青年マンガの感想・レビュー15408件<<489490491492493>>エジソンがヤバい…だけではない「人間讃歌」の短編集変人偏屈列伝 荒木飛呂彦 鬼窪浩久ANAGUMA世界の奇妙な人たちの逸話を荒木飛呂彦と鬼窪浩久がマンガで紹介する風変わりな偉人(?)マンガ短編集。 事実は小説より奇なりと言いますが、実在の人物を荒木飛呂彦が取り上げて面白くならないはずがありません。 ニコラ・テスラに向かって「このスカタン野郎がアーッ」と怒鳴り散らす発明王エジソンの姿が有名だと思いますが、読んだ当時もかなりキレてるなと舌を巻いた思い出があります。 今となっては外道エジソンの人物像も割と普及してる気がしますが、1989年の時点で荒木先生がここまで完成させてたわけですね。 個人的に一番好きなのは『ウィンチェスター・ミステリー・ハウス』。 銃火器メーカー・ウィンチェスター社の社長夫人サラは、人命への罪の意識に苦しみ、生涯に渡り「悪霊から逃れるため」自身の邸宅を増築し続けたことで知られています。 夫の手掛けた銃が世界中に広まることは歴史の必然のようなものであり、彼女にはどうにも防ぎようのない出来事でした。 手の届かぬ因縁に人はどう立ち向かうのか、という『ジョジョ』のテーマでもある問いかけが本作にも通底しているのです。 いずれの短編も、とんでもない人物たちへの驚嘆、畏敬の念を綴った荒木イズム満点の紛れもない「人間讃歌」の物語です。 可能であれば初回刊行時の函入り単行本で読むと味わいが増すような…気がします! 実に奇妙なデザインなので。最高にひどい(褒め)まあどうせいつか死ぬし ~清野とおる不条理ギャグ短編集~ 清野とおる名無しマン頭がおかしくなりそうな短編集で、笑いをこらえるのに必死だった。掲載されなかった(できなかった?)お蔵入りのマンガも読んでみたい。清野さんの絵が嫌いじゃなく、とんがった漫画を読みたい人におすすめ。この一冊で売野機子にハマりました!売野機子作品集 売野機子TKD@マンガの虫売野先生の作品は初めて読みましたが、収録されている作品全てどれも傑作です。 表題作の「薔薇だって書けるよ」も素晴らしいですが特に僕の心に残ったのが「日曜日に自殺」です。アーティストが作品に込めたメッセージがどのようにして人々の記憶に残り次の時代、そしてまだ生まれてきていない子供たちに受け継がれていくのかを非常にわかりやすいメタファーを使いながら詩的に表現しています。ラストのコマを見た時には本当に胸を打たれ、自分はきちんと彼らのメッセージを受け取り実行しているだろうか?と真剣に考えてしまいました。 また、同人時代の作品「晴田の犯行」(この作品も非常に完成度が高いです)も収録されているので、先生がアマチュアからプロとしてデビューするまでの軌跡を追うという意味でも価値のある一冊だと思います。 装丁も素晴らしいので、可能であれば電子版ではなく紙の本で手にとって欲しいです。斬新武士スタント逢坂くん! ヨコヤマノブオ名無し設定面白い。 先が楽しみ。 ゆるくて~かわいい~きょうの猫村さん ほしよりこやむちゃえんぴつ描きの線やセリフのゆるいフォントなど、パッと見でも癒やされること間違いなしなんですが、キャラがね、本当に独特でみんないい味出してて面白い。話の設定も、1巻の10ページまでめくってる間に完全に引き込まれちゃうから猫飼いにはぜひとも読ませたい「面白さ」とはなにか道中師 小池一夫 小島剛夕(とりあえず)名無し※ネタバレを含むクチコミです。サガノヘルマーは、今、どこにいるのだろう。わんぱくTRIPPER サガノヘルマー(とりあえず)名無し…って、別にググればいくらでも現在のサガノヘルマー情報は出てくるのですがね。 しかし、どんなにググって「知識」を得ても、この奇才の掲載当時の衝撃度は、知らない人にはたぶん推測することもできないのです。 かつてヤンマガ本誌で、つまり、日本中のコンビニで誰でもごくごく手軽に買える媒体で、常軌を逸したエロとグロをまき散らしまくっていた異形の奇才が、今はほぼ忘れられてしまっているのに茫然とする。 このマンバでも、作品一覧に『BLACK BRAIN』がないのだから。ヤンマガで連載して単行本10巻とか出していたのに…。 まあ、それもしょうがないのか。 ヒドい(=凄い)漫画家だもんなあ。 今じゃあ絶対、一般誌に載せられないよなあ。ホントにヒドい(=凄い)もんなあ。 『わんぱくTRIPPER』は、サガノヘルマーのデビュー作です。 さすがにデビュー作だけあって、その資質が全開です。作者も編集部も、ほぼコントロールできてないです。ヒドい(=凄い)です。個人的には、ブラブレや後年の成年誌発表作より、イっちゃってると思います。 素晴らしいです。 駕籠真太郎とかがお好きなかたは、ぜひ。 これが、日本中で若者が読んでいた雑誌に載っていた時代があったんだなあ。 「僕は二十歳だった。それが人生でもっとも美しいときだなんて誰にも言わせない」 ポール・ニザン まあ、少なくとも毎週サガノヘルマーを読んでたのが二十歳頃だったら、そりゃあ美しくはないよなあ。ヒドい(=凄い)よなあ。 父と娘マイガール 佐原ミズ大トロ少しずつ親子になっていく過程が泣けます。 コハルちゃんがかわいいです。安易に激辛が好きとか言ってはいけない(戒め)激辛課長(読切) 前田悠名無し世の中には安易に好きと言っていけないものがあると思う。山登り…絶叫マシーン…そしてこの読切のテーマ「激辛」。 https://comic-days.com/episode/10834108156682106417 新しい部下の女性に、なぜか危険な匂いを感じて苦手意識を持っていた主人公は、彼女から「私のこと苦手ですか…?」と尋ねられ、フォローのため食事をおごることを提案する。激辛料理が好きだという部下の言葉を聞き、主人公は実際は人並みのくせに調子よく「辛いものに目がない」と返事をし、2人は新橋の中華料理屋「味覚」を訪れる…というあらすじ。 https://tabelog.com/tokyo/A1301/A130103/13130295/ 女性の手前、男の意地を懸けて完食したいが、頼んだ麻婆豆腐は調理中店内に漂う空気でむせるレベルの代物。**「見せてやる 男の意地をっ!!」からの「全然無理!!」の即オチが最高だった。** 激辛料理を食べながら、主人公が「もしやこの部下は、激辛に四苦八苦している自分を見て楽しんでいるのでは…?」疑心暗鬼になる描写がめちゃくちゃ上手い。 8月に『第4回俺の零話プロジェクト』の読切として公開された本作は、見事11月12日よりイブニングにて連載がスタート。 https://manba.co.jp/boards/112387 今後もこの2人に会えるのを楽しみにしています。天才小説家・野崎まどが放つ極上の絶望バビロン 野崎まど 瀧下信英mampuku 伊藤計劃や虚淵玄、冲方丁らに比肩しうる「天才」野崎まどが放った"読む劇薬"こと超問題作『バビロン』シリーズ。原作小説は現在3巻までリリースされています。極めて理性的な論理展開によって人類・社会に「問い」を投げかけ、しかしその裏では巧みな伏線や布石によって読者の感情を手玉に取りやがて絶望と恍惚へと引きずり込んでいく。 地獄のような物語を書く、悪魔のような作家です。 とりわけバビロンのヒロインにして悪役(ヴィラン)である「曲世」は、これまで出会ったことのあるあらゆる悪役の中でもとびきり極上の絶望でした。 「だれでもいいから、早くこの化け物を撃ち殺してくれ」と願わずにはいられない。 【上巻読了時点の感想】 コミカライズ版もよくできてはいるけどもともと上下巻に収まるようなスケールの話ではないので結果的にはやはり超駆け足です。 原作小説を読み、賞賛し、胸糞悪くなり、反芻し、後悔し、やがてまた身体が「バビロン」を求めだすのでそうした頃にコミック版を手に取るのをおすすめします。 ※追記 ↑やっぱりおすすめしません。下に続きます 「エリア51」に無いものは無いエリア51 久正人ANAGUMA「あったらいいな」って思うものが描いてある物語が好きです。 自分が子供のころはまだ超常現象ブームの残り火が輝いていて、中学生の時にX-FILESをCS放送で追っかけて観たのは人生におけるひとつの原体験です。 UFO、UMA、超能力、心霊、都市伝説…。 存在するかわからないけど「あったらいいな」と思うとドキドキが止まらなくなる。 『エリア51』にはそれが「ある」のです。 ショボいオバケから全能の神々に至るまで、この世界にポンと現れたらこんな感じかもしれない。超常特区エリア51の中では彼らは異質なモノでありながらも、とても身近で親密な隣人として存在しているのです。 探偵マッコイと相棒のキシローのコンビは、そんな異常が日常となった世界をタフに生き抜いています。 奇妙な住人たちのあいだをドタバタ走り回りながら、とんでもない存在と当たり前に渡り合う…夢見た光景に心躍らずにはいられません。 全巻通して「次は何が見れるんだろう」というワクワクが途切れることはないでしょう。 エリア51には「あったらいいな」と思う、あらゆるものが「ある」のですから。最高のタピり方タピオカミルクティーを飲んでみよう。 カレーとネコましゅまろカレーとネコ先生の「みよう」シリーズ。今回は完全にタピオカに飽きてしまったママが、ドリンクの上手さの秘密(=行列とストレス)を生かしてタピオカ屋を開くお話。 ここまで読んできて気づいたけど、このシリーズってもしかして汚いこち亀なのでは…?🤔時事ネタを皮肉ったママが必ず破滅する流れは読んでいて安心感がすごい。 【過去作】 異世界に転生してみよう フリマアプリで転売してみよう YouTuberで人気者になろう今1番読むべきダークファンタジー魔女と野獣 佐竹幸典sogor25"魔女"を探して旅をしている2人組、獣の目をした美女ギドと棺を背負う男アシャフ。2人が魔女を探すのには、ギドの身に隠されたある"呪い"が関係していた。そして訪れる町で、2人は探し求める魔女の関係するしないに拘わらず奇妙な争い事に巻き込まれていく。 まるでこの世界が実在しそしてその目で見てきたものを描いているかのような完成された世界観、そしてそれを表現して余りある圧倒的な画力。各章ごとに盛り上がりの最大値を叩き出しつつ、少しずづだが着実に目的の"魔女"に近づいてゆくストーリーの構成力。今作が連載デビューとは全く思えない、間違いなく現行で連載されている中でトップクラスに完成度の高いファンタジー。 5巻まで読了。 本宮版・岩崎弥太郎伝猛き黄金の国 本宮ひろ志マウナケア史実ってまるで信用してません。大体が誰かのねつ造と思ってます。また、小説やドラマが人気になるとそれが真実ぽくなってしまうのも気にくわない。大河ドラマ「竜馬伝」などがそうでしょう。なので、この番組で岩崎弥太郎にヘンなイメージがつくのがイヤなのですよ。この人、天下の財閥・三菱の創始者。ですから、へそ曲がりな私なぞは逆にこの本宮漫画くらいのスケールの大きさがあっていいのではないかと思うわけで。”男”の語り部・本宮ひろ志が目をつけるだけの人物だということにしてほしいです。若いころは野望を抱き果敢に挑戦を繰り返すも失敗だらけ。成長するにつれ思慮深くなりながらも大胆に行動するようになり、自身が陣頭指揮をとって動く。そりゃあ人望も厚くなるし、人材も集まってくるでしょう。海運権を抑えるための値下げ合戦などは、やりすぎな気もしますが、資金はなくても夢はちゃんと社員に見せる。経営者の見本みたいなものです。というわけで、大河ドラマの扱いに不満がある方、そして三菱関係者の方にはこの漫画をぜひ読んでもらいたい。スッキリしますよ。ある少年が天使に導かれ世界を変えてゆく物語王様達のヴァイキング さだやす 深見真sogor25高いハッキング能力を持ちながらコミュ力が低く、高校を中退、バイトもクビになり、廃墟となったビデオショップに住んでいる少年、是枝一希。彼の目の前に現れたのは"エンジェル投資家"の坂井大輔。坂井は是枝に「お前の手を使って世界征服がしたい」と嘯く。住む世界の全く違う2人の出会いが、やがて世界を大きく変えていくという物語。 一見すると凸凹な2人のバディものっぽいけど、私には是枝が主人公の成長譚のように見える。エピソードを重ねるごとに、是枝のほうは何かしら新しいことを自分の中に取り入れどんどん引き出しを増やしていくけど、坂井のほうは細かい言動には違いがあるけど行動の軸は当初から一貫しているように思う。年齢面もあるかもしれないが、やはり坂井が是枝を導いて広い世界へと引っ張り出しているという印象が強く見えるからじゃないかと思う。ただ、単純な1対1のバディものではないからこそ、是枝は坂井だけではなく、巻き起こった事件に関わる多くの人々と"仲間"となり、文字通り是枝の世界を大きく広げていくことになる。そして最後の最後で是枝は坂井と対等な立場で坂井に問いかける。これによってこの作品が完結するところも清々しい、全19巻で綺麗に最後まで駆け抜けた作品。 全19巻読了アイドルがひたすら酒を飲むだけのマンガアイドランク さきしまえのき 宮場弥二郎六文銭アイドルが、色んな飲み屋でひたすら酒を飲む。 たった、それだけなのになぜか面白い。 ハシゴ上等、朝帰り上等、ちゃんぽん上等、ホントにアイドルか?って思うほど飲みまくる。 終いには、タンブラーにも酒を入れてくる始末。 ただ、楽しそうにガバガバ飲んでいる様は見ていて気持ちいいです。 飲み方とか、おっさん臭いものが多いけど、飲兵衛にはたまらない飲み方をするし。 このアイドルたちが、いかにバレずに飲み続けていくのか、見ものです。 ってか、 『国民の妹系アイドル 大宮ほのか(15歳)』 →実は22歳 さば読み過ぎだろ! 名作最終兵器彼女 高橋しん大トロ自分の大切な彼女が唐突に兵器になってしまうお話なのですが、とにかく切ないです。 セカイ系とかよくわかりませんが、完璧なラブストーリーだと思います。人と犬の目に見えない絆星守る犬 村上たかしPom “星守る犬”タイトルに大きく心惹かれた。 動物と人間の話は、心を揺さぶるものだけど、やはり涙なしには読めなかった。 お父さんとハッピー(犬)の出会いは必然で、お互いに必要な存在で、きっと、きっと幸せだったんだと思う。 そして読む時は家で1人で読むのが良いだろうなあ葵兄ちゃん…心中するまで、待っててね。 市梨きみ名無し最高だった タイトルからしてそんな気はしてたけど幸せとどん底の差がうまい このくらいガツンとくるもの出会うと嬉しくなる 葵兄ちゃん〜!! BLと侮るなかれ 読んで〜! 愛するという一つの例として純(ジューン)ブライド 𠮷田聡ナベテツまだ少年と呼ばれる頃に、何も知らずにこの作品を買って読みました。マセガギと言われても仕方ないし、母親にこっぴどく叱られたこともあります(それでも捨てられたりはしなかったんで良い親だと思います) 恋愛が甘い物である、ということは流石に否定出来ません。ただ、二人が一つ屋根に暮らすということは、終わらない「日常」に暮らすということでもあります。そこは決して天国ではないし、息が詰まるようなこともある。 それが「愛」という感情によって始まることだと、この作品はかつての少年に見せてくれました。恋人は決して美しいだけの存在ではない。自分と同じように肉体を持った存在であり、そのことで苦しめられることもあるんだと、異性のことを何も知らなかった頃に学んだものでした。 バブルの頃、恐らくこの作品のような生き方は現実感を失っていたのではないかと思います。今の時代にはどうでしょう。若者が貧しくなっている現実もありますが、こんな関係からは恐らく逃避するんじゃないかとも思います。ただ、作中に登場する人達は、自分自身を取り巻く日常に対して必死で生きています。誰に笑われても構わない。唯一人のために生きているという現実は、自分のためだけに生きている人間には、まっすぐで美しいものに映ります。 この時期スローニンやDADAを描いていた吉田聡先生にとって、明らかに異なる作品であり、ある年代にとっては忘れられない作品だと思っています。-(マイナス)×-(マイナス)=+(プラス)I【アイ】 いがらしみきお影絵が趣味よく「動物を擬人化させたマンガを描くひとは捻くれ者だ」と言われることがありますけど、なかなか本質を突いた言葉だなぁと思います。動物ではないですけど、実はアンパンマンなんかはかなりグロテスクですよね。それを戦中餓死しかけたこともあるというやなせたかしさんが描いたとなればこと尚更。まあ、おそらく、そういうひとたちは人間の目線では物事をみていない。というのは人間に絶望しているのか、人間が嫌いなのか、それはわかりませんけども、とにかく人間の外側からの目線を獲得したいという強烈な意志を感じます。 いがらしみきおも擬人化動物マンガを描いたひとりですけども、『ぼのぼの』は凄まじいです。第一話目からいきなり、ぼのぼのがただ川を流されてゆくコマが四つ続くという過激さ。起承転結という四コマ漫画の定石をまるで無視して四コマとも何も起こらない。ただ、ぼのぼのが川を流されているという事実だけが浮き彫りになる。この何も起こらなさを過激と捉えてしまうのは人間の目線でものをみているからなんでしょうけど、ぼのぼの以前のいがらしみきおは全人類を燃やし尽くすかのような過激でブラックなギャグをやっていたひとですから、やっぱり衝撃なわけです。 しばらくの休載期間を経てはじまった『ぼのぼの』ですが、休載期間に何か転機があったのか、おそらく、否定に否定をどこまでも重ね尽くしたひとにしか到達できないある種の肯定に辿り着いたのだと思います。まあ、菩提樹の下で悟りを開いたブッタのようなものです。 そして『ぼのぼの』で悟りを開いて、しばらく山籠りしていた仙人が俗世に下りてきたのが『Sink』や『I』になるかと思います。だから『ぼのぼの』の過激さがもっと分かりやすく描かれている。動物ではなく人間ですからね。といっても『I』ではほとんど動物めいた人間がおぞましく描かれている。そういう意味ではジョージ秋山の『アシュラ』に近い作品なのかもしれません。『アシュラ』も『I』も醜さや穢らわしさが一周まわって何か神聖めいた肯定的なものにみえてくる。この「一周まわって」というのがとても重要なことのような気がします。律儀で骨太な演出宗像教授伝奇考 星野之宣影絵が趣味何を隠そう、影絵が趣味さんは、この宗像教授シリーズが大好きで大好きで仕方ありません。「なんでそんなに好きなのか」という問には、とにかく面白いからとしか応えようがないんですが、同じく手塚賞でデビューしていらい盟友として、あるいは切磋琢磨するライバルとして星野之宣と並べられることの多い諸星大二郎、彼のマンガも大好きなんですが、同じ民族学を題材にするマンガ家同士といっても好きの種類がどうも違うような気がするんです。 諸星大二郎はすっとこどっこいといいますか、あの無茶な演出がバカバカしくて好きなんですけど、星野之宣はというと、ひたすら律儀で骨太な演出を淡々と積み重ねてゆく。たぶんそこが好きなんですね。宗像教授シリーズは短編連作としてかなりの巻数を重ねていますが、毎回〃〃もの凄く面白いものを読んだなぁと深い後読感が残るんですけども、何を読んだのかと言われるとアレ? となってしまう。というのは内容が伝綺とか伝説だからなんでしょうけど、読んでいるあいだは律儀で骨太な演出に引き込まれて興奮しながらページを捲ってしまうんですね。これがもの凄い。 諸星大二郎については語ろうと思えばいくらでも語ることができると思うんですが、星野之宣はというとこんなに面白いのに何故か口吃ってしまうようなところがある。これがいつも不思議なんです。ひょっとすると星野のマンガはある種の透明性に達しているのかもしれません。 大法螺吹の奏でる音楽トロイメライ 島田虎之介影絵が趣味島田虎之介、まず名前がとてもいいですね。 月刊ガロのあとを継いだアックスからデビューしている曲者なんですが、このひとはおそらく、資質的にはガロというよりは手塚治虫が主催したコムよりの正統派作家なんだと思います。白と黒のコントラストが特徴的な硬派なコマ作りもそうですし、何よりコマ作りにある種の照れがある。この照れというのは手塚治虫のヒョウタンツギを筆頭に、コム出身者は吾妻ひでおのパロディに受け継がれたような照れのことです。この方向性は、ガロのつげ義春を筆頭に身辺雑記的な小さな世界からマンガの境界線を探索しようとしたひとたちとはまったく異なるものだと思います。 そして何より、島田虎之介のマンガはとにかく風呂敷をひろげまくる。しかも、あたかも歴史的事実であるかのようなコマ内に出てくる情報がふつうにとんだ嘘であったりするんです。すなわち夢と希望にあふれているといいますか、冒険者的な突拍子のなさがあるんです。 まあ、とっつきにくい絵ではありますので、島田虎之助の入門編といたしましては、ブルボン小林名義のマンガ評論でも知られる小説家の長島有が主催した『長島有漫画化計画』のなかの『猛スピードで母は』がおすすめです。なお『長島有漫画化計画』には他にも、 萩尾望都「十時間」 衿沢世衣子「ぼくは落ち着きがない」 カラスヤサトシ「夕子ちゃんの近道」 100%ORANGE「女神の石」 よしもとよしとも「噛みながら」 フジモトマサル「ねたあとに」 陽気婢「エロマンガ島の三人」 小玉ユキ「泣かない女はいない」 うめ「パラレル」 島崎譲「THE BUNGO」 吉田戦車「ジャージの二人」 オカヤイヅミ「佐渡の三人」 ウラモトユウコ「サイドカーに犬」 河井克夫「タンノイのエジンバラ」 ら、埋もれさせるには勿体ない作品ばかりが目白押しですので是非ともゲットしていただきたい。大人になってから定時制高校に通うということ高校生を、もう一度 浦部はいむ名無しとあるきっかけで高校に通えなくなり、中卒のまま社会人となった21才の女性が主人公の物語。工場で働き続ける中、転職したくとも中卒では難しいということで、周囲のアドバイスでしぶしぶ定時制高校に通い出すところから始まります。10代の生徒たちに混ざりながら学校に通い、学生時代を思い出しては暗い気持ちに陥るという…。不安が募るような絵柄に、鬱々としたモノローグが続きますが、内面と作品世界の一体化した見せ方の表現が素晴らしくて、単なる「イイ話」におさまらない生々しさを常に感じます。全体的にこの人の描く線と波長が合うというか、まぁ好きですね。自分も、色々な事情を持つ人が集まる学校に通ってたので、似たような事あったな〜とか、こういう人いた!とか、思い出したりしながら読みました。<<489490491492493>>
世界の奇妙な人たちの逸話を荒木飛呂彦と鬼窪浩久がマンガで紹介する風変わりな偉人(?)マンガ短編集。 事実は小説より奇なりと言いますが、実在の人物を荒木飛呂彦が取り上げて面白くならないはずがありません。 ニコラ・テスラに向かって「このスカタン野郎がアーッ」と怒鳴り散らす発明王エジソンの姿が有名だと思いますが、読んだ当時もかなりキレてるなと舌を巻いた思い出があります。 今となっては外道エジソンの人物像も割と普及してる気がしますが、1989年の時点で荒木先生がここまで完成させてたわけですね。 個人的に一番好きなのは『ウィンチェスター・ミステリー・ハウス』。 銃火器メーカー・ウィンチェスター社の社長夫人サラは、人命への罪の意識に苦しみ、生涯に渡り「悪霊から逃れるため」自身の邸宅を増築し続けたことで知られています。 夫の手掛けた銃が世界中に広まることは歴史の必然のようなものであり、彼女にはどうにも防ぎようのない出来事でした。 手の届かぬ因縁に人はどう立ち向かうのか、という『ジョジョ』のテーマでもある問いかけが本作にも通底しているのです。 いずれの短編も、とんでもない人物たちへの驚嘆、畏敬の念を綴った荒木イズム満点の紛れもない「人間讃歌」の物語です。 可能であれば初回刊行時の函入り単行本で読むと味わいが増すような…気がします! 実に奇妙なデザインなので。