僕の部屋のユウ子さん

この幽霊がかわいい2023 #1巻応援

僕の部屋のユウ子さん 武川展子
兎来栄寿
兎来栄寿

幽霊との恋愛を描いた作品は切ない名作が多いと相場が決まっています。おキヌちゃんから幽奈さんまで、幽霊ヒロインというのも時代時代に現れては人気を博してきている歴史があります。 今年の幽霊ヒロインで1位をぶっちぎりそうなのが、この『僕の部屋のユウ子さん』のユウ子さんです。 幽霊を怖いと思ったことがない青年・カンナが、ユウ子の起こす心霊現象を恐れることなく自然体で同居して行くコメディとなっています。 どうやらJKの幽霊らしいユウ子さんは、段々とカンナへの想いを露わにしていき、同時にカンナもユウ子のことを意識しだしてラブがコメっていきます。 やきもち焼きであるユウ子の嫉妬心が剥き出しになるシーンから、甲斐甲斐しく助けてくれる場面まで、少しずつ進んでいく関係性に拍手喝采です。 作者である武川展子さんのアナログ作画も良い味を出しています。大友克洋さんの系譜を感じさせる80〜90年代の懐かしさもありながら、全体を通して読みやすいです。 そして、とにかくユウ子さんが絶対的にかわいいです。本作の魅力の究極はそこに尽きるでしょう。 かわいい幽霊ヒロインをお探しの方や、少し変わったラブコメを読みたい方にお薦めです。

ピッコリーナ

男とバニーガールと笑顔とやきとりと #1巻応援

ピッコリーナ 大槻一翔
兎来栄寿
兎来栄寿

『欅姉妹の四季』の大槻一翔さんが、舞台を『青騎士』に移して新たに素敵な世界を紡いでくださっています。 バニーガール×やきとり。 何を言ってるのかわからないと思いますが、私もわかりません。考えずに感じてください。美人がやきとりを美味しそうに食べて幸せそうになっている、それだけで救われる命もあります。 タイトルの「ピッコリーナ(piccolina)」とは、イタリア語で「小さい」「小さくてかわいいもの」の意。ヒロインのバニーガール峰香(ほうか)さんは、どちらかというと170cm近くあって高身長なのに、タイトルはどういう意味なのだろうと思うかもしれません。その意味も、読んでいくと解ってきます。 本作の1番の見どころは主人公の朗(あきら)と蜂香さんとの関係性の進展に他なりません。美人すぎる蜂香さんとの距離感に戸惑いながらも、少しずつ関係を深めて行こうとする朗、それに対する蜂香さんのひとつひとつの反応が実に良い味わいです。ささやかなやり取りの中に、深い良さみがあります。 それに加えて、大槻一翔さんの画力があるからこそ描ける華やかなバニークラブの様子なども良いです。セクシーではありながら、爽やかで嫌らしさがないのが流石です。あまりこういったキャバクラ含むクラブを楽しむ文化圏にはいなかったのですが、その楽しさを教えられた気がします。 読むと炭火で焼いた美味しいやきとりを食べたくて仕方なくなりますので、読むタイミングにはゆめゆめお気をつけください。

登拝女子と山伏さん 人生変わった御利益登山

霊山に登っていたら急に結婚できた女性のお話

登拝女子と山伏さん 人生変わった御利益登山 たなべみか
兎来栄寿
兎来栄寿

以前にも『登拝開運祈願 山伏ガール』をたなべみかさんによる、山伏エッセイコミック第二弾です。前作と併せて読むとより楽しめますが、こちらだけを単体で読んでも十分楽しめます。 前作から引き続き、私の故郷である吉野山に連なる大峰山、また『咲-Saki-』読者にはお馴染みの石鎚山なども登場するため個人的には読んでいる際の解像度が高くて人一倍楽しめている作品です。何を隠そう、先日も前作に登場した金峯山寺で朝の勤行を行い法螺貝を吹いてきたばかり。流石に本気の修行は心身的にもスケジュール的にも厳しいですが、修験道には慣れ親しんでいます。 多くの人は、山岳信仰や修験道というと何だか「難しそう」「堅苦しそう」といったイメージもあるかもしれません。しかし、本作は内容としては非常にラフで俗世の煩悩にも塗れているので(「妻がお遍路に行くから家でゲーム三昧できる!」とか、お酒飲みたいなど笑)、コミカルな描写に笑いながら楽しく読みつつ学べる内容となっています。 親から一生結婚できない娘と思われあらかじめ墓まで建てられていた筆者が、まさかの交際0日で山伏と結婚することになった顛末なども描かれており「自分の人生では起こり得ないであろうことを疑似体験できるエッセイマンガ」「未知の世界の知識を得られるマンガ」として非常に面白いです。 また、さまざまな山に登り寺社を巡っていくのですが、その風景の一枚絵が非常に緻密で美しいのも特徴です。実際に自分も行ってみて同じ景色を見たくなるほどの魅力があります。参考として、冒頭に登場する鳥取県三徳山の三佛寺奥院、通称「投入堂」の画像を引用します。 67歳にして、3000m級の山で数十kgの荷物や人間までを背負って運びながら登拝のサポートをしてくれる「強力(ごうりき)」の人の仕事ぶりなどは凄まじいです。 なお、本作では筆者がストレスが元でなってしまった「片側顔面痙攣」と向き合い手術へ立ち向かっていく姿も描かれていくのですが、その続きは筆者のブログで読むことができます。 令和となった現代日本にも連綿と伝わり息衝き続ける世界を、この本を通して知ってみませんか。

夢に落ちる少女

黒髪のベタが良いふたりの少女のお話 #1巻応援

夢に落ちる少女 しぐま
兎来栄寿
兎来栄寿

「共依存鬱百合コメディ」の響きだけで強くなれる気がしますね。ささやかな喜びを潰れるほど抱き締めるような物語が好きな皆さん、こんばんは。 しぐまさんがwebで連載していた本作が、まず昨年末に本として発刊されました(それは 同人誌と言うには あまりにも大きすぎた 大きく ぶ厚く 重く 大ボリュームだった)。そして、この度各ストアで電子版の配信も始まりました。264Pの同人ということで紙版は3000円を超えていましたが、電子版はかなりリーズナブルにお求めいただけるようになったと思います。 「ボク」と「オレ」のふたりの少女の掛け合いを中心に繰り広げられる物語ですが、とにかく先ずしぐまさんの絵が好(ハオ)ですね。黒髪に対して真っ黒にベタを塗る人は昨今逆に少なくなっており、吸い込まれそうな漆黒の髪と瞳に郷愁すら覚えます。本作以外のイラストなどでも、黒の使い方がとても良い作家さんです。 そして、そんなふたりのそれぞれのキャラクター性が話が進むにつれて細かく描かれていき、数々のエピソードと共に両者への愛着が高められていきます。「オレ」の方が背が低いけどカッコいいところとか、「ボク」のみならず読んでる方もときめいてしまいます。 序盤は「コメディ」部分が強めですが、徐々に出てくる「共依存鬱」パートがまた非常に良く、私が本作を推す理由となっています。 百合好きの方にはもちろん、そうでない方も読んでみて欲しい魅力のある作品です。

カテナチオ

凡才が醜く天才を屠る異色サッカー譚 #1巻応援

カテナチオ 森本大輔
兎来栄寿
兎来栄寿

『ヤンジャン』で最近始まった2つのスポーツマンガが「天才」と「凡才」を描いた物語として対をなしており、どちらも非常に面白いです。 片方は『ダイヤモンドの功罪』。そして、もう片方が昨日1巻発売となったこの『カテナチオ』です。『ダイヤモンドの功罪』は既にSNSでもかなりバズっていますが、『カテナチオ』も単行本発売を機にもっともっと盛り上がって行って欲しい作品です。 圧倒的な天才を描く『ダイヤモンドの功罪』に対して、『カテナチオ』の主人公・嵐木八咫郎(あらきやたろう)は1P目から ″才能とは、美しさだ 才能のない俺は、醜い それでいい″ と吐露する圧倒的な凡才です。いくら努力しても、「天才」と呼ばれる人種には届かないと自覚しています。それでも、八咫郎は尋常ではない勝利への執着心と「10年以内に欧州のビッグクラブに移籍して欧州の頂点を獲るために人生を捧げる」という高過ぎる目標を持っており、またそれを実現するために1秒も無駄にしないように必要なすべての努力を断行する狂気的な精神力も持っていました。 そんな彼が、元々のポジションであるトップ下から ″CB(センターバック)とは サッカーの神に愛されなかった凡人が 持てる「すべて」で 才能を握りつぶす場所を言う″ と定義されるセンターバックにコンバートされ、躍動していく物語となっています。 面白いのは、『ダイヤモンドの功罪』では主人公がただ楽しみたいのに天才であるが故に勝利に拘る環境に身を置かせられてしまい周りを狂わせ孤立していくのですが、この『カテナチオ』においては八咫郎は凡才ではあるものの勝利に拘りすぎるあまり周りに理解されず孤立していくという、非常に対照的でありながら相似の構造になっているところです。八咫郎もサッカーセンスは並ではあっても、目標に向かって努力を続ける才能で言えばある意味で突出していて天才的なので軋轢が生じてしまうのは必然ではあります。 ともあれ、弛まぬ努力に加えてダーティな手段をも厭わず天才に抗っていく凡才主人公というのは珍しく、そもそもサッカーマンガで守備的なポジションの選手が主人公である作品も少ないので、数多のサッカーマンガがある中でも新鮮な楽しみを覚えられます。弱者が圧倒的な強者を倒すのは純粋にワクワクしますしね。 また、上手く行う反則はプロの間でも当然のテクニックであることや、観戦を前提としたスポーツとして抱える難点などサッカーという競技の本質的な部分にも肉薄していくところも面白いです。これが他のもう少しクリーンなスポーツだと違うと思うのですが、ある程度のダーティさが第一線でも許容されているサッカーであるからこそ、そこまで主人公へのヘイトも溜まらず成立する内容です。 昨年のワールドカップ開催中から推していたのですが、1巻発売を機に今後ブレイクしていって欲しい作品です。 読切版と1話を読み比べるのも乙です。 https://tonarinoyj.jp/episode/3269754496708401682

アナトミア―解剖してわかったことだが、人間は必ず死ぬようにできている―

命を賭した真理の探究物語 #1巻応援

アナトミア―解剖してわかったことだが、人間は必ず死ぬようにできている― 高城玲
兎来栄寿
兎来栄寿

「スペクタクル・ルネサンス人体解剖(アナトミカル)ロマン」と、なかなかすごい公称が銘打たれた作品。 今でこそ社会的地位の高い医者という職業ですが、理髪外科医の主人公・トトを通して往時の身分の低かった医者のありようを読んで学べる物語です。 多くの人は、医療といえばイメージとして科学的なものを想像するかもしれません。しかし、いわゆるEBM(Evidence-based Medicine:根拠に基づく医学)のようなものが普及してきたのはつい最近のこと。100年も遡らなくとも、世界ではロボトミー手術が行われそれに対してノーベル医学賞が与えられてきたわけです。 それより更に昔の中世において、宗教的な価値観が非常に強かったころには、とんでもない誤解に基づく治療が罷り通っていました。その実例である「瀉血」と「焼灼」の凄惨な様子は、試し読みできる第1話から描かれます。 宗教的な価値観が非常に強い時代背景の中で、常識を超えて圧倒的な正義のようにされている事柄に対して疑いを持ち果敢に挑んでいく様は『チ。ー地球の運動についてー』を髣髴とさせます。 ″「でも」「もしかして」は「可能性」だ!!″ と、真理を探究していくトトや、彼の協力者となるレオナルド・ダ・ヴィンチの狂気じみた熱量が読んでいて快感です。 高城玲さんはこれまでに何篇か短編も描かれていてそれぞれに魅力的でしたが、連載でも遺憾なくパワーを発揮されていると感じます。本作の続きと共に、短編集の発売も楽しみにしたいです。

木曜日のシェフレラ スクールカウンセラー五加木純架【電子単行本】

悩み多き子供たちに寄り添う仕事 #1巻応援

木曜日のシェフレラ スクールカウンセラー五加木純架 大澄剛
兎来栄寿
兎来栄寿

少子高齢化により子供の数は年々減っているにも関わらず、不登校の児童数は年々増加しており昨年には過去最多の24万人になったといいます。 原因は様々で一口にはまとめることはできず複合的な要因があるとは思いますが、少なくとも子供たちに掛かるストレスが大きくなっていることは確かであり、それは解決していかねばならない社会課題でしょう。その方策のひとつとして、スクールカウンセラーが存在します。私の子供の頃にはいませんでしたが、今は9割ほどの学校に配置されているようです。 本作は、そんなスクールカウンセラーの仕事模様を子供の苦悩にフォーカスしながら描いた作品です。重めですが、現代社会においては普遍的なその重みをしっかり捉え受け止めて前へと進もうとする良いお話です。 スクールカウンセラーである五加木先生は、週に1回小学校で児童たちの相談役を務めています。1巻では、大畑くんと石動さんのふたりのエピソードが描かれます。ふたりの抱える悩みは、自分一人で処理するには大きく、そうした時に五加木先生がいるかいないか差は甚大だなと感じます。ただ、スクールカウンセラーが学校にいられる時限やキャパシティにより救えないケースの示唆もされており、現実的にも難しい課題です。 カウンセラーにとっては基本ではあるでしょうけど、五加木先生が偉いのは児童の話すことに対して一切の否定をしないこと。石動さんのある言動などは、担任教師のようにヒステリックな反応をしてしまいがちですがそうはしない。大人は経験を踏まえた考え方で、子供の思考を未熟と断じて否定したくなってしまったり実際に遮ったり押し付けたりしまいがちですが、そういったことは一切せずに子供の放つメッセージを掬い取ろうとする姿勢が素晴らしいです。 また、石動さんのエピソードでは、石動さんが好きなアーティストを教えるとそのアーティストをがっつりと聴き込んで語らう様子もありしましたが、そういうことで子供の信頼感は少しずつ得られるんですよね。私も、心の悩みを持った難しい年頃の女の子と荒野行動や少女マンガを糸口に話したことを思い出しました。 子供は、しっかり文章で話せるようになってはいても、実はまだ思っていることを上手く言語化はできなくて想いをきちんと伝えられない、むしろ下手に伝えて誤解させ悪化してしまうこともままあります。そうした部分を加味して、大人は言葉尻に反応したり、論理の飛躍に困惑したりせず寄り添わねばならないなと思います。 私も小中高の間、誰にも話せない家庭の悩みを抱えて生きていたので、もしこんな良いスクールカウンセラーの先生がいたらもう少し楽に生きられていたかもしれません。この作品を読んだ悩みを抱える子供が、誰かに相談して少しでも楽になるという選択肢が生まれたら良いなと思います。 個人的には、子供に対する教師もあまりにもストレスフルで人道にもとる働き方を強要されがちな面があるので、教師のためのカウンセラーも学校にいて欲しいくらいです。

201号室のおとなりさん

大学生ヒロインの純情な感情 #1巻応援

201号室のおとなりさん 日向きょう
兎来栄寿
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『ブラザー・トラップ』の日向きょうさんが送る新作です。巻末には、『ブラザー・トラップ』の撮影現場へ訪れた際のレポートマンガも描かれており、非常に幸せな実写化であったことが伝わってきます。 『201号室のおとなりさん』もまた、良い感じに心を擽られる大学生×社会人のラブコメです。 ヒロインの美和、通称みーすけは ・弟妹が多く裕福ではない家庭を助けるために、大学ではしっかり勉強してちゃんと稼げる仕事に就きたい ・同世代が興味津々のお洒落や恋愛などに全然興味がない ・マイノリティな趣味のマスコットキャラクターが好きで常々珍妙な柄の服を着たりスタンプを送ったりする など、朴訥とした新大学1年生。大学時代、身近にもこういう子いたなぁと懐かしむと共に、性別が違うので事情も違うとはいえ後ろの2つは個人的にも共感を覚えるところです。 しかし、そんな彼女をかき乱す存在が幼馴染でもあり、隣人であり大家代理でもある社外人の千暁(ちあき)。生活力に乏しく、女性関係へのだらしなさを感じさせる再会時の印象が、色々なイベントを経て徐々に覆っていきます。 容姿端麗で外面も良くモテモテである千暁は逆にグイグイ来ない美和のような子の方が落ち着ける(ある意味で「おもしれー女」)というところがポイントとなっており、美和もそのことを徐々に理解しながらも自分としても初めて抱く気持ちの芽生えに翻弄されていく様子が見どころです。大学生になってからの初恋というのも乙なものですね。 美和と奇跡的に趣味が似通って友達になる同期の子や、同じアパートの住人たち、また1巻最後で登場する新キャラの子など脇を固めるサブキャラたちも魅力的で良い群像劇となっていきそうです。 ズボラな面もありつつ頼れてカッコいい男性像を見せながらも、その裏には陰をも感じさせる千暁との関係は周りを巻き込みつつどう展開していくのか。そして、気になるきぐるみあにまる同好会の活動内容とは。 本作も順調に進めばメディア化して人気を博して行きそうな盤石感を覚えます。ピュアで真面目なヒロインのラブコメを読みたい方にお薦めです。

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