木曜日のシェフレラ スクールカウンセラー五加木純架【電子単行本】

悩み多き子供たちに寄り添う仕事 #1巻応援

木曜日のシェフレラ スクールカウンセラー五加木純架 大澄剛
兎来栄寿
兎来栄寿

少子高齢化により子供の数は年々減っているにも関わらず、不登校の児童数は年々増加しており昨年には過去最多の24万人になったといいます。 原因は様々で一口にはまとめることはできず複合的な要因があるとは思いますが、少なくとも子供たちに掛かるストレスが大きくなっていることは確かであり、それは解決していかねばならない社会課題でしょう。その方策のひとつとして、スクールカウンセラーが存在します。私の子供の頃にはいませんでしたが、今は9割ほどの学校に配置されているようです。 本作は、そんなスクールカウンセラーの仕事模様を子供の苦悩にフォーカスしながら描いた作品です。重めですが、現代社会においては普遍的なその重みをしっかり捉え受け止めて前へと進もうとする良いお話です。 スクールカウンセラーである五加木先生は、週に1回小学校で児童たちの相談役を務めています。1巻では、大畑くんと石動さんのふたりのエピソードが描かれます。ふたりの抱える悩みは、自分一人で処理するには大きく、そうした時に五加木先生がいるかいないか差は甚大だなと感じます。ただ、スクールカウンセラーが学校にいられる時限やキャパシティにより救えないケースの示唆もされており、現実的にも難しい課題です。 カウンセラーにとっては基本ではあるでしょうけど、五加木先生が偉いのは児童の話すことに対して一切の否定をしないこと。石動さんのある言動などは、担任教師のようにヒステリックな反応をしてしまいがちですがそうはしない。大人は経験を踏まえた考え方で、子供の思考を未熟と断じて否定したくなってしまったり実際に遮ったり押し付けたりしまいがちですが、そういったことは一切せずに子供の放つメッセージを掬い取ろうとする姿勢が素晴らしいです。 また、石動さんのエピソードでは、石動さんが好きなアーティストを教えるとそのアーティストをがっつりと聴き込んで語らう様子もありしましたが、そういうことで子供の信頼感は少しずつ得られるんですよね。私も、心の悩みを持った難しい年頃の女の子と荒野行動や少女マンガを糸口に話したことを思い出しました。 子供は、しっかり文章で話せるようになってはいても、実はまだ思っていることを上手く言語化はできなくて想いをきちんと伝えられない、むしろ下手に伝えて誤解させ悪化してしまうこともままあります。そうした部分を加味して、大人は言葉尻に反応したり、論理の飛躍に困惑したりせず寄り添わねばならないなと思います。 私も小中高の間、誰にも話せない家庭の悩みを抱えて生きていたので、もしこんな良いスクールカウンセラーの先生がいたらもう少し楽に生きられていたかもしれません。この作品を読んだ悩みを抱える子供が、誰かに相談して少しでも楽になるという選択肢が生まれたら良いなと思います。 個人的には、子供に対する教師もあまりにもストレスフルで人道にもとる働き方を強要されがちな面があるので、教師のためのカウンセラーも学校にいて欲しいくらいです。

201号室のおとなりさん

大学生ヒロインの純情な感情 #1巻応援

201号室のおとなりさん 日向きょう
兎来栄寿
兎来栄寿

『ブラザー・トラップ』の日向きょうさんが送る新作です。巻末には、『ブラザー・トラップ』の撮影現場へ訪れた際のレポートマンガも描かれており、非常に幸せな実写化であったことが伝わってきます。 『201号室のおとなりさん』もまた、良い感じに心を擽られる大学生×社会人のラブコメです。 ヒロインの美和、通称みーすけは ・弟妹が多く裕福ではない家庭を助けるために、大学ではしっかり勉強してちゃんと稼げる仕事に就きたい ・同世代が興味津々のお洒落や恋愛などに全然興味がない ・マイノリティな趣味のマスコットキャラクターが好きで常々珍妙な柄の服を着たりスタンプを送ったりする など、朴訥とした新大学1年生。大学時代、身近にもこういう子いたなぁと懐かしむと共に、性別が違うので事情も違うとはいえ後ろの2つは個人的にも共感を覚えるところです。 しかし、そんな彼女をかき乱す存在が幼馴染でもあり、隣人であり大家代理でもある社外人の千暁(ちあき)。生活力に乏しく、女性関係へのだらしなさを感じさせる再会時の印象が、色々なイベントを経て徐々に覆っていきます。 容姿端麗で外面も良くモテモテである千暁は逆にグイグイ来ない美和のような子の方が落ち着ける(ある意味で「おもしれー女」)というところがポイントとなっており、美和もそのことを徐々に理解しながらも自分としても初めて抱く気持ちの芽生えに翻弄されていく様子が見どころです。大学生になってからの初恋というのも乙なものですね。 美和と奇跡的に趣味が似通って友達になる同期の子や、同じアパートの住人たち、また1巻最後で登場する新キャラの子など脇を固めるサブキャラたちも魅力的で良い群像劇となっていきそうです。 ズボラな面もありつつ頼れてカッコいい男性像を見せながらも、その裏には陰をも感じさせる千暁との関係は周りを巻き込みつつどう展開していくのか。そして、気になるきぐるみあにまる同好会の活動内容とは。 本作も順調に進めばメディア化して人気を博して行きそうな盤石感を覚えます。ピュアで真面目なヒロインのラブコメを読みたい方にお薦めです。

殷周伝説

紀元前1100年くらいの話です。

殷周伝説 横山光輝
酒チャビン
酒チャビン

今から3000年も前の話ですね。おそらく人間の形とかも今とは全然違ったでしょう。さすがに。 舞台は中国は殷の時代です。三国志とかそういう感じの作品と同じジャンルです。読み味も似ています。 ただ個人的には、同作者の史記・三国志・水滸伝・チンギズハーン・織田信長・豊臣秀吉・武田信玄あたりと比べてイマイチ入り込めませんでした。 やっぱ前提として登場人物のことを知らなかったんですよね。他のは光栄などのお陰で、かなり武力の値や兵科の種類などかなり知ったうえで読んでいたので、脳内で膨らませられたのだと思います。 そういった意味では、やはりマンガにおける登場人物の掘り下げって、すごく大事なんだなと気付かされた作品になりました。横山先生、死してなおありがとうございます。 あと紂王と妲己が本当にやばくて、早く倒してもらってスカッとしたかったのですが、まさか最終22巻までこの方達がラスボスとして居座り続けるとは思いませんでした。 まぁ史実(というか3000年前だと史実かすらもわからないですが)なのでしょうがないのですが、やはり当初のボスは、いい塩梅のところで倒されてもらって、その後さらに極悪で強いボスが登場する、という作りの方が物語としてはエモーションを感じますね。 でも読んでよかったと思ってます。

メゾン・ド・レインボー

優れた人間観察の賜物 #1巻応援

メゾン・ド・レインボー 榎屋克優 レインボー
兎来栄寿
兎来栄寿

芸人のレインボーさんのコントをコミカライズした異色作です。 今やレインボーさんはYouTubeのチャンネル登録者数も90万人に迫り『おはスタ』などにも出演する大人気芸人です。以前、まだ世間ではそこまで有名ではなかった頃に私がやっていたお店のイベントに何度か足を運んでくださっていました。とても人当たりが良い方々で、オフでのフリートークも面白く、またマンガ愛にも溢れていて、もちろんお二方の努力故なのですが「売れるべくして売れた」という印象が非常に強いです。 『日々ロック』や『ミツコの詩』などがとても好きな身からすると、そんなレインボーさんたちのネタが榎屋克優さんによってコミカライズされるというのは何とも不思議で嬉しいです。 元々、池田さんが「人間図鑑」というものをInstagramでやっていたこともあり、現実に存在しそうなキャラクターを生み出すことにかけては卓抜しているというのは大きな強みです。本作でも、「いるいる!」と思えるような人物たちが躍動しています。 「人間が興味あるのは、結局人間」 と言われることもありますが、そういう意味では人間への観察眼を磨いて練られた芸人さんのネタはストーリーやキャラクターの造型が非常に優れた作品が多いので、こういったコミカライズをしても(恐らく何の予備知識もなしに初めて読む人であっても)十分に楽しめるであろうものが出来上がるんだなぁと感心します。 余談ですが、本作にもポケモンをやっているシーンが登場しますが池田さんがポケカを好きすぎて生まれたポケカをやってる社会人シリーズのネタが個人的に好きです。実在の商品が絡むので許可も必要そうですが、あのネタもマンガでも見てみたい気持ちがあります。