人が魔女を魔女たらしめる
「魔女」と烙印を押されたら、拷問で死ぬか、処刑されて死ぬかのほぼ二択だった時代における、史実をもとにした西洋ファンタジー。 魔女裁判の最盛期前後、そして精神医学が発達しはじめた時代。 魔女とされてしまった人たちは本当は魔女ではなく、精神的な病に冒されているだけだと訴えた医師ヨーハン・ヴァイヤーの物語。 ヨーハン・ヴァイヤーは「精神医学の祖」とも呼ばれているらしい。 作中では、「魔女」とされてしまったら最後、様々な行動が「あれは魔女の○○という行いだ」といわれ、本当は魔女でなくても人々の認識で、魔女にされてしまう恐ろしさが何度も何度も描かれている。 無知と恐怖が存在しないものを生む。 私には、どこまでがファンタジーで、どこからが史実かはわからない。 だが読んでいて、一番怖いのは人なのかもしれないという気持ちにさせられる。 ホラーとサスペンスが混じる歴史ファンタジーが好きな方はぜひ。
物語の舞台は16世紀ヨーロッパ。
領主のヴィルヘルム5世に仕える医師・ヨーハン・ヴァイヤーは、狼の姿になって人間襲う“人狼”が現れたという町に派遣される。
そこで彼は自身の医学の知識と当時の宗教観に囚われない分析眼で人狼の正体を見極めようとする、というのが導入のエピソードとなる作品。
16世紀のヨーロッパに実在し、魔女裁判に反対した最初期の人物として知られる医師・ヨーハンの生涯を描く物語。
作中では魔女を筆頭に人狼や悪魔など、人々を恐怖に陥れる者たちの存在が仄めかされる。
それに対しヨーハンは、それら未知の存在は医学で説明することが可能だというスタンスをとり、その上で「無知こそが恐怖の根源であり、知ることをためらってはいけない」という師の教えに従い、"魔女"とされてしまった人々を医療の力で救うために奔走する。
なのでこの作品は決してファンタジーではなく、自らの信じる道に従い人々のために奮闘するヨーハンの戦いの記録である。
また、ヨーハンの行っている治療は当時の倫理観で見るならば異端であるが、現在の医療の知識を持ってこの作品を読むと作中のヨーハンすらも辿り着いていない事実が見えてくる。
この「当時の人々の視点」「主人公の視点」に加え「現代にいる読者の視点」によって見え方が異なる、そういう意味ではこの作品はもはや"歴史"そのものを描いているのかもしれない、そういう感覚を覚える作品。
上中下巻読了