胸にとげさすことばかり

死んだ父親が残したのは、家と"謎の男"

胸にとげさすことばかり 雁須磨子
nyae
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自分がゲイであることを受け入れてもらえなかったことで家出してから、実家との縁を断っていた主人公・昭が、父の死をきっかけに田舎に帰ります。そこで出会った謎の青年・舟は、生前の父親とやけに親しかったようで…同性愛なんか認めない父親が、どうして?(しかもこんなイケメンと!?ずるい!) まるで死んだ父親を含めた歪な三角関係が出来上がってしまっているようにも見えます。しかし地元を離れていた約十年のあいだ、父親がどう生きてなにを思っていたかは昭は知りません。何もかも上手く行かない人生にくすぶっていた昭も、舟に出会ったことでその空白の十年と向き合い、変わっていく様子が描かれます。最初は素性の知れない舟に対してピリピリしっぱなしだった昭も、舟と同居するようになってどんどん丸くなります。そして逆に、昭と出会ったことで舟も本当の自分に気づき始めます。 ボーイズラブであることには間違いないですが、若い頃、田舎に残してきた"しこり"といつかは向き合わなければならないことを思い出させるような、そういう話でもあると思います。あと個人的に、ふたりが両思いになるまでに長い時間を使うのは好きな方です。2回くらい昭が下心出したときに舟からすごい拒絶のされ方してますからね。そう考えると昭のメンタルは強靭だな… 脇役もみんないい味出してます。

商店街ものがたり

愛にあふれた商店街のものがたり

商店街ものがたり サンバ前川
野愛
野愛

人間模様がしっかりあって、とんでもなく悪いやつは出てこなくて、もどかしくなったりちょっとだけすれ違ったりしながらもすんなり読めてちゃんとエロい。つまりはとてもよいBLでした。 数年ぶりに帰った地元で、相変わらず可愛いけど大人になった幼なじみと再会するのがまず良い。 大人になったなあ…と思ったら大人になりすぎちゃってドエロいビッチになっちゃってるのも良い。 ドエロいビッチなのに相変わらず可愛くて、俺がいないとダメだって思わされちゃって、でも商店街のために誰よりも奮闘してる立派な人間になっていて…寂しいような切ないような気持ちになってしまうんですね。 テンポ良く進む割に主人公・翔大と幼なじみ・麻琴の心模様はしっかり描かれているので、しっかりがっつり感情移入できます。 純情ビッチ麻琴が可愛くて可愛くて仕方ないし、可愛いだけじゃなく芯の強さや愛の深さも伝わります。麻琴とそういう関係になってる商店街の男たちも案外いいやつらなんです。 いいですね。いい商店街ですね。これからもみんな幸せでいてくださいね…!という気持ちになりました。 BのLの作品のことを「山なしオチなし意味なし」なんて言葉であらわすこともあるけれど、人を愛したら山も谷もあるしハッピーエンド以外のオチなんていらないし人が愛し合うことに意味があるとかないとかどうだっていいじゃないか。 2人が幸せならなんだっていい。この商店街には愛がある。

ボーイミーツマリア

追悼・PEYO(恵口公生)センセイ

ボーイミーツマリア PEYO
さいろく
さいろく

亡くなった恵口公生センセイの別名義だったと聞いて。やたら活劇に向いた絵柄だと思ってたのもあってBLでは珍しいと勝手に思ってました。 確かなBL作品なんですがBL要素は尊さなりがほとんどなのでシンプルに尊いです。エロ要素は皆無と言っていいほどの尊さなので世界中の男性に向けてオススメできます。 それよりストーリーの尊さや愛の尊さ、大河の天然壁破壊攻撃の尊さ、マリアの演劇への熱意の尊さなど尊いです。 わずか23歳で故人となってしまわれた。なんということだ。 月マガ連載中だった「キミオアライブ」も未完となってしまったわけで、辛い。 だからこそマンバのような場でもっと知ってもらって、手にとってもらって、出来たら脳裏の片隅にでも残してもらいたいなぁと思いました。 作品のクオリティ、絵の抜群の上手さは本当に23歳って言われても全くそんなふうに思えないレベルです、ていうかマジでベテランの域だと思う。 こういう絵が超上手い先生が作品を色々経て迷走しまくったりして、最終的に元のタッチに戻ったりしていく背景を追う未来が欲しかった。 関係者でもなんでもないですが、お悔やみ申し上げます。 R.I.P.