異世界の主役は我々だ!

所謂マンガ好きの方々が読んでどう感じるかを見てみたい

異世界の主役は我々だ! 加茂ユウジ グルッペン・フューラー せらみかる せらみかる+ユーザーのみなさん
sogor25
sogor25

皆さんは「〇〇の主役は我々だ!」という方々をご存じでしょうか。ニコ動やYouTubeで活動する10人以上のメンバーからなるゲーム実況グループで、YouTubeだとチャンネル登録者数30万人超(2019年3月現在)という、その界隈では絶大な人気を誇るグループです。 私は元々ニコ厨だったのでニコ動に上がっているHearts of Ironという歴史シミュレーションゲームの実況で始めて知ったのですが、明確な偏差値の高さを感じる会話劇(例えば「レコンキスタ前ってイベリア半島はトルコの物だよな?」「申し訳ないが後ウマイヤ朝の話はNG」みたいな歴史ネタを自然に会話中に放り込んでくる)と、その偏差値に反した醜い争いっぷりが面白くて、ニコ動からほぼ離れてしまった今でもまだ動画を追いかけています。 そんな彼らが、自分達を登場人物に見立てたインディーゲームを作製し、それを原作としてコミカライズされたのがこの「異世界の主役は我々だ!」という作品です。 という、そもそもの成り立ちを説明するまでにこれだけ文字数を要する、一見さんお断り感の強い作品で、所謂マンガ好きの方々が恐らく手を伸ばさないであろう作品なのですが、そんな中にも私がこの作品に注目している点が2点あります。 1点目は、2巻中盤辺りから見られるようになる、極論全振りの会話劇。モデルとなったメンバーの実際の思想を反映させているようで、1人は隣人を愛する大切さを説き、1人は感情より合理的な利益最大化こそが正義と信じ、また1人は全力で利己主義を語る。元々のキャラを把握しているからこそ楽しめている感は正直否めませんが、雰囲気としては「テロール教授の怪しい授業」のような、正論にも詭弁にも聞こえる会話劇が繰り広げられます。 この会話劇を、「我々だ!」の存在を全く知らない人が読んで楽しめるものなのかというのがすごく気になっています。 (2巻までは内輪ネタにも全振りなので、そこを乗り越えることが前提にはなりますが…) そしてもう1点の注目ポイント、実はこの作品、現状でかなり売れているようなのです。現在4巻まで刊行されてますが、3巻の帯に"10万部突破"の文字があったので、1~2巻でそこまでの数字を重ねたということなのでしょう。 内輪ウケ要素の強いこの作品でこれだけの売上ということは、元のニコ動の視聴者がマンガまでちゃんと追いかけてるということじゃないかと思っています。 ニコ動はプレミアムアカウントが有料なことが一時期かなり叩かれてましたが、裏を返せば、ニコ動にいる人は趣味に対してある程度お金を使うことを厭わない人たち。お金を使うことのできる層にターゲットを絞ってコンテンツを作ればちゃんと利益に還元される、ということをこの作品は証明しつつあるのではないか、と思っています。下手に部数だけ見ればアニメ化もあるかもと思えるだけに、長期的にこの作品の動向に着目していくのも面白いかもしれません。 ということで、マンガ好きが集まるこの場で敢えて感想を投下して何かの間違いで読んでくれる人が現れないかなと期待しつつ、読まなくてもいいのでこの作品に注目する人が増えればいいなと漠然と思っています。 4巻まで読了。

この美術部には問題がある!

「可愛さの音圧が高い」美術部ラブコメ

この美術部には問題がある! いみぎむる
mampuku
mampuku

 まさにアニメを切り出して漫画にでもしたような高クオリティの作画で、作監でもつけてんのかってくらい異様に安定しています。表紙もアニメ塗りでなんかキービジュアルみたいです。あるいはラノベの表紙。10年前のアニメ好きな人が好きそうな絵柄ですよね、とらドラ!とか、ゼロ使とか、かんなぎとか。私も好きです。  この「可愛さが高い水準で安定している」というのが非常に素晴らしいのです。音楽に無理やり例えるなら、音圧が高くRMS値が高い状態です(音圧競争には賛否ありますがダンスミュージックなどでは大事な要素です)。私は以後これを『可愛さの音圧が高い』と呼び表したいと思います。  話は一話完結式で、落語みたいに丁寧で笑える話や人情系の話が多いですね。そして1巻の一話くらいの割合でたまにあるラブ濃度の高い話数はかなり尊みが深く、美麗な絵ばかりに目がいきがちですがラブコメとしてもかなり質が高いです。  作品内で頻繁に使われる「カメラを固定したまま時間の経過を数コマに渡って描く」やつ、ARIAやよつばとを読んだとき初めて「こんな素敵な技法が!」と感動したのですが、めちゃめちゃ上手くないとできないやつですよねこれ。他にも視覚的に飽きさせないカメラワークやつけPANみたいな動き(1巻で宇佐美さんが泣く前のページ)とか、映像的な演出が各所に盛り込まれています。  一方でコマをぶち抜いた立ち絵(さよなら絶望先生でよく見るやつ)とか可愛い描き文字など漫画的な表現もしっかりしていて、よくあるイラストだけ上手い人とは一線を画します。  基本的にマンガは話の面白さと同じかそれ以上に絵のうまさと完成度が大事だと考えているので、そういう意味で文句のつけどころがほとんどないなと感じました。欲をいえば、シリアス展開とか恋敵とか、好みが別れるような刺激的な展開があったほうがより私好みではあるんですが(笑)

彼女と彼氏の明るい未来

好きだからこそ、揺さぶられる倫理観

彼女と彼氏の明るい未来 谷口菜津子
sogor25
sogor25

前作「彼女は宇宙一」の評判が私の周りでやたら良かったので、谷口菜津子さんの名前を見つけてあらすじも何も見ずに今作に手を伸ばしたんです。冴えない感じで超ネガティブ思考の彼氏・一郎とそんな彼のことが大好きな美人の彼女・ゆきか…読み始めは「地球のおわりは恋のはじまり」みたいな幸せなラブコメなのかと思ってました。 そしたら突然明らかになるゆきかの過去に関する噂。生来のネガティブさもあってその噂を異常なまでに気にし始める一郎。そして唐突に登場する噂の真偽を確かめることのできるふしぎ道具。疑惑とそれを検証する術を目の前にして激しく揺れ動く一郎のメンタル。予想以上に読者の倫理観を揺さぶってくる恐ろしい作品でした。谷口さんの絶妙にデフォルメされたキャラクター造形、ベースは整然と並んだ長方形なのに突然崩れたようになるコマなど、いろんな方法で作品のリアリティラインを曖昧にしてきているのもその揺さぶりを効果的に支えているように思います。 1巻の段階ではその噂が事実かどうかは分からないけど、少なくとも現在のゆきかの気持ちは一郎に対して一途であることが伺い知れます。一郎の視点のないゆきかだけしかいない空間の描写からもそれは分かります。それを鑑みると、この作品の肝はゆきかの過去に囚われてしまった一郎の心の移り変わりにあるのだと思います。一郎が現在のゆきかだけを見て過去の噂など気にしないという態度を取ることができたなら、もしくはその噂を検証する手段があったとしてそれを実行しなければ、この2人はこれまでと変わらず穏やかに過ごすことができた、でもそうすることができなかった一郎の咎と、それを一概に否定することのできない読者側の人間の性、を描いた怪作だという印象を受けました。 「hなhとA子の呪い」「青春のアフター」「それはただの先輩のチンコ」等、好きという感情とそれに付随して回る負の感情をファンタジー設定を交えて描く作品が好きな方と相性のいい作品ではないかと思います。 1巻まで読了。

KILLING ME / KILLING YOU

ハードな世界観をポップなシナリオと美しい絵柄で紡ぐファンタジー

KILLING ME / KILLING YOU 成田芋虫
sogor25
sogor25

成田芋虫さんの作品は前作「It’s MY LIFE」から拝読してますが、まず表紙の絵の鮮やかさに目を引かれ、そして本編のマンガが表紙や扉絵のカラーイラストとの相違を全く感じさせない絵柄で描かれていることに驚かされます。 今作「KILLING ME / KILLING YOU」は1話から割とハードな設定が提示されますが、シナリオ自体はコメディ調になっており、重くなりすぎず読み進めやすいテイストに仕上がっています。それでいて盛り上がる所、物語を引き締める所では絵の力で読者を引き戻してくれます。 「IT'S MY LIFE」が好きだった方はもちろん、絵柄もテーマ性も全然違いますが、例えば「少女終末旅行」や「狼と香辛料」のような、相棒と旅をしながら様々な人、ものに出会う作品が好きな方には気に入って頂けるような気がします。 ちなみに、「IT'S MY LIFE」とは世界観を共有してる他、スターシステムとはちょっと違う形でキャラの共有をしており、興味がある方は前作にも手を出してみることをオススメします。 (一応違う出版社の作品なんですが、作品のリンクどころか1巻発売時にはそれぞれの公式でお互いの作品の試し読みが配信されるという大盤振る舞いっぷり。今後ももしかしたら同様のコラボがあるかもしれませんね) 1巻まで読了

機動戦士ガンダム デイアフタートゥモロー -カイ・シデンのメモリーより-

All for GUNDAM Fan

機動戦士ガンダム デイアフタートゥモロー -カイ・シデンのメモリーより- 矢立肇 富野由悠季 ことぶきつかさ
ナベテツ
ナベテツ

この作品が「ガンダム」というコンテンツに興味のない方は恐らく手に取る機会は全くない漫画だということは、嫌になるくらい理解しています。「ガンダム好き」で「漫画好き」という市場はニッチでしょうし、たとえガンダム好きでも若い年代に訴えかけるような派手さには欠けているとも思います。 しかし、この作品の存在は「ガンダム」という作品の成熟を示しており、読み終えた時に感じる充実感は、ちょっと他では味わえないなあと思っています。 カイ・シデンという名前は、ガンダムの世界でも異彩を放つ存在です。1年戦争を生き延び、軍に残らずジャーナリストという生き方を選んだのはオールドファンにとっては語る必要のないことですが、どのように生きたのか語られることはあまりありませんでした(基本、ガンダムというアニメが戦場を描いているからですが)。 本作では、ジャーナリストとして中年となったカイ・シデンが、1年戦争の展示のオブザーバーとして自身の体験を語るというスタイルになっています。 そこで語られることは、勿論「原作」に準拠している部分もありますし、知らないと厳しい部分も多々あります。ただ、勿論それだけではなく、行間を埋め、語ることぶき先生の語り口は本当に素晴らしく、漫画の表現としての巧みさを感じます。 正直、ガンダムを知らない人には勧め辛いタイトルではあります。ただ、宇宙世紀のガンダムをある程度知っている方には、是非とも読んで貰いたい作品です。 前述の通り、決して派手な作品ではありません。しかし、原作を持ちつつ、その世界を活かし、新たな魅力を作り出すというのは、メディアミックスにおける成功例であり、漫画という異なるジャンルでこれほど優れた作品に出会えたことの幸福は、まだ出会っていない人に広く伝えたいと思っています。