アップルシード

鬼才・士郎正宗の鮮烈なデビュー作

アップルシード 士郎正宗
兎来栄寿
兎来栄寿

『攻殻機動隊2045』がNetflixで公開され話題となっている昨今。『攻殻機動隊』は日本で生まれたあらゆるSF作品の中でも巨大な金字塔です。スティーブン・スピルバーグやジェームス・キャメロンからも絶賛を浴びる士郎正宗の想像力と創造力がなければ、『マトリックス』や『パシフィックリム』といった作品もこの世に存在していなかったかもしれません。その作者である士郎正宗のデビュー作が、この『アップルシード』です。 元々、士郎正宗が学生時代に同人誌として発行していた『アップルシード』の前身に当たる設定のある『ブラックマジック』という作品が存在し、その後関西大学SF研究会の創設者ら関西のSF好きによって創設された青心社から『アップルシード』が連載形式ではなく単行本として出されました。小さな会社であり当初の発行部数も多くなかったにも関わらず、『アップルシード』はその圧倒的なクオリティにより全国区でカルト的な人気を博すこととなりました。 士郎正宗らしい緻密な描き込みや設定、膨大な情報量、そして女の子のかわいさはデビュー作から全開です。編集者によっては「文字が多すぎるし読み難いから削れ」と言われてしまいそうなほどですが、この雑然とした中に構築された確固たる世界観と細部に宿った神によって生じるリアリティにこそ酔い痴れるところです。『AKIRA』が1982年に始まりそのフォロワーが多く生まれた80年台ですが、この時代のSFマンガでこれほどの独自性・独創性を発揮していたものは他にないでしょう。 1988年にはガイナックスがアニメ化しているのに加え、2004年にはセルルック3Dアニメの先駆的作品として映像化され、国内で17万枚、海外で43万枚売れるという大ヒットを飛ばしました。原作は読んだことはなくとも、そちらのアニメは見たことがあるという方も多いかもしれません。 残念ながら連載は中断され、作者自身によって続きが描かれないことも宣言されてしまっていますが、士郎正宗ファンの間では『アップルシード』の続きが読みたいという声も根強いです。 『攻殻機動隊』とも繋がっている物語なので、『攻殻機動隊』好きで読んでない方はもちろん、SFに興味のある方は一つのマイルストーンとして映像化された物と併せて通っておく価値があります。

沙門空海唐の国にて鬼と宴す

休載があまりにも惜しい名コミカライズ…

沙門空海唐の国にて鬼と宴す 夢枕獏 大西実生子
たか
たか

偶然このコミカライズを知り、美麗な表紙に惹かれて読んでみた作品。1巻の発売が2013年とのことで一体どういうことか調べると、連載先のサムライエースが休刊となったタイミングで休載。映画化に合わせて再開予定だったとのこと。 https://natalie.mu/comic/news/106687 が、結局その後発売されたのは映画のコミカライズ 「空海 -KU-KAI- (夢枕獏/睦月れい 全2巻)」だった…という流れのもよう。(もっと経緯に詳しい方がいらしたら是非教えて下さい) **スタイリッシュさと色気・生々しさを兼ね備えた線のタッチが好き。**背景や衣装も史実に基づいた説得力のある描写がされているところもいい! また、硬派で一辺倒の落ち着いた語り方をするのではなく、コメディシーンでは漫画らしいデフォルメも使われていて、読んでいてすごく楽しかった…! 最近は「リアリティライン」という言葉もあるけれど、硬派な世界観を壊さない絶妙な加減で漫画っぽさが加えられていて本当にすごいと思う。 逸勢と空海、2人の心の動きも本当に丁寧に描かれていて、作品世界にガッツリのめり込むことができました。叶うなら何らかの形で、一応の完結に持っていってほしい作品です。 (画像は1話の扉絵。これだけで期待しかないし、期待通り最高の本編だった)