花に問ひたまへ

切なくも爽やかな感動を呼ぶ、リバーサイドストーリー

花に問ひたまへ さそうあきら
ひさぴよ
ひさぴよ

「ここは何もないところさ でもね 何があっても水が流してくれるのさーーー」 多摩川近郊の町を舞台に、視覚障害者の青年・一太郎と、生活に困窮する女性・ちはやの、二人の心の交流を描いた物語。 ヒロインである「ちはや」を通し、視覚障害者の現実を知ることができると同時に、ちはやが抱える生活環境の苦しさにも直面させられる。 ちはやの家は、母親が居なくなり父子家庭でアル中となった父親をちはやが世話をして、家計を支えるため、ひたすらに働けども貧しい状態から抜け出せない。心が荒みきって、他人を助ける余裕など全くない状況から物語が始まることからも、この『花に問ひたまへ』が視覚障害者側の綺麗事だけで描こうとしていないことが伺える。 1話目での一太郎と出会いは、非常に気まずいシーンとなっている。早朝、急いで仕事に向かうちはやが、鬼のような形相でエスカレーターを駆け上がって、一太郎の持つ白杖を蹴り落としてしまうのだ。罪悪感を感じながらも、何もせずに立ち去ってしまうちはや。その後、町中のコンビニで一太郎に”発見“されてしまい、彼の優しさによって、ちはやの心は徐々に変わり始める…。 私たちは、障害者の物語と言えば、助けられるのは障害者の役割だと決めつけがちだが、この物語において本質的に手を差し伸べられているのは、ヒロインのちはやの方である。視覚障害者である一太郎が、ちはやにとってのヒーローのような存在となっている事が、人は目だけでモノを見るわけではない、ということを体現しているように思う。 視覚障害者にしかわからないことも、綺麗事抜きで読者に伝わりやすいように描かれていて、リアリティを持って伝わってくる。ヒューマンドラマとしても、ラブストーリーとしても上質な作品でありながら、障害を持つ人たちの日常を考えるきっかけを与えてくれる作品でもある。 ※ちなみに、冒頭でアリの巣を覗いてるお婆さんは、さそうあきら珠玉短編集「子供の情景」に登場する人物だったりする

オリンピア・キュクロス

オリンピックの意味、そして表現とお金。

オリンピア・キュクロス ヤマザキマリ
nyae
nyae

たぶん、2020年東京オリンピック開催が決まったことがこの連載が始まるきっかけになったと思うんですが、決して「オリンピック万歳!」的な内容ではなく、元は神に捧げる祭事であったところから、いかに経済効果を上げるかが目的となってきたこと、そしてアスリートは「国のために戦い、そして結果を出す」ことが当たり前になっているのは何故か、ということがメッセージのひとつとなってます。 メインのストーリーとしては、古代ギリシャの壺絵師を生業とするオタクの青年が、自分が好きなこと・やりたいことと他人に期待されることの違いに悩み、ひょんなことから様々な時代の日本へタイムスリップし(どっかで見たな)、スポーツをすることの意義やオリンピックのあり方、表現と感動、そして経済を学び、そしてそこで得た知識やアイデアを地元の村の繁栄に役立ててゆきます。 こうあるべきと押し付けるようなものではないですが、今はオリンピックに少し重きを置きすぎというか、お金や勝ち負けよりももっと優先してもいいことってあるんじゃないかな、という作者の願いが、とくにあとがきを読むことで伝わります。 確かに、選手たちはいちいち国を背負いすぎだし、他人に「夢と勇気」を与えることが目的なの変じゃない?君がやりたいからやってるんじゃないの?と個人的にも思います。 (全員がそうじゃないかもですが)好きで、楽しくて始めたはずのスポーツが、いつしか重圧になってしまい、結果を残さなければ存在意義すら失いかねない。 5巻の羽海野チカさんとの対談でもありましたが、世界的なスポーツ大会の舞台に立っている姿を見るだけで「偉い、尊い、優勝!」ってなっても良いはず。どんな結果であろうと選手に文句をつける人はそれなりの権利があるんでしょうね?という話です。 この漫画はまだ続いてますしどういう着地をするかは分かりませんが、オリンピックというものについて色々思うところがある人には読んで欲しいかなと思います。

地図にない場所

地図にない場所とは#1巻応援

地図にない場所 安藤ゆき
六文銭
六文銭

『町田くんの世界』が控え目にいっても、スゴイ好きだったので、最新作待ってましたとばかりに読みました。 町田くんが無理しない等身大でいる感じがしましたが、 こちらの主人公・悠人は無理して大変なことになっている感じ。 頭の良い兄、イケメンの弟、そのどちらも中途半端なことに悩み、 はやくも人生終わったと絶望している。 中学生くらいだと、この2つが絶対的な価値基準になりがちですから、この悩みは共感できますね。 反面、天才と称されたバレリーナだったお隣のお姉さん・琥珀は、もう頑張る理由がないからと、怪我をしたと嘘をついてまで引退する。 頑張る理由…喜ばせたかった母親が亡くなったから。 何もかも捨てて才能以上のことをやっただけ、と言う姿は、プロの世界の厳しさを感じグッときました。 この対比が良いですね。 ただ、全く違うというわけではなく、ところどころお互い共感できている部分があるので接点がないわけじゃないのも良い。 根っこは同じなのかな?と思う。 自分の能力に限界を感じている悠人。 人生全てをかけていたバレエを辞めた琥珀。 それぞれ、今後何を目指すべきなのか、目指していくのか。 まだわからない。 二人が出会ったことで新しいスタートきった感じでしょうか。 「地図にない場所」というタイトルと相まって、今後(特に二人の関係性)が気になります。

無法島

自殺島の前日譚

無法島 森恒二
六文銭
六文銭

自殺島が好きだったので本作も最新刊(2021年4月現在の最新4巻)まで読了。 読んだ感想は・・・自殺島とほぼイコールですね。 自殺島が自殺志願者が集まったのに対し、凶悪犯のみが集められている設定。 また、主人公が、元々野球で基礎体力があるのも前回とは異なる点かな。ポテンシャルがこちらのほうが高い。 ただ相変わらず、この島でヒャッハーする輩がいて、主人公たちと相対していき、自分たちは自分たちのコミュニティで根をはっていく流れ。 どちらかというと自殺島の、漁したり狩猟したりのサバイバル部分が好きだったので、本作はそれよりも抗争が多めで(まぁ、無法島なので)全体的にちょっと重めですね。 主人公は冤罪ですが、他の登場人物は色々抱えてここに来ているので、それに悩み苦しむ感じなど暗い展開が多いです。 ただ、段々と、主人公に無実の罪をなすりつけた張本人がでてきたり、抗争相手のジンボ組織が内紛で瓦解しかけてきたりと、物語が大きく動きはじめた感じがあるので、今後が更に楽しみになってきましたね。 自殺島とどうつながっていくのかな? 自殺島で使っていた道具が、実はこの作品の〇〇とかだったら胸アツですね。