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Gペンマジック のぞみとかなえ

待望の単行本化! 熱いし厚い!! #1巻応援

Gペンマジック のぞみとかなえ 崇山祟
兎来栄寿
兎来栄寿

鬼才はいる。悔しいが。 崇山祟さんの作品を読むと、そんな風に感じてしまいます。 『ミステリーボニータ』で2020年〜2022年にかけて連載されていた怪作が、待ちに待った単行本化を果たしました。2年分の連載が1冊にまとまっており、400ページを超えるボリュームとなっています。 古き良き筆致と世界観で描かれるのは、一言で表せば少女たちの「まんが道」。 ただ、一線を画しているのは全編にわたる超絶ハイテンションかつシュールな怒涛のギャグ。試しに1話を読んでみてください。何十箇所ツッコミどころが出てくるでしょうか。 圧倒的にパワフルなギャグが前面に出ていて意識しにくいですが、全体を通して描かれるひとつの物語は構成的にもしっかりしており最終話まで読み終えたときの満足度もとても高いです。 何より、根底に流れる熱いマンガ文化への愛とリスペクトが最高です。たとえば、神やA先生やF先生もデビューにあたって描いていた4コママンガについてであったり、原初のSFマンガについてだったり、あるいは神が手がけていた自由な表現を模索した某マンガ雑誌だったり……。 また、主人公たちがSFマンガを描いたら「もっと女性らしい表現をすべき」と審査員に言われるところなどかつての時代性に対する批評的な部分も見受けられます。加えて、自らが表現者となる道だけではなく誰かを支えることの方が生きる道となることもあり、それはそれで素晴らしいことなのだという肯定なども込められており、さまざまな目線で読める作品です。 マンガを通して共通の感動体験をし、絆が生まれる様。 マンガに対する飽くなき愛と情熱。 共に苦労を乗り越えてひとつの作品を創ること。 マンガを超えて何かに夢中になることの素晴らしさ。 何より楽しむということの大切さ。 マンガを愛する人には必ず響くであろう物語です。マンガって、本当にいいものですね。 細かい好きポイントは数限りないですが、一部を抜粋します。 ・吉良星子 ・ブルボンが作っていそうな名作お菓子ロマンロール ・ナイスヤング ・学校のインサート背景でずっと出てくる謎生物 ・月を背にした跳躍 ・ちくわぶともちきんちゃく弁当 ・死 イマージュ ・Gペンはふたりの聖剣(エクスカリバー)!! ・P100の吉良星子 ・アダルティーに乾杯(チアーズ) ・どんぐり食べますか? 元気出ますよ ・イノシシの毛皮で作った服 ・Doki Mune ・おたより募集コメント

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ダウト・ミー!

今こそ再び輝く短編 #1巻応援

ダウト・ミー! 森野萌
兎来栄寿
兎来栄寿

『花野井くんと恋の病』『おはよう、いばら姫』『マイ・フェア・ネイバー』の森野萌さんが、新人時代に描いた長編読切が電子で単体で発売開始されました。 ある程度ページ数があると単行本の巻末に載せるにも長く、しかし連載していて他の短編が増えるわけでもないので短編集としても出せず未単行本化という作品はかなりあるので、こういう形で改めて読めるようにしてくださるのは嬉しいですね。 本作は、女優の母譲りの顔で性格も良く運動もできて友人も多いという、普通の少女マンガであれば学校のアイドル枠である少年・夏彦がある日突然クラスメイト全員から無視されるようになってしまうところから始まる物語です。 居場所をなくした夏彦が辿り着いたパソコン教室で出逢うのが、ハーフ美人のエマ。写真を撮るのが好きな彼女と、写真を通して少しずつ仲を深めていきます。 後ろ暗いところが何もない夏彦が悪し様に扱われるということは普通に考えれば何かしらの誤解が生じているということなのですが、その誤解は一体どこから生じているのか? その部分が、改めて読むとより今日的なテーマを感じさせてくれました。特に、55Pのセリフは非常に大事なことだと思います。 それと同時に、エマとの関係性やそれを築くために紡がれる言葉ひとつひとつに煌めくものがあります。夏彦の置かれた状況は辛いものですが、そこから立ち直っていく夏彦のポジティブな心根は気持ちの良いものです。 ボーイミーツガールの上質な短編です。

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みっしょん!!

54歳から取るMT免許 #1巻応援

みっしょん!! 入江喜和
兎来栄寿
兎来栄寿

『たそがれたかこ』は45歳。 『ゆりあ先生の赤い糸』は50歳。 今回の最新作『みっしょん!!』は54歳。 歳を重ねた女性を主人公にした作品に定評のある入江喜和さんの最新作、待望の1巻発売です。 やはり、この年代の女性のドラマを描かせたら卓抜しているなと思わされます。 認知症の87歳の母。 50歳になっても家に居座るも家にお金も入れず母の面倒も見ない妹。 仕事はしてくれるが仕事以外はしない夫。 中学で不登校になった22歳の息子。 住まわせて欲しいと言ってくる義姉の息子。 それらに加えて家業の書店の激務と膨大な家事で、自分の時間などまったく持てずやりたいことも何もできずに日々疲労とストレスだけを溜め続けている主人公・庵未知(いおりみち)。 彼女の閉塞していた日々に風穴を空けたのは、颯爽と真っ赤なポルシェに乗って走り去った妖精(豹柄グラサンミニスカの老女)でした。あんな風に私も自由が欲しい、と一念発起して54歳にして免許取得を目指していきます。 何しろ、一番大変なのは認知症の家族の世話です。8050問題が叫ばれる昨今、未知ほど酷い状況ではなくとも同じような苦しみを抱えている方は多くいることでしょう。私も認知症の祖父を自宅で看ていましたが、ひとりでは到底見切れるものではありません。いくら努力をしても改善することはなく、終わりの見えない中でできることをしながら心身が摩耗していく日々です。 入江さんも実母が認知症になった経験があるということとで認知症患者の描写の解像度が非常に高く、それ故に読んでいて未知にかかるストレスの甚大さがよく伝わってきます。コロナ全盛期は、かかりつけ医に行くのも救急車を呼ぶのも難しく余計に大変だっただろうなと思います。 何とか時間を作り教習所に通い出してからがまた大変で、祈るような気持ちで未知を応援してしまいます。MT免許を取ったときのことを懐かしく思い出しながら、この後に控えるS字クランクや坂道発進などの難関をどう乗り越えていくのかハラハラします。 ともあれ、誰でも何歳からでもやりたいことをやる権利があると謳う物語は素晴らしいです。本作を読んで、勇気をもらえる人や救われる人が必ずいることでしょう。

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ずっと青春ぽいですよ

アイドルプロデュース・男の娘・オタクに優しいギャルごった煮の青春 #1巻応援

ずっと青春ぽいですよ 矢寺圭太
兎来栄寿
兎来栄寿

『ぽんこつポン子』、『おにでか!』の矢寺圭太による新作です。 高校のドルオタ研究部員である山田・杉森・河野の三人衆と、彼らがプロデュースを目論む女子を交えた春が青いコメディです。 何しろ、表紙に描かれているメインキャラクターたちが皆個性豊かなのが良いです。 部長の山田は、浪人して早稲田に入るので高校在学中は勉学よりも優先してアイドル研究部の活動(アイドルをプロデュースして学祭でライブをする)に専心すると決めているガチめのオタク。女子の些細な言動から「もしかして俺のことを好きなのか?」と勘違いできる、ある意味で幸せでピュアな男。 「女の子をプロデュースできないならかわいい顔をした男の子をプロデュースすればいいじゃない」とばかりに、無理やり女装させられる男子が杉森。彼が女装したときのかわいさに関しては特別気合を入れて描かれており注目です。クラスメイトにも「その子の名前教えて」、美形ギャルにも「顔面が強い!」と言われるほどで、本人も段々満更でもなくなっていくのがまた味がします。 坊主頭の河野は、全校の女子生徒412名をUR・SSR・SR・R・Nに格付けしその詳細をノートに克明に記録しているヤバいやつ。飽くなきスケベへの情熱を隠しません。でも、マンガを面白くするのはいつだってヤバいキャラクター。河野のような欲望と煩悩に振り切れたキャラのエネルギーが、笑いを巻き起こしていきます。 鯖戸クロエは河野ノートで全校に5人しかいないURのギャル。顔もスタイルも性格もノリも良く、オタクにも分け隔てなく接してくれる空想上の生物。すぐ写真を撮るし、すぐSNSに上げる今どきの子。派手な見た目に反して、意外と進路について堅実に考え予備校に通うなど努力しているところも高ポイント。 渡辺日香(にこ)、通称ニャコは河野ノートでSSR。ツリ目で八重歯で猫っぽい外見そのままに自由気ままでざっくばらん。しかし、料理が趣味という意外な一面があり、河野の考察によると恋愛には消極的である節も。個人的にはカラオケシーンが一押しです。 彼ら5人が中心となって織りなす物語は基本的にはドタバタコメディなのですが、周りがどんどん進んでいく中で停滞している自分に悩んだり、大人から見るとかつて持っていて今は失ってしまった輝きを持っていたり、たまに青春時代の本質を静かに突くようなシーンがあって「アオハル……」という感情を掻き立てられます。 キャラクターたちの掛け合いをずっと見ているだけで楽しいですし、その中でも少しずつ進展していくストーリーの先行きもとても楽しみです。 それにしても、略称の「ずっぽよ」がかわいくて声に出して読みたい略称2023暫定1位です。

秋葉原はユーサネイジアの夢を見るか?お気に入り度
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秋葉原はユーサネイジアの夢を見るか?

嫋やかなメイドは蝶のように舞い蜂のように#1巻応援

秋葉原はユーサネイジアの夢を見るか? 春野ユキト
兎来栄寿
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秋葉原、私も昔はかなり通ったものですが最近はめっきり行かなくなったというか、時間拘束的に行けなくなったというか。『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』で描かれていたようなお店も大分無くなってしまいましたし、まさかとらのあなが無くなるとは思ってませんでした。GiGO4号館も閉まってしまいましたし、そもそも今はネット対戦が主流でゲーセンに行っても対戦相手がいないのが寂しいところです。逆に主にポケカの隆盛もあってカードショップは増える一方で、栄枯盛衰を感じます。他にもコロナ禍でたくさんのお店が消えてしまいましたが、ようやく落ち着きつつある昨今、ここから新たな盛り上がりを期待したいです。歌舞伎町に新しくできた最新のVRゲームをできる施設とか、秋葉原にこそ作って欲しいですしね。 なので、この作品の「アキバはどこかで時が止まったまま」というところには素直に肯んずることができない部分もありつつ、しかし同意できる部分もあります。 "新作アニメを追えなくなった 好きだったゲームのリメイクも積んでる ソシャゲに課金する情熱もない 俺ってもうオタクじゃないのか?" 主人公・鵤のモノローグに共感する人も、今の社会は多くなってきているのではないでしょうか。私も、新作アニメは何とか終えていますが好きなゲームは死ぬほど積んでます。コンテンツを楽しむのにも、時間と心の余裕が必要なんですよね。無理に詰め込もうとしても、何も入ってこないときもあります。ターゲット年齢から外れてしまった場合もありますが、往々にして自分のコンディションが原因だったりするのでそういうときは何とか上手く余裕を作りたいところです。 ともあれ、過去のトラウマに苛まれながら虚無の日々を生きることに疲れ果てていた鵤。そんな彼の唯一の光が、光が警備員として務めるビルのメイドカフェで働く小鳥遊鶴子。優しく天使のようで憧れていた彼女が、近付くほどに妖しさを醸し出してくるサスペンスです。 表紙に描かれているのも鶴子であることから伝わるように、この物語の主軸は鶴子です。彼女の強烈なキャラクターにあります。黒髪ロングストレートの優しいメイドさん、日陰で生きてきた健康な男子が嫌いなわけがない。しかし、綺麗な薔薇には棘があると蔵馬が教えてくれました。 1話目から、毎回最後に強いセリフはヒキのある展開を持ってきていて、続きが非常に気になる構成をしています。単行本で一気読みするのも良いですが、どちらかというと連載で毎回追っている方がより楽しめる作品かもしれません。1巻の続きはコミックDAYSで読めますので、今がチャンスです。 春野ユキトさんは初単行本ということでまだ技術的にこなれていないと感じられる部分もありますが、その分作家性を剥き出しにして描いている緊張感のあるストーリーに魅力があります。鶴子は、鵤は果たしてどうなっていくのか。

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蒼穹のアルバステラ

独自設定が魅力的な、バトルファンタジー #1巻応援

蒼穹のアルバステラ けんいちさん太郎
兎来栄寿
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『魔獣密猟取締官になったんだけど、保護した魔獣に喰われそうです。』のけんいちさん太郎さんが描く、オリジナルファンタジーです。 大地が裂けて数百年が経ち、裂けた陸を渡るために空路のみが発達した世界。ただ、地名的には日本のものが登場し、主に元日本だった場所が舞台になっているようです。世界がどのようになってしまっているのかの情報は小出しにされていくので、先を読みたくなるポイントのひとつとなっています。 この作品の最大の特色は、そうした部分も含めた大量に存在する独自設定です。 「虹色雲海(イリスウェル)」という輝く雲の発生しているところでは、時空間の歪曲が起こって一歩歩いただけでも数キロメートル進んでしまったり、空想の生物である竜や鬼や天使などが出現したりする。 更に、この世界には「現実性」という概念が存在し、虹色雲海の中などで現実性が低下すると「考えたことが現実となる」。ナイフを見て目に刺さることを想像してしまったら一瞬で失明するような世界で、訓練していなければ非常に危険。 しかし、それを逆手に取って人類が武器として行使するのが「思考投影(ファンタズマゴリア)」。意識的に想像を現実に投影して、それぞれ固有の能力として発動させることでさまざまな脅威に対処しています。念能力バトルのような趣もあり、思考投影によるバトルアクションがときに見開きも使いながら派手に描かれるところや、どんな能力が登場するのかは本作の見所のひとつとなっています。 また、人類を敵視する謎に包まれた「上位存在」という大敵が存在しています。開始数ページでその脅威の具合は伝わるのでぜひ試し読みしてみてください。そのデザインの良さや恐ろしさも物語を盛り上げます。 世界における実力者たちとの邂逅や、謎めいた危険な存在などワクワクする要素が満載。こうした世界観がお好きな方にはお薦めです。

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