預言者ピッピ

もしかしてAIが発達したらこうなるんじゃね?

預言者ピッピ 地下沢中也
かしこ
かしこ

マトグロッソさんのインタビューで預言者ピッピの続きについて触れられていたので久しぶりに読みたくなりました! https://manba.co.jp/manba_magazines/25517 自然災害を予知する為に作られたロボットのピッピ。災害に対するあらゆるデータをインプットし予測の実験を繰り返すことで大地震の発生を3ヶ月前に予知することにも成功していました。ピッピを作り出した科学博士の息子タカオは「ピッピが願ったから多くの人を助けられたんだ!」とまるで兄のように慕っていましたが、交通事故によりピッピの目の前で亡くなってしまいます。自分の予測に反した出来事が起きたことで一時的に活動を停止してしまいますが、再起動したピッピの中にはなんとタカオの人格が生まれていたのです。そしてピッピは自然災害の予知以外にも自分の能力を使いたいとデータの入力制限の解除を求めてきて…。 AIが発達した社会はこうなるんじゃないかと予知していたかのような内容です。読んでいて最初は人知を超えた力を持ったピッピのことを畏怖しますが、だんだんとそれに振り回される人間の集団心理の方が恐ろしく感じられるようになります。ピッピがデータの入力制限の解除をすることに反対していた博士の「人間には迷う自由、間違う自由がある」という言葉に今は共感するけど、今よりAIが発達するであろう10年後の自分が全然違うことを感じたらどうしよう。

マタギガンナー

マタギ系漫画だ!やったー!と思いきや

マタギガンナー 藤本正二 JuanAlbarran
さいろく
さいろく

まさかのe-Sports系。 1巻の表紙買いをしてしまった自分が悪いんだけど、初めて手に取るタイトルは買う前にあらすじを読むのも重要ですね。 せっかく買ったから読もう→気づいたら6巻まで読み終わってた! クチコミ残そう、と思ったらマンガ沼webでピックアップされてて、川島さんがザックリ説明してくれてました。 https://manba.co.jp/manba_magazines/26332 個人的にFPSはPUBG・APEX・フォートナイトぐらいしかやったことないんですが、本作ではAPEXっぽいゲームを、伴侶に先立たれたお爺ちゃんマタギがひょんなことからプレイしてみるというマンガ。 どうも原作者がスペイン人らしい。スペインで原作書いて日本人が日本でマンガ起こしてるのってすごいな。 ただ、なんでそんなにいきなりFPSが上手になれるのか…?とか無粋な事も正直思ったのでそこら辺を割愛せずに説得力持たせてくれたほうがよかったのでは、とかは思いましたが、そんなこたーいいよっていうぐらいサクサク話が進みます。 大枠を俯瞰すると典型的な展開ではあるものの、そういう典型的な徐々に仲間が増えていったりする物語をスピード感持ってサクサク描かれているのは人気が出るのもわかりますね。スナック的に楽しめるので(悪い意味ではなく)ご時世的にはとっつきやすいのかな。 1巻を読んだ時点では、川島さんも言ってますが2巻ぐらいで終わっちゃいそうな雰囲気がしてましたが現在6巻まで。また続き出たら読むと思います。

スペースカーガールズ

女子ふたり、東北車中泊旅情 #1巻応援

スペースカーガールズ 庄司七
兎来栄寿
兎来栄寿

山形県在住の庄司七さんが描く、車中泊旅マンガです。 かけだしのマンガ家・葉月と、幼馴染のフリーター・ほのかが「スペースラビット号」に乗って東北の名所を中心に、1巻では 山形県 鶴岡市・村山市 宮城県 伊豆沼・内沼 青森県 十和田湖・奥入瀬渓流 秋田県 大曲 を巡っていきます。 東北はあまり行けていないところが多く、個人的には新鮮味もあって楽しめました。宮城だけは複数回行ったことがあるのですが、遊覧船に乗って周遊する伊豆沼内沼のハスの群生沼は未体験。実際に行ってみたいなと思いました。 キャンプマンガ的な、ご飯を作って食べて寝てという部分も楽しく描かれています。回を追うごとに少しずつ車中泊・キャンプ用品を揃えていくのが、RPGで段々と良い装備を整えて強くなっていく感覚に似ていて楽しいです。『ゆるキャン△』などがきっかけでキャンプに入門した人は特に共感も深いのではないでしょうか。 高いキャンプ用品はなくとも、300円ショップなどで何とか工面して 「こういうのでいいんだよねー あたし達は」 とできる友達がいることが何よりの財産です。 1話からエビフライカレーとチャーシューメンと日替り定食とカツ丼を一度に頼んで一口もシェアしない大食いのほのかが、毎回ご当地グルメを爆食いする様子も見どころです。 布海苔を使った西馬音内そば 羽後牛の焼肉丼 五葉豆のジェラート など、知らなかったものも多く行ったら一度食べてみたくなりました。 山形弁全開の葉月は、山形県民の方が読めば安心するのではないでしょうか。山形県の方には特に、そうでない方でも旅やキャンプが好きな方にお薦めです。 余談ですが、私は日本酒が大好きで特にお米が美味しい東北の日本酒にはリスペクトしかなく、とりわけ一番好きなのは山形の十四代。また、あとがきにも書かれていましたが冨樫義博さんを育んだのも山形県。最高のお酒と最高のマンガは山形県なくしては存在し得なかったわけで、山形県に感謝です。

君は武道館に立てない

夢という呪い

君は武道館に立てない 多田基生
六文銭
六文銭

「夢なし先生の進路指導」も、そうだったのですが、やりたいことや夢を追うこと美化しすぎる昨今に、現実を突きつける作品です。 主人公は25歳でアイドルを目指している女性。 弱冠アイドルとしての旬は過ぎている感は否めないが、それでも過去、地下アイドルだった時の高揚感が忘れられずズルズルと夢を追い続けていまに至る感じ。 そして、さるオーディションで、主人公のアイドルを諦めない姿勢 「どこまでもしがみつく根性」 の点が、プロデューサーの目にひっかかり再デビューを果たす。 が、現実はそんな甘くなく、業界人や財界人とギャラ飲みやら枕営業などを強いられるという展開。 プロデューサーが目をつけた「しがみつく根性」には「何をしてでも」という枕詞が隠されていたってオチ。 まぁ、タイトルからしてそんな予感はしてましたが、それを知った上でもなかなかエグい。 プロデューサーのセリフも、わかった上でやっているんだから鬼畜そのもの(添付参照) また主人公のバイト先に、夢を追う主人公を現実路線で冷ややかな目でみる男子大学生の対比も良い感じです。 1巻の最後がなかなかのヒキなので、続きが気になる。 そして、この枕を強要された事実を武器に文◯砲をもって裁判で闘う元アイドル的な(現代風刺的な)展開になったら、歓喜します。

みょーちゃん先生はかく語りき

ポルノ原理主義

みょーちゃん先生はかく語りき 鹿成トクサク 無敵ソーダ
江戸川
江戸川

ネタバレ含まないように内容には触れず。 タイトルは、ニーチェの名著「ツァラトゥストラはかく語りき」から取ったのは明らかだが、内容は一切関係ない。 気持ちいいくらいポルノ(商品)として作っている作品。 たくさんの美少女たち(年齢は違うが、造形は全て幼さが残る女性たち。エイジズムを感じさせる)が、性にまつわる話しや実践を行う。読者は傍観者であり、覗き見している感覚にさせる。劣情の煽り方がうまい。 ニーチェの言うところの「深淵」はない。深堀りするのが野暮なほど、ポルノに徹している。 こういうお粗末でシンプルな作品は、気持ちいいので嫌いではないが、哲学的に考察することが趣味なので、あえて違う角度から。 ポルノに徹するこの作品、ある意味、漫画家たちの高尚なものを作りたいという有りがちな心情へのアンチテーゼに思える。 なぜニーチェの言葉を引用したのか。 「神は死んだ」という有名な言葉があるが、作者は「高尚なものの存在価値は死んだ」と、言いたいのではないか。 ある意味、正解である。 漫画を通して、何かを伝え、誰かを救ったり世界を少しでも良くできるか? 非常に難しいだろう。 それならば、一日の疲れを癒やすようなサプリメントのような役割に徹する。そちらのほうが役に立つのではないか、と。 間違っていないような気がする。 しかし僕は、宮崎駿や高畑勲などの「漫画やアニメという媒体は、思想の伝達のツールとして有能」という理由からの、ある種のアンガージュマンに感動する。 日本はもう下降する一方だ。景気のいい時代のように、考えないままでいるわけにはいかない。「パンとサーカス」を与えている場合ではないのだ。 商業主義、拝金主義に迎合せず、使命感を持って、血も滲むような努力をしながら、「微かな可能性」にかけて制作する作家たちを応援したい。 ニヒリズムに陥って居直る作家たちよりも。