もっけ

怪しいというリアルな世界

もっけ 熊倉隆敏
名無し

彼方の世界の住人達、 モノノケ、妖怪、アヤカシ。 彼らは善悪や敵味方の区別も明確でないままに 突然に現れて人間に、人生に関わりあってくる。 例えそれがどんなに唐突で理不尽であろうとも。 関わらない防御術も、オールマイティな解決策もない。 そんな一見(というか普通の人には見えないが) 怪しく危険で魑魅魍魎が跳梁跋扈する百鬼夜行の世界。 なにが善悪で誰が敵味方か判らない世界。 触れるべき部分と触れてはいけない部分を 認識して守りつつ、というか守っていると 思いつつ生活するしかない世界。 「もっけ」はそういう世界という設定になっている。 だが、それはごく普通の世界だとも言える。 リアル現代社会だって実はそんなもんだ。 見えている人や見えていない人、 見えているようでいて見えていない人がいて、 見えているからといって解決できるわけでもない。 何をどうしてもしょうがなく憑かれてしまうこともある。 だから、自分が強くなるしかないのだ。 怪異な存在が見えてしまう姉。 憑かれる体質の妹。 祖父が祓いの術をもち、彼方の世界の存在も理解しているので 助けてはくれるが、けして無敵な存在ではない。 なので姉妹は互いを想い助け合う。 だが、結局は自分が強くなるしかないのだ。 家族に保護されている幼年期をへて、 学校に通うようになり、親元を離れていく。 それはリアルな世界だ。 人は誰でもいずれ、何が善悪で誰が敵味方か判らない世界へと 飛び込んでいき、一人で生き抜かねばならない。 「もっけ」は怪異が共存する異世界を描きながら じつはリアルな社会を生きていく姉妹の成長譚を 描いていると想う。 むしろ世の中が理不尽で魑魅魍魎が跋扈する世界で あることを、怪かしが干渉してくる世界に置き換えることで より判りやすく面白くマンガとして描いているように感じる。 結構ホラーな展開やシーンもあるけれど、 けして陰鬱な救いようがない気分で終わることなく読めるのは 主人公姉妹の純粋で明るいキャラによるものだろうか。 面白くて深い漫画だと想った。

フレデリック

望月ミネタロウ流の多様性を肯定してくれそうな新連載

フレデリック 望月ミネタロウ 山川直人
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

望月ミネタロウ × 話・山川直人 かつて描いた漫画は評価されたが、しばらく新しく描けていない30過ぎの主人公がフランスで翻訳、出版されてサイン会をすることになったところから話は始まる。 1話目には出てこない『フレデリック』とは一体なんなのか? 気になって調べたら、 https://www.excite.co.jp/news/article/Rooftop_30674/ 「絵本『フレデリック』(作:レオ・レオニ、 訳:谷川俊太郎)からインスパイアされた、 まったく新しい物語。」 らしい。 絵本『スイミー』と同じ作者の作者さんですね。 この絵本『フレデリック』を読んだことはないけど、評判を見てみると人の存在や役割にはいろんな形があり、他の人とは違う考え方をするようなことがあってもそれでいいんだよ、と多様性を許容してくれるっぽい内容なのかなと受け取れる。 読まずにこんなの書くのは駄目すぎると思うので早めにちゃんと読みます。 待ち合わせの空港で、モブ化してて気づかなかったと担当編集に言われたのは、どこかで見たことあるような髪型、ファッションだからだろう。 冒頭で、マクドナルド(っぽい店)にいて、旅先であるパリでさえ知った味であるスタパ(スタバっぽい店)に行きたがるのは、そういった誰もが知り冒険しない安心感を求めてのことからなのではないか。 主人公は内向的で人見知りだと自覚しているが、担当からそれがプラスになるなら評価するしマイナスになるようなら見捨てると宣言される。 誰もが知るなにか、ハズレがない、尖ってないなにか、例えばファッションだったり食事だったりそういったところで、他人と同じことをしていることに安心しきって、挑戦すること刺激を受けること他人と違ってしまうことをどこか怖がっているようにも見える。 他人と違ったっていいのに。 旅に同行する大手出版社担当編集・大畑壮吾(40)、同出版社入社3年目の国際室の風見悠子はそれぞれ分かりやすく極端に違う人間だし、それを気にする様子もない。 そして、こういった他人による違いをこの漫画がさらに奥までつっこむためのフランスだろう、移民の問題だろう。 1話の終盤で少しだけ出てきたチュニジア移民で清掃員をやってる女性、メリナ。彼女に焦点が当てられていくことで、その国ではマイノリティとして扱われるということなどの問題にスポットライトが当てられ自分らしく生きることへのヒントを掴むのではないか。 そこで、冒頭のマクドナルドでの移民女性従業員に対してモヤッと感じたなにかもはっきりするに違いない。 担当編集が求めているのも、人間至上主義、その作家自信から滲み出るものだから再び漫画を描けるようになるのではないか。 そうなってほしいと願ってしまう自分もいる。 最近自分自身、何をしたらいいのか、どこへ向かえばいいのか混乱している部分がある。 自分が何をしたいのか、はっきりさせて道を見つけたい。 誰かが言っていたからとか、最近こうだからというのは抜きで、自分の意志を貫きたい。 主人公の井手陸さんと僕も年齢が近い。 職業も不安定だ。 この連載が進む中で、読者として僕自身も何かつかめたらいいなと思う。 君は、何のために生まれたの、フレデリック。 君は、何のために生きてるの、フレデリック。 君は、何のために働くの、フレデリック。 僕は、誰のために戦うの、フレデリック。