甘く蠱惑的な美しさ
連載時、この作品が無料で公開されていて、なんて幸福なんだろうと感じていました。 えすとえむ先生はエロスとタナトスを描かせたら天下一品という作家だと思っているのですが、この作品は本当に匂い立つような色気があります。 ジャン=ルイはショコラを愛する。甘党だが、時にビターな人生の真実も教えてくれる。少年時代の思い出だったり、かつて愛した人であったり。ショコラを通して描かれるのは、紛れもない人生の真実であり、読者は作中で描かれるチョコレートの甘さやほろ苦さまで想像させられます。 色気と食い気。人間の欲望。まさしく生きるということ。名手の紡ぐ、一握の物語。ナイトキャップにお薦めです。
飯漫画における料理の力は相当強い。道を間違えた人が生き方を改めたり、仲違いした夫婦や友達が絆を取り戻したりというのが日常茶飯事だ。
そこまでの力を日常生活で実感することはなくとも、香りや味で記憶が蘇ることは割とあるんじゃないかと思う。いわゆるプルースト効果ってやつ。
もしかして、味覚や香りが経験したこともないような甘美な記憶を生み出すこともある?
少なくともこの作品を読めば、味わったこともないような官能的なショコラの味を呼び起こすことができます。
ショコラを食べたあとに挟まるエロティックな描写も実際の出来事ではなく味の比喩として描かれているんだろうな、と思っている。
ジャン=ルイがそこにいれば、ヌテラのクレープも板チョコも至極のショコラに変わるのかも…?
結局のところ、ショコラそのものよりもジャン=ルイが纏うショコラの香りに惹かれてしまったんだろうな…。