タワーダンジョン

「弐瓶勉が描くファンタジー」に望む物が満載 #1巻応援

タワーダンジョン 弐瓶勉
兎来栄寿
兎来栄寿
「弐瓶勉が描く迷宮探索ファンタジー」。 男はこういうのを渡しておけば喜ぶんだよフェルン、とフリーレンも言いそうな勢いの作品です。 私は制約と誓約によりここ数年ゲームを死ぬほど我慢し続けているのですが、家族がとても楽しそうに隣で『シレン6』をやり続けているのに遂に負けて3時間だけ遊んでしまいました。最初のダンジョンをクリアして、久々のゲームの″味″にカイジが労働明けに飲んだビールくらい犯罪的に脳に熱く沁みました。 ローグライクであれ、『ドルアーガの塔』であれ、『スペクトラルタワー』であれ、『煉獄』であれ、『メイドインアビス』であれ、未知と危険がひしめく迷宮を一階層ずつ踏破していくものは無条件で堪らなく大好きです。ましてや、それを『BLAME!』や『バイオメガ』の弐瓶勉さんが描くとなれば。 しかし、弐瓶ファンとしては読み始めてすぐに「あれ、画風が違う?」と違和感を抱きました。直近の『大雪海のカイナ』と比べても、主線が非常に太くラフになっています。もしかすると、多くの箇所が一発描きなのかなとも思わせられました。体調的な問題で無理なく描ける画風を模索しているのか、ページ数を描くために作画カロリーを下げているのか、世界観に合わせ敢えてこういう形を取っているのかは解りません。 本音としてはもっと本気で描き込まれていたら更に凄いものになるだろうなとは思いつつも、元々の画力が高いのでラフな画風でも十分に魅力的であることは確かです。そして、何しろ旧来のやや硬派で仄暗いファンタジーとの相性が抜群です。「竜の塔」が見開きでバーンと出てきたときに否応なく高まるテンション。言葉ではなく絵で世界観を叩きつけられるこの感じ、昂ります。 ボス級モンスターの造形なども流石で、それぞれの階層のボスの見開き登場シーンなども根源的な恐怖を呼び覚ますかのように悍ましく、それ故に魅力的です。亜人系のキャラクターの造形センスも流石で、弐瓶勉さんの良さが溢れ出しています。 『タワーダンジョン』という、シンプルでストレートで無骨なタイトル。そこに求められるものが間違いなく詰まっています。 元々ゲーム的な魅力もあった弐瓶さんが描く、ハードな世界観のファンタジー。読んでいる間は非日常的な空間へと誘ってくれます。弐瓶ファンにはもちろんのこと、強大な敵が跋扈するダンジョンでの冒険のワクワク感を味わいたい方にもお薦めです。
ナリキンフットボール

現代的な主人公によるJ2からの立身 #1巻応援

ナリキンフットボール 明石英之 清水海斗
兎来栄寿
兎来栄寿
旧来の作品においては、データや科学的アプローチを重視する頭脳派キャラというのは噛ませ犬ポジションであることが非常に多いものでした。データを過信して、データを超える強さや成長やチームワークを見せる主人公側に敗れるというのが様式美です。 しかし、今は逆にデータで戦う頭脳派キャラクターが主人公になる時代なのだなぁとこの『ナリキンフットボール』を見てもしみじみ思います。 古くから行われてきたスポーツアナリティクスが近年では現実世界でも非常にメジャーな存在となってきたことはSports Analytics Labのこちらの記事に詳しいです。 https://www.sportsanalyticslab.com/column/sports-analytics-history.html 特に、2003年に発売され2011年にブラッド・ピット主演で映画化もされ大人気となった小説『マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男』の大ヒットもあり、一般的にもプロスポーツの世界でデータを分析し活用することを重視して戦うことはメジャーになりました。 それから更なるテクノロジーの発達によりGPSやドローンでより多角的にデータを採ることができるようになり、得られたビッグデータをAIによって解析させることも可能となりました。それによって、人間が抱く印象を超えたいくつもの真実が浮かび上がってきます。 本作の主人公は、サッカーIQが非常に高く目に見えない部分のチーム貢献度が大きいセンターバックの我王(がおう)。彼が、J2という舞台から最高の選手を目指していく物語です。我王は体力テストにおいてはJ2でも最下層で、技術的にも優れているわけでもない選手です。しかし、対戦相手や味方の分析を誰よりも深く緻密に行っており、俯瞰した視点から試合全体を見通すことのできる能力を持っています。 近年では、運動能力の66%は遺伝的な要因で決まるという研究もあるそうです。体格や骨格、柔軟な筋肉などはどうしたって天与のものです。フィジカルやスピードはいくら鍛えても先天的な才能の差で負けてしまうことも多いでしょう。しかし、たくさんの知識を得た上で他者よりも多く思考するというところに関して言えば、時間さえかければ誰にでもできる、努力の余地か大いにある部分です。 実際、近年目覚ましい活躍を見せる日本代表の三笘選手も目に見えるドリブルや決定力のすごさはもちろんのこと、それ以上に高いサッカーIQこそが特筆すべきものであると言われることもあります。 超常的な身体能力を持たなくても圧倒的なインテリジェンスがそれ以上の武器となること、それが主人公像にさえなり得ること。「頭が良いことはかっこいい」という、現代的な価値観が反映されています。 なお、我王はアナリストではなくあくまで選手としてのトップを目指します。なぜなら、アナリストではどれだけ頑張っても億単位の収入を得られないからです。サッカーが下手なままで、頭脳によって最上位のプレイヤーを狙っていく。そこに新鮮味のある面白さと熱さが詰まっている作品です。11人でやるチームスポーツだからこそ、個の能力以上に戦略やチームワークがものをいうサッカー。個性豊かなチームメイトと共に、我王がどのような戦略を打ち立ててチームを躍進させていくのかワクワクします。描かれているのはサッカーではありますが、ビジネスなどにも通じる物語でもあります。 J2のチームの予算配分などプロスポーツの経済的な部分も詳しく語られるので、『グラゼニ』のような作品が好きな方にもお薦めです。
マタギガンナー

マタギ系漫画だ!やったー!と思いきや

マタギガンナー 藤本正二 JuanAlbarran
さいろく
さいろく
まさかのe-Sports系。 1巻の表紙買いをしてしまった自分が悪いんだけど、初めて手に取るタイトルは買う前にあらすじを読むのも重要ですね。 せっかく買ったから読もう→気づいたら6巻まで読み終わってた! クチコミ残そう、と思ったらマンガ沼webでピックアップされてて、川島さんがザックリ説明してくれてました。 https://manba.co.jp/manba_magazines/26332 個人的にFPSはPUBG・APEX・フォートナイトぐらいしかやったことないんですが、本作ではAPEXっぽいゲームを、伴侶に先立たれたお爺ちゃんマタギがひょんなことからプレイしてみるというマンガ。 どうも原作者がスペイン人らしい。スペインで原作書いて日本人が日本でマンガ起こしてるのってすごいな。 ただ、なんでそんなにいきなりFPSが上手になれるのか…?とか無粋な事も正直思ったのでそこら辺を割愛せずに説得力持たせてくれたほうがよかったのでは、とかは思いましたが、そんなこたーいいよっていうぐらいサクサク話が進みます。 大枠を俯瞰すると典型的な展開ではあるものの、そういう典型的な徐々に仲間が増えていったりする物語をスピード感持ってサクサク描かれているのは人気が出るのもわかりますね。スナック的に楽しめるので(悪い意味ではなく)ご時世的にはとっつきやすいのかな。 1巻を読んだ時点では、川島さんも言ってますが2巻ぐらいで終わっちゃいそうな雰囲気がしてましたが現在6巻まで。また続き出たら読むと思います。
清少納言と申します

久しぶりに大興奮した新連載!

清少納言と申します PEACH-PIT
名無し
物語の舞台は今は昔平安時代。 橘家のお姫様光子は、こよなく 愛する弟君の花嫁を屋敷にて待ちかねていた。 地味で漢文に秀でている、さして美しいとも聞かぬ義妹。しかし屋敷に現れた弟嫁は、ふわっふわのロングウェーブに鮮やかな唐衣を纏った、あからさまに女子力の高い美女だった。 しかもその美女にはとんでもない秘密があって? のちに一世を風靡する清少納言のお話ですが、 歴女としてあさきゆめみし、イシュタルの娘うた恋、風光るをはじめとする新選組ものなどを読破してきた自分が、久しぶりに続きはまだかー!と叫びたくなった作品。 本当にBeLOVEが月二回刊行されてよかったと心から思う。 作者Peachpitといえば、ローゼンメイデンでお馴染み魅力的な美女やある種退廃的なストーリーを描かれることで有名。 その作者が、容姿心映え、ともに歴代最高峰の美女である皇后定子様をどう描くのか見物である。 また、当時の朝廷は、身分容姿ともに完璧すぎるイケメン男子で溢れていた。 光源氏のモデルの一人とも言われる超絶美男子藤原実方、身分高く容姿も抜群、声までよいときて時々清少納言にはすねる(しかもこどもっぽく)藤原斉信。 そして能吏であり、人が土下座してまでその書を所望する真面目系無愛想イケメン藤原行成。 朝廷の女官たちの憧れであり垂涎の的であったイケメン男子たちと、清少納言の機知溢れる優雅こそはこれよ、なやり取り。 それを作者がどう描かれるのか。 ぜひ今後とも正座待機して続きを心待にしたいものである。
みょーちゃん先生はかく語りき

ポルノ原理主義

みょーちゃん先生はかく語りき 鹿成トクサク 無敵ソーダ
江戸川
江戸川
ネタバレ含まないように内容には触れず。 タイトルは、ニーチェの名著「ツァラトゥストラはかく語りき」から取ったのは明らかだが、内容は一切関係ない。 気持ちいいくらいポルノ(商品)として作っている作品。 たくさんの美少女たち(年齢は違うが、造形は全て幼さが残る女性たち。エイジズムを感じさせる)が、性にまつわる話しや実践を行う。読者は傍観者であり、覗き見している感覚にさせる。劣情の煽り方がうまい。 ニーチェの言うところの「深淵」はない。深堀りするのが野暮なほど、ポルノに徹している。 こういうお粗末でシンプルな作品は、気持ちいいので嫌いではないが、哲学的に考察することが趣味なので、あえて違う角度から。 ポルノに徹するこの作品、ある意味、漫画家たちの高尚なものを作りたいという有りがちな心情へのアンチテーゼに思える。 なぜニーチェの言葉を引用したのか。 「神は死んだ」という有名な言葉があるが、作者は「高尚なものの存在価値は死んだ」と、言いたいのではないか。 ある意味、正解である。 漫画を通して、何かを伝え、誰かを救ったり世界を少しでも良くできるか? 非常に難しいだろう。 それならば、一日の疲れを癒やすようなサプリメントのような役割に徹する。そちらのほうが役に立つのではないか、と。 間違っていないような気がする。 しかし僕は、宮崎駿や高畑勲などの「漫画やアニメという媒体は、思想の伝達のツールとして有能」という理由からの、ある種のアンガージュマンに感動する。 日本はもう下降する一方だ。景気のいい時代のように、考えないままでいるわけにはいかない。「パンとサーカス」を与えている場合ではないのだ。 商業主義、拝金主義に迎合せず、使命感を持って、血も滲むような努力をしながら、「微かな可能性」にかけて制作する作家たちを応援したい。 ニヒリズムに陥って居直る作家たちよりも。
戦隊大失格

戦隊ヒーローが裏で握ってるかもしれない

戦隊大失格 春場ねぎ
さいろく
さいろく
戦隊モノに限らずヒーローものは必ず敵がいて、それらが悪巧みするのを防ぐことで被害者を助け、世界を守るのがヒーローだと思う。 だが、実はヒーローが裏で敵と結託していて、あらすじが最初から出来ていたら? 悪者成敗の実態は産業として成り立っていると知ったら、そんな戦隊ヒーロー(実質国防軍?)は正しいのだろうか。 そして悪役は何故黙っているのか、何故悪役は悪になったのか。 などなど、本作では悪役を演じている彼らは一度侵略に失敗して敗れ、その後その罪を問われて結果としてヒーローに支配された関係が出来ていた。 日々の暮らしがある意味担保になっているとはいえ、これでいいのか?と考える悪役が出てくるのは当然のことだが、力で押さえつけられている現状を打破できないのも事実。 じゃぁどうするんだ!というのが本作の面白いところ。 そしてコレはヒーローが実は裏で握ってるあくどい感じのやつらでしたー!で終わるような浅い話でもなかった。 まだ読み途中ですが、1人1人の裏の話や、素顔の見えないヒーローの新陳代謝なども含め非常に濃ゆい物語になってますねー 作者が春場ねぎ先生ということで、『五等分の花嫁』の後にこんなプロパガンダ的な戦隊モノを生み出しているのも面白いです。