宙-CHUU-

スイープとローファー #1巻応援

宙-CHUU- 手原和憲
兎来栄寿
兎来栄寿

『夕空のクライフイズム』の手原和憲さんによる新作蹴球マンガ! それだけで白米を食べられるくらいに嬉しいことでした。 本作の主人公は、中学校時代は「二本尾(ツインテール)のケルベロス」の異名を持つ鉄壁のゴールキーパーだった少女・小桜宙(こざくらちゅう)。しかし、厳しい環境にいた結果サッカーが好きかどうか分からなくなり高校ではサッカー部のないお嬢様学校コディーノ女学園へ。しかし、寮で同室の溝端に導かれた先で待っていたのは楽しく球を蹴る集団「けりたま部」。宙の第二の蹴球人生が始まっていくという内容です。 先輩の愛川クレメンタイン幸子さんは、声に出して読みたくなる名前もさることながら、美しい容姿とアーゼガム(ウイイレ好きにはお馴染みの、アーセナルのもじり)出身という凄い経歴で、何より強く優しい性格が最高に良い魅力的なキャラクターで、宙も幸子への憧れを隠しきれません。 他にも、ミステリアスな孤高の天才中学生・しるくちゃんや、強豪校私立青鵬高校の面々など魅力的なキャラクターも続々登場してドラマを盛り上げてくれます。 肝心のフットサルに関してもひとつひとつのプレイの凄さが大胆かつわかりやすく演出されていて、恐らくルールを知らないという人でも問題なく楽しめるでしょう。キャラはかわいいですが、プレイはかっこいい。そのギャップも堪りません。 そして、何と言ってもこの作品で良いのはサッカーを楽しめなくなって窮々としていた宙が、ふたたび球を蹴ることの純粋な楽しさを思い出して笑顔でプレイする瞬間です。元々、何かを好きだったのに何かのきっかけでその気持ちを忘れてしまった人には、競技を越えて響くのではないでしょうか。シンプルに好きだと思える気持ち。そんな好きだと思える対象を、一緒に楽しめる周囲の人たちの存在。人生で特に大切なものが、ここにあります。『夕空のクライフイズム』にも通ずるテーマで、ただ勝つだけのみならないところにあるものの大事さですね。 私も、この作品が好きだという気持ちを多くの人と共有したいです。

兎なりのウサギさん

このうさぎマンガがかわいい2023 #1巻応援

兎なりのウサギさん 野広実由
兎来栄寿
兎来栄寿

うさぎが、かわいい…… かわいいうさぎが、かわいい(語彙力)。  今年は卯年。2023年に相応しい、うさぎマンガの真打が登場しました。名前に兎が付いており、うさぎをたくさん飼っているウシジマくんに羨望を覚えるくらいうさぎ大好きな私はニッコニコです。 高校1年生で顔の怖い少年・青枝(あおし)と、大学1年生の紅詩(もみじ)は隣に住む幼馴染で、実は両片思い。紅詩は新たにうさぎの「みたらし」を飼い始めることで、小動物が好きな青枝とまた少し距離を縮めていくというラブコメ要素もまじったうさぎマンガです。 兎に角(うさぎだけに)、みたらしがかわいくかわいく描かれていて堪りません。 キュルンと見つめてくるつぶらな瞳 撫でを要求してぐいぐい来る様 撫でられてご満悦な様 齧歯類の本能として色々なものを齧る様 元気いっぱいに走り回る様 ちんまりと座っている様 プスプスと天使の寝息を立てたり、船を漕ぐ様 etc… ブラッシングや爪切りを嫌がる様などは、他の動物と暮らしている方も「あるある!」と共感するところでしょう。我が家のポメラニアンとそっくりな態度の所もあって、にっこりしてしまいました。 みたらしもかわいければ、途中で描かれるネザーランドドワーフやロップイヤーの仔うさぎたちも犯罪的にかわいいです。 かわいいうさぎをたっぷり堪能したい同志にお薦めです。 現状では電子配信のみということで、書店ではこのかわいいうさぎには出逢えないのでご注意ください。

あすにひとふで!

王道を詰め込んだ青春書道部ストーリー #1巻応援

あすにひとふで! 矢神うた 葛原昏
兎来栄寿
兎来栄寿

近年「甲州和紙」として新たにブランド化されてきている、山梨県市川三郷町とその隣の身延町の伝統産業である市川和紙と西嶋和紙。身延といえば『ゆるキャン△』で非常に有名になった町ですね。 近い将来この『あすにひとふで!』の力で市川三郷町も有名になるかもしれない、いえ、なって欲しい! と感じる書道部マンガです。実在の大門碑林公園なども登場(コスプレ好きの方にはお馴染みの場所かもしれません)し、『ゆるキャン△』との聖地巡礼ハシゴも楽しそうです。 本作はとにかく、王道で正統派。少しだけ特徴的なのは、主人公がアメリカ人の女の子サラ・エイミスであるということでしょうか。 ワインの仕事を営む父親が山梨県担当になったことでアメリカから日本に転校してきたサラの原体験は、書道家のヒナギクこと明日見雛菊の書に出逢って一瞬で恋に落ちたこと。 しかし、サラが意気揚々と入ろうとした書道部は廃部寸前。イケメンで女子にモテモテな部長の上浦ここのと、ここのにそそのかされた書道初心者である副部長の大門寺ふみの2年生のふたりのみ。部員は少なくとも、憧れの書の道を真っ直ぐな熱意で進んでいく物語となっています。 書道部マンガといえば、金字塔的な存在として『 とめはねっ! 鈴里高校書道部』がありますが、本作の清由(すみよし)高校書道部では書道パフォーマンスが活動の中心となっていることが特徴です。身長より大きく重い筆を一生懸命に振り回すサラの姿は、応援したくなります。 「書道なんか大嫌い」 と言い放つ訳あり顔なクラスメイトの牡丹ちゃんなど、王道オブ王道な構成ですがそれがいい。 既に、私の頭の中ではアニメーションとして声と色と動きが付いてサラたちが動いている様子が展開されています。ぜひ、このまま続けてアニメ化して人気を博して欲しいです。 書道に興味がある方、美少女部活ものが好きな方、山梨県民の方にお薦めです。

ラストサマー・バケーション

幸せになりたい二人の哀しい女の子 #1巻応援

ラストサマー・バケーション 東洋トタン
兎来栄寿
兎来栄寿

BRIDGEはこういう作品が出てくるので良いなぁと思います。第1話には『マイ・ブロークン・マリコ』以来の衝撃をBRIDGE作品の中では受けました。 作者の東洋トタンさんも、新人賞を獲りたてで当時の平庫ワカさんと同じく初連載という状況であることや、女性二人の哀切な物語であるところも想起させる要因となっています。 重みと凄絶さ、そしてそれらを生み出す絵柄の美しさと迫力。描く方にも覚悟が要り精神を削りながら筆を握っているであろう、読む方の魂に深々と爪を立ててくるような作品を私は愛します。 1話で言うと、プールのシーンでの1ページ丸々使った音無さんの表情などは最高ですね。 そして、表紙も本当に素晴らしい。彼女たちの持つ言葉では言い表し難い複雑な感情が、笑っているようにも泣いているようにも見える絶妙な表情で一枚の絵として描き表されています。 敢えて作品の内容には深く触れないので、とりあえず読んでみて欲しいです。 余談ですが、一昨日紹介した『Mint Love ミントラブ ‐薄荷之夏‐』とは、同じ思春期の女の子の夏の物語でもこうも違うかと思ってしまいます。 東洋トタンさん、今後も注目して推していきたい新星です。Twitterでは他にも百合短編なども公開されているので、本作を読んで気になった方はチェックしてみてください。

アストロ球団

超思い入れがある作品

アストロ球団 中島徳博 遠崎史朗
酒チャビン
酒チャビン

中学生か高校生か忘れましたが、いずれにしても思春期に、いっとき往年のジャンプマンガにハマったことがありまして、当時ネットがなかったので、まず情報量が少なく、しかもネット通販も当然ないので、気になった作品を見つけられても、入手が困難という中で、日々暗いながらも楽しくすごしておりました。 そんな中、出会った本作品!!!「ジャンプコミックセレクション」みたいなシリーズの少し分厚めのやつがあったのですが、それのアストロ球団を発見し、即時に1巻を購入しました!持ち合わせがあって本当に良かったです。 内容としてはトンデモ野球マンガですが、とある運命を背負って同年同日に生まれた者どもが19歳時に集結して球団を結成するという設定は、何か009的な要素も感じ、非常にワクワクしました。ラスボスの球団も、各スポーツ界の超一流エリートをスカウトして、それぞれの特技を野球に活かして勝利を目指すというもので、それもすごく良いですね。燃えます! ただ、主人公チームのキャラ設定をもう少しバラけさせて個性を際立たせた方が良かった気もします。皆基本はHR打つんすよね。メガネの秀才キャラ(「聞いたことがある!!」的な立ち位置)や、お色気キャラ(ぱふぱふで攻撃するなど)などいても良かったかもしれないです。 気に入ってるシーンとしては、①大谷選手的な意味ではなく、宮本武蔵的な意味での二刀流の選手が登場する点、②両球団の話し合いにより、正規のルールをある程度無視しても良いことになっている点、③浪花の春団治こと川藤選手がホームランを打つシーンが出てくる点(実際の川藤選手は、19年の現役生活で16本しかHRを放ってません)、④ピッチングの音で「グワシャバー」という独自表現が使われてる点(のちの岩鬼のバッティングにも影響を与えたでしょうか?)、⑤バロン森、⑥球三郎の兄・大門がグレた理由が親が入院費を払ってくれなかったからという点、等々、枚挙にいとまがありません。 ちなみに12巻くらいから試合中に死人が出るなど、どんどん野球とは関係ないバトルマンガ路線を突き進みますが(そもそも相手球団はアストロ球団の抹殺が目的と名言)、最後らへんでスポーツマンシップに則った展開に回帰します。さすがジャンプ。 あと展開の遅さも歴代トップクラスではないでしょうか。全20巻でなんと総試合数が3。試合以外のシーンの描写が多いわけではなくこの数字です。最後の試合の幕切が押し出しというのも、何か非凡なものを感じました。 ですが★自体は3とさせてください。他にもたくさん好きなマンガが、私にはあります!