プロレスにファンタジーを感じられた時代の名作
格闘技だショーだ八百長だと何だかんだと 言われ続けてきたプロレス。 90年代の格闘技ブームや暴露本の出版等を経た結果、 最近ではショーやパフォーマンスとして扱われることが 多くなってきた感もある。 しかしかつてのプロレスは、 真剣勝負とファンタジーの狭間で 各人がそれぞれの思い入れと想像を広げて 楽しめる世界だった。 この単行本はプロレスファンであるコンタロウ先生が、 プロレスに対する様々な思いを作品化した短編集だと思う。 かつてプロレスは、単純に真剣勝負として語ったり 逆に八百長と決め付けて卑下したり、 あくまでも個人の趣味嗜好として楽しむだけだったり、 様々な人が様々な見かたをしていた。 そういう時代にコン先生がプロレスに対して 感じた思い入れや面白さを、様々なプロレスファンにも それぞれ受け入れられそうな各種の短編として 結実させた作品が収録されている。 プロレスは色んな意味で自由な世界で、 それぞれのファンがそれぞれの思いや好みや価値観で、 それぞれの楽しみ方が出来る世界だったんだ、 ということを感じさせてくれる単行本。
これほどまでにプロレスを確かに描いた漫画は他にない。プロレスファンがどういう視点でプロレスを見てプロレスを信じているか、ここに描かれていることが正解で真実だと思う。
予定調和の小競り合い的なものをプロレスと呼ぶ風潮。プロレスの試合をまともに見たことがない人が言う「プロレスはショー」「プロレスは八百長」という決めつけ。
そんなことはどうでもいい。プロレスを見続けるものにとって、そんな揶揄はどうでもいいのだ。
気迫がなければ八百長ですら勝てない、そんな世界をプロレスファンは信じている。
力が強ければ、技が決まれば、強いプロレスラーになれるわけではない。
ペドロがスカルマンになれたのは同じ技ができたからではい。ファンの声に、世間の目に、時代の流れに、自分自身に向き合ったからである。
家族揃ってお茶の間でプロレスを見る時代が終わり、数えきれないほどのインディー団体が生まれ、海外からやってくる謎のマスクマンの映像も簡単に手に入るようになった現代。
時代は変わってもプロレスファンがプロレスに対して求めるもの、信じるものは変わらない。
プロレスを信じるものに読んでほしい漫画です。
奇しくも今年(2020年)の年末もTVでは
総合格闘技の番組が放送されます。
80年代のプロレスブーム、90年代の総合格闘技バブル、
00年代の暴露本出版ラッシュなどをへて、
プロレスや武術武道、格闘技を取り巻く環境や
世間の評価や扱い方は劇的に変化しました。
プロレスも格闘技もかなり世間の見る目や価値観が変わり、
そして良くも悪くも今でも存在しています。
そのように時代が変化する前の時代に
コンタロウ先生が「プロレス鬼」を描いていることには
驚かざるを得ません。
今になって読んでも色褪せない、揺るがない、そして面白い。
80年代、90年代、00年代、それ以降の各年代の、
それぞれにプロレスや格闘技に接し、思うところがあった人達に、
改めて一読していただきたいし、一読する価値がある短編集、
そう思います。
時代の変化とともにプロレスの在り方ももちろん変わっていきますが、愛するもの達の根本は変わらないと思うんですよね。
だからこそ、いつの時代のプロレスファンが読んでも胸に響く作品が存在しているんだろうなと。
昔はこうだったんだなあではなく、今も昔も変わらないものを見出してほしいので様々な人に読んでほしいですね。