靴の向くまま

靴という足元の小宇宙 #1巻応援

靴の向くまま みやびあきの
兎来栄寿
兎来栄寿

みやびあきのさんは絵が良いですよねえ。前作の『珈琲をしづかに』も心地よい穏やかさが作品全体を覆っていましたが、今回も似た空気感が存在しており読んでいて心が解れます。 本作は、タイトル通り靴職人のお姉さんを描いた物語です。誰もが履く身近な存在である靴。しかし人によって足の形は違いますし、何なら同じ個人でも左右で形は異なり、既製品の靴が合う人は実は2~3割しかいないことやその詳しい理由なども読んでいく内に解説されていきます。1冊を読み終えるだけでも、相当靴に関する知識がつくことでしょう。 それというのも、作者のみやびあきのさん自身も靴教室に通って自分でも作ることを体験しながら描いているそうです。幕間のコラムでも、さまざまな靴に関する知識が披露されます。革靴やパンプスは苦手、という方は読んでみると考えが変わるかもしれません。 テーマである「靴」の部分だけでも良いマンガですが、加えて人間同士の心の交流、それを通して前へと進み出していく様子が丁寧に描かれているのが素晴らしいところです。 「”痛み”は慣れちゃダメだよ」 「すごく小さなことで心は前を向くんだよ」 「人を笑顔にしたいなら 自分も笑顔でいられるようにしないと」 などなど、心にすっと入ってくる名言もたっぷり。 また、女の子同士が仲良くなっていく様子が好きな人にもお薦めできます。 なお靴のオーダーは単体で見ると高いですが、本当に良いものは長く使えるますし、自分でも大事にするモチベーションが自然と湧くのでより寿命は伸びます。何より、特に靴は健康にも直結するもの。自分にぴったりの靴を履けばまず気分が良くなりますし、気持ち良くたくさん歩くことができます。逆に、合わない靴を履くことで足、ひいてはそこから全身を傷めるストレスや、それによって出かけるのを躊躇ったり活動力が低下したりすることによる機会損失まで考えれば、総合的に見てオーダーはコストパフォーマンスが良いと言えるのではないでしょうか。 スーツやシャツのオーダーメイドも社会人になる前後で一度やっておくと良いと思います(『王様の仕立て屋』などを読むと、自然とやりたくなります)が、それ以上に靴のオーダーは満足度も高くなりやすいものだと思います。それでも予算を抑えたい場合は、まずインソールのオーダーからでもやってみるとその良さを安価で体感できるかもしれません。プレゼントとしても喜ばれるでしょう。すごい職人さんになると、足を触っただけでこちらの体調や普段の体の悩みまで言い当ててくれてびっくりします。 靴、それから椅子と寝具はいいものを使ってQOLを上げていきましょう。それによって、健康な体でこうしたマンガをより十全に楽しんでいくこともできるのですから。

竜医のルカ

ドラゴンのお医者さん #1巻応援

竜医のルカ 平沢ゆうな 津田彷徨
兎来栄寿
兎来栄寿

『鍵つきテラリウム』の平沢ゆうなさんの新作は、竜を治療する「竜医」になるべく奮闘する少女たちを描いた医療ファンタジー。三度のご飯よりもドラゴンをこよなく愛する身としては、たまらない作品です。 本作の最大の魅力は、竜に関する独自設定。医療監修が入っていることもあり、竜のそもそもの身体的な作りであったり、傷病に対する診断や治療の方法やそれに必要な道具や補助具がかなり作り込まれています。パッと見は完全にファンタジーですが、読んでいると医療ドラマを観ているような感覚も生じます。 舞台となるコーグニール竜学高等学院での授業や生活様式、また竜の糞は″落とし物″と呼ばれ処理すると補助金をもらえ優れた肥料にもなるなど、この世界独自の暮らしやルールが提示されていくのが面白いです。竜と言っても動物に近い種類も数多くいるようで一般的に「竜乳」が飲まれているらしく、一度飲んでみたいです。幕間では更に細かい世界設定が補足され、こうしたディティールが世界の存在感と説得力を生み味わい深い魅力となっています。 ドラゴンという存在自体は古くからあらゆる作品に出てきますが、そこの解像度を上げるとこうして新たな作品として成り立つという良いお手本です。 そして、『鍵つきテラリウム』のときに顕著でしたが平沢ゆうなさんの描くカラーイラストはやはり美しく魅力的です。このファンタジー世界もカラーが映えるので、今後のカラーページや表紙絵も楽しみです。 なお単行本1巻は4話までですが、その続きは今現在コミックDaysにて読むことができます。個人的に5話がこの作品を一段階上の面白さに引き上げたと感じる部分だったので、良ければぜひそこまで読んでみてください。

みちかとまり

田島列島先生 待望の新連載!

みちかとまり 田島列島
六文銭
六文銭

『水は海に向かって流れる』が、すごく好きで、自分としては数少ない著者縛りをしている作家さんだけに、この新連載は純粋に嬉しかったです。 しかも一挙2話掲載。(モーニング・ツー2022年10月号) まだイントロ段階ですがすでに面白そう。 竹やぶで生えてきた?女の子を拾った主人公。 その女の子は、なんだか普通じゃない感じで、主人公に化けたり、同級生の目玉をくり抜いたりする。 と思ったら、瞬時に場面が変わり「夢」だったのか?と感じさせるも、いや、やっぱり現実なのか?という展開が続いて揺さぶってくる。 この夢なのかファンタジーなのか、わからないまま話が進むのが、たまらないです。 同じように竹やぶに生えてきた女性もでてきて、 「人間になるのか、神様になるのかは、最初に拾った子が決める」 といったところで終了。 ぞくぞくしながら、あっという間に読んでしまいました。 特に最後、竹やぶの女の子が、人間か神かを主人公が決定させるというところ。 個人的に著者の魅力は人物描写だと思っていて、特におかれている環境(誰もが抱えているどうしようもない現実)を受け入れたり、ときに受け入れなかったりしながら、登場人物たちの変化や成長の描き方が巧みだと思っているんですね。 だから、この竹やぶから生えた女の子が、この状況下で何を感じてどう変わっていくのか、そして人間か神になるのか、楽しみでしかたないです。 おとぎ話風味なのも、絵柄とマッチしていて、すごく好きです。 今後が楽しみな作品です。

ザ・ゲームスターズ

補い合う能力を持つ渋い初老紳士2人の頭脳戦

ザ・ゲームスターズ オノ・ナツメ
名無し

モーツーで1・2話読みました。なんか要領つかめないな…そういえばなんで1話なのに人物紹介があるんだろう…と思ったら、もともと2021年10月号にプレ新連載として読切が掲載されていたようで、そっちが実質第1話でした。 その実質第1話の読み切りを読んだのですが、これがメチャクチャおもしろい! 性格こそ合わないものの、互いに補完しあう能力を持った初老の男2人のクリミナルサスペンス 資産家のムーアは 「私には人を嫌う自由がある」 と言ってのけ、かつて自らが飼っている犬と遊びたくてシャボン玉を吹きかけてしまった同じ高級アパートに住む幼い少女(その後何度も謝罪に訪れている)を十数年にもわたり邪険にし続けるような筋金入りの偏屈男。 その少女エリカは、ムーアから長年にわたり「ネズミ以下」の態度を取られたことが、心に刺さった最初の大きな棘となり、知らぬ間にカルトに引き込まれてしまう。 そんな彼女の様子に気づいたマンションのドアマン・ハワードは、ムーアがひと財産を築いた真相を握っていることをちらつかせ、そして自らが持つ不思議な能力を用いて2人でエリカを助けることを約束させる。 カルトの拠点に入ってからの戦いぶりやセリフに痺れましたね。 相手の嘘が見抜けるムーア。 相手の意志と逆の行動を強制できるハワード。 おじさん2人が鮮やかに若者たちをお縄にする様は思った以上にかっこよかったです。 1・2話ではアパートで殺人事件が起こるのですが、これもどんなふうに解決してくれるのか楽しみです。