虚構推理

だんだん理解が追い付いて、だんだん面白くなる

虚構推理 城平京 片瀬茶柴
mampuku
mampuku

 ファンタジーとミステリーは相いれないと思われがちだが案外そうでもない。米澤穂信の『折れた竜骨』は中世欧州は海賊の時代が舞台のローファンタジーで、魔法ありバトルあり殺人事件の謎解きありのなんでもありなのに美しくまとめられており、魔法も込みで見事な推理で事件解決してみせている。世界のルールや常識を読者に押し付ける「説得力」とか「強度」が凄いのかもしれない。この『虚構推理』もそのような意味では面白いリアリティを持っている作品だと思う。  妖怪や幽霊のような存在と密接に関わり合いながら、都市伝説じみた事件を解決していく伝記ファンタジー。謎解きモノとして読者が掴まっていられる拠り所となるリアリティの線引き(世界観の輪郭みたいなもの)が1巻2巻と読み進めていくうちに徐々に鮮明になっていく。  たとえば、第1章『鋼人七瀬編』の1巻で登場する怪人「鋼人七瀬」は、それまでの流れ的になんとなく異物感があって腑に落ちない感じがするが、登場人物の思考や「七瀬」への感じ方を通して読み手が抱く「七瀬」に対する違和感の正体がだんだんわかってくる。これがなんとも快感なのだ。  本編には関係ないが、裏表紙の紹介文が1巻では「伝記×ミステリー」だったのが2巻で「伝記バトル」、3巻では伝記ミステリーに戻っている。変遷に意味はあるのかないのか・・・

ノブナガン

偉人の力で怪獣と戦うジュブナイル・ビルドゥングス・SFアクション

ノブナガン 久正人
ANAGUMA
ANAGUMA

主人公のしおちゃんは女子高生。織田信長の偉人遺伝子が宿り「ノブナガン」として宇宙怪獣から世界を救う戦いに巻き込まれていくのですが、JKでミリオタで作戦参謀まで務めるっていうギャップが効いてます。 久正人作品らしくアクションのかっこよさ、偉人の逸話や能力を使った戦闘のギミック、怪獣のディティールや掃討作戦のカタルシスは文句なく最高です。久正人×宇宙怪獣の組み合わせに間違いがあるわけがない…。 『ノブナガン』がとりわけ魅力的だなと思うのは、しおちゃんの成長を描くビルドゥングスロマンでもある点でしょうか。 (甘酸っぱいラブロマンスもあるぞ!) 人付き合いが苦手で「オタク」として孤立しがちな彼女に手を差し伸べる親友にしてヒロイン、浅尾さんとの関係は読んでいるこちらが恥ずかしくなるほどにかわいらしく、そして美しいものです。 しおちゃんは浅尾さんのために銃を取り、やがて仲間と手を取り合うことを学び、最後には全人類のため、愛する人とともに戦います。 ひとりだったしおちゃんの世界が広がっていく、そのキッカケになるのは他ならぬ浅尾さんなのです。 自分はこの作品、かなり正統派のセカイ系マンガなのでは?と読んでいたのですが、壮大なストーリーの中心には必ずしおちゃんと浅尾さんの物語が据えられていたからだろうと思います。 特に終盤、進化侵略体との決戦が近づき戦闘がスケールアップしていくのと対照に、決着へ突っ走るための力強いエンジンとして彼女たちのミクロな関係性が描写されていくのは圧巻の快感があります。 パワフルなストーリーと巨大な感情が全6巻のなかにギッチリ詰め込まれてます。ボリュームたっぷりの一作、ぜひ読んでみてほしいです。