崖っぷちガールの恋と夢のゆくえを見届けたい
クリエイターになりたくて上京して10年のカイちゃんは大手企業の社員食堂でバイトするフリーターになっていました。「こんなはずではなかった…」と思い悩む日々の中でバイト先の食堂を利用する社員の高円寺くんに恋をします。SNSで彼の裏アカを探し当てて軽めのネットストーキングをしていたところ、高円寺くんが大阪に転勤になることを知り、居ても立ってもいられず自分も大阪に引っ越します。この時点で通帳の残高は49.810円です…。 冬野梅子さんの漫画にも通じるものがありますが、こじらせてる女の話は読んでいてグサグサきますね〜!この漫画の主人公のカイちゃんは純粋すぎますが、きっと高円寺くんには彼女がいるし、貯金もないし、慣れない土地でどうするの??と目が離せないです。しっかり生きろよ〜〜〜
何者かになりたくて何者にもなれない人。
報われないと解っている恋をしてしまっている人。
そうした人を優しく刺し穿つ力のある作品です。
貝塚道子29歳、通称カイちゃんは一流企業の食堂で最低賃金で働くフリーター。絵を描くのが好きで、他に取り柄はなかったけれど褒めてくれる人がいたから自分が存在していいと思えたという原体験を持っている女性。そんな彼女が心の支えにしているのが、その企業で働くイケメンの白鷺洸27歳。彼のSNSの裏アカウントを特定すると、 自分と同じ高円寺住まいであることが解り、こっそり遠巻きに眺めていた日々から、あるとき大きく運命が動き出します。
29歳で体験する初めての恋。すべてが行動力に結びついてしまうような無尽蔵のエネルギーが生まれるのも、ほんの少しの関わり合いが生まれただけで世界がまるで別次元のように輝きに満ちるのも、痛いほど解ります。それらを絵で演出したシーンは最高です。
とにもかくにもカイちゃんがあまりにも等身大の主人公で、弱い部分も狡い部分もたくさん見せてくるんですが、それでも愛して応援せずにはいられないんですよね。多くの人はどこかしらカイちゃんと自分が重なるところがあるのではないでしょうか。この絶妙なキャラ造形でもう勝ってると思います。
好きなシーンやエピソードはいろいろとありますが、特に好きなのはカイちゃんの新たな勤め先の同僚である、29歳の千林くん。彼は音楽の道を諦めずにいて、ある種自分と似た境遇にいる人物。そんな彼に対してカイが口にする言葉。それに付随する想いや感情。人間的な、あまりにも人間的な言葉と心で堪りません。
単純な画力の高低では表せない魅力も絵にあって、何よりマンガが上手いってこういうことだろうと思わせてくれます。こんな素敵な作品を描ける方が、どうして初単行本を出すまでに十数年もかかってしまったのか不思議でなりません。
かわいい絵柄ですが、深奥まで響く鋭利さを持った作品です。2月を代表するのはもちろん、2024年一押し作品にも数えていくことになりそうです。
あとがきマンガの中野ローカルな小話もすごく共感できて好きです。失われゆくものでもマンガの中にだったら永遠に残しておけるという感性が素敵です。