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新装版 天帝少年 中村朝短編集

不思議で前向きな光溢れる短編集

新装版 天帝少年 中村朝短編集 中村朝
兎来栄寿
兎来栄寿

『部長が堕ちるマンガ』でお馴染みの中村朝さんがコミティア等で出された読み切り作品5本を収録して以前に刊行した『きみが小説家をみつけたら』。それに描き下ろしの「天帝少年」を加えてBEAM COMIX名義で出された短編集です。 感動的なお話からサスペンス展開のあるお話まで、シリアスさマシマシで届けられます。突き抜けたテンションの『部長が堕ちるマンガ』でしか中村朝さんを知らない方は、作品内容の違いに驚くかもしれません。 基本的には表紙の色が示している通り明るい未来への希望の光を謳う作品がメインを占めており、読後感は総じて良いです。 饕餮や件、座敷童子など民話や伝承に登場する想像上の生き物が扱われた作品が複数あるのも特色です。作者の趣味嗜好が溢れ出していて、それが心地よい短編集です。 表題作で描き下ろしの「天帝少年」もネーム自体は10年ほど前に描かれた作品だそうですが、綺麗に纏められた読み応えのある良質な一話でした。 絵柄の変遷も辿れるという意味で、貴重な一冊です。『部長が堕ちるマンガ』も大好きですが、中村朝さんにはこういったタイプの作品も今後も読ませて欲しいなと思います。

COBRA THE SPACE PIRATE

夢と呼ぶにはあまりに厳しく余りに哀しい影に向かってのオデッセイ

COBRA THE SPACE PIRATE
阿房門 王仁太郎(アボカド ワニタロウ)
阿房門 王仁太郎(アボカド ワニタロウ)

著者のライフワークなので一言で括れない幅がある作品で、私は 1.手塚治虫的なタッチが残り奇想展開なアイディアの楽しい「少年ジャンプ初期」(「コブラ復活」~「ラグボール」) 2.線がややソリッドになりシニカルな描写の増えた「少年ジャンプ中期」(「二人の軍曹」~「黄金の扉」) 3.ヒロイックな描写の光る「少年ジャンプ後期」(「神の瞳」~「リターンコブラ」) 4.「聖なる騎士伝説」 5.CGフルカラー期 で分けている。どの期間も見るべき所のある漫画であるが、4.の「聖なる騎士伝説」について書きたい。  「聖なる騎士伝説」は青年誌に掲載された長編で他の話より暗く、いつもよりシリアスでアダルトな展開や描写が多い異色のエピソード(何てったって、レディーさえ出てこない) だ。ここでは新世界の興奮は悪鬼に蹂躙され、コブラのいつもの剽軽な態度やヒロイックな勇気は鳴りを潜め、笑みは嘗て見られなかった暗い影を忍ばせている。絵の線もどの辺よりも細く、陰影もまた濃く、混沌とした悪意蔓延る世界をこれでもかと描き出す。筋も宝や冒険ではなく悪鬼の暗殺と言う剣呑な代物で、終盤に明かされる種も周到に張られた伏線もあり陰惨な世界観を補強する。  今までのスペースオペラと比べると余りにもノワールであり、退廃的でもあるが、それだけに強烈であり、私はこのエピソードが一番好きだ。けだし、このノワールが単なる露悪に終わらず、コブラが常に世を儚むようなニヒルな皮肉を呟きながら銃をぶっ放しながらもどこか善や正義を諦めきれていないからではないかと思う。有名なコマでもある様にコブラは終盤、実際には何の利益を齎さなかった教会を批判し「神か……最初に罪を考え出したつまらん男さ」と呟いてみせたが、これはやはり神や正義についてどこか夢を持っている証拠に他ならないと思う。さもなくばこんなセリフは決して言わないだろう。  コブラの海賊としてのアウトローな性格や享楽主義は上記の理想主義的な思想やストイックさに支えられている。寺沢武一は彼の初期作品を「思弁的」と批評していた記憶があるが、そういった性格が彼の作品から消えた事は一度も無かったことは確かだろう、そしてそれこそがこの漫画をいつまでも輝かせているのだろう。海賊と言う自由とギルドに対抗する高潔な戦士の顔を持つあの男のとこしえの旅に祝福を。

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