シルフの花姫

その花は青東風のように瑞々しく咲いて #1巻応援

シルフの花姫 かめじろ
兎来栄寿
兎来栄寿

以前にTwitterやpixivでも連載され人気を博していた『シルフの花姫』が商業版としてリメイクされ、単行本1巻が発売されました。 以前に描かれていたバージョンとは大枠の設定は同じですが、個々のエピソードなどかなり異なっているので商業版は商業版として、以前のバージョンは以前のバージョンとして別々にどちらからでも楽しめます。 本作はヴァン・フルール王国の第一皇女で国王の座を継いだナターリアと、彼女に献身的に付き従おうとする何かとお節介なシスター・サラのふたりの関係性が主軸となっている(公称)ファンタジー百合ストーリーです。 風の精霊シルフの強大な力を宿し先王から現王に受け継がれる風剣シルフィードを欲して王家に近付くものが絶えない中で、自分に近付いてくるサラの真意を警戒するナターリア。しかし、サラにはナターリアが思い描いていることとはまるで違った確固たる切実な理由があり、その目的を果たすためにサラは奮闘していきます。 何をおいても主要キャラふたりの魅力と関係性が本作の肝です。皇女と聖女、身分の違いはありながら通ずる部分もあり、それぞれの足りない箇所をお互いが補い合うような絶妙な間柄。ゆっくりと縮まっていくお互いの距離。長年筆者の中で熟成されたからこそ出るコクがあります。 百合的な部分の濃度に関して言えば商業版1巻部分ではスロースタートな感じですが、番外編などで今後への期待感を高めてくれます。以前のバージョンを見れば解りますが百合成分は元々かなり濃く、メインストーリー的にも設定を踏まえて盛り上がっていくはずなので楽しみです。 線が以前よりラフなのは連載で時間的制約があるからかもしれませんが、ご自愛していただくと共に内側で煮え滾る欲望のままに筆を奔らせ、美しい大輪の花を咲かせていって欲しいです。

死んだ息子の遺品に息子の嫁が入っていた話

俺の嫁と書かれたら処分しにくい

死んだ息子の遺品に息子の嫁が入っていた話 秀
ゆゆゆ
ゆゆゆ

失踪し、遠い地で病死して帰ってきた息子・明宏。 両親のもとに届いた遺品には「俺の嫁」と書かれた手紙を持つ、スリープ状態のアンドロイド・ケイコが入っていた。 訂正。 ただのアンドロイドでなく、アンドロイド型ラブドールです。 とはいえ、健全なコメディなので、ラブドール要素はオマケです。 ケイコさんは普段からアンドロイドらしからぬ振る舞いをしているため、読者が普通の人と勘違いしかけるタイミングでロボット感あふれる性能を発揮します。 それに対して登場キャラクターたちがボケたりツッこんだり。 ケイコさんにそんな改造をした明宏くんの話になって、ふと故人を偲んだり。 笑いだけでなく感動もできる漫画です。 主に登場する人物は明宏くんの妻かつアンドロイドのケイコさん、明宏くんのご両親、明宏くんの幼馴染の田中くん、田中くんの子供。 個性的な面々が揃っています。 全2巻なので、サクッと読めます。 コメディなので1巻の流れがずっと続くかと思いきや、物語は予想外の方向に向かいます。 気持ちがあふれすぎて、とっ散らかった感想になってしまったため、どんなお話か気になった方は第一話を読んでみてください。 https://twitter.com/hide_pau/status/1167429975122690048?t=5qfYS07UzGTYGuvAP4teMA&s=19

この世はガマンが多すぎる!

ガマンは人生のスパイス #1巻応援

この世はガマンが多すぎる! 御眼鏡
兎来栄寿
兎来栄寿

誘惑や欲望、あるいは辛いことも多きこの現代社会において、皆さんは日頃何をガマンしていますか? 私は、少し前まで花粉症シーズンに備えグルテンをセーブすべくパン・うどん・ラーメン・パスタ・ピザ・餃子・ケーキ・ビールなど多数の好物を泣く泣くガマンする生活をしていました。また、仕事やタスクが落ち着いたら読もうと思っている去年の12月から3ヶ月連続刊行された人生で一番好きなラノベを未だガマンしています。『オクトパストラベラー2』や『サクラノ刻』も心の底からプレイしたいと思いつつ、未開封のままでガマンです。『FF14』も誘われていてずっとやりたいのですが、始めたら「終焉る」と解っています故ガマン……。確定申告と年度末進行と花粉を闘わせて共倒れさせたいですね。 というわけで、この作品はダメなOL詩乃がさまざまなものをガマンしようと頑張る作品です(※ただし、ガマンできるとは限らない)。第1、2話ではセンリツみたいな容姿の医師に警告を受け、お酒や暴食をガマン。他にも、クソ上司に対するガマンや、休日をダラダラ過ごしてしまうことへのガマン、サウナでのガマンなど欲求に対するもののみならず多種多様なガマンを断行するお話たちが描かれていきます。 人間、ガマンするからこそその後に訪れる時間がより輝いたものになるんですよね。先日のWBCの準決勝・日本VSメキシコなどでも、チャンスを活かし切れずずっとビハインドか同点で最後の最後までガマンし続ける展開が続いて、そこからのあの9回裏の劇的なサヨナラ攻勢。脳汁が出ましたよね。普段野球を全く見ない家族すらも「こんな試合を見せられたら脳がおかしくなる」と言っていたのですが、ある種ガマンの時間を続けさせた後に爆発的な快楽を与えるパチンコなどのギャンブルに通ずるものすらあるなと思ってしまいました。 そして、まさに人間の脳のバグを利用しているとも言われるギャンブルと同等に恐ろしい誘惑を持つソシャゲのガチャをガマンする回も描かれます。無課金のままでいたい、いないと自分はダメになると解っていても煽られる射幸心をいかにして堪えるのか。見所の回となっています。 最近の『ヤニねこ』の隆盛などを見ていても思いますが、ダメ人間やクズのお話が好きな人は少なくないですよね。『カイジ』然り、『連ちゃんパパ』然り。彼らほど酷くはありませんが、少なからずそうした作品を好きな人が好む要素が本作にもあると思います。 宇宙猫、「麦茶だこれ」、「やったねたえちゃん」、『HUNTER×HUNTER』や『進撃の巨人』などそこかしこにネットミームやパロディなど小ネタが豊富に小気味よく盛り込まれており、細かい所でも楽しませてくれます。 本当はダメだと思っていてもガマンできず飲み食いしてしまったり、課金してしまったりする貴方にお薦めです。

みずほ、中学生、世界崩壊は突然に

世界のバグに挑むJC #1巻応援

みずほ、中学生、世界崩壊は突然に まつだこうた からあげたろう
兎来栄寿
兎来栄寿

『おかか』や『骸積みのボルテ』のまつだこうたさんが原作を、『わたしのカイロス』や『コーヒーカンタータ』のからあげたろうさんが作画を担当する作品です。 お二方とも好きなので良いコラボレーションだなぁと嬉しさを覚えながら読み始めたら、なかなかにぶっ飛んでいてある意味期待通りの作品でした。 『時をかける少女』、『時間の歩き方』、『片翼のラビリンス』etc... 主人公が思春期の女の子の時間遡行ループ系物語は、往々にして面白い作品が多いです。 本作は、様々なバグによりすぐに崩壊する世界に対して、干渉が可能な唯一の存在である女子中学生みずほが何度も時間を巻き戻しながら世界崩壊の引き金となるバグたる事象を改変していくというのが大まかな筋です。 ただ、そのバグの原因となるものがかなり卑近であることも多々。例えば第1話ではおじさんが電車に乗ることであったり、他の話ではスマホで自撮りをすることであったり。それらを、硬軟さまざまな手段で再現しないよう対処していきます。やっていることは岡部倫太郎なのですが、雰囲気としては非常にコミカルに進行していきカジュアルに世界が崩壊し続けます。 4月に発売される『SFマガジン』では「藤子・F・不二雄のSF短編」特集が行われるそうですが、まさに藤子さんのとある短編を髣髴とさせるような1話も。「すこしふしぎ」感をゆるく楽しく味わえます。 何しろからあげたろうさんの絵がかわいらしく、みずほの表情もとてもとても豊かで魅力的。第6話などは一番純粋なかわいさが出ていて、好きなお話です。 まずは1話試し読みをしてみてください。そこで気に入れば間違いない作品です。