太田出版マンガの感想・レビュー169件<<45678>>いろんな事情があってゲームネタが描けなくなった巻ピコピコ少年EX 押切蓮介名無しいろんな事情があってゲームネタが描けなくなった…懐かしい…。当時ちょうど本屋でバイトしてたのでコミック担当のHさんが今のうちに売れ!!と単行本を山のように積んでいたのを思い出す。 そんないろいろあった実情を描いているのがこの巻である。かなり本心が描いてあると思う。自分も読んでいて作者と一緒に安堵した。自分はそこまでゲーム好きではないのでこういうのエッセイの方が好みだったりする。このシリーズに登場し続けている山田(表紙のメガネ)との歪んだ友情の話や、ゲーム脳のまま運転免許を取りにいく危険な話が印象的。あと本人は掲載するのを恥ずかしがってる短編「ー海へー」もよかった。とにかく『ピューリッツァ賞』を読んでくれ西村ツチカ作品集 なかよし団の冒険 西村ツチカ匿名希望いつだったか、石黒正数先生の読切か何かを読みたいがために買ったコミックリュウに、本書に収録されている「ピューリッツァ賞」が載っていました。 それが自分と西村ツチカ作品との出会いだったのですが、読んだときは例えるならば、脳天に雷が落ちて全身を電気が走り、白目をむいて痙攣したほどです。「これを描いたのは一体どこのどいつだ!!西村ツチカ?誰だ西村ツチカって〜〜〜ッッ!!!!」 大げさに言えば、そんな感じでした。 こうして短編集になってしまえば、ピューリッツァ賞だけが特別面白いわけではなく、あ〜全部面白いんだな〜ということがわかるんですが、その時の衝撃がどれほど強かったかは今でも忘れられません。 余談すぎる余談ですが、この短編集だけを読んだ時点では西村ツチカ氏は女性なのかな、と想像する人が多いはずです。 しかし、コミティアでご本人にお会いした際にとても驚いたことを記しておきます。(同人誌即売会あるあるですけどね。)応天の門、灰原薬好きな人、この短編集も是非。回游の森 灰原薬名無し人間の仄暗い部分とか後ろめたい部分とか誰にも言えない性癖を描いた漫画。 じっとりと重い感じが絵柄と合ってて個人的には好きです。 重い話を描かれてる時のシュッとした顔が好きで、作者のファンなんですが応天の門にも繋がるところあるかも。 蛇の話が印象的で何年か経ってるのに今でも覚えてました。 再読しましたがやっぱり好き。四十路のあれやこれやあした死ぬには、 雁須磨子兎来栄寿アラサー女性を主人公にしたマンガは沢山あれど、四十代以降の女性を主人公に据えたマンガとなると途端に少なくなります。そんな中、雁須磨子さんが素晴らしいアラフォーマンガを生み出して下さいました。 現代日本の平均寿命が八十四歳程だそうなので、まさに人生の折り返し地点であり、「残り時間」について意識させられてくる四十代。幾人かの様々なアラフォー女性を通して、二十代・三十代からの様々な変化、不安や傷つくこと、苛立つことが出てくる様子がリアルに細やかに描かれます。筆者が実際に四十代になって体験し感じたことを描いている部分もあるようで、納得です。 加齢は当然良いことばかりではありません。が、そこまで悪いことばかりでもないとも思わされる、豊かな味わい深さのある物語です。たとえネガティブな事柄でも過剰に悲痛になることがない雁須磨子さんの絶妙な軽やかさがとても利いています。 一回り以上歳が下なものの仕事ができて考え方もしっかりしている女の子や、その子とは正反対にまったく仕事ができない困った上司など脇を固めるキャラも人間臭く魅力的です。 同年代の人にはあるあるとして、下の年代の人には近い将来に自分にも訪れるかもしれないこととして、普遍的な仕事や家庭、健康等の問題への共感として、それぞれに楽しめるでしょう。歳を重ねてから再読するとまた感想も変わる作品かもしれません。 単行本2巻以降掲載部分では内容的にもより広がりを見せてくれています。こういった作品がもっと増えていって欲しいなと思います。 マンガはどこまで表現できるのだろう国民クイズ 加藤伸吉 杉元伶一名無し「マンガはどこまで表現できるのだろう」と考える事があります。“音”は聞こえなくても、音楽漫画の名作は数多くありますし、“味”がわからなくてもグルメマンガは星の数ほどあります。名作は時に、現実に存在する以上の“音”や“味”を表現することがあるように思います。『国民クイズ』が描き出したのは、現実以上の“熱狂”でした。 『国民クイズ』が描くのは、“国民クイズ”が全てを支配する日本です。“国民クイズ”とはテレビでよく見るクイズ番組そのものです。ただ、賞品のレベルがケタ違い。そこで合格者となれればどのような望みも叶えられます。ある者は、いなくなった飼い犬を探してもらい、またある者は3億円の借金の肩代わりを願います。故郷の温泉街を復興させるためにエッフェル塔を移動させた合格者もいます。合格者の希望は絶対・無制限に優先されると憲法にも規定されているのです。民主主義が達成できなかった、一国民の願いをダイレクトに迅速に達成されるのが、「国民クイズ体制国家」となった日本なのです。 「国民クイズ」にはもちろんリスクもあります。予選をくぐり抜け、本選の6名に選ばれたにもかかわらず不合格となってしまうと、「戦犯」として強制収容所で働くことになってしまうのです。視聴者は、参加者の天国と地獄を楽しみに眺め、やがて狂乱の舞台に参加しようと変わっていくのです。 これら餓鬼のような参加者をコントロールし、テレビの向こう側にいる人々の欲望に火をつけるのが、司会者・K井K一。彼自身、かつて「国民クイズ」に参加しながらも本選で不合格になってしまった「戦犯」です。奉仕労働として「国民クイズ」の司会を行います。このK井の司会がとてつもないのです。時に静かに、時に荒々しく、回答者を慰め、挑発し、弄ることで、番組を盛り上げていきます。 彼は国民にとってはトリックスターとして、「国民クイズ」の象徴として機能しているのです。 しかしK井にとって「国民クイズ」に対する思いは複雑です。強制収容所に暮らし、妻子と離れて暮らすことになった現状に怒りもあります。双子の処女と3pしたいという欲望と恵まれない子のために養護施設を作りたいという願いを同列に扱う「国民クイズ」に疑問もあります。しかし、なにより司会はK井にとっての天職でもあるのです。 最終局面、K井は完全に「司会」となり、政府やテロリストといった様々な人間思惑を超えたところまで到達します。国民の欲望は限界以上に引き出され、大衆はかつてない「熱狂」に包まれるのです。 その行き着く先はK井自身にもわからないのです。己の欲望だけを求める国民が、熱狂のもとで一丸となって暴走する…このライブ感は『国民クイズ』でしか味わえないのです。40代、今まで通りとはいかないならば、どう生きるか?あした死ぬには、 雁須磨子名無し正直、共感とは少し違うものを感じた。それは単純に主人公と自分の年齢差だと思うけど。ただ主人公の身に起こったような身体やメンタルの変化は、もう遠い話ではないのだろうな。 変化を自覚したときには、こういうものだから、今までどおりに行くわけがないからという考えに切り替えられる、受け入れる体制をとれるようになっていたい。 主人公は、おそらく更年期の症状があらわれているんだろうというところで、年下の同僚にちゃんと現状を説明して「おかしかったら言ってね」と伝えているけれど、それはなかなか出来ることではないよなー… この作品を読んでより思ったけど、40代をおばさんと呼ぶには早い。というか、つまり、おばさん(おじさんも)かどうかは年齢で決めるものではない。 おばさんじゃない40代になりたい。甘く蠱惑的な美しさその男、甘党につき えすとえむナベテツ連載時、この作品が無料で公開されていて、なんて幸福なんだろうと感じていました。 えすとえむ先生はエロスとタナトスを描かせたら天下一品という作家だと思っているのですが、この作品は本当に匂い立つような色気があります。 ジャン=ルイはショコラを愛する。甘党だが、時にビターな人生の真実も教えてくれる。少年時代の思い出だったり、かつて愛した人であったり。ショコラを通して描かれるのは、紛れもない人生の真実であり、読者は作中で描かれるチョコレートの甘さやほろ苦さまで想像させられます。 色気と食い気。人間の欲望。まさしく生きるということ。名手の紡ぐ、一握の物語。ナイトキャップにお薦めです。 エロかわいい短編集イタイほどかわいい 阿仁谷ユイジstarstarstar_borderstar_borderstar_borderかしこ高校時代にずっと好きだった進藤くんと不倫相手の部下として再会する。しかも彼はゲイになっていて上司のことが好きだという。恋敵だし自分は恋愛対象にならないはずなのに進藤くんの魅力に抗えない主人公。←ここまでが「巡恋歌」(2007年)。そして続編が表題作「イタイほどかわいい」(2014年)になります。この短編集は作者の阿仁谷ユイジさんご自身が企画プレゼンしたらしく、あえて最古作の続編を最新作として載せたかったとのこと。7年も間があると進化 がすごくて(進藤くんがFカップになったり)、その見所も加わってより面白い。他にも教え子と恋しちゃう先生の話とか、エロかわいい女の子が盛りだくさんでした。こんなにときめくSM漫画を他に知らない生きろ!モリタ 松本藍名無しこの作品を読んでいちばん良かったのは、Mの人の思考ってこうなんだ!と知れたこと。全てのMがそうではないにしろ、また視野が広がった気がして嬉しい。 主人公モリタは気が弱くて自己主張が苦手ないわゆるヘタレ。 SMプレイの相手探しに勇気を振り絞って(その振り絞り方もドMならでは)出会い系サイトに登録、さっそく返事をくれた相手に会ってみると、なんと16歳の女子高生。 その子(彩ちゃん)は生粋のドSであるにもかかわらず、処女な上に恋もまともに知らないと来た。色んな面でアウトなんだけど、彩ちゃんの自分勝手で上から目線の言動にいちいちモリタが反応している様が面白い。 プレイの相手としてだけではなく、しっかり恋をしてしまうモリタだけど、当然ふたりの間にはさまざまな障害が立ちはだかります。 生きるか死ぬかみたいなギリギリ感はないけれど、思わず「がんばれモリター!」と叫びたくなるアブノーマルラブコメディです。ゴトウユキコ作品好きな人これも読んでみて…水色の部屋 ゴトウユキコ名無し全2巻で読めます。 まあ結構暗い話だけどゴトウユキコ好きな人はこっちも、って感じ。 邦画好きな自分には結構ズドンとくる。 女性の肉感的な描写ほんとうまい あらすじ見て気になるって人は上下巻読んでみて なるほど…うみべの女の子 浅野いにお名無し浅野いにおさんってファンが多いのは知ってたけどなんとなく読んだことなくて、「うみべの女の子」ってなんか可愛いほのぼのした漫画かなぁと思ったら大間違いだった…。鬱…。 青春の痛いとこばっかり見せられてる感じで途中からつらかった。 男の子こわいし。 でもファンがいるのもわかる。作者が描きたいもの描いてる感。どうか"普通の"十代の少年少女に多く届いてほしい少女のスカートはよくゆれる 岡藤真依sogor25幼少期にトラウマを持つ女の子、車椅子の女の子、同性を好きになった女の子、家庭環境に問題を抱える女の子…そんな"普通じゃない"少女たちが性愛と向き合う様子を描くことで、性愛を持つ事自体は"普通"だけどそれを叶える事は"普通"じゃない、そんなメッセージを感じた。特に第1話の「終わらない夏」は全体の爽やかな色使いに反して冒頭から結末に至るまで何度も心にズシンとくる作品。これだけでも読んでみてほしい。 各話ごとの締め方が様々で起承転結ではなく描き出した物語自体からメッセージを伝えようとしてる印象があり、そういう意味ではアートに近い立ち位置の作品かもしれない。なので読む人によって受け取るものがきっと大きく変わってくる作品。どうか"普通の"十代の少年少女に多く届いてほしいと思う作品。鬼頭作品読み漁ってる終わりと始まりのマイルス1 鬼頭莫宏名無し炁が影響するという独特な世界の話 メカ好きな人、ちょい古漫画によくある男子がエロいの大好き設定が好きな人、読んでみて ファンタジー設定云々は置いといて、物が人の想いによって浮くとかなんか神秘的で面白い。 思い入れのあるものほど、愛するものほど空へ還ってしまうという設定、ロマンチックで物悲しくて素敵 一冊で心動かされる漫画と言えばこれ志乃ちゃんは自分の名前が言えない 押見修造いい漫画読み野郎タイトルそのまま。自分の名前言えないコンプレックスはしんどいだろうなと思います。 自分も滑舌怪しいのでちょっと共感。 押見修造作品の中でも好きな作品でした。 不満、こうなりたい、こうありたいが全面に出た本。 最後の方、なんか読んでて泣きそうになります。 吃音がある人じゃなくても自分こういうコンプレックスあるな、みんなあるのかもしれない、だからそんなに落ち込まなくても大丈夫だと思わせてくれる本。 いい本に出会いました。しのちゃんかわいい志乃ちゃんは自分の名前が言えない 押見修造やむちゃ押見さんは私の中では惡の華のイメージが強くて、生理的に苦手だったんですが、こちらは読み終わってほっとしたというか、あぁこういう話も描くのか、みたいに思いました。なんだかほのぼのした漫画に見えても結構ナイーブな話だし、ギリギリのところを行ってるような繊細さがあって、10代のすっぱい時間だけ見せられたような感じです。食道楽「YながFみ先生」の日常!愛がなくても喰ってゆけます。 よしながふみたか よしながふみ先生の描く漫画は、念入りに食事・調理シーンが描写されていることが多い。 西洋骨董洋菓子店、きのう何食べた?は料理をメインテーマにしているから、描写が細かいのはもちろんのこと、法律がメインテーマの1限めはやる気の民法でも藤堂が田宮のために朝食を作ったり、しっぽりした居酒屋で誕生日を祝うなど表現が際立っていて、「ああ、この人は本当に好きで食事シーンを描いているんだな〜」と、こだわりぶりに感心していた。 だからこそ、よしながふみの描く食事をテーマにした「半エッセイ的漫画」があると知った瞬間、Amazonで即注文…!(※紙しか出てない) 「こんな細かい食事描写を描く人は、いったいどんな食生活を送っているのか」。その理由を知ることができるとワクワクしながら読んだ。 読んでみると、よしなが先生はご自分で料理もされるし、お付き合いする相手については、「食事についてアレコレ感想を共有できる。美味しい食事をするためにわざわざ足を伸ばすことができる相手じゃなきゃ無理」というエピソードがあり、「ああ、やっぱりね。食へのこだわりの強い人なんだ…!」と、バッチリ腑に落ちた。 (回らないお寿司屋さんでの注文の仕方は、ぜひ真似しようと思います!) 主人公は「YながFみ先生」であり、「よしながふみ先生」ではない非実在漫画家と理解しつつも、いち読者としてはいったいどこまでが本当の話なのか興味が尽きない作品。 声をつけるなら坂本真綾がいいかわいい悪魔 志村貴子mampuku超好き。試し読みして一発で惚れてポチった。さすがだ……! 唐突にドアップを描いたり変なポーズを取ったり髪をなびかせたりする、高い画力を惜しみなく振りまくパワータイプのレディース向けコミックって大好きなんですよね。「かげきしょうじょ!」然り「きみが心に棲みついた」然り。BL系や萌え系、オタク系とは少し違って嫌味なくそれができちゃうところが良い。 恋愛以外にもいろんな短編が楽しめる1冊でした。満足度。素敵なカップルのお話とある結婚 熊鹿るり名無しドイツ系アメリカ人のアンナと日本人の早紀が同性婚をするお話。 百合マンガではないです。かといって同性であることにも執着し過ぎず、本当にタイトル通り「とある結婚」がピッタリでした。 ただアメリカでも同性愛に対する差別意識があって、早希が仕事を辞めさせられる場面はショックだった。同人誌で目指す最底辺からの脱出、そして世界平和! これ一冊で同人界が解る『同人王』同人王 牛帝兎来栄寿サンクリが終わり、夏コミに向けた準備が本格化する今日この頃。皆様如何お過ごしでしょうか。 「サンクリ? 夏コミ? 何のことです?」という方は、是非この『同人王』を手に取ってみて下さい。同人誌の作り方からダウンロード作品の利率、同人界の主なイベントに至るまで、同人というものについてはこの一冊を読めば全て解ります。 はたまた、「夏コミ、楽しみ!」「また、戦争が始まるのか……」「(言葉を発する間もなく修羅場る)」といった方も、より今作を楽しめるので、やはりお薦めです。 ただ、今作を薦める理由は単に同人をテーマにしているから、ということではありません。 この作品は、あらゆる人間に響き得る熱く重厚な現代人間ドラマです。そして、何かに行き詰まりを感じてしまっている人の魂を奮わせる賛歌です。人生、才能、愛……様々なテーマが、478頁の厚いハードカバーの中に密封されています。とりわけ、絵や漫画を描いている人を始め、創作に携わっている人には響く部分が多いでしょう。 2013年刊行作品の中でマンガソムリエである私のベスト5に入る存在です。熱く、篤く、淳く、お薦めします! ■主人公がスゴい! 『同人王』の主人公は、友人も職もなく、女性は二次元のキャラクターしか愛せない底辺ニートの青年、タケオ。二次元の同人誌をオカズにアクロバティックな自慰を繰り広げている所を妹に目撃され、親に告げ口されて叱られる、というあまりにも悲哀を誘うエピソードから今作はスタート。死を考え始めた彼は、二次元にしか自分の生きる道が無いと悟り、「同人王」に俺はなる! と、同人誌で食べて行くことを目指します。 > 3次元の女は決して俺を救わない… > 俺を救うのは2次元のみ… > 萌えという文化だ… > ならば俺は自分を救うもののために一生を捧げるべきではないのか? > (中略) > 俺は…同人王になるために生まれたのだ!! この作品、率直に言えば絵は素人が描いたような感じなのですが、それを補って余りある言霊の威力、それを下支えするネーム力・コマ運びの巧さがあり、読ませられます。 そんな彼が、初参加するイベントであるサンクリに持ち込んだ同人誌が、オフセット100部。これは、例えるならコンビニに3年前のジャンプを100部入荷するような暴挙です。500円では全く売れないので300円に値下げるタケオ。それでも売れないので無料配布にする。しかし、そこまでしても「タダでも欲しくない」と言われてしまう。圧倒的なまでの挫折を味わいます。 その後も、彼は簡単には前に進めません。ヒロインに出会い師事を仰ぐものの、絵の練習をしてもすぐに集中力が途切れて遊んだり、居眠りしたりしてしまうタケオ。ならば、と「もし〆切を守れなかったら××××する」という重度のペナルティを課しますが、それでもなお彼は完成させることができず、原稿を落とします。今度こそは、とまた目標を新たにして頑張り始めようとするも、そこでもまたタケオは何も成せません。 > なぜここまでしても… > やる気がでないんだ… 自分でも悲しい程にモチベーションが上がらない。人にはそんな時もあるでしょう。どん底の人生の中で、やるしかないにも関わらず、それでも何もできない……! しかし、そんなタケオにも意識が変わり、努力をし始める瞬間が訪れます。一体彼が何によって奮起し始めたのか。その答、世界が変わる瞬間は、読んで確かめて見て下さい。読むことで、あなたの世界も変わるかもしれません。最後まで読めば、こんな真摯な成長物語はないと実感できるでしょう。 ■ヒロインがスゴい! この作品を語る上で外せないのは、ヒロインの売れっ子同人作家・肉便器先生です。物凄い名前ですけれど、読めばこの名前の意味も解るようになります。 この肉便器先生、登場早々に名前以上にインパクトあるセリフを言い放ちます。 > ねぇ…世の中には犯罪が絶えないわよね… > なぜだと思う? > 答はね 精力がたまるからよ > 余った性エネルギーがすべての悪の元凶なの そう、肉便器先生は、エロ同人誌を描くことによって男性の余った性エネルギーを発散させ、それによって世界を平和にしようと真剣に考えて実行しているのです! 一見突拍子もなさ過ぎるように聞こえるかもしれません。 しかし、私はこれを読んだ時に、『キーチVS』6巻末にある、「新井英樹×堀江貴文 特別対談」を思い出しました。堀江さんという人間を自分が描く物の対極にある人だと認識していた新井先生がその印象を変える切っ掛けとなったのが、堀江さんの秋葉原通り魔事件へのコメントだといいます。曰く、「なぜ犯行に及ぶ前に一本抜かなかったのか」「一発抜いたら終わる鬱屈に根ざした暴力はもう少し減らしようがある」と。 これは社会学的にも指摘されている所で、女性の数が相対的に少ない所では若い男性は凶暴化し、そこに社会不安などが重なると一気に暴徒化したりテロリストになったりする例は歴史を辿っても枚挙に暇がありません。そこに女性の存在があることで、男の悩みの多くは解消される。これは一つの真理でしょう。 しかし、それでも救済できないタケオに対し > 愛を受け付けない人間を > > どうすれば救えるっていうの…!? と肉便器先生もまた大いに苦悩します。そんな肉便器先生が、タケオに光を与えることに成功するシーンは心を打って止みません。彼らによって紡がれる愛の物語も、またこの作品の一つの見所です。 ■クリエイター魂に響く! > ヘタレほど才能がないとか言って現実を投げたがる!! > > 「デキるやつ」に蹂躙されたことのない強者などいない!! > > みんなクシャクシャに踏みつぶされながら何度も立ち上がって上手くなっていくんだ!! > お前の下手さからはそれが感じられない!! > 才能がないんじゃない… > 人生を知らないだけだ このシーン、絵面は酷いんですが、セリフだけ見れば最高に熱いです。『アカギ』の巻末にある名言のリフレインを通して、そういった印象的な人生にも敷衍できるセリフがあることの効果を学んだという作者。この『同人王』にも創作する人間、ひいてはこの世界で生きる人間に対して、ビンビン響く名言が沢山あります。 肉便器先生と自信を比較した時、そもそもの生活ペースにおける活動量に打ち拉がれるタケオ。しかし、まずは挫折を味わい、そのルサンチマンを抱く所から全ては始まります。そうして成長していくタケオの姿は名言と同等以上に雄弁に、多くの人の心と魂に語りかけ、届くものがあるでしょう。同人という狭いテーマの作品でありながらも、誰にでも読んで欲しいと思うのはこのためです。 そして、絵や漫画を描く人間にとってはより個別具体的なアドバイスが有り、その部分を読むだけでもやる気が湧いて来ること請け合いです。同人誌が一部も売れなかったタケオですが、pixivで段々と評価を上げていくようにまで成長していきます。その時に行った練習とは……? これは誰しも実践可能ですので、「絵が上手く描けるようになりたい」「もっと売れるようになりたい」といった方も是非読むべきです。 ■そもそもこの作品が世に出たことがスゴい! 上記に紹介した以外にも、この作品の魅力はまだまだあるのですが、それは是非実際に読んで自身の魂で感じ取って頂きたいです。 Web漫画サイト新都社から始まり、電脳マヴォでの再連載を経てこの作品が書籍として刊行されたという事実。そしてKindle化まで漕ぎ着けたという事実。それ自体が、マンガ界において一つの福音であると言えます。一線を超えて素晴らしいマンガは、たとえ画力的に見劣りしようともこのように陽の目を浴びる機会があるのだ、と。 今も電脳マヴォにて8話まで読めますので、まずはそちらをお試し下さい。 なお、牛帝先生個人が発行するKindle本は、太田出版から発行された書籍単行本がベースとなっており、大幅な加筆修正が入っていますので、大変お薦めです。 運命を変えてくれた美女を探しにトゥー・エスプレッソ 高浜寛かしこスランプで描けなくなったフランス人漫画家が、作家としてデビューするきっかけをくれたゆきずりの日本人女性を探しに、数十年の時を経て彼女の暮らす街にやってくる。再び人生に迷った彼は別れ際に手渡されたメモをヒントに何もない田舎を探し回るが、かつて幸運をくれた彼女を見つけ出すことができるのだろうかー、というお話。 煮詰まってる現状から抜け出したいなら、この漫画の主人公のように自分の人生の転機をなぞる旅をしてみると気も晴れるかもしれない。 人生の機微をどうしてこんなにユーモラスかつ情感豊かに描けるんだろうか!一本の映画と同じくらいの熱量がある。どちらが優れているという話ではありません。でも、高浜先生の作品は漫画の枠だけじゃ語れないと常々思ってるんです。映画や小説のような圧倒的なストーリー密度春風のスネグラチカ 沙村広明mampuku 1930年代ソヴィエト、スターリンの大粛清の時代が舞台です。実在の有名人がガシガシ出てくる上に戦争映画などで聞いたことのあるソ連用語でいっぱいです。物語は沙村節全開で面白いのですが、登場人物が多くて名前も長いし覚えるのが大変ですw(ちなみにグロは少ないです) シシェノークとビエールカの正体が明らかになっていく過程は、出来の良いミステリーのように緊張と興奮できるものがありました。あるいは映画ですね。一本の映画を観ているようでした。一巻完結とはいえ伏線の回収も見事でした。徹頭徹尾ミステリアスな人物ではありましたが、ビエールカはもしかしたら沙村作品で一番魅力的なヒロインかもしれません。日常と恩寵バベルの図書館 つばな影絵が趣味間断なく続くかにみえる日常生活には実は無数の分節があって常に枝分かれの可能性を秘めている、そのことを知ってしまったがために、今ある現実をあり得たかもしれない(無数にある)もうひとつの現実以上に重くとることを止めてしまった女の子のお話です。このお話には日常生活が崩壊していく恐怖感と、日常生活に対する諦念とが同居しています(なぜって、そのときはたまたま選ばれなかったというだけの道が無数にあるというのに、いま歩いている道をどうして本当の道と言えるのでしょう)。でもそれだけではなく、このお話には恩寵のようなものがひっそりと、でも確かに息づいています。それは例えば、取るに足らないような微か音や感触であり、普段は目にもとめないような光と影であり、それらはとにかくどの道とも無関係にあるいはどの道とも関係をもって日常生活にひっそりと息づいているのです。人はそれを天使といったり神様といったりするのかもしれません。 鉄工所の人生模様鉄工所にも花が咲く 野村宗弘マンガトリツカレ男この作者の鉄工所マンガをずっと読んでるけど、これが一番好きかも。 とろける鉄工所はギャグがあったが、このマンガが全くギャグがなく、鉄工所の人生模様のみで物語が進む 読み終わったけど、これからも何回か読んでしまうマンガなのは間違いないぐらい面白い しわくちゃのお金を渡されるシーンは良過ぎる あとがきを見た感じだと、作者の体験が元になっているようだ 世代なので面白いです。ピコピコ少年 押切蓮介メロン米もともと、この作者の漫画が好きで、読んでいましたが、この作品はおそらく作者の実話を元にした話だと思われます。 ずっとゲームばかりしているんですが、このころの経験がハイスコアガールに繋がっているのかなぁ・・・と思ったりします。 個人的にはゲームボーイが出た時の衝撃やプレステとセガサターンどちらを買うかを悩んだりしたとか、世代ど真ん中ですっごく共感できる作品です。 セガサターンを選んだ友達はのちのちエロゲームをやるためだけの機械になっていたのが懐かしいです。<<45678>>
いろんな事情があってゲームネタが描けなくなった…懐かしい…。当時ちょうど本屋でバイトしてたのでコミック担当のHさんが今のうちに売れ!!と単行本を山のように積んでいたのを思い出す。 そんないろいろあった実情を描いているのがこの巻である。かなり本心が描いてあると思う。自分も読んでいて作者と一緒に安堵した。自分はそこまでゲーム好きではないのでこういうのエッセイの方が好みだったりする。このシリーズに登場し続けている山田(表紙のメガネ)との歪んだ友情の話や、ゲーム脳のまま運転免許を取りにいく危険な話が印象的。あと本人は掲載するのを恥ずかしがってる短編「ー海へー」もよかった。