スカビオサ【電子単行本版】

煮え切らない彼氏との別れからの意外な展開 #1巻応援

スカビオサ【電子単行本版】 深月くるみ
兎来栄寿
兎来栄寿

スカビオサの花言葉は色によって違いますが、 紫 私はすべてを失った、未亡人 青 悲しむ花嫁、朝の花嫁 白 不幸な愛 ピンク 悲哀の心 黄 再起 赤 感じやすい心 と、基本的にはマイナスのイメージが暗示されます。そして、カラーページや単行本の表紙のカラー的には青や紫系の寒色の印象が強いです。実際にどうなるかは結末を見るまではわかりませんが、現時点では明るい未来が待っている可能性の方が低いように思えます。 5年ほど付き合い同棲中の恋人・拓磨と真剣に結婚を考えているのに、相手には全然その気がなさそうで家政婦のような生活に嫌気が差して別れる決意をする千尋。そんな千尋に、新たに距離を縮めてくる男性・潤平が出現。拓磨より優しくスマートな潤平にどんどん惹かれていく千尋の運命やいかに……というお話です。 女性向けの作品で彼氏や夫のダメっぷりと別れから始まる物語は数多くありますが、その中にあって意外に感じる展開・掘り下げがありました。それ故、読んでいてこの後の物語がどうなっていくのか気になります。 本作は主要キャラ以外の周りのキャラクターも立っていて、特に拓磨のお姉さんは竹を割ったような性格のとても良いキャラで、推せます。 筆者の深月くるみさんの、スタイリッシュな絵柄もお話のテイストにマッチしていて好きです。 大人の男女の痴情のもつれを見たい方にお薦めします。実写化も非常にしやすく人気を得られそうな内容なので、ドラマ化などしたら一気にブレイクするポテンシャルを感じます。 なお、続きは単話で売られていますが、単行本2巻目も3月2日発売予定です。

死にかけた僕はまだ芸人を辞めていない

笑わせるという仕事の向こうに #1巻応援

死にかけた僕はまだ芸人を辞めていない ナターシャ
兎来栄寿
兎来栄寿

表紙を捲るとカバー袖に書かれている「続けるも辞めるも、どちらも地獄。」という文言が、重くのしかかってきます。 人を笑わせることが仕事である芸人が、裏で抱える笑えない現実。コントトリオ「ニュークレープ」のナターシャさんが、そのリアルを物語に込めて描いています。 芸人というテーマではありますが、人生をどう生きるかという悩みとして捉えればあらゆる人にとって自分ごとになり得る物語です。やりたいことをやるべきなのか、自分が得意で苦にならないことをすべきなのか。そもそも、自分は本当は何が好きで、何をやりたかったのか。 また、自分より面白くて絶対に売れるべきなのに売れてない人もいれば、堅実な道へと進んだ人もいる。自分はどの道を進むべきなのか、進めるのか。そこに本当に道はあるのか、道が無ければ切り拓けるのか。ともすれば見失いがちなことを、本作の主人公・千葉を通して考えさせられます。 舞台の上に立つときのえもいわれぬ緊張感にはゾクッとしますし、逆に何気ない日常シーンの掛け合いに笑い癒されもします。 特に好きなのは、終盤のとあるシーン。主人公が得る気付きは、私たちも同様に見落としていてもっと大事にすべきものかもしれません。 同じくコンビ芸人を描いた『相方が俺を好きすぎる』と同日発売するというシンクロニシティが起きており、そちらのクチコミも書いていますが、併せて読むと面白味が増します。

やまさん~山小屋三姉妹~

峻険で辺鄙。けど、壮麗で霊妙。 #1巻応援

やまさん~山小屋三姉妹~ 坂盛
兎来栄寿
兎来栄寿

山の上に登り、雲海の上に昇る朝日を見るのが大好きです。 草木も眠る丑三つ時に目を覚まして、身を切るような冷気を頬に感じながら一切の光がない暗黒の山道を登る。登る。登る。息も絶え絶えになりながらも、徐々に白んでいく世界を感じつつ頂上に辿り着く。興奮で疲れを忘れた体を少し休めながら、紫がかる大好きな色の空の移ろいを眺める。清澄な空気は一呼吸ごとに自分を再生させてくれるようで。暫くして山の向こうから一際眩いご来光が立ち昇る。照らされる霧のかかった山々と、どこまでも美しく広がる空は現世とは思えないように霊妙で、思わずただありゆるものへの感謝が湧いてくる。 そんな瞬間を、こよなく愛しています。そして、この『やまさん~山小屋三姉妹~』は、そんな瞬間の素晴らしさを疑似体験させてくれる作品です。 私が主に登る山はまだギリギリ電波も届き、ある程度までは車も走れますが、この作品の舞台となる徳盛連峰の「雲海小屋」はもっと僻地にあり、電波も電気も通っておらずスマホも使えなければ、車では登れず人の足でないと辿り着けない場所。 そんな所とは知らずに、クラスメイトにプリントを届けようとして迷い込み滑落してしまった無謀な少年と、山小屋を運営する三姉妹の物語です。 山はただ美しいばかりではなく人の命を容易く奪う危険な場所であることを大前提に、それでもなお余りある山と山小屋での暮らしぶりの魅力をディティール豊かに描いて行きます。 まず何と言っても山の景色の絵が美しく、上で述べたような雲海とご来光のシーンなどは最高です。なるべく大きな画面で見ていただくと、よりその美しさや迫力が伝わることでしょう。雄大な景色を目の当たりにする主人公に、400%シンクロします。 山小屋も設備は古く、虫や獣などの対策やトイレなど不便も多く、歩いて運んでこないと物資も何もなく管理の大変さも伝わってきますが、それでも魅力的な露天風呂の存在だったり、山小屋ならではの濃密なコミュニケーションの楽しさだったりが描かれていることで「良いなぁ、行ってみたいなぁ」と思わせてくれます。 三姉妹のキャラクターもそれぞれ個性があり魅力的で、主人公との関係性の変化が気になるところです。 今現在、となりのヤングジャンプで無料で読めるのは3話までなのですが、4話のご来光シーンは読んでみて欲しいなと思います。 単行本発売に際してボイスコミック化もされたので、まずはそちらから試しに入ってみるのも良いかと思います。上記のご来光シーンがこちらでは観られます。 https://twitter.com/sakamori1234/status/1626474263548157952?s=46&t=xX9mwSH03C3O_y9AgLQTYQ

推しが死んだのでタイムリープして生存ルート確保します!

歪んだ、女性同士の”感情” #1巻応援

推しが死んだのでタイムリープして生存ルート確保します! 鈴木二三江
兎来栄寿
兎来栄寿

「ドラえも~ん! 感情の矢印が巨大オブ巨大な幼馴染の女の子同士の関係性を描いていて、かつそこそこ闇を感じるマンガが読みたいよ~」 「しょうがないなあ、のび太くんは……そんなときにはこれ。『推しが死んだのでタイムリープして生存ルート確保します!』!(SE)」 「どんな内容なの?」 「主役のふたりは幼馴染の親友同士。片方は生きるのに向いておらず、自分を『劣等種』と自認しているユキちゃん。そんな彼女の人生を唯一照らす光が、マルチ俳優で五輪の開会式に出るほどの大スター・ハルコちゃん。ユキちゃんのハルコちゃんに対する感情は大好きすら超えて、唯一神として”信仰”や”崇拝”の域に達しているんだ。ハルコちゃんの方は、そんなユキちゃんの想いを受けながらよく家に遊びに来てユキちゃんのために料理も作ってくれる」 「推しがそんな神対応してくれたら死んじゃう! でも、タイトルからすると推しの方が死んじゃうんだよね」 「そう。ハルコちゃんは謎の死を遂げてしまう。自分のすべてである唯一神を喪失してしまったユキちゃんは茫然自失。でも、ハルコちゃんを殺したと思しき”不純物”に行き当たるんだ。すると、ある瞬間突然に6年前の学生時代にタイムリープしちゃってもう大変」 「ぼくたちみたいな急展開だ」 「ユキちゃんがなぜタイムリープしてしまったのかはわからないけど、とにかく過去に戻って生きているハルコちゃんに再会したユキちゃんは決意するんだ。今度は地獄までだってハルコちゃんに着いていき、クソ未来をぶち壊すと」 「いいぞいいぞ~!」 「過去に戻って未来を変えるのは本当は良くないけど、幼馴染百合だったらタイムパトロールも許してくれるはずさ。ともかくハルコちゃんと常に一緒にいるために、ユキちゃんはハルコちゃんが入っている劇団に入ろうとするんだ。だけど、基本的に社会不適合者で運動も勉強もコミュニケーションも苦手なハルコちゃんが演技なんてできるわけもない。それでもユキちゃんのために強引に試練を突破していくんだけど、その様子も見どころだよ」 「ユキちゃんからハルコちゃんへの感情はわかったけど、ハルコちゃんからのユキちゃんへの感情はどうなのさ。」 「うふふふふふ。そこは読んでみてのお楽しみだよ」 「うわーん、てんとう虫コミックス26巻『空気中継衛星』で途中から突然絵のタッチが変わったときくらい気になるよう!」 「それは当時のチーフアシスタントたかや健二先生が代筆したからだね。絵のタッチといえば、この作品も作者の鈴木二三江先生の絵がとても魅力的なんだ。かわいさと危うさが同居してて、喜怒哀楽の表情もそれぞれすごくいい。多分初連載だと思うし初々しい荒さはあるけど、これから更にどんどん上手くなっていくと思う。表紙の絵もかわいいけど表紙とタイトルだけ見たらコメディチックな内容なのかな? と思っちゃう人も多い気がする。サスペンス性も強いし、のび太くんみたいに闇のあるお話が好きな人にも届いてほしいなぁ」 「ありがとう、読んでみるね!」 (15分後) 「ドラえも~ん! カバー下のおまけもいいし、何より続き! 続きが気になるよぉ!」 「そう言うと思った。コミックスの続きは『マガジンエッジ』2023年1月号、2月号で読めるよ」 「わ~い! じゃあさっそく……」 「その前に、宿題はやったのかい?」 「ええー!?」 「世の中はなにかほしいと思ったらそのためにそれなりの努力をしないといけない」 「ドラえも~~~ん!!」

ラブらず 恋が分からない男女の話

現代人に激しい共感を生む「ラブらないコメ」 #1巻応援

ラブらず 恋が分からない男女の話 梅里汐
兎来栄寿
兎来栄寿

結婚するときに「互いの好きなものを尊重して否定しない」というのは大事な条件だと思います。世間ではたまに夫の鉄道模型やガンプラが留守の間にすべて処分されるなどの悲劇も起こってしまっています。お互いに同じものが好きであれば理想ですが、せめて自分にとっては興味がなくとも相手の中ではそうではないかもと想像できるとこの世の悲しみは幾分減ります。趣味嗜好がより細分化していっている現代ではなおさらでしょう。 私の家族は「ジャンルは何にせよオタクはオタクと結婚するのが幸せ」と主張しています。自分に命より大切にしているものがあるからこそ、相手のそれを侵さないということを自然に行える人が多いからです。 1話を読んだときから大好きになって、こうして1巻が発売して紹介できるのを楽しみにしていた『ラブらず 恋が分からない男女の話』のふたりは、そういう意味では夫婦としてはある種理想的です。 塚瀬清春と早見りこ。恋愛という感情をまるで理解できない同僚の男女同士が、互いに協力してその気持ちを何とか理解してみようと悪戦苦闘する「ラブらないコメ」です。現代ではこのふたりの考えに共感できる方も非常に多くなってきているでしょう。 清春は、握手会などにも行く推しに生かされているドルオタ。一方りこは、鉄オタで同人誌を作って即売会にも参加するほどの熱量。このお互いの趣味に対して、無関心でいてくれるならそれだけでもういい伴侶でしょう。しかし、清春はりこのサークルの売り子として即売会に参加するのみならずりこの本を熟読してツボを押さえた感想を述べてくれるし、りこはりこで清春の推しへの想いを最大限に尊重しながらも握手会にも付き合ってくれるのです。 もちろん、実際に結婚して一緒に生活するとなったら他の細かい部分に関する許容値の多寡も問題になってきますが、入口はパーフェクトではないかと思わされます。 ふたりは本物の恋人同士がやるようなこと、例えば高いレストランに行ったり綺麗な夜景を見に行ったりといったことにも一生懸命トライするのですが、それでも恋愛が理解できず変な思考と言動に陥る様は笑えながらも人によっては強く共感するところでしょう。 私自身、三次元の人間と恋愛したりましてや結婚したりする気はさらさらなかったので、清春とりこの気持ちは非常に解ります。ただ、気付けば至極円満な結婚生活を送って数年。私も恋愛という過程はほぼ経ずに「何だか一緒にいることによるストレスが全くないなぁ」で結婚に漕ぎ着けたので、彼らもきっと夫婦になったらいい関係性でやっていけるだろうと思います。 そこまで行くかどうかはわかりませんが、普段は穏やかでありながら熱い心も持ち思い遣りに溢れたふたりのやり取りだけでも微笑ましく楽しいので、今後も見届けて行きたい物語です。

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