私たちは元女子です

不意に異性化する世界での青春群像劇 #1巻応援

私たちは元女子です 咲次朗
兎来栄寿
兎来栄寿

ある朝目覚めたら突然、股間に見慣れないものが生えていたら貴女はどうしますか? 本作は「異性化症」というものが存在しており、主人公の凛子が突発性の症状によって男性化してしまうところから物語が幕を開けます。 生えてきてしまったものそれ自体や、それに伴って今までには存在しなかった情動に翻弄されていく様、またそれに対する周囲のリアクションが臨場感たっぷりに描かれていきます。 ある種、その筋の薄い本の導入にありそうなifであり、実際にそれに近いシチュエーションが登場したりエロコメチックな部分もあったりします。5話の「デスたわわ」(※サブタイトル)などはその真骨頂であり、ある意味見所のひとつと言えるでしょう。ただ、本作の魅力はそこに留まりません。 自分の意思ではどうしようもない外的な要因によって心を悩まされたり体のあり方に戸惑ったりする様は、誰しもが思春期に抱く体験と実質的に同質です。そんな状況下で、学校という社会の縮図で他者と関わりながら生活を営み続けねばならない。当然、そこでは諸々の問題も発生しますし、逆にそこで触れる人の優しさがありがたさの極みであったりもします。 憧れの結城先輩、美人の真央先輩、クラスメイトのエキセントリックな紗夜と豊満なすばるなど、魅力的な脇役たちとの関係性の変化も含め、サスペンスフルな部分もあり続きが気になります。 なお「細かすぎて伝わらない『私たちは元女子です』の好きなところ」を挙げるとすると ・「柔術廻戦」 ・ぱおん!→んっ… ・レベル4:りんご ・凛子の父親がシュトレンを好きすぎるところ です。

大門寺と問題児

クセになるシュールな師弟コメディ #1巻応援

大門寺と問題児 佐世保太郎
兎来栄寿
兎来栄寿

突然ですが、『大門寺と問題児』1巻の範囲で好きな大門寺先生のツッコミランキングを発表します。 第5位 「沖縄の妖怪がなんでこんなところにいるんだ」 突然出てきたキジムナーという単語に対して、確かな知性を感じさせながら的確に冷静に突っ込む様が好きです。 第4位 「急ぐとディスが入るってのはどういう理屈なんだ」 息を吸うようにまひるにディスられる先生。「ディスに対するアンサーは先生のスキルじゃ返せないぞ」というアンサーも含めて好きです。 第3位 「相手は魔王じゃなくて1組とか3組だぞ」 もしかしたら1組とか3組に村を焼かれたり親を殺されたりしてまひるは感情が表に出てこないのかもしれません。あ、父親は登場してました。好きです。 第2位 「学校で酒池肉林しようとするんじゃない」 学級委員の職権を濫用して、妲己の如く贅の限りを尽くそうとする、小学生にあるまじき深い欲望を湛えたまひるが好きです。 第1位 「神話になろうとするんじゃない」 王を超えて神話の域まで達そうとする貪欲なるベイロスより貪欲で強欲な壺より強欲なまひるが好きです。少年よ神話になれ。 「マリオのスーパーピクロスクリアしてんだ」、「ウィザードリィじゃないんだぞ」、「ファイナルファンタジー5」などレトロゲームの名前がちょこちょこ出てくるのも好きです。マイディガードのラーニングは大変なんです。 校長が突然UKロックを好きになるところも、まひるの父親の狂い具合も、あかねちゃんも小春ちゃんも暮先生も好きです。 つまるところ、私はこのマンガがとても好きです。

筋ト令嬢クーラ様~悪役令嬢に恋する暇なし!~【電子限定描き下ろし漫画付き】

見よ! 脂肪は赤く燃えている! #1巻応援

筋ト令嬢クーラ様~悪役令嬢に恋する暇なし!~【電子限定描き下ろし漫画付き】 樹生ナト
兎来栄寿
兎来栄寿

筋肉はトモダチ。 筋肉は裏切らない。 筋肉は全てを解決する。 世界の合言葉は「筋肉」。 筋肉とローマは一日にしてならず。 本日もみっちりトレーニングをして、プロテインを飲んで、大量のタンパク質を中心としたバランスの良い栄養をたっぷり摂ってきた体で本作を読み直しこれを書いている兎来です。 過酷な現代社会を生き抜くために、まず必要なのは健康な体。マンガを長時間読み続けるのにも、体力が必要です。となれば、必要なのは日々の鍛錬。マンガ読みは本屋に行って大量の本を買ってくるとき以外が運動不足になりがちなので、意識して筋肉に負荷を掛ける時間を設け続けて生きています。 そんな私にとって、この一風変わった悪役令嬢マンガはとても刺さる内容でした。 開幕1コマ目で悪役令嬢のテンプレ的設定が解説され一般OLが人助けで命を落としてしまったことが、2コマ目で公爵から婚約破棄を申しつけられる爆速ロケットスタートで物語はスタートします。 しかし、本作のヒロインは一般OLとは名ばかりに恐ろしいほど濃密な鍛錬を日々行なっており若干脳まで筋肉に侵食されているのです。そして、死亡フラグもお約束の転生シーンも筋肉で破砕して行くパワフルな笑いが続出。決めシーンの迫力の凄さたるや。 「晩餐会ではPFCバランスが崩れた飯しか出ない!」 「筋肉(マッシヴ)宮」 など、パワーに満ち満ちた言葉がどんどん繰り出されていきます。 親友の菊名や、そこから名付けられたクール侍女のキクナなどサブキャラも非常に魅力的。 幕間では、現実世界で有用なトレーニング方法や食事について非常に解りやすく解説されており、読むだけで筋肉を喜ばせたくなること間違いなしです。 この作品を読んで、背中に立派な鬼ができるまで邁進していきましょう。

4匹の弱虫が意外と強くて笑えるんです

愛すべきアホたちの愛すべき青春 #1巻応援

4匹の弱虫が意外と強くて笑えるんです 長谷川和志
兎来栄寿
兎来栄寿

『アビル少年映画を作る』や『先生、黒髪になっても気付いてくれる?』の長谷川和志さんの新作です。 卒業式にも出られず修学旅行にも行けなかったアホな男子4人組。 卒業後、進路すら定まらず実家で煙たがられているアフロの春日。 教職に進むシュッとしたイケメンの八木。 実家の造園屋で働くふくよかな坊主頭の小島。 無口で何を考えているのか全くわからない巨漢の石橋。 そんな4人が、八木が42000円で買った車で4人だけの修学旅行に行こうとするところから物語は始まります。道中はハプニングだらけの珍道中となり、端々で笑わせられながらも青春の輝きに目を細めます。 学校生活の回想も含めて、4人の個性が読み進めるごとに段々と明らかになっていく構成の本作。彼らが何に笑い、何に怒るのか。何を想って、それぞれの進路を目指すのか。元々はどんな切っ掛けで仲良くなったのか。1冊を読み終わる頃には4人のことが大好きになっていることでしょう。 彼らが進む意外な方向性には驚かされ、4人の中で1人だけ違う状況に置かれた人物の想いに「わかる、わかる……!」と大きな共感を呼び起こされました。 少しくらい枠からはみ出していても、かけがえのない友人がいることは何よりも素晴らしい。そう思わせてくれる作品です。 シンプルに大好きで、今後も彼らの行く先を応援したいです。

突発的クリエイトファミリー

擬似家族×クリエイター論 #1巻応援

突発的クリエイトファミリー 玉置勉強
兎来栄寿
兎来栄寿

昭和の終盤に生まれた中年と、平成後期に生まれた若者が織りなす不思議なハーモニーがクセになる作品です。 本作は行きずりで関係を持った背中にタトゥーのある怪しい女性から高校1年生の息子・鷹斗を押し付けられ、仕方なく一緒に暮らすことになった45歳の物書き・清志の奇妙な新生活を描いた物語。 エロゲーのシナリオライター等を経て、かつてはそこそこに売れたライトノベル作家として活動し中古マンションを買える程度には活躍しながらも、今はソーシャルゲームのシナリオやフレーバーテキストから匿名コラムのエッセイ、エロ記事など雑多に仕事をしている清志と、イラストレーターを真剣に志す15歳の鷹斗。ジェネレーションギャップはありながらも、創作者として通じ合う部分もあり、ときに清志が先達として有用なアドバイスをすることもあれば幻滅する部分もある。何とも言えない関係の二人のやり取りだけでも永遠に見ていたくなる面白さがあります。 そんな中で、清志が語る「かつてクリエイターはなるのは簡単だった。続けることが難しい」「歳を重ねると周りの同業者がひとりまたひとりとさまざまな理由で消えていく」といった件が非常に実感として解ります。たとえ仕事を変えたり辞めたりしたとしても、生きていて欲しいとささやかな願いを持ちます。 昨年の11月が初出の8話のエピソードでは、AIによる絵や文章の話も出てきていますが、数ヶ月でChatGPT4が登場して一気に状況も変わってきてしまったなぁと世の中の速度に思いを馳せました。まさに、フレーバーテキストや匿名コラムなどはAIでも量産できる世界に入ってきてしまったとき、清志のような人はどうやって生きていくのか。 30歳違いのふたりの語る創作論も面白ければ、少年である鷹斗が成長していくにあたって立ち向かうことになる女性関係の動向も気になります。 見所がたくさんあり、今後も楽しみな作品です。

這い寄るな金星

仄暗い義姉妹NTR戦争の底で #1巻応援

這い寄るな金星 華沢寛治
兎来栄寿
兎来栄寿

「さくらの森の満開の下」でヤングマガジン第461回月間賞 佳作&TOP賞を、「蒼く濃くなるスターライト」でちばてつや賞ヤング部門優秀新人賞を獲り、その後『スペリオール』などを中心に読切を発表していた新鋭・華沢寛治さんによる連載作品です。 2日連続で『スペリオールダルパナ』作品について書いていますが、私も大概こういう作品が好きです。 第1話目から地獄の釜の蓋が開いていきますが、その裏にはさらなる深淵の煮凝りが待ち受けているという素敵な構成です。どんな地獄が待っているかは、あえて語らないので読んで確かめてみてください。人によっては病みつきになる地獄でしょう。 金星といえば宵の明星であり明けの明星で、ルシフェル。最も美しく最高位の天使でありながら、やがて神と敵対し堕天使、悪魔となってその頂点に立つ者。そんなルシフェルが、神に反逆したのは人間であるアダムとイヴに仕えるように命じられたから。傲慢や嫉妬という感情に駆られたのも無理はないと思います。しかし、なぜ神はわざわざそんな理不尽な命を下したのか? もしかしたら、そこにはこの作品の彼女の中に存在するような感情があったことを否定できないのではないか……そんなことを考えてしまいました。 ドロドロした話、人間の闇の部分を描いた話が好きな方にお薦めです。 出版社をまたがっていますが、ぜひ短編集も出して欲しいですね。個人的には「眠たい浅瀬」が特に好きでした。

毒白-ドクハク-

独白できない、歪みとされる感情と関係 #1巻応援

毒白-ドクハク- 叶齊
兎来栄寿
兎来栄寿

作者の叶齊(かなえいつき)さん自身がLGBTQのQであり、実体験を礎として描かれているという作品です。 かわいいクラスメイトの佐山さんに土下座し罵られながら足蹴にされているシーンが序盤から繰り広げられますが、その行為によって覚える感情はむしろ快感や背徳感の類であるという業の深さ。主人公の高校生・麻倉将太は学園トップの真面目な少年なのですが、本当は幼いころから女の子の格好をしたい、そしてその姿で詰られ虐められたいという誰にも言えない欲望を抱えているのです。 正に『スペリオール ダルパナ』という感じの作品です。 将太という名前からしても、親からは男らしくあるようにと願われて育てられていそうな将太の不遇を思うと居た堪れません。そんな将太の本質に気付いてしまった、2人きりで演劇部の活動を共にする佐山さんとの関係性が大きな見所です。 個人的に、第一話終盤のとある描写の解像度の高さに惹かれました。この所作をしっかりマンガで描いている作品は非常に稀有であると思います。 美少女に罵られたり蔑まれたりしたい方にとっては、特に隠れ眼鏡っ子にそうされたい方にとっては大いにご褒美となり得る作品ですし、世界の片隅で同じような悩みを持つ誰かを救う力のある作品であると思います。

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