突発的クリエイトファミリー

擬似家族×クリエイター論 #1巻応援

突発的クリエイトファミリー 玉置勉強
兎来栄寿
兎来栄寿

昭和の終盤に生まれた中年と、平成後期に生まれた若者が織りなす不思議なハーモニーがクセになる作品です。 本作は行きずりで関係を持った背中にタトゥーのある怪しい女性から高校1年生の息子・鷹斗を押し付けられ、仕方なく一緒に暮らすことになった45歳の物書き・清志の奇妙な新生活を描いた物語。 エロゲーのシナリオライター等を経て、かつてはそこそこに売れたライトノベル作家として活動し中古マンションを買える程度には活躍しながらも、今はソーシャルゲームのシナリオやフレーバーテキストから匿名コラムのエッセイ、エロ記事など雑多に仕事をしている清志と、イラストレーターを真剣に志す15歳の鷹斗。ジェネレーションギャップはありながらも、創作者として通じ合う部分もあり、ときに清志が先達として有用なアドバイスをすることもあれば幻滅する部分もある。何とも言えない関係の二人のやり取りだけでも永遠に見ていたくなる面白さがあります。 そんな中で、清志が語る「かつてクリエイターはなるのは簡単だった。続けることが難しい」「歳を重ねると周りの同業者がひとりまたひとりとさまざまな理由で消えていく」といった件が非常に実感として解ります。たとえ仕事を変えたり辞めたりしたとしても、生きていて欲しいとささやかな願いを持ちます。 昨年の11月が初出の8話のエピソードでは、AIによる絵や文章の話も出てきていますが、数ヶ月でChatGPT4が登場して一気に状況も変わってきてしまったなぁと世の中の速度に思いを馳せました。まさに、フレーバーテキストや匿名コラムなどはAIでも量産できる世界に入ってきてしまったとき、清志のような人はどうやって生きていくのか。 30歳違いのふたりの語る創作論も面白ければ、少年である鷹斗が成長していくにあたって立ち向かうことになる女性関係の動向も気になります。 見所がたくさんあり、今後も楽しみな作品です。

這い寄るな金星

仄暗い義姉妹NTR戦争の底で #1巻応援

這い寄るな金星 華沢寛治
兎来栄寿
兎来栄寿

「さくらの森の満開の下」でヤングマガジン第461回月間賞 佳作&TOP賞を、「蒼く濃くなるスターライト」でちばてつや賞ヤング部門優秀新人賞を獲り、その後『スペリオール』などを中心に読切を発表していた新鋭・華沢寛治さんによる連載作品です。 2日連続で『スペリオールダルパナ』作品について書いていますが、私も大概こういう作品が好きです。 第1話目から地獄の釜の蓋が開いていきますが、その裏にはさらなる深淵の煮凝りが待ち受けているという素敵な構成です。どんな地獄が待っているかは、あえて語らないので読んで確かめてみてください。人によっては病みつきになる地獄でしょう。 金星といえば宵の明星であり明けの明星で、ルシフェル。最も美しく最高位の天使でありながら、やがて神と敵対し堕天使、悪魔となってその頂点に立つ者。そんなルシフェルが、神に反逆したのは人間であるアダムとイヴに仕えるように命じられたから。傲慢や嫉妬という感情に駆られたのも無理はないと思います。しかし、なぜ神はわざわざそんな理不尽な命を下したのか? もしかしたら、そこにはこの作品の彼女の中に存在するような感情があったことを否定できないのではないか……そんなことを考えてしまいました。 ドロドロした話、人間の闇の部分を描いた話が好きな方にお薦めです。 出版社をまたがっていますが、ぜひ短編集も出して欲しいですね。個人的には「眠たい浅瀬」が特に好きでした。

ゲーマーズ×ダンジョン 僕はゲーム依存じゃない

ゲーム依存と依存させる仕掛けがよくわかる

ゲーマーズ×ダンジョン 僕はゲーム依存じゃない ナナトエリ 亀山聡
六文銭
六文銭

自分もゲーム大好きマンで、小さい頃『信長の野望』にハマって、夏休みとか寝ずに鼻血出して失神するまでやってました。 今でもゲームが好きだし、時間を忘れてゲームの世界に入り込む、プレイしている時の非現実的な感覚の楽しさは中毒になるのも頷けます。 だから主人公のゲーム好きに共感できました(特に、子供の頃友達とロッ○マンを1機交代で~とか自分もやってたから懐かしい) が、やっぱりソシャゲーのハマる部分だけは理解できなかった。 自分が据え置き中心で、そこまでゲーマーじゃないと言われればそれまでですが、ソシャゲー特有の 基本無料で課金して強くなる とか レアアイテムひかせるガチャ とか 終わりのないストーリー、イベントによるランキング制度とか、やっぱりよくわかないんですよね。 ゲーム世界以外の雑音が多くて、ゲームに集中しているのか、システムに翻弄されているのかわからなくなる感じ。 特にお金で強くなる(強キャラをお金で当てるのも含)のも違和感があって、ゲームの醍醐味ってストーリーやキャラの魅力だったり、マリオとかに代表される自分のプレイスキルが上がることでクリアする爽快感が大事だと思うんですよ。 なんで、自分は主人公のように親の財産をつぎ込んでまで課金するほど依存症にはならなそうなだと思いつつ、本作は、そんな依存症の人たちの対処法を描くのと、どうしてそうなってしまうのか?という理由まで描いているのが大変参考になりました。 特にソシャゲにハマる仕掛けの部分は、すごく納得してしまいました。 「コンプガチャ」とか計算しつくされた設計に恐怖すら覚えます。 ゲームって本来エンタメのはずなのに、こんな形のものが出てくるのはなんとも悲しいものですが、理由がわかれば対策できそうなので、是非読んでほしいし、むしろ子供とかにも読んでほしい。

毒白-ドクハク-

独白できない、歪みとされる感情と関係 #1巻応援

毒白-ドクハク- 叶齊
兎来栄寿
兎来栄寿

作者の叶齊(かなえいつき)さん自身がLGBTQのQであり、実体験を礎として描かれているという作品です。 かわいいクラスメイトの佐山さんに土下座し罵られながら足蹴にされているシーンが序盤から繰り広げられますが、その行為によって覚える感情はむしろ快感や背徳感の類であるという業の深さ。主人公の高校生・麻倉将太は学園トップの真面目な少年なのですが、本当は幼いころから女の子の格好をしたい、そしてその姿で詰られ虐められたいという誰にも言えない欲望を抱えているのです。 正に『スペリオール ダルパナ』という感じの作品です。 将太という名前からしても、親からは男らしくあるようにと願われて育てられていそうな将太の不遇を思うと居た堪れません。そんな将太の本質に気付いてしまった、2人きりで演劇部の活動を共にする佐山さんとの関係性が大きな見所です。 個人的に、第一話終盤のとある描写の解像度の高さに惹かれました。この所作をしっかりマンガで描いている作品は非常に稀有であると思います。 美少女に罵られたり蔑まれたりしたい方にとっては、特に隠れ眼鏡っ子にそうされたい方にとっては大いにご褒美となり得る作品ですし、世界の片隅で同じような悩みを持つ誰かを救う力のある作品であると思います。

足が早いイワシと私 ~河野別荘地短編集~

奇想から情緒まで #1巻応援

足が早いイワシと私 ~河野別荘地短編集~ 河野別荘地
兎来栄寿
兎来栄寿

河野別荘地さんが大学生の頃に初めて描いた作品から、オモコロ 、『フォアミセス』、『モーニング』などに掲載された近年の作品までを10作品を収録した作品集です。 『足が早いイワシと私』というタイトルの本で、一番最初に載っているのが「足を洗う」、一番最後がそれを後年にセルフリメイクした「ネオ足を洗う」という構成なのが何とも面白いです。 大学時代に初めてまともに原稿用紙に描いた作品であるという「おばあちゃんのほほ袋」からして、不思議な作家性が滲み出ています。他の大学生時代に描いた「足を洗う」、「爪の垢」も画的にはまだ洗練されていないものの独特の雰囲気をまとった面白い作品です。この1冊で、その後の画力の大きな向上のビフォーアフターも楽しめます。 表題作の「足が早いイワシと私」や「冬眠休暇」、「労働監督」などは『世にも奇妙な物語』な星新一さんのショートショートを髣髴とさせるような、設定に面白さのある作品。 「Fly me too the moon」や「私の先輩」では非常に良い情緒を味わえます。個人的にはこの本の中でも特に好きなお話です。 1冊を通して、フレッシュで奇抜な作品から円熟味を感じるヒューマンドラマまでバラエティ豊かに楽しめるお薦めの短編集です。

サポルト!~木更津女子サポ応援記

木更津もの

サポルト!~木更津女子サポ応援記 高田桂
酒チャビン
酒チャビン

いわゆるジモマンです。わたし出身が木更津まで電車で15分くらいのところなので、気になりすぎて読みました。 結果ですが、めちゃ面白かったです!わたし爽やか青春部活ものが好きなのですが、こちらの作品は厳密には部活ものではないですが、それに近いものを感じました。好きなものに熱中するところが似てると思います(あと学生というところ)。 かけがえのない友情と、青少年特有の悩みと、若さゆえの失敗等がテンポよく描かれます!!地味めのキャラが主人公というところもいいですし、主人公の友達でメインキャラの一人が少し紺野に似てるところも良かったです! 仮に舞台が木更津ではなかったら、まず間違いなく読んでないのですが(というか売ってるの見たことないですからね)、これは木更津ヌキにしてもそこそこオススメできる作品となっています!ぜひ木更津関係ない人(大多数だと思いますが)も手にとっていただき、聖地巡礼として木更津においでくださいませ!! ちなみにラーメンでしたら、少し離れますが、君津の大ちゃんラーメンか五井の富士屋がオススメです!帰りはアクアラインが混みますので、龍宮城で20時くらいまで湯ったりするといいと思います!