うちらのはなし 木村恭子デジタル短編集

個々の地獄の相対化を優しく制する物語 #1巻応援

うちらのはなし 木村恭子デジタル短編集 木村恭子
兎来栄寿
兎来栄寿

一昨年の暮れに『りぼんスペシャル』に掲載された読切「ママの友達」が、こちらの短編集に収録されると共に『ジャンプ+』にて掲載されて話題を呼んでいます。 埋もれさせてしまうにはあまりにも惜しい作品だったので、こうして日の目を浴びて嬉しいですし『ジャンプ+』への掲載を決めた方は英断だと思います。 同時収録の、こちらも『りぼんスペシャル』2023冬号に掲載された「一緒に起きてる」共々、ただの友達という枠を超えた特別な繋がりが生じる少女たちの関係性を描いており、『うちらのはなし』というタイトルでまとめたのは言い得て妙です。 「ママの友達」の方は『ジャンプ+』で読めるので、まず読んでいただければと思いますが1コマ目から「私と生理」という書き出しで始まる生理の重い高1の女の子・星野の物語です。 この作品では「生理」という現象で描かれていますが、たとえ同質の苦しみであっても人によって多寡や軽重があるにも関わらず「自分は大丈夫だったから/できたから、他人も大丈夫/できるはず」のような想像力の欠けた考え方をされてしまうことは実社会でもままあります。 親にも友達にも先生にも理解されず悩みを抱えることがどれだけ辛く苦しいか。逆に、そんなときに初めて理解を示してくれる人が現れることのどれだけ嬉しいことが。「ママの友達」には、そんな辛みも嬉しさも余さず描かれています。 また、もう一篇の「一緒に起きてる」もその辺りはとても顕著です。 大きな辛苦を抱えて生きる少女が 「ここの施設には私よりしんどい子もいる」 と語る際に主人公が 「ふつうとか私よりとかないよ」 と、個々人にそれぞれある地獄を相対化して矮小化させてしまうのは良くないことで悲しいことであることを、シンプルな言葉で力強く伝えてくれます。たとえどれだけ世間に似たようなことで苦しんでいる人がいて皆それを堪えて生きているとしても、あなたが今抱えて泣いている苦しみはあなただけのもので、それが大したことはないのだなんて誰にも言う権利はないのだと、優しく抱擁してくれるような作品です。 「一緒に起きてる」は、その他の部分も含めて大いなる崇高さを感じる素晴らしい短編です。普段少女マンガは読まない、という人にも推したい短編集となっています。デジタル限定なのが惜しいくらい、最高です。 これらの作品で木村恭子さんに興味を持った方は、ぜひ『小さな恋のでっかいメロディ』や『好きにならずにいられない』も読んでみてください。『こどものおもちゃ』と並べて語られていますが、まさにそうした大人が読んでも楽しめて子供にも読んで育って欲しい意義ある作品群です。 少女マンガソムリエの田舎はるみさんもこれらの作品についてマンバ通信で大絶賛しているので、こちらもご参照くだされば。 https://manba.co.jp/manba_magazines/15045 https://manba.co.jp/manba_magazines/13370

誰も懲りない

「世代を越えて引き継がれてしまう負の連鎖」を描いた機能不全家族漫画

誰も懲りない 中村珍
名無し

「家族」によって押し込まれ、ねじ込まれ、見放され、将来の蓋を閉められたある女の物語。 「ギリギリの正気と生命を保っているだけでも心の底から凄い」と思ってしまう程の極限とも言える理不尽な精神・身体への暴言・暴力(精神的虐待・身体的虐待・性的虐待)を「家族(および近親者だった人)」から受けている女性の主人公が、親族同様に自分勝手に生きようとせず、理性・常識性をギリギリに保ちつつも狂いきってしまわないどころか、そこかしこに自分を責めてしまうほど脆い心を持つ上、家族がクズになり下がるほど歪んでいようとも、家族との縁を切りきっていないところは読んでいて苦しかったです。 主人公が抱える怒りは、途中までは各々が努力して上手く機能していた家族が有る出来事を発端に崩壊した事に依るものです。 主人公が抱える「家庭崩壊のトラウマ」や「信じて居た者からの裏切りと置き去り」によって湧いた怒りは、幼少時~少女時代に家族から与えられていた「一家の誇り」と「幸福」の記憶が残っているだけに性質が悪く、その感情がコントロール出来なくなった時に、主人公自身もまた暴言・暴力を弱き立場になった者へと振るう…あれほど忌み嫌っていたにも関わらず。 モノクロ(ほとんど白い背景)で構成されたシンプルな作画である一方、チクチクする感覚と、ガンガンと殴られる感覚が半端ないです。 かきおろしパートでの主人公の言葉は何度読み返しても「経験した人にしか口に出来ない言葉なのだろう」「現代の悲惨な精神構造がここにある」と感じてしまいます。 ニーチェが指摘した「奇妙な自己虐待の本能」、あるいはフーコーが言った「生-権力による自己監視システム」の苦しみが、本作ではこれでもかとばかりに描かれている…そんな漫画作品です。 重すぎる上に辛すぎる機能不全家族漫画ですが、私は思うところがあってたまに読み返しています。

セーフセックス

人肌な温度の可愛いがよくてずっと良くて浸ってられるラブコメ

セーフセックス 森もり子 岩浪れんじ
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

なんだか愛おしくなる可愛さをもった大人の男女二人が送る日常系セーフセックスラブコメ。 https://ynjn.jp/title/9993 昨年、ヤングジャンプに掲載された読切版を経て連載化!ということでおめでとうございます! 読切掲載時だけなぜか名前を微妙に変更していたのはお遊びだったんでしょうか、気になるところです。 原作:『ギャルと恐竜』森もり子 改め 森開発 作画:『コーポ・ア・コーポ』岩浪れんじ 改め 岩波海岸(ビーチ) そして連載化してからは元の名前なので、なんでだかちょっとほっとしました。 読切では、男の自宅でセックスしたくて盛り上がってきたけど、部屋にコンドームが見当たらなくて、コンドームを買いに外に出るけどなかなかセックスに辿り着かないという話。 セックスを前にしたもどかしさと、男が素直にあわあわしてる可愛らしさとそれを見て愛でる女の可愛さ、そして焦らすようなからかいを見せる女の余裕さがとっても良いんですよね~。 そして、セックスに辿り着かないその時間、その時間こそを楽しく過ごせるこの二人っていいよね、という気持ちで溢れてきます。 連載では、この読切の2人の居酒屋での出会いから始まります。 やっぱりなかなかセックスしそうでしない、という展開にはなるんですけど、この会話の気持ちよさ、テンポや温度、お互いに可愛いなって思ってる距離感すべてが気持ち良いんですよね。 可愛いなって思うその温度感も、沸騰しそうなものじゃなくて、人肌のぬるま湯な感じのじわ~っていう温度だからずっと浸ってられる良さがあります。 絵もいいんですよ、岩浪れんじさんの。 ちょうど気だるそうというか、肩に力入らず気負ってない感じ。あと愛ちゃんの顔の輪郭が適度にふっくら丸いのが好き。シャープじゃなくて丸みのある顔に、いつも薄く微笑んでる感じが菩薩味があっていい。 おっぱいとかおしりとか、体のラインがめちゃくちゃきれいでエロいのがすごい。 https://twitter.com/iwanamirenji/status/1656524710409306113 これからも見続けていたい二人です。 読切版はこちら https://tonarinoyj.jp/episode/3270296674368099152