sogor25
sogor25
10ヶ月前
舞台は意識を持たない人型のロボット“義人”が実用化された世界。 ロボットと言っても有機物でできており、パッと見は人間とほとんど変わりません。 (といっても、この世界に生きる人にとっては“義人っぽい”見た目というのがあるらしいですが) 高校2年生の鈴木リアハはある日の夜、輸送中の事故により脱走したマリーという義人を拾います。 本来、脱走した義人を匿うのは重罪なのですが、なぜかリアハはマリーのことを警察に通報しませんでした。 その選択の影にあったのは、リアハの父親の存在。 7年前、リアハの父親は義人に関する秘密を暴こうとして警察組織に抹殺されていました。 その秘密とは、「実は義人には人間と同じく意識が存在し、政府の改造により意識を操られ奴隷のように扱われている」ということ。 そんな過去の事件が心に深く刻まれていたリアハ。 そこに現れた、ある出来事により意識を取り戻した義人マリー。 「義人が普通に生きられる世界を作る」という共通の目的を見つけた2人は果たしてこの先に何をしようとするのか、それがこの作品の1話1ページ目に集約されています。 是非、1枚絵としての魅力も強烈なこの1ページ目だけでも見てほしい作品です! 1巻まで読了
兎来栄寿
兎来栄寿
10ヶ月前
アニメ化も発表された『チ。』や、『ひゃくえむ』の魚豊さんによる待望の最新作1巻が発売されました。 今回は、いわゆる「陰謀論」マンガです。単体でも挑戦的でまさに現代に相応しいテーマなのですが、それを『チ。』の後にやる。人間の知的探究心がいかにして世界を切り拓き動かしていくかという物語をやった後に、それが間違った方に転がったらどうなるかという危うさを描く。素直にすごいな、と思いながら1話から楽しみに、一方で恐ろしく思いながら読んでいました。 現代社会には、情報が蔓延しています。し過ぎています。現代人が1日に触れる情報の量は江戸時代の人間の1年分・平安時代の一生涯分に相当するとか、2002年のインターネット上の情報を10とすると2020年の時点ですら約60000になっていて今も加速度的に増え続けているなどと言われます。 コロナ禍にあっても、不安や困窮から冷静な判断をしにくくなっている状態で玉石混淆の情報が錯綜し、何が正しく何が間違っているのか多くの人が惑う中で分断や対立が起こってしまいました。最近急速に発達しているAIによるフェイク動画や画像なども今後はより氾濫していき、ますます真実を見極めるのが難しく、大事な時代になっていくでしょう。 そんな情勢下において、この物語で語られることは非常にクリティカルです。人は、他の人が気付いていない真実に自分だけが気付いているという甘美な果実の旨味からはなかなか逃れられません。 本作の主人公である渡辺は非正規雇用のいわゆる社会的弱者ではありますが、小学生のころの成功体験を基に論理的思考をする癖をつけてきた人物です。そんな彼が、いかにして陰謀論に堕していくのか。社会から受け入れられてこなかった人間が、少しでも自分を肯定してもらえるとどうなるのか。 そこには、現代社会や資本主義の、あるいは人間自体の構造的な脆弱性があります。そして、その脆弱性を利用して利益を得ようとする悪意が必ず存在し、そこも実に巧妙に描かれます。 客観的に離れた立場から見ている分には論理的な矛盾なども冷静に指摘できるものですが、いざ自分がその場で肉体的・精神的・経済的に弱まって判断力が低下した状態で同様のことをされた際にどうなるかと考えると、誰しもが自分は絶対大丈夫などとは決して言えないのではないでしょうか。 確かに女の子も出てくるのですが、この作品をラブ「コメ」と言ってしまうのはあまりに救いがなさすぎる気もします。読んでいると、共感性羞恥に近い諸々の感情も生じてきます。それでも、圧倒的に目の離せない筆力は流石の魚豊さんです。 反面教師として、戒めとして、大事なことが記されている物語です。