あうしぃ@カワイイマンガ
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2020/08/14
焦ったい恋の時間制限(と、後押しする仲間)
この作品は、なめたけ先生の『年下の先輩ちゃんには、負けたくない。』の続きであり、一応の終着点です。 ホームセンターを舞台にした、仕事の出来る女子高生先輩ちゃんと、気後れして敬語を使う後輩大学生の焦ったい恋物語は、一巻通してほんの少ししか進展しませんでした。 このジリジリした攻防のトキメキと、バイト仲間の楽しそうなやりとりを、ずっと見ていたいと思いましたが、彼らにはタイムリミットが待っています。 大学生の坂上は就職、高校生のかをりは進学……バイトを辞めればもう会うこともない関係。バイト以外の互いの世界も知らない二人。 時間制限の中でもなかなか前に進めない、二人の焦ったさを眺めているのも良い。けれどもきちんと気持ちを確かめ、勇気を持って相手に向かう時の高揚感たるや!時間と仲間に押されて進む恋の、一応の到達点を是非確かめて欲しい! ---余談--- それにしてもこんな二人、側にいたら見守りたくなります。坂上とかをりを見守る女子高生の若菜と新大学生の間中、さらに新加入の即戦力君なども、いつも一緒に働きながら二人をからかい、共に遊んだりしているのは、楽しそう。 中でもずっと見守って来た若菜。当初から二人を見守っていたこの女の子については、言葉を尽くしたい。 彼女のポジション、何気に楽しいです。気の合う仲間たちとワイワイしながら、仲間内の恋路を応援して、進展があれば心温かくなり、喧嘩すれば心配し……こんな時間がずっと続けば、なんて思ったりするかも(まあ、経験に基づく妄想ですが)。 最後の時間の、若菜の情動について、すごく分かってしまったというか、気持ちを共有してしまいました。泣きましたよ、ええ。 テキトーで時給以上働かない、でも明るくて仲間思いな若菜に……恋に落ちました(ポッ
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2020/08/13
地球滅亡と、読めない先輩の恋心 #1巻応援
時間跳躍や並行世界移動で世界や大切な人を守る、という作品は、例えば『魔法少女まどか☆マギカ』のように、使命の重さと失う切なさ故に尊い!と感じる作品が多いと思う。 この『スーパーノヴァはキスの前に』も、時間跳躍で世界の滅亡を阻止しようとするのだが、それにしても…… 地球、簡単に爆発し過ぎ! 未来人のトキ君は、過去にやって来て皆の憧れの先輩と付き合う。先輩は地球の存亡に関わる存在……彼女が不満だと、地球は爆発!なので、先輩の恋心を満足させようとするが、トキ君はシャイな奴。キス一つままならず、地球をいくつも爆発させてしまう……おいぃ……。 それでもトキ君、次第に頑張って積極的になるが、先輩のツボが、分かったり分からなかったり……トライ&エラーを繰り返す。当然その数だけ地球滅亡。 先輩の心は、なかなかに不可解。トキ君はそれに、否応なく振り回される事になる。地球滅亡の切迫感の中にありながら、どうしても「不可解女子」と「振り回される情けない男子」の恋の攻防に心を持っていかれる。 恋の成就が世界を救う物語は、例えば『魔法先生ネギま!』シリーズっぽい、「軽さ」と「巨大感情」の両立に向かっていく予感がする。 さあ、先輩の欲望はどこまで膨らむのか……そしてトキ君それに応えられるか?色んな意味でドキドキだ!
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2020/08/07
リディ・マーセナス最後の脱走 #1巻応援
まず、カバー絵のミネバ・ザビに驚く。この人形の様な整った顔は……凛としたミネバから、活発なオードリー・バーンを引いたような雰囲気。彼女に何が……。 それにしても美しい絵柄に見覚えがある。作者は玉越博幸先生……『BOYS BE…』の作者さんだ!懐かしい!シナリオは福井晴敏先生で、これは間違い無く良いはず。 ▲▼ ▲▼ ▲▼ 主人公はリディ・マーセナス。ラプラスの箱を巡る争乱の中で「黒いユニコーン=バンシィ」のサイコフレームと共鳴した男。 彼はかつて恋したミネバが、連邦とジオンの均衡の中で身動きが取れない事、そしてライバルであり盟友・バナージの行方が分からない事を知らされる。 リディは国境警備の部隊から脱走、ミネバがいるメガラニカを目指し、ジオン共和国の国境を侵犯する……。 ▲▼ ▲▼ ▲▼ 全1巻の最後で見られるミネバの姿は、もう活発なオードリーではないけれど、凛とした生気のある姿に安心する。このミネバの美しさと、かなり精緻に描かれたモビルスーツの美麗さ……玉越先生のガンダムが見れて良かった! そしてUCでは情けない所も多かったが、真っ当な感性の持ち主だったリディの「最後の旅」と新たな道。彼は連邦とジオンの架け橋になれるのか……その未来も今後、どこかで見てみたいと思わされた。 この作品はUCと映画『機動戦士ガンダムNT』の間を繋ぐ作品とのこと。映画観ようかな……。
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2020/08/06
玄人も素人も楽しい本格カメラ漫画 #1巻応援
写真撮影にハマる瞬間は、大体みんな同じ様な感じではないだろうか。 ファインダーを覗き、シャッターを切ってから、画像をモニターで見る瞬間。さらに、PCの大きなモニターで見る瞬間の驚き。 「こんなに綺麗に撮れた!」という感動! それを味わうともうその人は、次は何を撮ろうかな……と日々、考える様になる。こうしてまた、一人の日曜カメラマンが誕生する。 ◉◉◉◉◉ 本作の主人公は、隣の部屋のお姉さんにモデルとして撮影に連れ出されたことから、カメラに興味を持つ。美しい場所や、お姉さんの撮った自分に感動した主人公は、カメラを借りて自分でも撮影してみるのだが、すぐに驚くことになる。 「何を撮っても素敵!」 その感動をさらに味わいたくて、少しずつ積極的になり、交友を広げ、前へ踏み出す主人公。自分は冴えないなぁ、と思っていた彼女の成長と、未知の世界への冒険の予感に胸躍る。主人公が女子高生なので、スナップ程度の撮影になるかと思いきや、いきなり星空撮影に挑戦していたりして、本作の本気度が伝わって来る。 勿論カメラも注目。主人公とお姉さんが使うのは、Fujifilmのミラーレス機、Xシリーズ(そこなの〜?)。友達になる二人組はRICOH&PENTAX(渋っ!)。やっと出てきたNikon機は、まさかの最新本格ミラーレスZマウント機。 さらには三脚もVelbonの実在の機種が出てきたりと、リアリティが凄い……次巻以降、どんなカメラや周辺機器が出てくるのか楽しみな、やっと現れた本格デジカメ漫画。 玄人も初心者も、カメラ沼漫画へようこそ!(ズブズブ...
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2020/08/02
気にしたら負け!なペンギン飼育漫画
ある日、皇帝ペンギンが冷蔵庫に入っていた……水族館行きを拒む?彼を、見つけた女子高生は飼うことにする……。 ●●●●● この作品は、「細かい事を気にしたら負け」なところがあります。 ペンギンの登場に始まり、エサの出所やペンギンの丈夫さなど、ツッコミどころは登場人物達が真っ先に突っ込むけれども、よく分からないので現実を受け入れていく。いつまでも気にしていたら、この面白い状況を楽しめない!……それは、登場人物だけでなく、読者にも言える事。 受け入れてしまえば、目すら判別できない無表情な皇帝ペンギンの、意外と伝わるコミュニケーションや、人間との生活を楽しんでいる面白さ、そしてモフモフを堪能できる、楽しいペンギンライフが待っている! 飼う大変さは描かれるけれど重くならず、ちょっとお間抜けな愛らしさを笑い、ヒトと鳥の交流に温かい気持ちをもらい、皇帝ペンギンの生態を学べる、楽しい漫画作品。 合言葉は「気にしたら負け!」非現実をツッコみ切れずに受容していくコメディと、傍若無人な皇帝ペンギンの愛らしさを味わっていただきたい!
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2020/07/30
ぬいぐるみが「動く」のを夢見た人へ
女子高生の大熊みちるは、夜道でこぐま座の強烈な発光現象に遭遇する。気がつくと、目の前には……こぐま? 白くてモフモフで星模様のある、熊みたいな不思議な動物との、楽しい日々が始まる! ●●●●● モフモフで、愛嬌があって、雑食で食いしん坊で、ちょっといたずら坊主……しかし何をしてもファインプレー連発!出会う人みんなを虜にして、確実に癒してしまう、ペットとしてはパーフェクトな奴。言葉は交わせないが意思疎通は出来て、気持ちを察して慰めてくれたりも……。 こんな子……飼いたいに決まってる! ご都合主義といえばそうなのですが、それの何が悪い!実際のペットを飼うのは大変だと二の足を踏みつつ、本当は側にいてくれる伴侶が欲しいと思う人は大勢いるのだから、そういう人にこの作品と出会って欲しいと、切に願うのです。 日々に疲れている方、ぬいぐるみが動かないかなぁと夢見た事のある方、あらいぐまラスカル等の「ハウス名作劇場」が好きだった方など、まずは深く考えずに試し読みしてみて下さい。 (ちなみに私は『母を訪ねて三千里』に出てくる白いお猿さんの夢を、3回くらい見たことがあります。微妙に意思疎通できるっていうのが、癒しポイント高いんですよね……)
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2020/07/27
子煩悩父ちゃんの冒険の夢 #完結応援
『ゆるさば。』ロスです。 登場人物みんな幸せそうなエンディングに、私は一人寂しさを覚えています。終わっちゃうの……? 父ちゃんと三人娘の、退行世界冒険記はとても自由で楽しくて、娘達の成長も頼もしくて……でもその中でも一番楽しんでいたのは、やっぱり父ちゃんだったと思います。 私はおじさんで独身者です。休日には一人、雑木林にきのこを求めて分け入るくらいには冒険好きです。いまは一人でやっていますが、もし家族がいたら……息子でも、娘でも、自然の冒険を教えるかも。だって子供の成長を見るのが楽しそう。 だから父ちゃんが三人娘を遊ばせて、時にウンチクを垂れてうざがられても動じない感じ、分かる。 そう、私はこの作品を、父ちゃん目線で読んでいたのです。だから、読み返して一番切ないシーンは、冒険の終わりを躊躇って、本当に終わりでいいのか?と聞く父ちゃん。ツムギとモモと、リンの「三人娘」との旅の終わり。 この作品、例えば家族でキャンプとかしたくてキャンピングカーを買ってしまうような、子煩悩な冒険好きには凄く同感してもらえるかなぁ、と思うと同時に、そういう人はラストで、私と同じ様に絶対泣くね。
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2020/07/26
憧れ?恋?ピアノとお姉さんと私の関係
友達に恋をすると、相手を恋人にしたいと思うのと同時に、友達を失うのが怖くなる。そして悩む。私は恋人が欲しいのか、それとも友達が欲しいのか……。実際に欲しいのは、いつも変わらない「あの人の隣」ただそれだけなのではないか? ♫♫♫♫♫ 従姉妹のとり姉が弾く楽しそうなピアノに惹かれたたまご(本名たまこ)は、とり姉にピアノを教わっている。長年の二人の関係に疑問を持たなかったたまごだが、ふとしたきっかけでピアノと、とり姉の交友関係に向き合うことになる。 私はとり姉が好き!と一方的に想うたまごは「じゃあ、とり姉は誰が好き?」という疑問を初めて持つ。周囲の関係性を理解しても、見えてこないとり姉の心。そして自分のとり姉への「好き」は、恋なのか?心が揺らぐたまごの迷走は歯痒く、痛々しい。 誰かへの心に、恋とか嫉妬とか憧れとか、名前を付けて何らかの関係性に落ち着く事が、本当に欲しい物だろうか?たまごが出す「本当に欲しい答え」と、その真っ直ぐさに心動かされるとり姉の終着点は、物凄く腑に落ちる。そうか、こんな簡単な事だったんだ、と。 最後に二人が、頭をくっつけ寝こける姿に、ホッとする。私もこの安心感が欲しいと、心から思わされる。 (身を寄せて寝こける安心感は、たまごのピアノ仲間の籠原さんのエピソードにも変奏的に登場する。そちらも優しいお話だ) ♫♫♫♫♫ 『voiceful』『なずなのねいろ』『プライベートレッスン』と、音楽で誰かと繋がる連載を描いたナヲコ先生だが、これ以降姿を消す。HPもTwitterも更新が無い先生の事を案じてしまうが、奇跡の様に残されたこの3作品を、大切に読んでいきたいと思う。
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2020/07/24
ネットの歌姫と引き篭もりの私
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こんなに繊細で優しい「救い」の物語が、「コミック百合姫」黎明期に存在した奇跡を思う(「百合姫」の前身、「百合姉妹」から続いた連載)。 キスシーンひとつ無い、女性同士の様々な感情を包摂したこの作品こそが、現在の拡張していく「百合」世界の、感性の基礎になったと言えると思うし、今読んでもその内容は、全く色褪せない。 ♡♡♡♡♡ ネットで出会った歌声に心を救われた、引き篭もりの女子高生は、不意にその「歌姫」と知り合う。会う度に親密になる二人だが、歌姫が歌に打ち込む為、会えなくなると言う時、二人の心は……。 ♡♡♡♡♡ 神様と出会ってしまった女子高生の、浮かれる気持ちと浮かれてしまった後悔、そして会う度に募らせた気持ちが胸に迫る。 一方、女子高生に温かさをもらい、辛い過去を振り切り、勇気を出してネットの世界から出ようとする歌姫もまた、切実だ。 傷を持つ二人が、互いへの想いをよすがに現実へと踏み出す、繊細な友愛の物語。成人誌でも(同性・異性の別無く)傷ついた心を思い遣る関係性を描いて来た、ナヲコ先生ならではの作品と言えるだろう。 (成人誌の作品に関しては短編集『からだのきもち』をご覧下さい)。
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2020/07/22
ココロとカラダがチグハグな成人漫画
三味線漫画『なずなのねいろ』1巻刊行に合わせて、ナヲコ先生が成人誌で発表して来た作品を纏めたのが、この短編集。まずは掲載誌を列挙する。 ●漫画ホットミルク ●COMICプチミルク ●COMICアリス倶楽部 ●コミックメガキューブ ●ポプリクラブ ●同人誌 大学生から大人×高校生、高校生同士、子供同士、ロリ×ロリ、ショタと多岐に渡る。ショタ以外は性的描写あり。みんなれっきとした、エロ漫画だ。 しかし、はっきり言うと…… 「これでエロいことは出来ねぇ!」 細やかな感覚、しんどい背景、大き過ぎる感情にいちいちグッと来るので、正直この作品達で、ナニも出来ない。絵のエロさに体は反応するのに、圧倒的な感情に心を持っていかれる結果、ココロとカラダは引き裂かれ、読後には重い余韻と少しの罪悪感が残る。 傷付いた心を癒すように体を重ねたり、身体に刻む記憶としての性交だったり、知らない部分を見つけた喜びだったり……痛くて優しい、温かくて切ない、そんな機微をこれでもかと刻み付けてくる。 こんなの、もう忘れられない。 ♡♡♡♡♡ ●マイガール 身体が繋がれば、心は繋がるの? ●ひとつだけ 好きなものを頬張る貴方が好き。 ●大切な人 渇きを潤す様に、体を重ねる小学生達。 ●駅 兄妹と他人を行ったり来たりの二人の子供は、何度目かの停車場に立つ。 ●おねえさん改造計画 24歳に見えないお姉さんは可愛く変身して、秘密のバイト。 ●デュオメイト カワイイあの子と連弾したい女の子。でも相手が来なくなっちゃった……。 ●八月の夢 教師はあの女子生徒に、聖性と劣情を重ねていた。そのバランスが崩れる時……。 ●Brand Mew Menu 喫茶店の子に出前を頼んだら、相手は僕を知っていた。えっ、地味なアイツが? ●明日 2年前の誕生日のイザコザで、絶交していた二人。その理由とすれ違っていた心は……? ●ナキムシのうた 兄弟のように育った幼馴染みと再会。でも何かつれない……。 ●テンション・ナビゲーション 1・サークルの飲み会で万年幹事のハイテンション女子。笑顔以外の顔を見たい。 2・セックスで何が分かる?という先輩と、本心を知りたい後輩。 3・過去の事件のせいで、彼氏から優しくされる女子。でも本当は……。
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2020/07/19
三味線弾いていい?存在賭けて鳴らす音
大切な誰かに教わった物。最早分かち難く身についた行為。大好きなそれを、奪われるとしたら……。 ♫♫♫♫♫ バンド活動に飽きていた高校生・伊賀は、小さな年上の女の子・なずなの津軽三味線の音に触れる。 そのとんでもない音に魅了された伊賀は、なずなに三味線を教わろうとするが、なずなはやると言ったりやらないと言ってみたり……。 伊賀が頑なななずなの心の殻を、少しずつ優しく剥いで行くたびに見えてくる、なずなの心の傷は痛々しい。 全3巻中2巻を費やして、なずなが三味線を「弾きたい」と「弾けない」を行き来する物語は余りに繊細で、苦しい。しかし、なずながそのドラマの重さから解放され、自分らしく三味線を鳴らす時、物凄いカタルシスに満たされる。 ♫♫♫♫♫ 自分の三味線の音は血であり、過去であり、自己であるなずなにとって、三味線を奪われる事は、己の存在を否定される事だった。 例えば同じ津軽三味線漫画『ましろのおと』で、祖父の音を捨てて、自分の音=自分の存在証明を得るべく迷走する主人公の澤村雪と、苦しむポイントは違うが「自分の音=自己を鳴らす」という命題は共通している。 むしろ澤村雪の姿は、なずなの姉を神格化し、なずなの姉の様になりたくても叶わなかった、伊賀と同学年の橘ハルコの方に重なる。 『ましろのおと』に興味のある方は、2008年に同様の命題にチャレンジした『なずなのねいろ』も是非、読んでみていただきたい。
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2020/07/17
堂々と叩け! お嬢様は和太鼓で変わる!
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生の「一音」で持っていかれる音楽体験は、長い人生でも得難い貴重な体験である。それはバッハのゴルドベルグ変奏曲の一音目であったり、テクノの一発目のキックだったり人それぞれだろうが、その経験は時に人を狂わせ、時に人を救う。 『和太鼓ガールズ』の主人公・ミッション系お嬢様学校に通う環は、和太鼓の強烈な「一音」に、人生を変えられる。 それまで品行方正に、そつなく八方美人に己を作り上げてきた環は、言葉を失ったシスター姿の上級生・マリアの放つ和太鼓の響きに、心を奪われる。 初めて感じた音楽の喜びのために、少しずつ思い切って自分を変えていく物語は、解放の喜びに満ちている。 この物語のメッセージは、添付の画像に込められているだろう。何かの為に、照れず・恐れず・自分を曝け出す。その先に新たな光景が待っている!和太鼓の為に変化した環が獲得した真の聖性は、周囲も、私達をも魅了する。 描き込まれた圧の強い画面は、和太鼓が常に鳴っているような迫力と熱気、昂る感情と和太鼓部設立を巡るドタバタコメディが凝縮されていて楽しい。 ♫♫♫♫♫ マリアの物語や、周辺人物との関係などまだまだ描ける内容はあったと思われる。現在(2020年7月)作者のすたひろ先生によってkindleで、『和太鼓†ガールズ~改訂版~』が始まっている。 作品ページはこちら https://manba.co.jp/boards/121523 1巻は旧作の大幅な改訂だが、ニコニコ静画で一部見た限りでは、かなり人物の感情描写にリアリティを増している。果たして2巻より先の物語は描かれるのか……? そして2020年秋には実写映画化とのことで、この機会に色々チェックしてみると良いかも知れない。
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2020/07/15
音楽表現と和楽器JKのブレイクスルー!
音楽の表現に「擬音」を使わない事。これがこの作品の最大の特徴である。 擬音による音楽表現は、分かりやすい反面、表現できない事も多い。例えば音色は、伝えたい音を擬音で描いても(ポンとかガーッとか)結局は読者の脳内補完が頼り。正確な伝達とは言えない。また、合奏での、旋律やリズムが絡む感覚は表現しにくい。 『なでしこドレミソラ』では、流水紋で旋律の雰囲気、和柄で和楽器らしさを仄めかすのみ。絵で魅了したら、音は完全に読者の想像に委ねる、割り切りの良さ。しかし流水紋は音楽が流れる時間・空間感覚となり、それを重ねる事で各パートが混ざり合い、響き合う表現となっていて、今までに無い「穏やかな」ゾクゾク感がある。 かつて音楽漫画が発想しなかった「音楽表現」のブレイクスルーを、音楽漫画が好きな方には、ぜひ読んでいただきたい! ♫♫♫♫♫ 物語は、地味な自分を変えたい主人公・美弥を始め、和楽器同好会に集まったメンバー四人の、様々な「ブレイクスルー」の過程が描かれる。分かりやすい子から一見分かりにくい子まで、自分の拗らせを知り、悩み、殻を破って成長する物語は明るく、清々しい。 これは、四人が対等な関係で互いの音を聴き、自分の音を重ねる真の「合奏」を目指す物語。そしてそれは音楽を越えて人間関係でも、自分から動く事と、相手を見る事のどちらも大事だという「個性と調和」の物語になっていく。 少し拗らせていた女子高生達が、真に自立したメンバーの一員として舞台に立つ終幕は、とてつもない歓びに満ちている!
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2020/07/11
殺戮マシーン、一般人になる? #1巻応援
この作品を稲井カオル先生の前作『うたかたダイアログ』で例えると、 「片野さんは心が生まれたばかりのロボットみたいなことを言う……その内『これが…ナミダ…?』とか言いそう」 と言う宇多川さんのセリフ。これを全編に渡って繰り広げる感じになる。 地球外生命体の襲来で滅びそうになりながら、何となく滅びなかった世界で、最前線で戦った英雄・芥は次第に煙たがられ、緊張感の無い鳥取部隊に左遷される。 14歳から7年間、戦い以外を切り捨てて戦闘マシーンとして、英雄とした生きた芥は、ゆるい鳥取で気持ちを持て余す。 人間らしい感情や常識の無い芥が、色々教えられて新しい自分の在り方を探していく物語になるのだが、その物語は決して一筋縄には描かれない。 普通、可愛い子供や仲間、美しい光景などとの出会いで、人間らしい情緒や愛情を取り戻していきそうなものだが、芥が出会うのは、生意気なガキンチョに、ちょっとズレた感じの女性副隊長・百福。年長の隊員・古賀がツッコみ切れない程の、百福&芥のボケに継ぐボケ。更には生意気なガキンチョの遊びや語彙を、貪欲に吸収する芥。 結果、彼が獲得する新たな感情は、人間らしいと言うより……? 結構真剣な話や、「深いい」話もしつつ、様々なズレと畳みかける細かなボケに含み笑いが止まらない感じは『うたかたダイアログ』と同様。結果なんだか不思議な読後感のこの作品、是非人類と共にグダグダと続いていって欲しい!
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2020/07/08
漫画と土地の記憶(インタビュー記事を読んで)
『今日どこさん行くと?』の作品ページに、作者の鹿子木灯先生のインタビューへのリンクが追加されたので、読んでみました。 熊本地震で被災された先生が、熊本のPRのため、そして復興していく様子を残したいという意思のもと、この作品を産み出されたことに、色々な感慨が湧くのですが、読者としてこの作品が嬉しいのは、 ●変わりゆく熊本の記録が読める ●美しく楽しい熊本が描かれている の二点を両立しているところにある、と思っていたので、先生のインタビューは大変納得いくものでした。 敢えて復興の途中を描くのは、美しさに欠けると思われるかもしれませんが、記録としては貴重なものです。何よりもそれは、復興を望む人々の、強い想いの記憶でもあります。そう思えば、復興の生々しい過程も、完成された美しい光景も、その土地の人々にとっては等価に愛しいものでしょう。 ある土地を描くことは、その土地の記憶を描くことです。(長い目で見れば)いずれ失われる物を描き残すことは、そこを大切にした人々の、生きた証を残すことでもあります。 こうした漫画作品が残されることは、何よりも熊本の方にとって、嬉しいことでしょう。そのことは、次作の熊本ドライブ漫画『私の魅力がわからんと!?』が、ネッツトヨタ熊本さんの企画であることにも表れていると思います。 今(2020年7月)、熊本をはじめ九州地方は大きな水害に遭い、再び郷土が奪われる事態となっています。『私の魅力がわからんと!?』の内容にも今後、それが反映される「かもしれません」。また他作品では、『放課後ていぼう日誌』の舞台・芦北町は甚大な被害を受け、作者の小坂泰之先生も被災され、連載を休載されるようです。また、『カワセミさんの釣りごはん』の地域も大雨に見舞われているようです。 様々な作品の発表に、大きな影響が現れるのかもしれません。しかしまずは、何よりも先生方と九州の皆様の、身体の健康と心の安寧を、お祈り申し上げます。 私達はまず、今ある作品でこの地域に想いを馳せ、もしこの後、作品がまた産み出される時が来たら、その作品から様々に変わっていく九州と、変わらず美しい九州を、また鑑賞し、コレクションすることで応援出来たらと思います。 結論:まずは『今日どこさん行くと?』と『私の魅力がわからんと!?』を読もう!
あうしぃ@カワイイマンガ
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2020/07/05
優しくて切ない天才の短編集
この短編集は、オールカラーである……水彩タッチのとても淡く、優しい色彩と、繊細な描線。 「萌え」という言葉にある程度、揶揄が込められているとすれば、優先生の描く造形は、「萌え」に水彩的な「優しさ」を加えて、誰も揶揄する気になれない程にまで美しく、愛らしく突き詰めた芸術品だ……控えめに言って天才だ、と思っている。 『おおかみこどもの雨と雪』『五時間目の戦争』も美しかったが、優先生の本質はカラーにある……と私が思い込んでいるのは、私がはじめて触れた先生の作品が、この短編集『さよなら、またね。』の表題作だったからだろう。 『季刊GERATINE』というカラー漫画雑誌の2010年秋号に掲載されたこの作品。いつ単行本になるのか……と思っていたら、2017年まで待つことになる。 表題作を始めとして、優しい雰囲気の中に描かれるのは、残酷な状況が多い。もう取り戻せない物、気づいた時には失われている恋、否応ない別れ……余りにも切なくて、私は表題作でいつも手が止まってしまう。 この年、優先生は亡くなられ、もうこの様な作品達は生み出されない……という事情を差し引いても尚、この切ない天才の、決して色褪せない作品に、是非一度触れてみていただきたい。まずはこの短編集がいいだろう。そして『五時間目の戦争』を是非。 ①さよなら、またね。 七年ぶりに化けて出た元クラスメートは、生まれ変わるから挨拶に来た、と言う。 ②なくしたことば 自分を模したAIを載せたサイボーグが、眠りから覚めない……何の夢を見てる? ③はるのはな 遠く離れた兄と妹。レシーバーで偶々の交信。人の体でない兄が向かうのは……。 ④なつのいと 先生は私の名を間違える。私とよく似た、婚約者の名前と。 ⑤おかえりなさい 田舎に帰省する姉は、いつも明るい。俺が望んだのと、違う。 ⑥猫の日 飼い猫を助けてくれた級友に、つい暗い本音を話してしまう。彼の反応は……? ⑦きずあと 切りすぎた前髪を、男の子に見せに行く。彼のせいで、残った痕を、苦しい初恋を。
あうしぃ@カワイイマンガ
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2020/07/04
「飼育」を夢見るロリおね?百合 #1巻応援
小学五年生の舞ちゃんは、家の前で倒れていた高校生のお姉さんにご飯を食べさせる……そこから始まり、生活力の無いお姉さんを小学生がお世話する日々が描かれる。 積極的に動くのは舞ちゃん。子供離れした料理テクで、お姉さんに美味しいご飯を食べさせつつ、他にもあれこれ世話を焼く。 一方、お姉さんの方は、美人で頭も良いが謎めいていて、何よりも無口の中に時折見せる感情表現が、舞ちゃんと読者の「庇護欲」を唆る。中々ズルいヒト。 そして舞ちゃんが抱いてしまうのが……タイトルにもある通り、お姉さんを「飼育したい」という気持ち。 一人暮らしのお姉さんと、親がなかなか帰ってこない舞ちゃん。複雑な寂しさを抱える二人が出会い、ひととき寄り添う。舞ちゃんは芽生えた感情に戸惑い、お姉さんは何かを隠しつつ。 不安を抱きながらも、ひとまず優しさを持ち寄る二人は、温かいが少し切ない。「飼育」という舞ちゃんの欲望の落とし所と、二人の関係性の落ち着く先を、今後も追いかけて行きたい。 □□□□□ 食漫画としては、地方性よりも、お腹が空いた人が喜びそうなメニューが並び、唾が出る。むしろ地方性が出ていそうなのは『アイラップ』というツールである。ご存知の方、おられるだろうか……?
あうしぃ@カワイイマンガ
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2020/07/03
出征する級友達と戦えない二人
島の中学校の新学年、三年生の時間割に「戦争」が加わった。毎週金曜五時間目に、選抜されて本土に出征していく級友。しかしそこに、安居島都と双海朔の二人だけ、選ばれることはなかった。 正体不明の敵、子供も駆り出される程切迫した戦況……絶望的な状況下で、混乱しつつも日々を生き、恋をする中学生達。そして出征を拒まれる二人の謎とは……。 □□□□□ 小さな島の日常の穏やかな、優しい情景と裏腹な、不穏な情勢と多くの謎に、心が宙ぶらりんになりながら、読むのをやめられなくなる作品である。 好転しない現実、死と隣り合わせの毎日。その中で迷い苦しみ、ある者は怯え、または覚悟を決め、あるいは何かを見出そうと必死になり……在り方は様々だが、皆一様に、悲壮である。 一人ひとりの懸命な青春を、どんなに丁寧に描いても、その命はいずれ奪われていく。そして、辛い鬱展開が待っている。 その中で、一番辛いものを背負うのは、実は生き残っている安居島都である。その過酷さはある意味、筆舌に尽くし難い。それでも「食」をよく分かっていて生きる力の強い都は、前を向く。少しの幸せだった思い出を胸に……。 生きるのに必要なのは、悲壮さではない。淡々と飯を食い、命ある限り前向きな意志を持つことだ。そんなメッセージを最後に提示するために、4巻を丁寧に描き切った優先生に、今は深く首を垂れたい。