イカロスの山

山と友情と愛情が複雑に絡み合う

イカロスの山 塀内夏子
hysysk
hysysk

誰もが人生のどこかで、諦めたり、自然に遠ざかってしまった夢や恋心というのはあると思う。すっかり忘れてしまっていたり、心の奥底に引っかかってはいるけども日々を過ごすのに精一杯だったり、ある程度現状に満足していたりするかも知れない。 そこにどうしようとなく惹かれるチャンスが巡ってきたらどうするだろうか?主人公の三上は医者として働き、好きだった女性と結婚して子供も産まれ、何不自由なく生きているように見える。しかし三上のかつての夢、クライマーにとってはその世間一般での幸せこそが、ある意味では不自由なしがらみとなってしまう。 物語はヒマラヤに未踏峰の山が見つかり、学生時代のパートナーであり、全てを山にささげた平岡と再会するところから動き出す。山に惹かれること、平岡との絆、そして妻の真の思い…。これらが8000m級の厳しい登山に挑戦する中で明らかになっていく。 自身もワンダーフォーゲル部出身で、スポーツマンガの名手と呼ばれ取材力にも定評がある作者ならではの迫力と細かな描写が素晴らしい。山で人が亡くなった場合の手続きなど、登山シーン以外でもこの世界の大変さが語られる。 マンガに影響されて登山に憧れるのはやばそうな気がするし、何故みんながここまで山に惹かれるのか分からないほどに厳しさが描かれているのだが、仄かにこういった極限状態に置かれてみたいような気持ちになるのは確か。

ふたりソロキャンプ

漫画でわかるキャンプ入門書

ふたりソロキャンプ 出端祐大
六文銭
六文銭

ソロキャンプがお盛んな昨今。疲れ切った現代人に自然の癒やしが必要なんでしょう。 「ゆるきゃん△」を筆頭に、似たような作品が増えましたが、失礼な話、本作もそんな感じかと思っていましたが、意外や意外。 かなり素人向けでかつギアのことも突っ込んで説明してくれる、どちらかというと「漫画でわかるソロキャンプ入門」と言った感じで、非常に興味深く読める。 ベテランの主人公・厳を指導者に、読者と同じ目線で初心者のヒロイン・雫をおいて、丁寧にhow to や道具の説明をしてくれます。 正直いうと、最初は二人の関係必要か?とぶっちゃけ厳のソロキャンプでいいんじゃないか?とか思っていた時期がありましたが、今はこの関係なくして物語はない!とくらいまで言えます。 雫が、ただ教わるだけでなく、健気に努力する姿が一生懸命で良いです。 花夏という厳の昔の女もでてきて関係性にあやしくなってきますが、なぞの安定感のある関係なので、そこまで心配してなかったりしてます。 それにしてもキャンプで食べる、ご飯が美味しそうで、真似したくなりますね。 もっとも、自然の中で食べるから美味しいわけで、家でやってもしょうがないんですけどね。

プロレス鬼

プロレスファンはいつだって信じている

プロレス鬼 コンタロウ
野愛
野愛

これほどまでにプロレスを確かに描いた漫画は他にない。プロレスファンがどういう視点でプロレスを見てプロレスを信じているか、ここに描かれていることが正解で真実だと思う。 予定調和の小競り合い的なものをプロレスと呼ぶ風潮。プロレスの試合をまともに見たことがない人が言う「プロレスはショー」「プロレスは八百長」という決めつけ。 そんなことはどうでもいい。プロレスを見続けるものにとって、そんな揶揄はどうでもいいのだ。 気迫がなければ八百長ですら勝てない、そんな世界をプロレスファンは信じている。 力が強ければ、技が決まれば、強いプロレスラーになれるわけではない。 ペドロがスカルマンになれたのは同じ技ができたからではい。ファンの声に、世間の目に、時代の流れに、自分自身に向き合ったからである。  家族揃ってお茶の間でプロレスを見る時代が終わり、数えきれないほどのインディー団体が生まれ、海外からやってくる謎のマスクマンの映像も簡単に手に入るようになった現代。 時代は変わってもプロレスファンがプロレスに対して求めるもの、信じるものは変わらない。 プロレスを信じるものに読んでほしい漫画です。

シルバーポールフラワーズ

官能と競技、二人が交わる時 #1巻応援

シルバーポールフラワーズ 如意自在
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

前作『はるかなレシーブ』では、カメコやマスコミのせいでエロスな視線で見られがちなビーチバレーを、躍動する肉体の迫力と明るいロマンシス群像劇で性的な視線を打ち消し、感動的な王道スポーツ漫画として結実させた如意自在先生。 新作『シルバーポールフラワーズ』はそこから更に踏み込んで、「ポールダンス」という性的なショーを想起させる物を扱い、官能と競技の狭間にあるズレと共通する物、アンビバレンツな感情を描いている。 ★☆★☆★ ポールダンスを、従来のエロス漂うショーとして舞う女性と、「ポールスポーツ」という競技として取り組む女性。この二人が出会う事から、物語は始まる。 お互いを「冒涜だ」と感じ、反発する二人はぶつかり合う。それぞれの思い入れが語られる事で、どちらにも共感出来る私の心は宙吊りのまま、話が進んで行く。 古く妖しい劇場で、プライドを賭けて踊り合う二人。その一瞬の邂逅は互いに影響を与え、またそれぞれの「戦い」に戻っていく。方や競技の高みに、方や本当の誇りを取り戻す為に。 2巻以降、どうなるのだろう……先が見えない。どちらの場にも二度と立つ事は無さそうな、二人はどう関わっていくのか。 それぞれの道を描きながら、心の強敵(と書いて友)的な関係性が紡がれていくのか……もしかしたら強い反発の分、焼けつく様に熱いロマンシスが、展開されるのかも知れない(1巻時点での予想です)。

クワトロバッテリー

2組のバッテリー、4通りの可能性 #1巻応援

クワトロバッテリー 高嶋栄充
sogor25
sogor25

野球マンガにおいて、投手と捕手の一組・"バッテリー"は絶対のパートナーとして描かれることが多い。野球というスポーツの特性上、攻撃は全員参加なのに対し守備は投手の占める比重が異常に高く、投手及びサインを出して投球をコントロールする捕手は、個々の能力以上に2人の間に強い信頼関係がないと成り立たないからだ。では、そのバッテリーが1チームに"2組"いるとしたら、果たしてどうなるのか。 幼馴染で中学からバッテリーを組む投手の夏速一汰と捕手の虹村優多郎、そして2人とは別の中学で天才バッテリーとして名を馳せる投手の天宮地大と捕手の氷波蓮。この4人が同じ高校に進む所から物語が始まる。当然中学時代は個々のバッテリーしか知らなかった4人は、高校でそれぞれの人間性や才能に触れるうちに徐々に心境が変化していく。 夏速はコントロール度外視で誰よりも速い球を投げることに全てを懸けていて、それに幼い頃から付き合ってくれていた虹村に全面の信頼を置いている。 虹村は夏速に対して絶対の友情を感じてはいるが、抜群のコントロールを持つ天宮の球を受け、"配球"という捕手としての醍醐味を初めて感じる。 天宮は自分への絶対的な自信から中学の頃から氷波と対立していたが、氷波の能力を最大限に認めていて、自分と組むのは彼しかいないと思っている。 氷波も同じ思いではいたが、ノーコンの夏速の投球を自身の指導で劇的に改善させられたことから、夏速を教育して成長させることの楽しさを感じ始めている。 というように、元々が別々の2組のバッテリーだった4人が同じチームになることにより、いつのまにか一方通行の4人片思いのような状態となってしまっている。しかも、それぞれの気持ちのベクトルの原点が元々の信頼関係や選手としての能力、もしくは自己実現の楽しさのような感情であったりと様々。 この"一方通行の四角関係"が、本来投手も捕手も1人しか試合に出られない高校野球という舞台においてどういう化学反応を引き起こすのか、これまでの野球マンガでは見られなかったものが見られそうでとても楽しみな作品。 1巻まで読了。

りこさんブッチギリです!

ギャルが魅せるカット主戦型! #1巻応援

りこさんブッチギリです! 大田均
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

いやぁ、りこさんカッコイイわぁー。 マイペースを貫くギャルの明るさ、相手を手玉に取る余裕、手の内を見せない底の知れなさ……そしてカットマン! 卓球やってると、カットマン憧れます。(私、中学時代卓球部でした)で、実際にやってみようとすると、これがえらく難しい。 相手の強い打球に対してミスの許されない返球、広い守備範囲をカバーするフットワーク、長いラリーを重ねる気力・体力……かなりしんどいけど、観ている方はワクワクするんですよね、パワーをいなし、軽々と返球するクールな感じが。 りこさんは、男子の強打もあっさり打ち返すし、強い回転のサーブも完璧にブロック。「あ〜しんど!」とか言いながら爽やかな笑顔。そしてカット打ちのフォームが、しなやかで美しいこと……もう惚れる!でもどうしてそんなに強いの? 「卓球は布石のスポーツ」という言葉は、りこさんの二つの試合(非公式)にも端的に表れています。巧者に対して、なかなか手の内を見せない。相手にギャルと侮らせ、完璧な守備で相手を引き出し、狂わせ、最後に牙を剥く。完全にりこさんの掌中。気持ちいい! マイナーな「カット主戦型」がトップを獲る可能性は、ギャル姿で堂々としているりこさんの強メンタルにあるのかも?今後りこさんが何処まで躍進するのか、期待してしまいます。 そして部活からはみ出した連中に、りこさんが何を教え、彼らがどう変わっていくのか?元ボクサー女子が、りこさんの守備型卓球を見て、どう触発されるか? ……目標はやたら高いけど、大丈夫?

ブレイクショット

人気No.1ビリヤードマンガ、必殺技ショットにご用心

ブレイクショット 前川たけし
兎来栄寿
兎来栄寿

前川たけしさんといえば、1983年から月刊少年マガジンで連載されシリーズ累計で90冊近く刊行されている『鉄拳チンミ』が最も有名です。小さな子供でも親しみやすい絵柄と、それでいて迫力のある戦闘描写や魅力的なキャラクターたち、派手な必殺技、サスペンス性溢れる展開と魅力が満載の作品です。 そのテイストがそのまま色濃く反映されながら、週刊少年マガジンで1987年から1990年にかけて連載されていたのが『ブレイクショット』です。 1961年に公開されたアメリカ映画『ハスラー』が人気を博し、1986年に公開された『ハスラー2』が日本で公開されると一気にビリヤードブームが巻き起こりました。 『ハスラー・ザ・キッド』、『ザ・ハスラー』、『撞球水滸伝』、『キング・オブザ・ハスラー』、『獣たちのように』、『[W]ウォン』、『GAME-ゲーム-』、『ハスラー・レプリカン』、『ちょっとナインボール』、『モンキー・ハスラー』、『HOT SHOT』、『POOLPLAYER ISABU』、『ナインパズル』、『J.Boy』などなど数多くのビリヤードマンガが描かれてきましたが、ビリヤードマンガで大ヒットした作品というのはあまりありません。その中でも、異例の人気を見せた作品が『ブレイクショット』でした。 まだビリヤードという競技の存在すら知らない人も多かった時代に、マガジン読者の少年たちにビリヤードの存在を広く伝えた功績が大きい作品です。 この作品で秀でていたのは、何と言っても加納涼二や佐伯陽子といったライバルキャラクターたちの魅力です。そして、それを生み出していたのが「ショットガン・ショット」や「リバースショット」、「北斗七星」など、ライバルたちが繰り出してくる派手な必殺技の数々でした。 ビリヤードという競技はヴィジュアル的には格好いいのですが、画的には一箇所に留まって玉を打ち合うことになるので卓越した心理描写や何かしらの工夫がないとマンガとしては映えません。それを、『ブレイクショット』ではカッコいい&可愛いキャラクターとビリヤードを知らない人が見ても「何だかよくわからないけどスゴいことはわかる!」という必殺技を以って克服してみせていました。 サッカーがマイナーだった頃の『キャプテン翼』や、麻雀のルールを知らなくても派手で楽しめる『咲-Saki-』などにも通底する部分があります。実際にはプロでもできないであろうショットに関しても上手く理屈をつけて説得力は持たされていました。 それが故に、特に主人公・織田信介のダグラスショットやDHSを真似した人は多いと思います。しかしながら、スカイラブハリケーンの真似をしても怪我するだけで済みますが、ビリヤード場で無理なショットを撃つことで台のラシャを破いてしまったりすると高額な弁償を行わなくてはならなくなってしまうため、現実での代償が非常に大きい誘惑でした。 読んだらビリヤードをやってみたくなること請け合いの名作ですが、くれぐれも必殺ショットの取り扱いにはご注意ください。