ラスボスラブデス/ラスボスラブデス

ラスボスがヒーローを鍛える真の理由とは? #1巻応援

ラスボスラブデス/ラスボスラブデス 瀬口たかひろ 桑島由一
兎来栄寿
兎来栄寿

『グリーングリーン』、『私立アキハバラ学園』、『CARNIVAL』、『グリザイアの果実』などのフロントウィング作品や『神様家族』、『南青山少女ブックセンター』などでも知られる桑島由一さんが原作、『オヤマ!菊之助』の瀬口たかひろさんが作画を担当する作品です。 昨シーズンは『16bitセンセーション』が放映されさまざまな郷愁に駆られていましたが、昨日は『同級生2』のリメイク発売が発表され『夜勤病棟』リメイクが発売。『ヘブンバーンズレッド』は『Angel Beat's』との第二弾コラボで盛り上がっており、往年の界隈の熱が現代にも感じられることに目を細めます。 田中ロミオさんや丸戸史明さんなど強い作家性を持った方々もマンガ原作という形でも活躍する昨今、桑島由一さんも参戦してきたのは熱いです。 1ヶ月前に天からの啓示を受けて、悪と戦う正義のヒーローとなった3人の少女たち 「シールド」の渚楓花(ふうか)。 「スピード」のジュリ。 「パワー」の奏音(かのん)。 そして、彼女たちを統べるアルペジオ。 しかし、悪の組織"髑髏団"のボス・ダークスカルの圧倒的な力に完敗した後、名前や衣装にダメ出しされ説教を受けてしまいプロデュースされることとなります。 ダークスカルがなぜ、敵である彼女たちに手を掛けて強く鍛え上げるのか? その裏には確固たる使命と目的があり、さらにその部分にもさまざまな裏がありそうで、類似する要素を持つ他の作品群との差異化が図れています。この辺りはやはり別の畑で長年経験を積んできた方々特有のセンスと地力を感じさせてくれるとことで、大きな見どころとなっています。冒頭にとんでもないカットバックがありますが、それが夢オチ的なものでないとするならそこに至る関係性の変遷などの過程、その前後も楽しみです。 また、細かい掛け合いにも味があります。 「神話からの引用はもうお腹いっぱいなんですぅうぅう!」 「七つの大罪もだ」 「タロットカードとチェスからの引用もな」 「不思議の国のアリスもです!」 というメタい会話など、好きです。 なお、キャラで言うと私は当然奏音ちゃん推し。世界の半分を敵に回すことを覚悟で言うと、奏音ちゃんには常にメガネを外して髪を下ろし黒髪ロング状態でいて欲しいです。ひとりだけ効果音にやたら「むち♡」「むちちっ…」と付けられる彼女の体の描き方は、瀬口たかひろさんの精髄を感じます。一方で、彼女たちの能力を発動する際などの気合の入った作画は迫力満点です。 巻末で「続巻は怒涛の展開」と言及されており、今後のストーリーがとても楽しみです。

うるしうるはし【電子単行本】

漆芸×純愛 #1巻応援

うるしうるはし もりちか
兎来栄寿
兎来栄寿

金沢を舞台に伝統工芸である漆を使った工芸品を生み出す「漆芸家」を志す高校生の少年・海尋(みひろ)を描いた物語です。 漆の性質から漆器を実際に作る作業工程など、日本の古来から伝わる伝統工芸とその職人にまつわる話の部分も興味深く面白いのですが、そこに加えて本作はもうひとつ大きなボーイミーツガールとしての軸もあります。 海尋は旅館で働く年上の女性である紬に転んだ所を助けられ、また後日再会を果たしてほのかな想いを芽生えさせていきます。漆はものとものを繋ぎ合わせる接着剤ですが、海尋と紬も漆器を通して少しずつ繋がりを強めていきます。純朴なふたりが、穏やかでかわいいエピソードを重ねて絆を強めていく姿はたまりません。 髪を下ろした状態の黒髪ロングの紬の、品のある日本美人然とした佇まいは最高です。特に描き下ろしの金沢弁パートは、何気ないシーンなのに花山薫の渾身の一撃のような超威力。2023年黒髪ロング界新人部門最強候補です(シーンによってはセミロング判定を受けそうな時もありますが、最大値を取るので黒髪ロングヒロインとして扱います)。 人物の絵も可愛らしくて魅力的ですが、金沢の街並を描いた背景もまた情趣があります。1話目が始まり最初にページを捲ったときに現れる見開きから、とても引き込まれました。 伝統工芸×小さな恋の物語。学びもあり、面映さもありながらそっと見守っていたくなる作品です。

ニーディガール オーバードーズ ラン ウィズ マイシック

原作を知らなくても最高です。 #1巻応援

ニーディガール オーバードーズ ラン ウィズ マイシック 盆ノ木至 WSS playground 大倉ナタ
兎来栄寿
兎来栄寿

孤独に寄り添う物語を、いつの世も愛しています。 『アタマのナカの鈴せんぱい』や『ベイビー・ブルー・クラスター』の原作でも知られる、にゃるらさん企画の美少女ゲームが原作で、ネームを『吸血鬼すぐ死ぬ』の盆ノ木至さんがある本コミカライズ。もう、1話目から引き込まれました。 最近は配信者をテーマにした作品も増えていますが、この作品の秀逸な点はヒロインのあめちゃん(配信時は「超絶・最かわ・てんしちゃん」略して「超てんちゃん」)視点ではなく、彼女をプロデュースするプロデューサーのおじさんの視点で描かれていることです。 あめちゃんのキャラクターは非常に破天荒でかなり際どい言動が繰り広げられますが、常識人であるおじさんがツッコミ役、あるいは調整役として挟まることによって多くの人が共感を得やすい作りになっています。 そして、何よりにも物語の根本にあるダウナーさと、切実な感情が最高です。 あめちゃんの、意識低めで社会的に不適合な立ち居振る舞い。そして、その裏にある孤独、それを埋めたいがために生じる承認欲求。 そんな彼女を支えるのは、現代社会の暗部によって貶められ挫折を味わい底辺にいる元アイドルプロデューサー。 何者でもなく社会的弱者であるふたりが出逢い、始められる塵芥のような世の中への反逆。そんなの、応援せずにはいられないじゃあないですか。ふつうに生きていたら接点などないであろう、しかし強烈に結び付いてしまったふたりの関係性がね、良いんですよ。 まさに「今」な物語とキャラクターが描かれており、超てんちゃんが少しずつ人気を博していったときに語られる過去のパートなど、実際読んでいて救われる人も多いのではないでしょうか。 個人的に5話は特に神回だと思っているのですが、単行本では巻末のおまけとしてまさにその部分の盆ノ木さんのネームが7ページ分も掲載されています。ネーム段階でも既にとても良いんですが、やはり大倉ナタさんの絵が乗算されて最高になっているなと感じます。このシーンの表情は、とりわけ大好きです。 私のように原作をまったく知らなくても問題なく楽しめますので、9月のパワープッシュ作品として推したいです。 ここ数年はAVGやりたくてやりたくて我慢して震えている状況なのですが、ルーツとなっている作品群に親しんできた身としては原作にも触れてみたいと強く思います。

同人女アパート建ててみた

夢の住処 #1巻応援

同人女アパート建ててみた 賀来
兎来栄寿
兎来栄寿

昔、マンガ好きの人を集めて共同スペースに大量のマンガ棚を置いたシェアハウスがあったら良いなと夢想していました。 個人の購買力では現在毎月1000冊以上発刊されるマンガを全部買うのは厳しいですが、皆で力を合わせれば少しずつ買ってたくさん読める。何なら、読んだ後にそこでお薦めし合ったり語り合ったりすることもできる。最高では? と。 とはいえ、実際に家を借りたり建てたりするにはそれなりのお金が必要ですし、各人それぞれに仕事であったり家庭であったりの事情もありますし、女性の場合は女性のみの方が好ましいなどなかなか全員の理想の場所にとは行かないので、やはり現実には難しいと夢は夢のままだったのですが……。 そんな想いを抱きつつ、ある日Twitterで見かけたこの作品を読んだときは 「理想のやつーーー!!!!!」 となりました。基本、同人活動って孤独になりがちなので作業通話などをするわけですが、日々近くで同じように作業している人が複数いる環境というのは良いですよね。辛い原稿のときも、リアルだからこその密度が濃くラグのないコミュニケーションがあればどれだけ支えになるか。 各種設備が新しく整っているのも素晴らしいのですが、最高なのはシアタールーム完備というところですね。上映会や推しの生誕祭、またゲーム大会などを大画面でやれるのは絶対楽しい。しかも、騒いでも他の住民に迷惑を掛けることがない。何より、そこで一緒になった人たちとはそこを離れてもきっと友人でいられそうな気がします。社会人になった後にそういう友人を作れる機会って限られていますからね。1LDKで家賃10万円と多少割高でも、それ以上のバリューが感じられる人も必ずいるであろう物件です。 銀行員の主人公が5000万円を借り入れるものの最初は住民が1人も入らず悪戦苦闘するのですが、萌え語りをしたオタク友達の皆がそれぞれ手を差し伸べてくれる温かさも良いです。さまざまな同人女たちが登場しますがとても解像度高く、同人の苦しみと喜びを分かち合える素敵な彼女たちが共に支え合って前向きに進んでいく姿、良いものです。 マンガとして見てもシンプルに絵がスタイリッシュかつ綺麗で読みやすいですし、テーマも面白く、キャラクターたちも魅力的。とても好きな作品です。 なお、あとがきマンガでは「同人女」という単語が一般的ではないので「オタク」にした方が良いのではと編集側から相談があったそうですが、ググると今は「同人女」という言葉の方が「オタク」よりも検索結果が多いのだとか。『同人女の感情』などの影響もあるでしょうが、なかなか凄いことだなと思いました。個人的には「同人女」の方が解りやすく主要な読者層に届きやすいだろうと思うので、良かったです。 ゲーマーやボドゲ好きアパートなんかもあったら良いなあ。

「おかえり、パパ」【電子単行本】

単行本描き下ろしが…… #1巻応援

「おかえり、パパ」 蝉丸
兎来栄寿
兎来栄寿

『絶対に風呂に入りたくない彼女VS絶対に風呂に入れたい彼氏』の蝉丸さんが描く、前作とは打って変わって不穏な物語です。 近年では、主人公が無条件で努力もせずに無双する作品を好む方が多いといいます。仮にイケメンでなかったとしても女性にやたらと好かれる、そんな主人公はたくさん見ると思います。 しかし、本作はそんな無条件で好かれる主人公という存在に対してある種メタ的な立ち位置にある気がする作品です。気がする、というのはまだこの作品の核、ヒロインの高校2年生の完璧黒髪ロング美少女・透桜子(とおこ)の真意の深淵が見えないからです。おじさんが女子高生に好かれる物語といえば『娘の友達』のような作品もありますが、ああいった類の物語ともまた性質を異にしています。 主人公は、結婚相手の娘である透桜子に最初からやたらと好かれます。それどころか、父娘というラインを踏み越えるようなスキンシップをしてきます。その行為には、果たしてどんな動機があるのか? 公式からも「仄暗いホームサスペンス」として提示されていますが、これはサイコホラーなのか? ホワイダニットのミステリーなのか? とも思わされる内容です。そして、その混乱に更に拍車をかけたのが今回発売された単行本における描き下ろしの最後の描写です。この物語を読み解くためには、絶対に必要であろう重大なピースが描かれていました。 単行本の続きとなる連載最新話付近もなかなかすごい展開になっていますが、この描き下ろしと併せて考え点と点を繋ぎ合わせたときに浮かび上がる像が果たして現実のものとなるのか……。 透桜子のピュアモードと闇モードのギャップを美味しくいただきながら、続きを楽しみに待ちます。

おなかがへったらきみをたべよう

鬼才・たばよう先生が生み出した残酷絵本 #1巻応援

おなかがへったらきみをたべよう たばよう
toyoneko
toyoneko

たばよう先生は、主としてチャンピオン系列の媒体に作品を発表している漫画家です。 デビュー作は、「TOILETPAPER MAN」。新人漫画賞で圧倒的な高評価を得た傑作です。 https://pyuupa.flop.jp/img/sm79_01.jpg たばよう先生は、その後の短期連載「くろすぶりーど」でもその鬼才ぶりを如何なく発揮し、2ちゃんねるのチャンピオンスレでは特殊な性癖に目覚める者が続出しました。 (なおこれらのデータは週チャンマニアクスから引用しました) https://pyuupa.flop.jp/index.html ところが残念なことに、これらの作品は単行本化されていません。 単行本化された唯一の作品は、宇宙怪人みずきちゃん(全2巻)。この作品も面白かったのですが、残念ながら(おそらく)打ち切りにて終了しています。 たばよう先生は、その後、コミックめづなどでマニアックな作品を発表したりしていたのですが http://www.comic-medu.com/wk/nunonechan 昨年(2021年)、久しぶりにチャンピオン系列の媒体で連載したのが、本作「おなかがへったらきみをたべよう」でした。 マンガクロスで連載された本作は、「今からぴったり10万年前!」を舞台にした、原始人の男の子と、こどもマンモスのお話。 一族が全滅し、一人ぼっちになった男の子と、親に捨てられたこどもマンモスの、一人と一匹の友情が描かれます。 しかし、10万年前の過酷な環境は、男の子に対して、生きるための残酷な選択を迫ります。 一人と一匹は、どのような結末に辿り着くのか…?というお話。 絵柄も素敵です。 もともと、たばよう先生は、ある意味で癖のある絵柄でしたが、今回は、全体的に絵本風に仕上がっており、一枚絵としても非常に美しいコマが多いです(添付)。 ただ、連載時はフルカラーだったものが、単行本化にあたってモノクロになったのは残念でした。電子版だけでもフルカラーにしてほしかった…。 本作は、生きることの過酷さと、我々現代人の傲慢さについて、深く考えさせられる残酷絵本です。全1巻で綺麗に完結しておりますので、興味を持った方は、ぜひ読んでみてください! なお、1~3話はマンガクロスで読めます。 https://mangacross.jp/comics/kimitabe/

徳川おてんば姫 ~最後の将軍のお姫さまとのゆかいな日常~

徳川慶喜の孫娘の物語

徳川おてんば姫 ~最後の将軍のお姫さまとのゆかいな日常~ 西山優里子 井手久美子
六文銭
六文銭

私事ですが、最近、幕末づいてまして、司馬遼太郎「最後の将軍 徳川慶喜」を読んだばかりなんです。 正直あまり歴史に明るくなかったので、慶喜といえば、今まで「しょっぱい人」として思ってなかったんですよね。 新撰組のほう(つまり幕府側)をよく読んでいたから、慶喜の存在は、 大政奉還して、鳥羽伏見の戦いで逃げた人 くらいのイメージでした。 徳川の時代を終わらせてしまった人という、なんかショボいイメージでした。 しかし、上述の本を読んで自分の無知を恥じました。 慶喜、マジすごいっす。 政治的な駆け引きと、暴れん坊の尊皇攘夷思想(というか、単に幕府がうっとおしいだけ)の薩長土肥に代表する各藩主を論破する力、そして先見の明。 時代がそうでなければ間違いなく、優れた名君だったと感じました。 大政奉還をしたのも、そのタイミング朝廷に政治の主権を渡しても、構図は変わらず結局徳川に頼ることになるのを見越した判断で、単に尊王思想の志士たちの矛先をずらすためだったとかすごい判断ですよね。 鳥羽伏見の戦いに逃げたのも、徳川一族がその後の朝敵になることを恐れたのと、単に国内で争うことが国力の低下を招くこと見越したという英断だったとか。 どこまで真実なのかは不明ですが、少なくとも、その後の日本が力強く発展したのも、慶喜がよくある旧体制の君主として抵抗し続けなかったことも多いにあると思います。 長くなりましたが・・・そんな慶喜ブームが起きている私に、この本が目に入り矢も盾もたまらず読んでしまいまいた。 本作は、そんな私が激推中の慶喜の孫娘久美子の物語。 姉の喜久子は、高松宮宣仁親王(昭和天皇の弟)妃。 当たり前だけど中々の家柄。 上記の慶喜のことや、江戸から明治にかけての政治的な動きを理解しているとより面白いです。 慶喜に似ていると言われていた久美子氏だが、好奇心で何でも自分でやりたがるところや、極めようとする姿勢を似せたり(慶喜は多趣味でこだわりも凄かったらしい)、女中やクラスメイトがどこ藩出身だとかでいざこざがあったり、随所に、歴史を知っているとにんまりするポイントがあるのが読んでいて楽しいです。 また、あの時代特有の上流階級の雰囲気も、また素敵ですね。 おてんばでありながら芯を通す主人公も魅力的で、周囲の人間たちも振り回されながらもその魅力に惹きつけられているのも、またグッド。 自分もそのうちの一人です。 子孫であることから先祖の因縁で物語も動き、山縣有朋(有りていにいうと倒幕側の人)の娘とすったもんだあって、今後もどうなるのか? 非常に楽しみです。