兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
以前に『モーニング・ツー』で「超長編読切」として発表された作品が、1冊の本となって電子でのみ発売となりました。 https://twitter.com/muukasa/status/1716108312281002167?s=46&t=S5wm4E-TmT39NBg4BgQsPA 電子単行本発売日に、作者が途中までの試し読みではなく全ページTwitterに公開というのはなかなか思い切ったことをされているなと。 最近、私は『サピエンス全史』から『ホモ・デウス』を経て『21 Lessons』とユヴァル・ノア・ハラリ氏の人類史にまつわる著作を読んでいるのですが、その中でも度々AIとその影響に関する記述が出てきます。 向こう20年ほどで、現存する多くの職業はAIに取って代わられていく。それと同時にまた新たな職業が誕生する。しかし、それは何も珍しいことではなく産業革命の前後などでも起こってきたこと。いわば「歴史は繰り返す」と。 特に私の観測範囲でも話題なのはイラストレーターや漫画家です。AIを使ったイラスト制作が飛躍的に簡便になり、まさにゲームチェンジャーと言えるでしょう。「私の絵をAIに学習させないで欲しい」という作家さんもいれば、AIを用いて背景やシナリオを作ることに挑戦する方もいます。さまざまな理由により新しい物事に挑戦するのが難しい人もおり、どうしたってそこには明暗が生じざるを得ません。変化に適応できる生き物が生存していくのが世の流れとはいえ、何十年も研鑽してきた技術が汎化し仕事が奪われてしまうのは個人としては厳しいものがあるでしょう。 本作は、そういった難しくデリケートな部分を漫画家である樺ユキさんが直々に描いているというところにまず構造的な面白さがあります。 自分の描画したものをそのまま模倣できるばかりか、更にその画風のまま応用的なものまで生み出せる小さなノームの出現により画家が仕事を失っていく世界。その中で、その新技術の台頭を素晴らしいことであると肯定していく画家・モーリスが主人公の物語です。 更に本作はAIに加えて戦争という現在の地球上で特に重大なテーマを扱いながら、芸術の意義や価値といった領域にも触れていきます。これだけ大きいテーマをひとつの作品の中で扱おうとすると普通は散逸してしまいそうなものですが、メインのストーリーラインにそのどれもが密接に関わってきており綺麗にまとまっています。 テーマも挑戦的で良いですが、何よりストーリーが、そしてそれを支える絵の良さが際立っています。議論の尽きないテーマですし、人によって各論に賛否はあるでしょうけれど、1冊という短い時間の中でありながら読めば何かを確実に残してくれる作品です。 無料で読めてしまうのがもったいないくらいの作品ですので、とりあえずこの芸術の秋の夜長に読んでみてはいかがでしょうか。
たか
たか
1年以上前
ハチャメチャに『六番目の小夜子』オマージュで興奮しました(恩田陸大好きマン)。 初めて読んだ恩田作品が『六番目の小夜子』で、小学生の頃にNHKのドラマ愛の詩でやってた栗山千明と杏と山田孝之が出てるドラマも観てました。 細かい設定までちゃんと『小夜子』で、読んでる間に口角がグイグイ上がって行きましたね。 こちらでは「津村」が先生サイドなのがエモい。 白と赤。 たまに引き継がれない鍵。 マリアに似すぎてる女の子。 ずっとゲームを見守ってきた先生。 ひぇー!めちゃめちゃ『小夜子』…!!! 本家からの変更点である「女子高・恋愛のおまじない・先生のマリアへの恋心」というオリジナル要素が見事に百合作品としての完成度に繋がっててすごかったです。 『六番目の小夜子』しか恩田作品を読んだことない人は、この読み切り読んで「いくらなんでもパクリすぎでは?」と感じるかもしれません。 ですが、恩田先生ご自身が萩尾望都先生のファンを公言されていて、「これまんま『トーマの心臓』じゃん!!」てなる『麦の海に沈む果実』というゴリゴリのオマージュ作品を書いてるので大丈夫だと思います(?)。マジでこの読み切りと同レベルの換骨奪胎してます。 私自身、恩田陸→萩尾望都という順番で作品を読んだので初めて『トーマ』を読んだときは「いや流石に恩田先生『トーマ』好きすぎだろ!!」とびっくりしてしまいました。 賛否はともかくとして、最近推してるイシイ渡先生と鳥トマト先生が『六番目の小夜子』を知っててむちゃくちゃ嬉しいですし、新規の要素を足すことで新しい作品に仕上がってて好きです。 これが『俺のリスク』より前に書かれたプロトタイプ作品だというのがアツいですね。絶対単行本に一緒に収録してほしい。
たか
たか
1年以上前
「宮部サチ…?誰だ?面白すぎる…!」と思ったら『好きな配信者が死んだ話』の人でした。やっぱこの人の作品大好き…!!! 目的があって人間を幸福にさせたいらしい3匹の宇宙人が、全く幸福ではない19歳の女の子・空(そら)の元へと現れる。 ひとの心の機微や社会問題を理解しないそいつらは、ヤングケアラーとして長く過ごした空がどんな思いを抱えて今を生きているかに無頓着で、知ったような口を聞いたりしゃらくせえ提案をしてきて聞いてると心が虚無になる。 人間に好かれそうな見た目の、人間のことを理解できない宇宙人の話というとタコピーが連想されますが、あいつはシンプルにIQ低かったのに対し、こちらは3匹いるうえこまっしゃくれた小学生かレディコミに出てくる幼稚な夫(概念)くらいの知能があるのが腹立たしく、それが元ヤングケアラーというバックグラウンドと合わさってなんとも言えない後味の悪さが最高。イシツブテが一番むかつく。 途中でうさぎが「すべての人間が平等なパラダイスみたいな星を作るべきです」とか言い出して草生えた。 お前、ぴよぴ●よ速報視聴者か…!? よくあるエッセイ漫画風の冒頭が、ラストに繋がる展開は見事で鳥肌が立ちました…!! あの3匹は空に何も良いことをしなかったけど、「クソみたいな宇宙人がいるんだ」と警鐘を鳴らす生きがいを空が手に入れたので結果としては良かった。 やはり宮部サチ先生の読切最高…!短編集出たら絶対買います!!
「宮部サチ…?誰だ?面白すぎる…!」と思ったら『好きな配信者が死んだ話』の人でした。やっぱこの...