そしてボクは外道マンになる

古き良きの出版業界の熱量を感じる

そしてボクは外道マンになる 平松伸二
六文銭
六文銭

「今でこそ出版業界は新卒人気も高く、いわゆる育ちの良い高学歴出身が多いが、昔はどこも就職できない与太モンの集まりだった」 と、その昔、出版社に勤務していた時、60近いベテラン編集者に聞いたことがある。 そんな社会のはみ出しものたちで、同じように当時、社会に認められていない漫画市場をこじあけていったのだと思うと、感慨深いものがある。 本作は、特にジャンプ黄金時代の少し前、まさに生き馬の目を抜く激動の漫画時代に活躍した平松伸二の自叙伝的作品。 「ドーベルマン刑事」「ブラック・エンジェルズ」などの名作たちが、どのようにして産まれたのか、これを読むとよくわかります。 こうした平松伸二ファンはもちろんですが(おそらく、この層が多いと思いますが)あの当時の漫画業界の熱狂を知りたいという人にとっても非常に興味深い作品だったりします。 担当編集者との、口汚く罵りあうようなやりとり、時には蹴る殴るの暴行、今だったらありえないような状況を、熱量たっぷりに描いています。 あの時代の、編集者と創作者のいわゆる魂のやりとりともいえる行為は、昭和の良き時代のように感じるんですよね。 だから、必然的に内容も濃くなるのかなぁとか。 そんな濃厚な編集者たちと、今だったらハラスメントの嵐みたいなやりとりも多々ありますが、そうした中で良いものがうまれ、売上も上がりバブルとも言える出版業界の華やかな感じも描かれております。 特に、かの有名な編集者「鳥嶋和彦」(鳥山明などの担当)も出でてきて、その慧眼というか着眼点の鋭さに、後の大物ぶりを見せつけてくれます。 ジャンプ黄金期の手前という全体的に漫画市場が上り調子の時代。 歴史を知るもののとしては、これから起きるカンブリア爆発のような名作たちが産まれてくる胎動を感じずにはいられません。 平松伸二先生を知り尽くしたいだけでなく、漫画の歴史的な観点からも楽しめる1冊になると思います。

競馬狂走伝 ありゃ馬こりゃ馬

最高クラスに近いくらいの面白さ

競馬狂走伝 ありゃ馬こりゃ馬 土田世紀 田原成貴
酒チャビン
酒チャビン

わたしが贔屓にしているマンガ家である土田先生と、元スタージョッキーである田原さんのタッグによる競馬マンガです。駄作のできようがありません。 前半4巻くらいまで一話完結のギャグものなのですが(しかもさすが土田先生のギャグは面白い)、後半にいくに従って、かなりレースの奥深いところまで描いてくる本格競馬マンガに変身していきます。 さすが元超一流ジョッキーの原作(というか監修)が入っているだけあって、必殺技などのファンタジー路線ではなく、徹底してリアルなスポーツとしての競馬が描かれており、読み応えたっぷりです。 出場している全ジョッキーの位置どりや、その時々で考えていることなどが、すごく丁寧に描写されており、競馬が好きな方はまず間違いなくどハマりすることができると思いますし、昨今のソシャゲブームで競馬を見始めたよって方も、深く競馬を知ることができるきっかけとなることは間違いないと思います。 そういった意味で、完全に☆5でいいマンガなのですが、一点、ちょっと特に後半ジメッぽさが過度になりすぎてしまっていて、そこが個人的な好みに合わなかったので、一応4にしておきました。ジメッとした部分は土田先生の持ち味でもありますし、それが熱さや感動につながることが多いのですが、本作品の終盤は少しメメしく写ってしまいました。個人の感想ですが、悪くいうつもりは本当になかったです。すいません。

食糧人類-Starving Anonymous-

人類VS人外ものの名作

食糧人類-Starving Anonymous- イナベカズ 蔵石ユウ 水谷健吾
六文銭
六文銭

個人的な感想で恐縮なのですが、正直コレ系の作品って冒頭からインパクトのあるテーマ・設定とショッキングなシーンがテンコもりなので、後半はダレる傾向にあると思っているんですよ。 最初の期待値を超えてこないというか。 でも、本作は最後まで読めてしまい、最初から最後まで裏切らない感じが面白かった証拠だと思います。 7巻で短くもないですが、長編ほどでもないのも良かった。 さて内容ですが、 とある星からきた虫みたいな異星人の食欲を満たすために、人間が食料になるという設定。 その異星人は、想像にもれず大きくて凶暴。 そこで国が、核処理場と偽って、人間を家畜のように繁殖・飼育できる施設をつくる。 主人公は、その施設に入れられてしまい、現実離れした世界に恐怖し脱出をはかろうとします。 同じように施設から出ようとする、ないしはこの施設と深い関係のある2人の人間、山引とナツメと出会い・・・という流れ。 この2人の人間が、特殊能力があったり色々いわくつきで、そこから展開されるストーリーは、想像の斜め上をいって飽きないんです。 (若干、ご都合主義的な部分もありますが、それはご愛嬌で。) 特に、最終的に上記の異星人と対峙するのですが、その倒し方が秀逸すぎて・・・ 過去こんな残虐な(色んな意味で)倒し方があったのか?と唸りました。 また、虫みたいな異星人のフォルムがキモい上に残虐で、そのグロ表現も本作の魅力です。 文明が高度に発達した星から来たとか言っているけど、腹減りすぎると共食いはじめるとか、その知性のカケラもない行動に不気味さを加速させます。 人外VS人類、パニックホラー、SFにピンときた人はおすすめしたい作品です。