ギターなど無数の趣味を持っていて、どれもさして上手くはないものの本人は心の底から好きで楽しんでいる。孤独であることを厭わず、何なら不老不死になってずっと永く人生を謳歌していたいというその在りようが、本当に素晴らしいです。藤井のように、真に豊かで自由な人生を謳歌できている人は少ないのではないでしょうか。 それ故に、すべてがつまらなくなってしまっていた青年・田中や、とある事情を抱える職場のクール美人の石川さんらの方に多くの人は共感しやすいことでしょう。ある種、藤井が鏡のように自らを写し出す存在としてさまざまなキャラクターの藤井との関わりを通して生まれる変化が描かれていきますが、その様子ひとつひとつに感じ入ります。 分かりやすい地位や名誉や物質的な豊かさ。多くの人が欲して憧れる、何ならそれを持つことこそが「普通」とされるものに特に興味を示さない。そのせいで、異端扱いされ疎外されても気にすることはない。私もどうしたってそんな藤井の生き方や精神性の側なので、それをこんな形でマンガにしてくださる鍋倉夫さんの着眼点や言語化能力の高さに感謝してしまいます。 『リボーンの棋士』より一層地味な主人公と物語ですが、静かで深い味わいがありこちらも大好きです。 余談ですがスピリッツ本誌の筆者コメントの欄で「漫画史上最高のカップル」というお題の際に鍋倉夫さんとジョージ朝倉さんが共に『狂四郎2030』の狂四郎と志乃を挙げシンクロしていたのが何とも言えない感慨がありました。

コロッケと栞

ガールミーツ人外オムニバス #1巻応援

コロッケと栞 高橋祥志
兎来栄寿
兎来栄寿

『青騎士』の目次を見ると、いつも「コロッケ」や「ハンバーガー」などの文字列が並んでいてお腹が空くというのはさておき。 本作は、ある街で起こるさまざまな事件を描いた群像劇です。 最初のエピソードは、書店の娘である仁美とその幼馴染で仁美に好意を抱く肉屋の一樹、そして突然現れる来訪者のお話から始まります。タイトルの「栞」は仁美を、「コロッケ」は一樹を表しているのでしょう。 そのふたりが中心となって進行していく物語かと思いきや、その次はアイドルのYUKINAを神推ししている等々力とそのアイドルになぜか似ている部分のあるイケメン転校生のお話。その後は、神社の娘で物語のような恋に憧れる巴と彼女の想い人である藍沢先輩と神社のお狐様のお話と続いていきます。 舞台は同じ街・同じ学校ですが、エピソードごとに主軸となる人物がシフトしていく構成となっています。共通しているのは、女の子が少し不思議な存在に出逢うところから始まっていくというところ。もし涼宮ハルヒがいたら歓喜しそうな街です。 それぞれのエピソードに連関があるところがこの作品の要となっていそうで、最終的にどうまとめ上げられていくのか楽しみです。 なお、この作品の商店街は大山商店街をモデルにしているようです。大山といえば『上京生活録イチジョウ』で一条が住んでいた街であり、私も聖地巡礼に行ったことがあります。大山はカレーパンやチーズメンチカツが有名ですが、再び訪れてコロッケを食べながら書店に行くのもアリかもしれません。

鳴川くんは泣かされたくないお気に入り度
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鳴川くんは泣かされたくない

美少女の容赦なき攻め、開眼するイケメン #1巻応援

鳴川くんは泣かされたくない 遠山あちは
兎来栄寿
兎来栄寿

強気に攻める美少女・攻められて悶え赤面するイケメンを見たい方にうってつけな、『君をダメにするキス』、『聖なる夜に×××』の遠山あちはさんによる新作ラブコメです。 ヒロインの鈴は、箱入りのお嬢様として育てられながら8歳のときに映画で責め苦を受けている男子を見て密かに"覚醒"してしまった少女。クラスメイトにも大人しい女の子と思われていた鈴ですが、その内心ではめちゃめちゃにされているM男子を求め続けていました。 そんな鈴の前に現れたのは、同じクラスの遊び人と話題の鳴川くん。彼が強がれば強がるほどはちゃめちゃにして泣かせたくなる鈴が、鳴川くんの秘めたるドMの素質を開花させていく物語となっています。 イキがるイケメンが美少女に主導権を奪われ、自分でも知らなかった感情や快楽を引き起こされていく描写がシンプルに最高です。こんなに良い反応を見せてくれる人がいたらもう……ね? と心の中の何か小さくてかわいい生き物が首肯します。 遠山あちはさんがノリノリで描いていることが伝わってくる、美麗で表情に艶のあるキャリアハイの作画。鈴も鈴で天性のドSの気質を持っており、クラスメイトを調教していく背徳的な楽しさを満喫していきます。ずっと秘めていた誰にも明かせない欲望を心置きなく解放できる瞬間の訪れ、堪らないことでしょう。鈴が楽しそうにしている姿を見ると、心がほっこりします。 ふたりは一体どこまで駆け昇っていくのか? この作品を読むことで、新たな開眼を果たし向こう側へ至る方も現れるかもしれません。

人間万事塞翁が馬お気に入り度
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