国内の格闘技の常識が書き換わったあの時代
連載開始が2001年らしいので、グレイシー柔術という格闘技が日本中を虜にしていた頃。 当時、プロレスが最強だと信じていた日本の格闘技ファン達を地獄に突き落とした高田延彦vsヒクソン・グレイシー戦。 日本のプロレスが何も出来ずにヒクソンに惨敗した事をキッカケに、日本人の格闘技というものの捉え方が大きく変化しました。 今も当時も、メディアというのは残酷で、当然のようにプロレスは偽物であり強くないという極端な空気を生み出してしまっていたのですが、その壁をぶっ壊し威厳を取り戻すために本気のプロレスラー達が総格に名乗りを上げていったものの、そのほとんどは無惨な結果を残して当時のプロレスファン達の心は離れていく一方でした。 そんな中、桜庭和志がプロレスラーとしてグレイシー一族に連勝し続け、プロレスの威厳を取り戻してくれたのですが… 恐らく本作はその前に構想を練られており、プロレスラーの父の背中を追う少年が、父の仇を討つためにプロレスをベースに総格でのし上がっていくというストーリー。 とはいえ、これが先見の明があったと言えるほど現実ではプロレスが総格を圧倒したわけではなく、桜庭を筆頭にほんの一握りのプロレスラーが軽く爪痕を残しただけでした。 ただ、本作はプロレスファンの心の支えにもなっていたはず。 私は最近読んだばかりですが、当時まさにプロレスファンから総格ファンに心変わりをしていた自分の過去と重ね合わせて楽しむことが出来ました。 漫画的なとんでも展開はもちろんあるんですが、根っことしては「本当に強いのはプロレスなんだ」という中邑の言葉を描くような物語。 当時を知らなくても第三次プロレスブームの現在(既に下火な気もしてますが)、改めて読むと面白いです。
今は主に漫画原作者として活躍している青山広美さんが描いた、総合格闘技の漫画です。連載時に読んでいたのですが、数年前にふと思い出して読みたくなり、古本で全巻揃えて読み返し、青山さんの創作の根底には「常識に抗う」という要素があるんだなあと思いました。
総合格闘技にショーアップされたプロレスで挑んだり、スープレックスを決め技にしたり、大相撲の現役の大関とレスラーがガチンコで戦ったり…。麻雀漫画の不朽の名作である「バード」もそうですが、世間の常識に対して抗う、その闘争こそがこの作者の真骨頂だと思います。
作品に漂うダークさや残酷描写も含め、唯一無二の作品であり、恐らく埋もれてしまっているのですが、一人の少年の成長物語としても良い作品だと思います。