触れて、かさねて、溶けあって

羽鳥さんは抱かれたい #1巻応援

触れて、かさねて、溶けあって 梅野うに
兎来栄寿
兎来栄寿

人はみんな愛し、愛されたい。 でも、それが簡単には叶わない。 叶ったら苦労しない。 だから、不器用に藻掻いて、傷ついて、傷つけてしまう。 大学生のころにマルチにハマリ、友人もお金も失ってしまったOL・羽鳥美鈴が主人公。趣味はAV鑑賞。配信サイトの新着通知が来るように設定までしているガチ勢です。そして、自分では未経験のセックスに憧れを抱いています。 美鈴の上司・藤堂は、イケメンで最近課長に昇進もしたデキる男。しかし、過去に女性向け風俗でセラピストをしていたという秘密がありました。その秘密に気づいた美鈴が、藤堂に抱いて欲しいと懇願するところから始まる物語です。 美鈴がセックスをしたいと望むのは、その行為が誰かと深く心から繋がることのできる他に代替のない行為だと想像しており、誰とも心を通わせたことがない美鈴はそれに憧れているから。しかし、そのために「元そういうお仕事」の上司にお願いするというのは、自分でも「普通に最低なのでは…?」と自問している通りでこれが男女逆だったらセクハラどころでは済まない案件でしょう。 ただ、藤堂も訳あり感を全身から溢れ出しており、かつ美鈴の想いが切実であることも伝わって課題をクリアできたら美鈴の願いを叶えることを約束してきます。果たして、美鈴は望みを叶えることができるのか……。互いの状況的に簡単にくっつけるような関係でもなく、ふたりの行く末が気になるところです。願わくば、傷だらけで真面目に生きてきた美鈴に真の幸せが舞い降りてきて欲しい……。 本作は脇役たちも良い味を出しています。特にイケ美女先輩の神埼さん。仕事はできるけどサバサバしており厳しくも優しそうな良い姉御キャラなんですが、一抹の闇を感じさせる描写に彼女が裏に抱えているものも気になります。 電子限定ですので、書店では見つからないためご注意ください。

軟骨さん

令和の読むドラッグ爆誕 #1巻応援

軟骨さん 佐藤達木
兎来栄寿
兎来栄寿

レジェンド級のベテラン作家すらもデジタル作画に流れて行きつつあるこの時代に、フルアナログでこんなマンガが描かれようとは! 異質で異様で異彩を放って止まない独特の画面は、衝撃的です。古き良き技術を凝らして描かれた絵は、あまりにも現代の他作品とは違った空気を纏っています。狂気的な、執念のような点描による描き込みの凄まじさ。世界、宇宙、次元を横断してトぶ『ウルトラ・ヘヴン』を髣髴とさせるようなトリップ感を呼び起こされます。 そして、そのサイケデリックですらある画に呼応するかのような、夢想感たっぷりのストーリー。どこか破綻しているようで、筋や諸々の設定はしっかりとある夢を視ているときのような感覚に陥ります。 私は嬉しくて堪りませんでした。まだこんなマンガに出逢えるんだ、マンガの世界はやはり無限だなあ、と。 素晴らしいのは、筆者の佐藤達木さんが50歳の新人というところです。67歳の新人として話題になったハン角斉といい、マンガはいつからでも描けるし描いて良いのだと勇気を与えてくれます。 極限まで研ぎ澄まされた、この作品でしか味わうことのできない世界を垣間見てみてはいかがでしょう。

まず、これを愛とします。

闇を欲する本能にフィットする男と女の話 #1巻応援

まず、これを愛とします。 東京日記
兎来栄寿
兎来栄寿

Twitterで大人気にして謎の描き手である東京日記さんの作品が単行本になりました。Twitter掲載作品の他に、今回の刊行に当たって3割ほどが描き下ろしとなっています。 若い男女間におけるアレやソレやの掌編が、数多く載っています。 普段からバリバリにマンガを読んでいる層というよりは、『明日、私は誰かのカノジョ』や『深夜のダメ恋図鑑』や『サレタガワのブルー』などが好きな20〜30代女性がコアなターゲット層になっているであろう作品です。 「意味がわかると怖い話」的な部分もあり、ちょっと考察したり言及したりなる部分が多分に含まれていること、また男女関係が絡んだ内容は多くの人の自分の経験からの共感や反感を生むものになっていることもあいまってSNSとの相性抜群です。諸々計算してやっていると思うのですが、しっかり20万人以上のフォロワーができており効果は抜群です。 ある種の救われなさや、愚かさ、歪み捻じ曲がった感情もたくさん描かれますが、逆にそうした部分もシンプルに明るく正しいものよりも陰鬱なものや不条理なものをどこかで求めてしまう現代人の荒んだ心にもフィットしています。あるいは、より深い闇を見ることでどこか自分の境遇に安心する心理にも働き掛けているのかもしれません。 描き下ろしの(東京日記さんの作品としてはかなり長い)短編も、実に「らしい」お話でした。 絵はかなりラフで背景なども最低限ではありながらも、これらのお話にはとてもマッチした画風なのも東京日記さんの良いところですね。 Twitterではアシスタントやバックスタッフの募集もしており、今後活動の幅を広げていきそうな予感がして楽しみです。

ロックは淑女の嗜みでして

煽り合うお嬢様からしか得られない栄養素がありますの #1巻応援

ロックは淑女の嗜みでして 福田宏
兎来栄寿
兎来栄寿

今日、ラジオ出演で六本木ヒルズに行ったんですよ。 そして台本を見たら、インターバル部分に「♪星座になれたら」(『ぼっち・ざ・ろっく』)って書いてあったんです。 もう、神かと。最高かと。 内心ノリノリで、マンガ紹介も捗りました。 ただ来月のライブ、会場がキャパ3000人らしく戦争が過ぎると思うのでもう少し大きいハコでやってくださったら皆幸せだったのでは、と思わずにはいられない今日この頃いかがお過ごしでしょうか。 というわけで、『ぼざろ』効果もあってロックが盛り上がっている丁度いいタイミングに、この作品の1巻が発売となったので推さずにはいられませんわ! 店頭で帯を見たら、帯もはまじあきさん激推しとなっていて激熱ですわね! 本作はタイトル通り、お嬢様たちが熱情を懸ける対象がロックとなっておりますの。 にわかお嬢様でありながら、それを隠して学園一のお嬢様である「高潔な乙女(ノーブルメイデン)」の称号を得んとする主人公の鈴ノ宮りりさ。 そして、りりさをそのドラムテクニックで誑かしてセッションに巻き込む黒鉄音羽。 彼女たちの奏でる音が交わるとき、物語は幕を開けますわ! パッションとテンション全開の演奏シーンの熱さもさることながら、その後にそれ以上の勢いで繰り広げられるとてもお嬢様とは思えない煽り合いが最高ですわね。 『ゲーミングお嬢様』や『対ありでした。 ~お嬢さまは格闘ゲームなんてしない~』などでも見られますが、普段は優雅でお淑やかなお嬢様が荒々しい行動と共に口汚く相手を悪罵し、餌を獲るのに成功して勝ち誇るゴリラのように荒振り猛っている様は大変に趣深いものですわよね。ましてや、黒鉄さんの方は黒髪ロングストレート。ここからしか得られない栄養素を、バッツンバッツンに補給できますわ。 このマンガ、驚愕(パネ)ェですわ……! お嬢様学校でバンドを組むという時点で情熱(エモ)いのですが、二人だけですら激熱なところに今後新メンバーが加わっていったらどんな化学反応が起きるのか……楽しみで仕方ありませんの!

やがて明日に至る蝉

センシティブなシリアスからグルメコメディまで #1巻応援

やがて明日に至る蝉 ひの宙子
兎来栄寿
兎来栄寿

先日、『最果てのセレナード』の記事で触れたひの宙子さんの短編集です。2021年から2023年にかけて『フィール・ヤング』に掲載された5つの作品が収録されています。 ただ、それらの作品の温度差たるや最近の三寒四温な気候に匹敵するほどです。作者自身があとがきで言及しているように「振り幅すごい」。でも、そんなところもまた短編集の味わいの良さの内であろうと思います。 14歳になった主人公が「はる」に手紙を送るシーンから始まる表題作である「やがて明日に至る蝉」は、一見青春群像劇のように見えます。が、読み進めていくとただのそういったお話ではなく、あるテーマに取り組んだ作品であることが解ります。苦心しながら描き切ったであろうことが伝わってくる内容ですが、相変わらず構成力が高いなあと唸らずにはいられませんでした。 続く「折って切らない」も、『フィール・ヤング』らしさを感じる1篇です。マイノリティの生き難さ、とりわけ一番身近な存在である家族から理解を得られない辛さは特別大きいものですよね。最終ページのメールの文面にとても共感してしまいました。同じような共感をするであろう、かつての友人たちが元気に平穏に暮らせていることを祈ります。 「ホタテガイの女」と、「タラバガニの男」はひの宙子さんがギャグやグルメに振り切っても素晴らしい作家であることを示すお話です。1コマ目のセリフが "あなた七輪持ってるでしょう" から始まる男女の物語、端的に大好きです。ここで描かれる、最高のホタテガイやタラバガニのシズル感たるや、並のグルメ番組が裸足で逃げ出しそうなレベルです。色も、音も、匂いも、存在しないはずのモノクロの画面からすべてが伝わってきます。最高のホタテガイを最高に美味しく食べるために、ジョルノ・ジョバーナのように敬語でまくし立てるところの愛しさよ。読んだら貝焼き味噌という犯罪行為を犯したくなること請け合いです。 総じて、お薦めの短編集です。連載の『最果てのセレナード』や、4年前に発売された『グッド・バイ・プロミネンス』とあわせてぜひ。

てつおとよしえ

山本さほさんが暖かく語る家族の思い出 #1巻応援

てつおとよしえ 山本さほ
兎来栄寿
兎来栄寿

『岡崎に捧ぐ』や『無慈悲な8bit』でお馴染みの、山本さほさんが自らのルーツである父と母を中心に、姉や兄など家族との思い出を綴ったエッセイ作品です。 非常に温厚でマイペースで多趣味な父親・てつおと、心配性で過保護で無趣味な母親・よしえの夫婦は、一見非常に対照的。ただ、逆にそうであるが故に上手く折り合いをつけながら家庭を回している様は読んでいてほっこりします。端的に良い夫婦で良い家族だなぁ、と読んでいて随所で感じられます。そして、そんな両親の姿に憧れをいただく山本さほさんの気持ちもとてもよく解ります。 「普通の家庭」の、その「普通」というのは決して当たり前に存在するものではなく、どこまでも掛け替えのない稀有で大切なものなんですよね……。 ただ、そんな羨まれるような家庭であっても昔は母親から常に将来を心配されてあれこれ言われるのが非常に鬱陶しく厭であったり、姉や兄とは上手くいっているとは言い難かったり、悩みを抱えて生きてきたことが綴られます。たとえ側から見てどんなに幸せそうであっても、人にはその人なりの痛みや苦しみがあるものですからね。自分では経験できず想像がし難いとしても、こうした作品を読むことを通して他者の喜怒哀楽に少しでも近づくことは意義のあることであろうと思います。 10話の「温泉とサラミ」などは、山本さほさんの良さが非常によく出ている回で好きです。山本さほさんの思い出を通して、忘れていた自分の過去にあった瞬間のことが脳裏に蘇りました。 読み終えた後、今自分がこうして生きていられるのもこれまでの人生で助けてくれた沢山の人のお陰であることを改めて噛み締めずにはいられない、そんな1冊です。 山本さほさんがそうしたように、生きている内に、できる内に、できるだけの恩返しもしていきたいものです。

正反対なわたしたち

犬たちも人間たちもかわいい #1巻応援

正反対なわたしたち 夏奈ほの
兎来栄寿
兎来栄寿

初々しい爽やかなラブコメ 100点 犬たちのかわいさ 10000点 優勝です。 元気でパワフルな小型犬・門十郎(ポメラニアン♀)と、おっとりした大型犬・つぶ(ロットワイラー♂)の対照的な2匹。 そして、それぞれの飼い主である男女ふたりもまた対照的な性格で、愛犬を通した交流が始まってから次第に仲良くなっていきます。 うちの子は門ちゃんほど活発ではないものの、同じ女の子の白ポメ飼いとしては、頷けるシーンや共感するシーン多々でチェック不可避の作品でした。 10話の、家に帰ると笑顔で駆け寄ってくる白ポメの姿は、うちの子とそっくりで思わず破顔してしまいました。全体的に、犬の所作がリアルかつ愛情たっぷりに描かれているのが伝わってきます。 家に愛犬がいるから、仕事で理不尽な仕打ちを受けても明日を頑張れるのだというところなども非常に解像度高く描かれています。 「うちの子しか勝たん」、毎日観たい……。 丁度、Twitterでは飼い犬や飼い猫の「#初めて撮った写真」というタグが流行っているようで、思わずうちの子の最初の写真を眺めて長生きしてほしい……と願うことしきりでした。 人間のラブがコメる姿も、非常にかわいく初々しくて、応援したくなるふたりです。つぶちゃんと門ちゃんなら多頭飼いになってもきっと大丈夫だと思うので、末永く幸せになって欲しいです。

ネバーエンディング・ウィークエンド

ドイツに行った気分で #1巻応援

ネバーエンディング・ウィークエンド 座紀光倫
兎来栄寿
兎来栄寿

『少年の残響』や『ヒーロー探偵ニック』の座紀光倫さんの新作です。 筆者が実際に大人になってから3ヶ月のドイツ留学をし、ハイデルベルクで生活した実体験やドイツ各地への取材によって描かれる、ドイツを舞台にしたロードムービー的な作品です。 24000枚以上のマイセン磁器タイルを張り合わせた長大な壁画「君主の行列」が有名なドレスデン城であったり、ライプツィヒの中央駅やメードラー・パッサージュなど有名な観光名所も数多く描かれていきます。読んでいるだけでも、ドイツ旅行をしている気分になれて楽しい作品です。そして、旅といえばモノだけでなく人との出会い。旅先で出会うからこそ、普段は話さない・話せないことでも語れてしまう不思議。座紀光倫さんは『少年の残響』のときから変わらず少年の描き方が良いなと思います。彼らがこの旅を通してどのように変化していくのか、成長していくのか、目的は果たせるのか。楽しみです。 なお、単行本だとあとがきマンガが8ページもあり、しかもかなり赤裸々で面白く良い内容でしたので、こちらだけでもお薦めしたいです。『少年の残響』が連載終了となってしまっていたのと時を同じくして結婚を前提に人生で生まれて初めてお付き合いをしていた方にフラれてしまったことで失意のどん底に陥ってしまっていたという筆者が、人生を大きく変えることになった海外旅行のお話となっています。 2022年には、来場者7万5千人のアニメイベントも行われたということで、ドイツでもアニメ・マンガが大人気で嬉しいですね。この作品も、ドイツ語に翻訳されて現地の方々にも楽しまれてほしいですね。 余談ですが、私は『聖闘士星矢』や『ジョジョ』や『ARIA』、それとミッフィーちゃんが好きすぎてヨーロッパ旅行に行った際にはギリシャとイタリアとオランダを最優先にしてしまいましたが、ドイツも非常に行きたい国の1つでスケジュールにめぼしいところはピックアップしていました。シェーンブルクの古城ホテルであったり、筆者も旅行に行ったというノイシュヴァンシュタイン城は人生で一度は行きたい場所です。そして、ビールを飲みながら焼きたてのパンやカリーブルストを食べたいです。

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