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遺された最愛の妻を案じて現世に戻ってきてしまう死んだ夫の話、アイドル活動を頑張る娘と父親の不器用で長い掛け違いの話、別れたDV夫と再会することになってしまった妻の話……。「誰かへの想いのカタチ」をテーマに描かれた短編3作品を、描き下ろし漫画とともに収録。異才・時計が贈る、珠玉の短編集!<収録作品>【僕は先日死にました。】結婚後まもなく事故で死んでしまった「僕」は、遺された妻のことが気がかりで、霊感体質を持つ占い師を介し妻の日常を追っていく。最初は見守るだけだったはずが、やがて僕は、妻が抱える悲しみのあまりの深さに気づいてしまい……? 人気音楽クリエイター・テンツク氏の原曲『生命線』に、人気歌手・島爺氏が弾き語りを乗せた楽曲へのオマージュを下地に描かれた、人間の命と愛について綴る感動作!【お父さん、私アイドルだったんだよ。】大好きな両親に頑張る姿を見てもらいたくて、アイドル活動を地道に頑張ってきた花。だが母が亡くなり、父と二人だけでギクシャクした日常を過ごすうちに、花は夢への情熱を少しずつ失っていく。時が流れ、ひょんなことから父の「とある秘密」を知ってしまった花は……?【元DV夫と私のその後】夫のDVが原因で離婚した私だったが、やがて心と体の傷も癒え、怖かった男性と接しても大丈夫なようになっていた。あの日、元夫と偶然再会し、彼を部屋に入れるまでは……。単行本『AV女優とAV男優が同居する話。』に収録された、短編「一日一回、あなたを好きだと思わせて。」のその後のエピソード。
時計さんの作品を読む度に、「絵も綺麗でお話も面白くて素晴らしいなあ……!」と満足感に浸れるのですが、本作も例外ではありません。
2016年〜2020年の間に発行した同人作品を3作品収録した短編集で、時計さんとしては6冊目の単行本となっています。
表題作の「僕は先日死にました。」は設定的にはよくある感じではありますが、中心人物となる占い師ちゃんの振れ幅が魅力的です。とても人間味があり、その感情を丁寧に掬い
「お父さん、私アイドルだったんだよ。」は自宅での介護士経験のある身としては非常に刺さるところの多いお話です。最近観たとある人気海外ドラマでも似た展開がありましたが、時計さんの方が4年早いな!と。
「元DV夫と私のその後」は、個人的にこの本の中でも特に好きな一篇です。『AV女優とAV男優が同居する話。』に収録された「一日一回、あなたを好きだと言わせて。」と繋がる物語。DV加害者である男がそれを悔いてカウンセリングに赴くところ、そしてまたDVを受けた女性の精神的な再起を丁寧に描いています。普通の物語においてはさまざまな事情によりクローズアップされない部分、しかし現実的には非常に大事なところを解像度高く描いた意欲作です。
幕間に各作品の解説も書かれていますが、非常に思考を巡らせた上で物語が構築されていることがうかがえて、この面白さにも納得です。こうしたことを明瞭に言語化できる、あまつさえ面白いマンガとして仕上げることができるのは本当に素晴らしいなと。私は時計さんの作家性に惚れ込んでいるので今後も作家買いを続けさせていただきます。
1冊で充実の読書体験ができるので、お薦めです(可能であれば先に『AV女優とAV男優が同居する話。』も読んでおくとより楽しめます)。
なお、表紙の菊の花は時計さんの御母堂が描かれたということで、美しいものを描く血筋を感じました。