ニーディガール オーバードーズ ラン ウィズ マイシック

原作を知らなくても最高です。 #1巻応援

ニーディガール オーバードーズ ラン ウィズ マイシック 盆ノ木至 WSS playground 大倉ナタ
兎来栄寿
兎来栄寿

孤独に寄り添う物語を、いつの世も愛しています。 『アタマのナカの鈴せんぱい』や『ベイビー・ブルー・クラスター』の原作でも知られる、にゃるらさん企画の美少女ゲームが原作で、ネームを『吸血鬼すぐ死ぬ』の盆ノ木至さんがある本コミカライズ。もう、1話目から引き込まれました。 最近は配信者をテーマにした作品も増えていますが、この作品の秀逸な点はヒロインのあめちゃん(配信時は「超絶・最かわ・てんしちゃん」略して「超てんちゃん」)視点ではなく、彼女をプロデュースするプロデューサーのおじさんの視点で描かれていることです。 あめちゃんのキャラクターは非常に破天荒でかなり際どい言動が繰り広げられますが、常識人であるおじさんがツッコミ役、あるいは調整役として挟まることによって多くの人が共感を得やすい作りになっています。 そして、何よりにも物語の根本にあるダウナーさと、切実な感情が最高です。 あめちゃんの、意識低めで社会的に不適合な立ち居振る舞い。そして、その裏にある孤独、それを埋めたいがために生じる承認欲求。 そんな彼女を支えるのは、現代社会の暗部によって貶められ挫折を味わい底辺にいる元アイドルプロデューサー。 何者でもなく社会的弱者であるふたりが出逢い、始められる塵芥のような世の中への反逆。そんなの、応援せずにはいられないじゃあないですか。ふつうに生きていたら接点などないであろう、しかし強烈に結び付いてしまったふたりの関係性がね、良いんですよ。 まさに「今」な物語とキャラクターが描かれており、超てんちゃんが少しずつ人気を博していったときに語られる過去のパートなど、実際読んでいて救われる人も多いのではないでしょうか。 個人的に5話は特に神回だと思っているのですが、単行本では巻末のおまけとしてまさにその部分の盆ノ木さんのネームが7ページ分も掲載されています。ネーム段階でも既にとても良いんですが、やはり大倉ナタさんの絵が乗算されて最高になっているなと感じます。このシーンの表情は、とりわけ大好きです。 私のように原作をまったく知らなくても問題なく楽しめますので、9月のパワープッシュ作品として推したいです。 ここ数年はAVGやりたくてやりたくて我慢して震えている状況なのですが、ルーツとなっている作品群に親しんできた身としては原作にも触れてみたいと強く思います。

十次と亞一

幻想文学とミステリーと人情 #1巻応援

十次と亞一 コドモペーパー
兎来栄寿
兎来栄寿

切り絵作家でもあるコドモペーパーさんが描く、大正期を舞台にした独特の空気感を纏う作品です。紙の装丁は、その影響もあってかオシャレで素敵なデザインとなっています。時折、普通の絵に交えて切り絵による描写が差し挟まれるのも印象的です。 物語は、タイトルの通りふたりの青年が中心となって紡がれます。 うだつの上がらない漫画家である十次。 色男で売れっ子の小説家でありながら字の書けない亞一。 亞にも「次」の意味があるという点では非常に近しい名前を持つふたりの出逢いから、本作は幕を開けます。 最初は償いから始まり、やがてひとつ屋根の下で暮らすようになり、文字を書くことができない亞一に代わって十次は口述筆記を行います。その、ふたりの力を合わせて幻想文学を作り上げていくところは何とも言えないワクワク感があります。ふたりの関係性を強固にする理由が描かれた上での、134Pのセリフがとても好きです。人間の営みは目に見えないところで誰かに大きな影響を与えているものですね。 しかし、亞一にはどこか妙なところがあり、読んでいるといくつかの謎が出てきます。ある日それは十次に対するとある行為の予告として立ち現れます。コドモペーパーさんの絵は温かみがあってかわいらしいのですが、その絵柄に反して不穏な雰囲気が流れ始めます。 最後まで読めば、すべての謎は綺麗に氷解します。それを踏まえて読む2周目は、端々の描写がまた味わい深くなります。 主人公が物書きであり、また実在の文学作品が登場することもあって文学好きの方はより楽しめるでしょう。そうではなくとも、1冊で綺麗に完結している作品としてお薦めです。

ゾワワの神様

文化か、ゴミか。 #1巻応援

ゾワワの神様 うえはらけいた
兎来栄寿
兎来栄寿

3年前、「はてな匿名ダイアリー」に投稿されて話題になった記事があります。 私は広告制作の現場を辞めて、広告を屠殺する現場に転職をした https://anond.hatelabo.jp/20200311165317 広告は文化とゴミのあわいを漂っており、気を付けなければすぐにゴミとなってしまう。しかし、新たに入ったWEB広告会社では愚直に数字を追いかけて作られる広告が溢れ、そこでは文化としての広告が屠殺されていた、と。 最近話題になっていたのが、NURO光の広告とビビッドアーミーの広告の問題です。それぞれ若干性質は違うものの、これらの問題はまさに上記の記事で警鐘を鳴らされていたようなところの延長線上にあるのではないかという指摘は当然で、今後も引き続き起こっていくのでしょう。 しかし、文化としての広告の素晴らしさも依然として存在します。それを描いているのが本作です。 『ゾワワの神様』は作者のうえはらけいたさんが実体験を交えて描く、広告会社でコピーライターとして働き始めた青年の奮闘記となっています。1話あたり5〜7Pほどの掌編で、SNSで公開されていた際にはたびたびバズっていた人気作品です。 主人公は、「とてつもない表現」に触れた瞬間の感動を通り越した「ゾワワ」をいつか自分も作り出したいという想いを胸に広告代理店に就職した青年。 広告業界や協業する他業種の人々も含めて個性的でカッコいい先達たちの言動に励まされながら日々成長を遂げていく主人公の姿に、読んでいると気付きや勇気をもらえます。 作り手が、自分の作るものを笑ったり恥ずかしがったりしてはいけない。 言葉は万能でないことを肝に銘じながら、受け手の想像力を信じる。 良いモノを作りたいならちゃんと寝た方が良いが、コンマ秒の差の気持ち良さを追求して夜を徹する。 文化としての広告に本気で取り組む人々の話は業種を越えて普遍的に刺さるものもいくつもあり、一欠片の勇気を貰えて自分も明日の仕事をいつもより頑張ろうと思えます。 最上級表現に敏感になってしまうので、気軽に「最高」や「日本一/世界一」のような言葉を使えなくなってしまうという職業病的な話など、笑えるパートもあって、ずっとシリアスすぎるわけでもなく緩急がちょうど良いです。 ″コピーライターは孤独な職業だ―――しかし その孤独は必ずしも辛いものではない″ のくだりは特に好きです。孤独なようで、実は孤独ではない。そんな闘いの果てに、誰かの心を動かすことのできる瞬間が訪れたら最高なんですよね。 もし、広告がただのゴミであるならばそこに感動など生まれようはずもありません。しかし、人が力を尽くせば感動を生むものを作り出せる。だからこそ広告は文化たり得るのでしょう。文化としての広告のために全力を出す人を私は応援しています。

ヤリマンになりたい。

この道をイけばどうなるものか #1巻応援

ヤリマンになりたい。 まおいつか
兎来栄寿
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「今のダメな自分から脱却して変わりたい」「一度きりの人生を自由に楽しみたい」という人は多いでしょう。 本作では「そのためにヤリマンになりたい」という主人公が描かれます。一見、飛躍しているように思えるかもしれません。が、読めばとても理解できるお話です。 DVを受けていた祖母と、浮気をされた母を持ち2代続く母子家庭で「男なんてダメ」と小さい頃から言い聞かされて育ってきた32歳の市川ももは、母たちからの言葉が呪詛となりHをすることに罪悪感が湧き人生で一度もイケたことのない女性。 そんな彼女が変わる契機となるのが、学生時代は「地味〜ず」仲間だったはずが再会したらヤリマンになっていた友人のひまわりでした。 性に奔放で自由を謳歌するように変貌していたひまわりに憧れるももが、ひまわりを始めとするヤリマンたちに伝導され奥深きヤリマン道を歩んで行く作品です。 「ももちんの人生は、誰のものでもない。変わりたいなら、変われるんだよ」 「自分の、イキたい、ようにヤれ!」 は蓋し名言ですね。 ももの悩みは深刻で、ハプニングバーに行ったり出会いバーで会った男性の家に行ったり、経験値を積み重ねながら何とか自分の人生を解放しようとしていきます。 ただ、悩みの深さに反してかなりコメディ色も強く描かれており、楽しく読むことのできる作品でもあります。 「主導権を握って楽しむ!」 ここに振られた秀逸なルビは、ぜひ読んで確かめてみてください。冨岡義勇もびっくりです。 特にコメディ色が強まるのは、300人と関係を持ち現在は野球選手専門で食っているヤリマンプロの25歳、みゆみゆのパート。 「一回ハメたちんぽは、応援したくなりますよね…」 「明日役立つ、ちんぽ統計学」 などのパワーワード満載。 ズルムケの人より仮性包茎の人の方が好きであるというみゆみゆの言葉には、救われる男性もいるのではないでしょうか。 ヤリマンというと自分の欲望に忠実なイメージが強いかもしれませんが、相手を楽しませることに心を砕いたり、普段から初対面の人にも気を遣い会話を盛り上げようとしたりと自分にない所を持っていることに気付かされ、成長していくももが良いです。 巻末の「まんまん新聞」のちんこぺちぺちダンスなども振り切れていてとても良いです。 リアルな絵だと生々しくなりそうなところも、まおいつかさんの可愛い画風が程よく中和してくれていてちょうど良い塩梅になっています。 果てしなく続く長いヤリマン道を、あなたも本書を読んで知ってみてはいかがでしょうか。

神田ごくら町職人ばなし

溜息が漏れるほどの凄まじい描きこみ #1巻応援

神田ごくら町職人ばなし 坂上暁仁
兎来栄寿
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先日『今村翔吾×山崎怜奈の言って聞かせて』というラジオ番組に出演させていただいたのですが、その際にパーソナリティのお二方が共に歴史好きということで、まだ単行本は出ていないものの是非ともお薦めしたいと思っていた作品がこちらです(なお本番ではバトルマンガや知識になるマンガを求められたため紹介できず終いでした)。 2020年の末に行われたマンガプレゼン大会では、作者である坂上暁仁さんの『火消しの鳶』を紹介された方がいました。 https://note.com/manba/n/n62e97c7ae279 プレゼン者に「ボクはこの見開きに惚れて今この場に立っています」と言わしめるほど、圧倒的に精緻な絵で描かれた打ち壊される家屋の見開きが視聴者の中でも話題となりました。その描き込み力は本作でも存分に、いえますます魅力的に発揮されています。 描かれるのは、タイトル通り江戸の街で活躍する職人たちの業と、それによって生み出される品々。 出来上がった品は現代でもその辺で意識せずに見られるようなものが多いのですが、染め物をする工程の荘厳さであったり、木桶のひとつひとつの木目や刀の凍えるような美しさであったり、その製作過程や出来栄えの圧巻のヴィジュアルに呑まれ、見惚れます。職人芸の美しさを、絵で語ってくれる一冊です。 他方で、「畳刺し」の話のような人間味溢れるエピソードもまた良い味わいを醸し出しています。読んでいると、まるで賑やかな江戸の地の喧騒の中にタイムスリップするような錯覚に陥らせてくれます。 ある種、アートブックのようにも楽しみめる作品です。森薫さんのような、微細で美麗な描きこみが好きな方には強くお薦めしたい作品です。 百聞は一見に如かずで、まず1話だけでも試し読みしてみてください。余談ですが、海外に持って行ったら日本の3倍以上の値段でも喜んで買う方がたくさんいるのではないでしょうか。

ようこそ!しまや出版癒し課へ

猫のいる印刷会社 #1巻応援

ようこそ!しまや出版癒し課へ にごたろ しまや出版
兎来栄寿
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しまや出版さんにはその昔本を作る際に大変お世話になっておりました。が、まさかこんなことになっているとは寡聞にして存じませんでした。 マンガ部分も3〜4割ほどありますが、本書の大部分はかわいい社員(社猫)たちの写真で埋められています。だがそれがいい。 しまや出版さんは、平成22年2月22日から猫を正式に癒し課の社員として登用し始めたそうです。2023年現在はリモートを合わせると8匹の社猫が在籍しているとか。 びっくりするほどふつくしい美猫で主任のユキさん(アクキーも作られているそう)。 容器大好きで鳥さんに話しかけるあずきちゃん。 人見知りだけどご飯の時は一番元気なしるこちゃん。 人にも猫にもフレンドリーな小顔のサクレくん。 迷い猫としてやってきたまよくん。 美少年の黒猫でジジみたいと言われるおはぎくん。 テレワーカーのきなりくんとちくわくん。 ノートパソコンの上に陣取って座ったり、ウォーターサーバーから上手に水をサーブしたり、個性豊かな社猫たちのさまざまな活躍(?)ぶりに癒されます。 私たちが払っていた印刷代が、かわいい猫社員たちのご飯代や寝床代になっていたなんて……最高じゃあないですか。 猫を保護する時は顔を見ずに冷えていたら温めてあげる、動物病院に連れて行く時は洗濯ネットに入れておくと暴れても安全に診れるなど知っておくと役に立つかもしれない幕間コラムも。 実際に、癒し課の面々の仕事ぶりによって他の社員も来客者も、あるいはSNSなどを通して世界中の人に癒しが振り撒かれているようで素晴らしいなと思います。 あとがきで社長の小早川さんは ″日本には360万の企業があると言われています そのうちの0.1%の会社が、2匹の野良猫を社猫として採用すれば、 それだけで7千匹近い猫が保護されます″ と述べます。 もちろん、小早川さんがその後に続けて述べるように現実的にはご飯やトイレや病気、あるいは猫アレルギーの方への対応など手間暇や金銭面も含めて大変な部分はあると思いますが、興味のある方はぜひ行って欲しい取り組みです。

銀の三角

萩尾SFの最高傑作

銀の三角 萩尾望都
兎来栄寿
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1980年から1982年にかけて『SFマガジン』にて連載された本作は、萩尾望都SF作品の中でも特に好きであるという声がよく上がる作品です。漫画家でも、よしながふみさんや吟鳥子さんなどがこの作品の素晴らしさを折にふれて称賛しています。 萩尾望都さんは1969年にデビューし、1972年の『ポーの一族』や1974年の『トーマの心臓』で大人気を博し、多くの名作を通して少女マンガというジャンルの可能性を大きく拡張しました。そして、1975年には初のSF長編作である珠玉の名作『11人いる!』を発表。その後もSFジャンルでも『ブラッドベリSF傑作選』や『百億の昼と千億の夜』など原作付きのものや『スター・レッド』など続々と名作を描き続け、作家として円熟味が出てきたころに描かれたのがこの『銀の三角』です。 二億五千万年の周期で一巡するのを一宇宙年とする遠大な世界観の下、1000年以上を生きられる人が存在するようになった宇宙を舞台に繰り広げられる壮大な叙事詩です。読んでいる間は現実から浮遊し、最後のページを読み終えた後も暫し余韻に浸り魂が充足を得ます。 時空間を行き来するストーリーで、登場人物もクローンが登場することで話としてはかなり複雑で難解になっておりSF初心者には少々薦めにくいです。それでも表面をなぞるだけでも楽しむことはできて、しっかりと噛み砕いて味わおうとすればその分の深みを提供してくれる絶妙なバランスを保った作品です。 2000年前後からヴィジュアルノベルのジャンルで隆盛し、その10年後くらいにコンシューマーやアニメなどの世界でも遅れてブームとなったとある構成も、このころから巧みに用いていたことに読み直すと気付かされ改めて敬服します。 登場するガジェットも、今見ると現代にあるタブレットのようなものが使われているなど時代を先取ったものもありつつ、逆にそんな未来にあっても普遍的に残る音楽という文化で人の心が動く部分に感じ入るものがあります。 ラグトーリンの凛とした眼差しの美しさ。 ミューパントーの歌う見開きの神話的な荘厳さ。 表紙や扉絵のカラーイラストの美麗さも含めて、萩尾望都さんの紡ぐ絵の魅力が特に溢れている作品でもあります。 これだけの物語が、たった1冊の中で繰り広げられるという恐るべき密度に戦慄します。 流石に古びている部分もありますが、それでも今読んでもなお美しい言の葉と画力に、そしてその茫漠たる世界観に心酔します。紛れもなく、人類の至宝のひとつです。

30歳喪女、平成ギャルになる。

ギャルになる勇気 #1巻応援

30歳喪女、平成ギャルになる。 山口しずか
兎来栄寿
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本当はなりたい自分像があるのに、さまざまな理由でそれを押し込めている人は世の中にたくさんいるでしょう。 恥ずかしいから。 変わる勇気が出ないから。 家族や友人に反対されるから。 理想はあっても自分には無理だから。 本作の主人公・彩も、そんな悩みを抱えて生きてきた30歳の地味なOL。本当は高校生の頃からギャルのきらきら感に憧れていたものの、さまざまな理由からそれを諦めてきて、30歳になろうという瞬間にも友達も恋人もおらず本当にやりたいことも見つからないという状況。そんな彼女が、平成にタイムスリップしてギャルとして人生をやり直していくという筋書きです。 少女マンガのキーワードのひとつが「変身」ですが、本作もまさに変身を望み遂げていく物語となっています。そして、その変身に際しての彩の等身大の葛藤がリアルで、読んでいて共感する人も多いだろうと感じる部分です。 「バカにされてると感じるのは 行動してこなかった自分が 悪いって知ってるからだ」 といっモノローグなど、とても鋭利です。 すんなり変われるわけではない。でも、自分より歳上でギャルを楽しんでいる人に出会うなど他のギャルに助けられ勇気をもらいながら、遂に変わることができた瞬間のカタルシスがしっかり描かれています。ギャルに限らず、本当はなりたい自分を押し込めている人に変わるための勇気を灯してくれる物語です。 そして特筆すべきは、ギャル周りの描写。 筆者自身も高騰している昔のギャル雑誌をフリマサイトで買うくらいギャルが大好きでショップ店員だった時代もあるそうで、実体験がふんだんに反映された内容となっています。読むと、いろいろなギャル文化やメイクテクニックも学ぶことができます。 「ギャルってすごいよな… 何も考えないでしゃべってそうなのに なんで空気がよくなるんだろう」 は本当に頷く部分で、ギャルの底抜けに明るくポジティブなところ、無限にフレンドリーなところ、中毒性のある不思議な語彙力、欲望に忠実で刹那的なところ、ざっくばらんだけど優しくて仲間想いなところ、ストレートな物言いなどは私も好きです。 「心にギャルを飼おう」という幕間のメンタルコントロールマンガも秀逸。ギャルの最強マインドがあれば何だって乗り切れますからね。現代社会の荒波をギャルで武装して乗り越えて行きましょう。

スーパーストリング -異世界見聞録-

縦読み前提の見開きマンガという挑戦 #1巻応援

スーパーストリング -異世界見聞録- 尹仁完 Boichi
兎来栄寿
兎来栄寿

各社や著名人のwebtoonへの参入が非常に盛んな昨今ですが、その中でも特に注目なのが本作でしょう。 直近まで『週刊少年ジャンプ』で累計発行部数1500万部を超える大人気作品『Dr.STONE』を手掛けていたBoichiさんが、『新暗行御史』や『DEFENSE DEVIL』で知られる尹仁完さんと組んで送り出す新作ファンタジー。 面白いのは、4月から『サンデー』でモノクロ見開きマンガとして連載しながら、6月から『LINEマンガ』でwebtoonとしてフルカラー縦読みマンガとしても連載していることです。そして、すでにWEBTOON Worldwide Serviceを通じて7言語での連載がされているそう。 その単行本1巻が発売となりました。 今までも縦読みマンガを見開きマンガにして単行本化というのはありましたが、本作はベースに見開きマンガがありながら縦読み化前提で作られており、webtoon化・フルカラー化する際には効果音や演出、コマの縦横はもとよりセリフにまで大きく改変が及んでいます。 普通の見開きマンガとして読もうとすると若干違和感があることもあり、読書体験としてはwebtoon版の方がかなり上回っている印象ですが、個人的には面白い試みだなと思います。 かつて『ドラゴンクエスト11』が発売したとき、PS4と3DSどちらでも遊べて、なおかつ旧作に親しんだ人に向けて主流の3Dモードとは別にオールドな2Dドット絵モードでも同じ物語を楽しめるように設計していたのが画期的でした。ファンの絶対数的に馴染み深い形式で触れたい、という人も多かったことでしょう。 それと同様に、どうしてもまだwebtoonには慣れないという人も多いと思います。そういう人には、従来の見開きマンガでも読めるという選択権があり、逆に海外に輸出する際などはより受け入れられやすいwebtoonという形式にすることでより臨場感を持って楽しめる。ある程度大きい作品でないとできないことだと思いますが、価値ある試みだと思います。 私は以前に、webtoonの可能性を探る下記のようなインタビューを行いました。 https://manba.co.jp/manba_magazines/22224 こちらでも述べていますが、webtoonはまさに今が過渡期です。それ故に、これからたくさんの挑戦がなされていくことでしょう。 日本人以外の作家として日本で初めてメジャー誌でのヒット作を出した尹仁完さんが、同じく韓国出身のBoichiさんと共にこうした挑戦を行っているのも意義深いです。 正直、「まだwebtoon作品は面白いものが少ないな」と感じている人も多いと思います。ただこれは見開きマンガの初期と同じで、webtoon制作に対する知見や技術、経験値が溜まっていった先には人々の人生に大きな影響を与えるような名作もどんどん登場してくるはずです。 この作品に触発されて「webtoonはこんな可能性もあるんだ」「自分はこうしてみよう」と思うプレイヤーも現れると思いますし、まさにマルコ・ポーロが見た数多の異文化のように、未知の可能性が溢れているのを感じます。

しあわせの鳥は何色 【電子単行本版】

インコの恩返し #1巻応援

しあわせの鳥は何色 【電子単行本版】 やまびこ山脈
兎来栄寿
兎来栄寿

とてもかわいいお話です。 ヒロインは今生では廻(めぐる)という名前の平凡に平和に暮らしていた女子高生ですが、実は前世はインコ。ある日ふと前世の記憶が蘇る瞬間が訪れます。一体何かと思えば、現れたのは来世の運命を司るというフクロウ。 何でも前世で自分に優しくしてくれていた飼い主の男の子が大いなる不幸体質で、その彼を幸せにするために自分は転生したと言われます。 あんなに優しい人が幸せになれないのはおかしいと、誰にも明かせない正体を持ちながら大好きだった飼い主を幸せにするための秘密の奮闘が始まっていきます。 設定はファンタジーですが、ミッションを果たすためにやることはといえばアルバイトを通して目的の人に近付くなど、他の少女マンガでもありそうな地に足の着いた現実的なやり方。初めてのアルバイトを経験するという瑞々しさに懐かしい気持ちになり、書店でのアルバイト風景は純粋に応援したくなりました。 また、チケットノルマのある劇団という特殊な世界についても、多少内情を知る身としてはあるあると思いながら読みました。 推しが幸せならそれでOKです、という考えが根底にあるところは通常の恋愛マンガとは異なるところで、自分自身の幸不幸は度外視で行動していくのがポイントです。 『鶴の恩返し』の鶴は、その後幸せに生きたのだろうかとふと考えてしまいました。

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