ぺそ
ぺそ
1年以上前
アフタヌーンに載っていたのを読んだのですがすっごく素敵なお話でした✨後編こんないいところで終わるなんてそんな殺生な…と恨めしくなってしまうほど面白かったです! 空襲で家族を失ってから親戚筋を転々としている耳の聞こえない16歳の少女・文(ふみ)。新しい居候先は親戚の知人という赤の他人の家で、文は恐縮しきりで役に立とうと頑張ります。そんな文のことを、その家の息子で2つ年上の功雄が、明るくサッパリとした態度でグイグイ気にかけてくれて文はどんどん前向きに素直になっていきます。 文が体験した空襲がPTSDとしてふとした瞬間急にフラッシュバックする、生々しく恐ろしい描写。 また往来で手話を使うことを躊躇う文の様子から分かる、障害者への当時の差別意識。 16歳にしては喜怒哀楽が幼く、誤字脱字が多く手跡も汚いことから教育を満足に受けられなかったのだろうな…と推測でき、全体として、文の視点で描かれる当時の様子がすごく解像度が高くのめり込んでしましました。 自分の好きなお魚が焼かれているのを見て思わず「(功雄さんの)お母さん」のところに駆け寄ってしまったり、海に手を浸して「功雄さん」の首に冷たい手を当てたり。幼いがゆえの文ちゃんの天真爛漫なところが描かれるシーンは本当に可愛らしかったです。 1話の最後に「功雄」の読み方を手に書いて教えてくれるシーンが素敵で、そのあとドンドン本当の兄妹のように仲良くなっていく姿に胸があたたかくなりました。 新しいお家で温かい家庭に恵まれるところが夏目友人帳っぽくて良いなぁと思ったのですが、よく考えたら「功雄さん」のお家は夏目なんですよね!文ちゃんには夏目と同じように幸せになって欲しい…! 本当に素敵な作品だったのでぜひ続きを連載で読みたいです♫
アフタヌーンに載っていたのを読んだのですがすっごく素敵なお話でした✨後編こんないいところで終わ...
兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
『騎士譚は城壁の中に花ひらく』に連なる、ゆづか正成さんの新作です。 『アンドロイドはごちそうの夢を見る』や『神食の値段』など食にまつわる過去作も複数ありましたので、中世と掛け合わさったことで筆者の趣味嗜好の集大成的な作品となっている印象です。 「美味を求めるなら紅花(カルタモ)に行け」と謳われる紅花の修道院で育った主人公・レノが、築城中の「樫の城(クエルクス)」で新たな生活を始めていく物語です。 『騎士譚は城壁の中に花ひらく』と同様に、華美な表紙から伝わる通りまず絵が素晴らしいです。中世ヨーロッパの雰囲気と非常に合っており、精緻に描かれる建造物や風景、服飾や料理や小物を眺めているだけでも世界観に浸れて楽しめます。 本作は、料理が上手なレノがその腕を振るうグルメマンガとしての一面が大きな見どころとなっています。裏表紙でも描かれているように、うさぎのパイやひよこ豆のスープなど実際に中世ヨーロッパの人々が作って食べていたであろうメニューが考証の末にシズル感たっぷりに描かれています。 何と、作中のレシピを公式が実際に作ってみたという動画も公開中です。 https://twitter.com/shonen_sirius/status/1700687664910045616?s=20 作品を描くにあたって実際に講談社のキッチンスタジオを使って試作し、現代のものと当時の材料でできるものを比較試食してみたそうですが、やはり現代人からすれば現代のものの方が美味しく感じるとか。でも、当時使える材料や器具だけで作ったものというのもロマンがあって良いですよね。マンガ飯を作るイベントやお店などをまたやる際には、作って食べてみたいと思わされます。 また、お城を建てるところから描いているというのがなかなか珍しいのですが、私は昔から古城に憧れがあり古城ホテルにいつか泊まるのを夢見ているので、丁寧に描かれた築城工程や完成予定図なども見ているだけで楽しいです。 幕間に差し挟まれるさまざまな注釈からも、綿密な下調べの上で愛を持って西欧世界を描いていることが伝わってくるのも心地よいです。そうしてひとつひとつの物を丁寧に描いていくことによって、そこで暮らす人々の温度や息遣い、生活感が感じられるような世界が生まれています。神は細部に宿る、のお手本のような作品です。 絵に惹かれた方は間違いないと思いますので、まず試し読みで数ページでも読んでみてください。