犯人は私だけが知っている~母たちは静観する~

ママ友の友情破壊ミステリー #1巻応援

犯人は私だけが知っている~母たちは静観する~ ゆむい
兎来栄寿
兎来栄寿

何の変哲もない日常風景が舞台であっても、殺人のような大きな事件ではなく今もどこかで起きているようなありふれたことを題材にしても、面白いミステリーは描けるという良いお手本のような作品です。 同じバス停から通園する子供を持つ、月村家・西井家・雪田家・高見家の4家族がメインメンバー。ある日、母親たち4人が話し込んでいる隙に子供たちの誰かが高級車に傷をつけてしまいます。一体誰がやったのか? 犯人はわからないまま高額の賠償金を支払わねばならなくなり、それまで仲の良かった4人はその事件をきっかけに諍いが起きたり距離を取ったりすることになり、生活が変わっていきます。 七夕の短冊に「ひとをけしたい」と書いたライムくん。 社宅で起きたボヤ騒ぎ。 続発する自転車のサドル損壊事件。 ある真相を知る人物の存在。 不穏さを煽るできごとが次々と起こりながら、物語は実にサスペンスフルに駆動していきます。 かわいらしい絵柄ながら、人間社会における歪みが表出したキャラクターたちのリアルさが見事です。特に、断片的な情報しか得ていないにも関わらず、真実を知った気になって誰かを断罪しようとしたり、それによって更に当事者を傷つける結果を生んだりしてしまう人間。そして、それに対してほとんど罪悪感などあるわけもないという。現実でも仮想空間でもありふれた人間の在りようですが、非常に恐ろしいです。 ママ友や子育ての闇の部分が、うまい具合にサスペンスの雰囲気と溶け合っています。それでも、醜い部分だけではなく人間の良い面も描かれているところは一抹の救いです。 すべての謎は、最終的に綺麗に氷解します。そこで一旦スッキリはするのですが、その更に奥底にあるものに対して考え始めるとまた大きな難題の壁が立ちはだかるような気分です。1冊完結のミステリーマンガとしては非常にお薦めです。

家族、辞めてもいいですか?

子は親を選べないとは言うけれど・・・

家族、辞めてもいいですか? 魚田コットン
六文銭
六文銭

この手の子供の虐待(ネグレクト含)的なエッセイって、読むのもキツイのわかっているのですがなぜか読んでしまうんですよね。 今までは、 「自分はまだ恵まれているということを確認したい」 という意図があったと思うのですが、最近は 「自分は子供にこんなことしない抑止力」 のために読んでいるんだと、本作を読んで気づかされました。 なので、読むたびにツライ気持ちになると同時に、家族に対して こんなことは絶対しないようにしようという強い気持ちになります。 本作も、主人公も幼少期の寂しさは目を覆いたくなります。 まだ保育園くらいの小さい時に朝起きて家族の誰もいない状態とか。 子供にとっては恐怖でしかないのに、それができる親の神経を疑うし、可哀想すぎる。 ネズミが出るような汚部屋の環境、親の離婚、そして再婚によって振り回される様(再婚相手に性的虐待をうけたり)、どれも親の都合でしかない。 著者である主人公にはこれが「普通」なんだ思い込んでいるのも悲しい。 そんな幼少期の凄惨な状況にもかかわらず、ご自身も家庭をもち子供に対して、かつての親のようなことを自分はしないと決意する様が、上記の私の考えとリンクしました。 同じようなことをしてしまうかもと悩み苦しみながらも、前向きに決断していった主人公に勇気づけられました。 最初のほうは胸糞悪く、悲しい気持ちでいっぱいになりますが、不思議と読後感は悪くないのも良かったです。 著者を応援したくなりました。