黒のもんもん組

「おっ いっちょまえに男色家だな」

黒のもんもん組 猫十字社
(とりあえず)名無し
(とりあえず)名無し

猫十字社という奇才がかつていたことを、もっと思い出さないといけない。 佳品『小さなお茶会』のほうが少し有名だとは思うのですが、やっぱり『黒もん』ですよ、『黒もん』! 例えば、今や大きな潮流となっている「BL」的なるものの前段としてのJUNEについてとか、その源流『風と木の詩』まで遡るタイプの言説は、それなりにあると思うのですが、少女漫画的「少年愛」を、「男色!」として破壊的なギャグで表現したのは、この猫十字社『黒のもんもん組』をもって嚆矢とする…とかいうテキストは、ほとんど見ないですよねえ。 でも、そういう意味で、山上たつひこ『喜劇新思想体系』や新田たつお『怪人アッカーマン』に並ぶインパクトですし、少女漫画ギャグ史的には、少年漫画史の巨大なる高峰『マカロニほうれん荘』に匹敵する重要性を持つ作品だと思うんです。 (連載時期的にも作風的にも、『マカほう』の影響は強いだろうなあ) とにかく、これだけ好き勝手やってる少女誌のギャグなんて、今はほとんど存在しない。 本当に、当時の『LaLa』は、ものすごいラインナップでした。 とはいえ、もう40年以上前の漫画になっちゃうのか…。 『黒もん』完全版というのが出ているのをマンバで知りましたが、やっぱり今の読者には『県立御陀仏高校』や『華本さんちのご兄弟』から入ったほうが、読みやすかったりはするのかもしれませんね。

がらくたストリート

全ての知識は等価である

がらくたストリート 山田穣
ナベテツ
ナベテツ

自分がまだ小学生の頃、母ちゃんが兄貴に買っていた旺文社の「高校合格」という雑誌に、恐ろしくひねくれたエッセイが掲載されていました。自らカットも描いていたのですが、そのページを書いていた男性は後にサンデー増刊で読み切り漫画を描いたりしたりもしていて、その名前はよく覚えていました。 それから10年後くらいにSPA!のコミック紹介のページで、自分の知らない「がらくたストリート」という作品が取り上げられていました(ライターがどなたかは失念してしまいました)。 かつて山田Xというペンネームで、という一文を読んで思わず目を疑いました。その後この作品を読んで、全て納得しました。 自分も基本おたくですが、中途半端であるという自覚は嫌になるくらいありますし、求道というのはまあ終わらんもんだとも思います。 この作品に関して、面白いけど説明出来ない、という評価をよくみます(まあ自分もよくそう言ってますが)。ギャグに関して「デペイズマン」という概念をエッセイで取り上げていたのは故・中島らもさんなんですが、「構図のズレ」によって産まれる笑いというのは、対象の間にどれくらいの距離があるのか理解出来るだけの知識が問われると思います。そしてこの作品には作者の培ってきたオタクとしての知識がふんだんに込められていますが、それが理解出来るかは突き詰めてしまうと読者次第ということになってしまいます。 おたくとオタクは恐らく違っていて、前者がクリエイターになって後者に受けるかどうかというある種の実験だったのかもしれないと、ふとこの文章を書いていて思ったりもしました。

KILLING ME / KILLING YOU

ハードな世界観をポップなシナリオと美しい絵柄で紡ぐファンタジー

KILLING ME / KILLING YOU 成田芋虫
sogor25
sogor25

成田芋虫さんの作品は前作「It’s MY LIFE」から拝読してますが、まず表紙の絵の鮮やかさに目を引かれ、そして本編のマンガが表紙や扉絵のカラーイラストとの相違を全く感じさせない絵柄で描かれていることに驚かされます。 今作「KILLING ME / KILLING YOU」は1話から割とハードな設定が提示されますが、シナリオ自体はコメディ調になっており、重くなりすぎず読み進めやすいテイストに仕上がっています。それでいて盛り上がる所、物語を引き締める所では絵の力で読者を引き戻してくれます。 「IT'S MY LIFE」が好きだった方はもちろん、絵柄もテーマ性も全然違いますが、例えば「少女終末旅行」や「狼と香辛料」のような、相棒と旅をしながら様々な人、ものに出会う作品が好きな方には気に入って頂けるような気がします。 ちなみに、「IT'S MY LIFE」とは世界観を共有してる他、スターシステムとはちょっと違う形でキャラの共有をしており、興味がある方は前作にも手を出してみることをオススメします。 (一応違う出版社の作品なんですが、作品のリンクどころか1巻発売時にはそれぞれの公式でお互いの作品の試し読みが配信されるという大盤振る舞いっぷり。今後ももしかしたら同様のコラボがあるかもしれませんね) 1巻まで読了

変態性低気圧

4コマギャグの、早すぎた金字塔

変態性低気圧 なんきん
(とりあえず)名無し
(とりあえず)名無し

吉田戦車『伝染るんです。』は、4コマというジャンルを超えて、ギャグ漫画の歴史における激震のサード・インパクトだった。 それは、劇画における大友克洋の存在に匹敵する衝撃だっただろう。 しかし、とりあえず4コマというジャンルに絞れば、吉田戦車に先行する才能として、今は忘れられがちなふたつのギャグ漫画家の名前を思わずにはいられない。 (「西の巨人」いしいひさいちは、ちょっと別格とさせてください) いがらしみきお(『ネ暗トピア』等)と、なんきんである。 彼らふたりがいなければ、吉田戦車に代表される「不条理4コマ・ムーブメント」は起こり得なかった、と個人的に思っているのです。 いがらしみきおは、『ぼのぼの』で大きな商業的成功を収め、『I (アイ)』のようなシリアス長編でも評価されていますが、もともとは「とんでもなく破壊的な4コマギャグ漫画家」だったのです。 そして、なんきん。 素晴らしく先鋭的、まさに「シュール」でキュートな4コマギャグを発表し、『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』や『ポンキッキーズ』に絵柄を提供するなど、一部に熱狂的なファンを得た稀有な才能なのですが、なぜか漫画シーンからは早々に姿を消してしまいました。(WAHAHA本舗とか、ご本人はずっと活躍中ですが) 自分は『ネ暗トピア』と『変態性低気圧』が大好きだったので、吉田戦車が登場してきた時に、「ああ、ついに“この新たな流れ”の決定版が現れたぞ!」と、すごく嬉しかったし、納得感が強かったんですよね。 今は、ギャグ漫画不遇の時代だと言われます。 それについて細かく考察していくことは、このクチコミの趣旨と異なると思うので控えますが、「いがらしみきお」と「なんきん」が4コマギャグを描かなくなったということが、その手がかりになるのではないか、と思っていたりしています。 まあ、そんな面倒くさいことは置いておいたとしても、なんきんの漫画は、超ステキですから、現在の読者にもぜひ読んでいただきたい! 手に入れるのは大変だと思うけど!