琥珀の貴女

喪失と影が生に輪郭を与える百合 #1巻応援

琥珀の貴女 東河みそ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

あらゆる物事は始まり、終わってゆく。生まれ、死んでゆく。物語も、恋も、そして命も。 死の波打ち際で生を振り返る時、または仮初の死から生還するとき、生は強く輝く。あるいは現実感がない喪失は、反芻していつまでも心を縛る。喪失が生きることに、輪郭を与える。影が光の世界にディテールを与える。 そんな影と光が描かれるのが、この大人百合短編集だ。強い物語も、ふんわりとした物語も、そこには喪失や影があり、それゆえに登場人物たちは複雑で、切実になってゆく。 どの物語もなかなか真相が明らかにされず、ショッキングな体験をくれる。そしてその核を貫くのはまごうことなき百合だ。昏くても明るくても、その百合は暗闇に差す細い光のように印象的だ。 ●chandelier 恋を失い死を願うレズビアン風俗のキャストは、好きな人との予行練習だと言う客に惹かれる。死の淵で手を取る二人。 ●ふたりの楽園 政略結婚に臨む花嫁と、彼女を束縛する幼馴染。昏い関係の真実に驚く。 ●えりちゃんのハイヒール 二丁目で私にキスをした、ゴツいハイヒールの小さな女性。たまさかの出会いと不在にぼんやりと心を縛られる感じ、なんかわかる。 ●水際 レズビアン風俗の30代のキャストは日本画の大家の女性にモデルとして雇われる。「よぼよぼのババア」に惹かれてゆく恋は強力だった。 ●転石苔むさず バイト先の苦手な先輩を、一晩泊めてやる。一瞬近づき、離れてゆくその距離感をこちらも想像する。 ●ひかり 母を亡くした新興宗教二世は、昔世話してくれた信徒の女性のために「神の子」になる。信頼を巡る物語は複雑に正しさを挫いてゆく。すごいものを見た……。

旅に出るのは僕じゃない

妙にリアルな近未来ウィズコロナ #1巻応援

旅に出るのは僕じゃない いけだたかし
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

まさかの「204X年まで続くコロナ禍」という世界観は、枠組みから細部に至るまで徹底していて驚く。 技術が進んでいたり、変わらない伝統があったりという世界各国の楽しさを、明るい絵柄でたくさん描きつつシリアスな内容も多い。 例えば「日本人を嫌うベトナム人」という描写がある。技能実習生の問題を知っていれば「こういうことはありえる」と想像できるはずだが、何故か誰もそれを口にしない。他にもこういった「つい目を背けてしまいがちな可能性」を描き、考えさせられながら世界観に引き摺り込まれる。 奇妙にリアルで楽しいけれどシリアスな近未来を、主人公と共に旅行する。そこには創作物にしかできない、心を動かす実感がある。 VR旅行のための「体験」データを集めてまわる主人公の青年。彼の旅に強い印象と深みを与えるのは、各地で出会う女性たち。その出会いは彼にとっても女性たちにとっても、忘れたくない重要さを持つはずなのだが……。 旅の記憶を保持できない主人公の特性が、これらの出会いをより強く、切なく印象付ける。これらの旅は一つひとつバラバラに見えるが、今後もそうなのだろうか、それともこの先……?

ステラ☆レコード

質量のある百合 #1巻応援

ステラ☆レコード しおやてるこ
兎来栄寿
兎来栄寿

しおやてるこさんの百合からしか得られない栄養素、あると思います。 昨年、発表された読切「ホントのキモチ」をベースにした連載作品で、全1巻で完結しています。 田舎から上京してルームシェアしている大学生で"親友"同士の杏子と律を中心に描かれる物語。友人同士ではありますが律は大きな感情を中学時代からずっと秘めている、というところからスタート。 律の姉を好きで、それが高じて律にも手を出してくる第三のキャラ真琴も現れ、混沌の様相を呈していきます。 個人的にとてもツボなのは、律と杏子の馴れ初めが「14歳の時に丸尾末広先生の本をチェックしていた」という所から始まっていることです。その年頃だと、その趣味を理解してくれるのってクラスにひとりいるかどうかではないかと思います。マンガ以外でも小説・ゲーム・芸人などあらゆる趣味が合致するふたりの関係、推せますよそれは。 そして、本作の最大の魅力は主人公たちがとても個性豊かで生き生きと生きていること。特に、 「単位とオトコは落としてナンボじゃい」 と普段の性格も性に関しても自由奔放で、そのくせ嫉妬深い律。彼女の豊かな表情や、現代的な気取らない女子像は紋切り型のキャラクターとは一線を画した存在感を放っています。私のタイプとは全然かけ離れている人物像なのですが、それを超えて魅力的だと感じます。律の友人たちもまた類友的な感じで、良いキャラをしています。 人間の綺麗な部分だけでなく、猥雑な部分も含めて清濁併せ呑んだ上で、しっかりと人を愛して、たまに上手く行かなくて、それでも愛し抜いてという部分を描いているのがとても、とても良いです。 七夕に読むのも乙な、上質の百合です。

ゴブリンスレイヤー

ゴブリンゴブリンゴブリン言っている人

ゴブリンスレイヤー 黒瀬浩介 蝸牛くも 神奈月昇
ゆゆゆ
ゆゆゆ

アニメを見て、なんとなく外伝の『イヤーワン』を読んでから、こちらを読み始め、さらに原作小説へ遡って読むほどハマっています。 アニメと同じく、イヤーワンと同じく、基本的な内容は 「ゴブリン共は皆殺しだ」。 シンプルです。 ストイックです。 ゴブリンへの攻め方のバリエーションは、おそらく他の漫画に追随を許しません。 イヤーワンと違って、ゴブリンスレイヤーが少し大人で、少しずつ気持ちが変わってきているのがおもしろいですね。 ビジュアルが出てくると気になるのはゴブリンスレイヤーの兜を脱いだ顔立ちなのですが、吹き出しやらなんやらで、上手に隠されています。 それからあまりにも自然に読めていたので、登場人物は全員、通り名や役職以外、本名が明らかにされていないことに気づきませんでした。 でも呼び名で誰が誰を呼んでいるかすぐにわかる。 すごい仕組みです。 ちなみに私の好きなキャラクターは、漫画版の魔女のおねえさんです。 魅惑的で、けだるそうで、独特の吹き出し使い。 でも恋する乙女。 乙女だけど、いろいろ知っていそう、なんだかすごく強そうなおねえさん。 あのツヤツヤしていそうなビジュアルが好きです。