とにかく安い部屋を。その条件だけで初めての一人暮らしに望んだ体験者が案内されたのは築数十年のアパート。最上階まで階段でしか上がれないボロボロの建物だったが、部屋を見るとリフォーム済みでユニットバスに水洗トイレもあり、不満なく暮らし始めた。しばらくたったある晩、廊下の奥からチンというエレベーターの到着音が聞こえ、小さな子供達の嬌声と駆け回る足音を聞いた。そこには、ないと思い込んでいたエレベーターが一基だけ存在していたのだった……。初出:オーディオブックCD 「実説 城谷怪談撰集 九」収録
訪ねてくる女
体験者がまだ新社会人だった二十数年前、就職先も決まり彼女も出来、都内某所の新しいマンションの角部屋に引っ越して間もない頃。出勤するのに部屋を出た朝にふと気づくと自分好みの綺麗な女性が廊下の奥に立っているのに気が付いた。それから毎朝のようにすれ違い、ある日とうとう男女の一線を越えてしまう。逢瀬を重ねて一カ月、本命の彼女からかかってきた一本の電話から事の異変を知らされることになるのだが……。初出:オーディオブックCD 「実説 城谷怪談撰集 八」収録
電話ボックス
雪降りしきる12月の札幌。当時中学生だったY君は、初恋の相手と毎夜のようにこっそりと電話をしあっていた。ある夜、Y君は母親に長電話を咎められ、自宅の電話を禁じられてしまう。仕方なく、家の前にある電話ボックスを使う事にしたのだが…。そこで彼を待ち受けていたのは背すじも凍る不可思議な体験だった。そして、謎に包まれていた怪体験はその数年後に思いもよらない形で真相を顕す事になった……。初出:オーディオブックCD 「実説 城谷怪談撰集 一」収録
壁のシミ
上京して小さなワンルームで一人暮らしを始めた女子大生、みほちゃんの話。昼は正社員、夜は大学の夜学に通うハードな毎日を過ごしていた頃、ある時期から自分の部屋の壁におかしなシミを発見する。やがて何かに突き動かされるように毎日そのシミを監察するようになるのだが、しばらくして、遂にそのシミが原因と思われる異変が彼女を襲う。そして、今もなおその出来事は終わっていなかったという……。初出:オーディオブックCD 「実説 城谷怪談撰集 一」収録
嗤う―わらう―
四十年輩の男性が、20年ほど前、大学卒業後、社会人1年目の盆に里帰りした時の体験。地元の友人と深酒をして実家まで歩いて帰る道すがら、地元唯一の小さな商店街に差しかかった時の事。なつかしい気持ちに誘われてフラフラとシャッター街になってる商店街を歩いているうちに、幼い頃聞かされた都市伝説を思いだす。「暗くなってから商店街通っちゃだめだからね……。赤い口開けて、笑いながら後ろついてくるよ…」そして、その都市伝説のきっかけになった凄惨な事件があった事を知る事になるのだが……。初出:オーディオブックCD 「実説 城谷怪談撰集 一」収録
またくる
50年輩のサトミさんは人生で二度、お風呂場でソレに出くわしている。もともと気配や悪寒に敏感だった彼女が、小さい頃姉たちと留守番をしていた秋の日の夕暮れ、長姉の背中に張り付くように見えた黒い影に目を奪われる。やがて入浴しようと風呂場に向かったのだが、いざ入ってみると狭い風呂場に姉の姿はない、途端に体が熱く重くなり朦朧とした視界に蠢く者は長髪を振り乱し、異様に手足の長い人であって人でない何かだった。「またくる」という謎の言葉を残して姿を消してしまった異界の者。その後、姿を現す事はなく忘れかけていた数十年後のある日、風呂場に再び現れたソレの正体とは。初出:オーディオブックCD 「実説 城谷怪談撰集 八」収録
北海道の観光地、糠平温泉(ぬかびらおんせん)にひっそりとたたずむ、とある古びたホテルには、関係者が口をそろえて忌み嫌う部屋があった。観光バスのベテラン運転手トモさんが、ある時団体のツアーでそのホテルに宿泊したのだが、深夜に部屋を訪ねて来たのは招かれざる客だった。トモさんを恐怖に落とし入れたいわくつきの部屋にまつわる衝撃の事実が明かされる。初出:オーディオブックCD 「実説 城谷怪談撰集 二」収録
玄関
今から12・3年程前、一人の若者が舞台俳優を目指して劇団に入団してきた。屈託なく華のある男ではあったが、ある夏の夜、彼が住まう一人暮らしのアパートへの帰宅時、立て続けに奇妙な出来事が起こった。初めての怪奇現象から数日が経ったある日。常軌を逸した電話が彼からかかってきた。かけつけた友人らを巻き込み更なる恐怖が訪れる。玄関という異世界をつなぐ境目にまつわる恐怖のストーリー。初出:オーディオブックCD 「実説 城谷怪談撰集 一」収録
経営者の高橋さんは、元来幽霊お化けには否定的な豪放磊落な性格だった。ところが、ある時期から妙な夢を見るようになった。見知らぬ古い座敷に布団を二組延べて寝ている夢なのだが、カリコリカリコリという音が聞こえて目が覚める。横に寝ているとばかり思っていた妻の姿はない、音は切れ切れに妻の布団の脇にある衝立の向こうから聞こえてくる。気になった夢中の高橋さんは思わず衝立をどかしてみると、長髪をザンバラに振り乱した老婆が、何かを両手でわしづかみ歯を立ててガリガリとかじりつく様を目の当たりにする。初出:オーディオブックCD 「実説 城谷怪談撰集 九」収録
学校の七不思議
ある女性が中学生の頃に体験したエピソード。彼女が通っていた中学校には、代々学校の七不思議と呼ばれる怪談が伝わっていた。中でも放課後四時過ぎに、校舎四階の女子トイレから現れるという「まゆみちゃん」という小さい女の子の話は、自分達でも呼び出せるという曰く付きだった。実際に怪異が起こるか試してみようということになったのだが、不可思議な事は起こらない日々。遂に彼女が試してみることになるのだが、夕暮れの校舎の廊下に現れたモノとは。初出:オーディオブックCD 「実説 城谷怪談撰集 十一」収録
三十代半ばの独身女性が、長年住み慣れたアパートを出て新築の大きなマンションに引っ越して間もなくのこと。深夜一人きりの寝室に足音が聞こえてくる。足音は彼女の寝ている背後でピタリと止まる…。お札や霊媒師に頼るも奇妙な出来事は連日に渡って彼女に襲いかかる。そして、その怪奇現象には悲しい事実が隠されていた。初出:オーディオブックCD 「実説 城谷怪談撰集 三」収録
札幌市から南に進む山中、峠道の途中に突如表れる滝の入り口。獣道を下った先の沢に大きな1枚岩があり、水死体が引っ掛かっていたとの噂があった。好奇心おおせいな若者が連れ立って、肝試しに訪れた夏の深夜、彼らを待ち受けていたものとは…。城谷氏本人の体験談。初出:オーディオブックCD 「実説 城谷怪談撰集 三」収録