神様の介護係

『三体』の劉慈欣さん原作の短編SF #1巻応援

神様の介護係 横山旬 未来事務管理局 Golo 劉慈欣
兎来栄寿
兎来栄寿

『三体』の劉慈欣さんが原作。 『三体』の劉慈欣さんが原作。 『三体』の劉慈欣さんが原作。 最初に『神様の介護係』の存在を知ったとき、驚きのあまり三度見してしまいました。そして、同時にこうも思いました。 そんなの、絶対面白いじゃあないですか……。 皆さんは『三体』は読まれていますでしょうか。今世紀を代表するSF小説で、『火の鳥』を髣髴とさせるほどの超大なスケールの物語。『三体』自体も中国国内ではコミカライズされているようですが、日本でも可能なら『アフタヌーン』辺りで本気のコミカライズをして欲しいですね。 この『神様の介護係』で気になる作画を担当するのは『 午後9時15分の演劇論』の横山旬さん。この組み合わせを考えた方が誰かは分かりませんが、英断だと思いました。劉慈欣さんの原作に対してどんな絵を当てるかと考えると、結構ハード目で青年誌寄りのタッチの方を選ぶのが自然な気がします。しかし、そこであえて少年マンガ系の横山旬さん。これがピッタリとハマっています。 1話を試し読んでいただければ解る通り、開幕からバリバリに独自世界の色を出してきます。濃密な作画と設定によって倍くらいのページを読んでいるような感覚に陥るほど情報量が多いです。それは、松井優征さんも授業で行っていた通りマンガとしては非常に優れている状態です。 横山旬さんの絵は、アクションや表情も気持ちいいんですよね。少年誌的テイストで間口の広いエンターテインメント色を出しながらも、そこは劉慈欣さんの世界ということでセンスオブワンダーを与えてくれます。 1冊完結で、非常にコンパクトですが満足感の高い仕上がりとなっています。SF好きの方は、押さえておいて損はありません。 そんな今夜、漫勉新シーズンが手塚治虫さん回放映なのは因果を感じますね。

明日食べる米がない!

タイトルのパワーよ

明日食べる米がない! やまぐちみづほ
六文銭
六文銭

『明日食べる米がない』 このタイトルに釣られました。 え?日本ですか?と思ったが、日本の話なんです。ええ。 主人公は、両親の離婚により、母親と2人暮らしに。 母親も、それまで働いたことがないから、いわゆるフリーターで、その給料だと当然極貧になってしまう。 その生活を描いた実録エッセイ漫画。 個人的に恐ろしいと感じたのは父親で、冒頭、急に離婚を切り出して、家を売却したから、二人を強制的に引っ越しさせるという流れ。 離婚の理由は特にない。 主人公にしてみれば父親は、家庭を顧みない、1人行動してしまうタイプなんだと軽く記載してましたが、いやいやいや・・・恐ろしいって。 なんで、そんなことできんだろ?って不思議に思ってしまった。 母親も母親で、よく言えばポジティブ、悪く言うと考えなしなところがあり(若干スピリチュアルも入っているし)、主人公が色々振り回されてしまう様が不憫でしかたなかった。 それでも、この逆境に大した不満をもたず、おもしろ可笑しく表現する著者の精神はすごいなと思った。 自分自身も貧乏だったので、貧乏話とか読むと思い出してトラウマなのですが、この作品は明るく笑えて良かった。 また最後には、著者(主人公)の生活が軌道にのっているのも安心しました。

スティアの魔女

謎多き少女と世界 #1巻応援

スティアの魔女 牧瀬初雲
兎来栄寿
兎来栄寿

「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず」 不意に『方丈記』の冒頭を思い出すようなファンタジーです。美しさと共に、無常感も覚えさせられる水の流れ。清流もあれば、濁流もある。それは恰も人生のようで。 本作はいろいろなお客さんを舟で運ぶ「渡し守」として活躍する少女を描く物語で、最初は『ARIA』的な感じになるのかなと思いました。実際、同業者であったり舟を造ってくれる人であったり、さまざまなお客さんとの交流などには近しい要素もありはします。種族も老若男女もバラバラな人々との交流が必然的に生まれる接客業ですから、それだけでもお話は無限に生まれそうです。ただ、1話を試し読んでいただければ解る通り、この世界はもう少し剣呑です。 魔族が存在し、人類の生存域も脅かされていて、ヒロインのハルも何やら訳ありの過去を持っている様子。日々の渡し守としての生活を営みながら、彼女の過去に何があったのかも少しずつ明らかにされていきます。 また、魂の眠る場所とも伝えられ、未知の魔法や財宝や神が存在するとも噂される謎に包まれた「歪みの霊峰」という本作の焦点になりそうな人類未踏の地の謎とも併せて、ミステリー的な箇所の存在によってこの先の展開への興味を誘ってくれます。幕間では、設定の詳細が解説され、世界観が作り込まれていることも感じさせられて期待が高まります。 大きな想いを抱えながらも一日一日を丁寧に生きるハルの姿は、現代に生きる私たちにも通ずるものがあるでしょう。過去への向き合い方、選択への責任。ファンタジーであるからこそ、より響くものもあります。 静やかに始まりながら、徐々に徐々に振幅を強めていくこの物語が、どこへ漕ぎ着くのか。この先も楽しみです。

ばらとたんぽぽ

「兜合わせ」がトレンド入りした日に読みたい #1巻応援

ばらとたんぽぽ 遠浅よるべ
兎来栄寿
兎来栄寿

最強寒波などの影響で各地「運転見合わせ」が起こったにより「見合わせ」がTwitterのトレンドワードになると、それを「貝合わせ」に空目した人によって「貝合わせ」までトレンド入りし、その流れで「兜合わせ」までトレンド入りするという日本のTwitterらしすぎる展開が起こった本日。 日本で「兜合わせ」がトレンド入りしている間に、Twitterアカウントの名前がMr.Tweetに固定されてしまっていたイーロン・マスク氏はかつて ″Some people don’t like change, but you need to embrace change if the alternative is disaster.″(変化を好まない人もいるが、その結果不幸になるのであれば変化を受け入れる必要がある) という名言を残しました。 しかし、果たしてそんなMr.Tweetでも着いていけるのでしょうか。クレイジーな日本Twitterのスピードに。 BL大手サイトのちるちるさんも好機とばかりに「兜合わせ」の解説ページの再掲などされていましたが、私も今日のこの機会に最近発売された「兜合わせ」シーンが印象的な名作BLを紹介します。 作者の遠浅よるべさんは2020年に『潮騒のふたり』を出された方。『潮騒のふたり』は個人的に2020年でもトップクラスのBLで、こちらもクチコミを書いているので良かったら参考にしてください。 https://manba.co.jp/topics/26809 『潮騒のふたり』はガッツリシリアスですが、この『ばらとたんぽぽ』はシリアス面もありつつギャグ色も強い、愛すべきエロコメです。連載自体は『潮騒のふたり』より前からwebで行われていて、遂に書籍化され先日上下巻同時発売となりました。 32歳になっても一切家事など自分のことができず感情表現も下手なものの役者としては優れた才能を発揮するトモちゃんと、彼と同棲して身の回りの世話を全部行っている大人気少女漫画家でモデル体型・筋肉質で顔も良く歌も上手く絶対音感があり文才もあり経済力もある超スパダリな時田征士郎。 征士郎は性欲モンスターでセフレも複数いながら、トモちゃんが重度のEDであることなどによりプラトニックな関係を続けており、けれど内心は日頃からトモちゃんを滅茶苦茶に抱きたいと欲望しているという、属性モリモリの二人の関係性が愉快にエロく描かれていきます。 2巻で描かれる、二人のち◯ち◯が擬人化される場面は名シーンとして語り継がれています。そう、兜合わせも擬人化したち◯ち◯同士で行われるのです! 何卒、刮目して見てください。 ただ、そんな突き抜けたバカエロ感の裏には非常に情緒に溢れたシーンもあり。実は上記の兜合わせのシーンにすら莫大なエモさが溢れており、やはり遠浅よるべさんの描かれる男性同士の関係性、想いと重みの宿し方は素晴らしいなぁとしみじみ感じ入ります。ピンクタイガーとチェ・ゲバラと北海道のタトゥーを入れている佐智先輩や、征士郎を「スケベを鋳型に流し込んでできた怪物」と形容するみち子ママなど、脇役たちも個性的で輝いています。 おじさん同士のBLに抵抗がない方には強くお薦めです。