松山くんと小林さんの3メートル

衝撃の怪作ラブコメ #1巻応援

松山くんと小林さんの3メートル 与左衛門
兎来栄寿
兎来栄寿

1話目のインパクトで言えば、ここ最近でも屈指の作品です。 クラスで1番かわいくてスタイルもいい小林さんは、主人公の松山くんにとっては「遠くから見ている分にはいい」存在。なぜなら、半径3メートル以内に入ると彼女がとてつもない異形の姿に見えてしまうから。 試し読みの1話目で、その衝撃的なヴィジュアルをぜひ体感してみてください。クトゥルフ的な何かが好きな方や異形フェチには堪らないかもしれない姿形です。 もしも最愛の相手が途轍もなく悍ましい姿に見えてもあなたは変わらず愛せますか? というのはかなり究極的な問です。 『火の鳥』や、『◯◯の◯(ネタバレになるので名称を挙げられない某作品)』や『△△の△(ネタバレに以下略)』などを思い出す設定ですが、本作では小林さんの見え方が1話目に登場する形だけではなく、毎話さまざまなものになっていくのが特徴的です(ずっと1話のような姿でいて欲しかったと思う方もいるかもしれませんが)。ときに小林さんの心情にリンクしていたり、ときに小林さんの夢を映し出したり……。 松山くんにしか解らない小林さんの深い部分が知れることでラブがコメっていきますが、小林さんも不憫な生い立ちに加えて強面の男たちに強く出たりクラスメイトのマンガに対して熱い批評を行ったりと魅力的な部分もあって応援したくなります。果たして着地点をどうするのかが気になるところです。 他にない作品を読んでみたいという方は、手を出してみるのも良いかもしれません。

失敗家族

共通の敵によって結束する人類の本質 #1巻応援

失敗家族 小宮みほ子
兎来栄寿
兎来栄寿

6年間引きこもっている上に月に20万以上の請求を負わせる息子。 高校を中退しそうになっているパパ活をしている娘。 そんな子供たちを放棄して不倫に専心する夫。 よそからは「子供が2人いて順風満帆の家庭を営んでいる主婦」と思われていながらも、内情は完全に破綻した「失敗家族」となっていて、半ば諦念しており限界に近づいていた妻が主人公の作品です。 ある日、夫が連れ帰ってきた上司の傍若無人な振る舞いに遂にブチ切れてしまい発作的に殴ったら死んでしまって、それまでバラバラだった家族が「殺人を隠蔽する」という目的で結束していくクライムサスペンスです。 普段、いがみ合っていたり無関心同士であったりしても、そこに共通の外敵となる存在が現れると結束して対処に向かうのは非常に人間的だなと思いました。 『マイホームヒーロー』はまだ明確に自分の家族が下手すると殺されるかもしれない危機が迫っていましたし相手はプロの手合いでしたが、本作は日常の延長線上にある言ってしまえば「嫌な言動をされただけ」で一般人を殺してしまっているところが差異化されているところです。 推理小説に造詣が深いでもなく、特殊な環境で鍛えられた経験もないごくありふれた家族が、自らが犯した犯罪をどう露見させずにやり過ごしていけるのか。 それまでバラバラだった家族が殺人を機に結束する部分もあれば、それを機に決定的に壊れてしまうものもあり、そこの収集もどうなっていくのか気になります。

エリオと電気人形

電気が禁忌となった世界で #1巻応援

エリオと電気人形 島崎無印 黒イ森
兎来栄寿
兎来栄寿

現代よりも人類が高度な文明を築き上げた未来世界において人類がAIとの対立から戦争を起こし、世界から電気を滅することで人類側が勝利して蒸気機関が主流となっているという世界設定がまず魅力的な本作。 その魅力を何倍にも掛け算しているのが黒イ森さんの作画です。絵が、とても良い!! 表紙も、カラーページも、冒頭の数ページだけでも伝わる、この世界観にジャストフィットしている美しい絵。中心となる人間のエリオと電気人形のアンジュというふたりのキャラクターも、電気がなくなった世界を描く背景も、どちらも非常に見目好いです。 旧来の作品であればエリオは普通に男の子であったかもしれませんが、エリオが名前も格好も男っぽくしている女の子であり、アンジュの充電のために毎回キスをするという絶妙なバディの関係性が現代性と特色をもたらしています。 純粋に文明が進みゆく中で分岐して発展途上となっているスチームパンクではなく、一度先進文明ができて、核爆弾以上の威力を持つ反物質爆弾が使用されて滅んだ後の世界(『火の鳥 未来編』は本当に先駆的だったなと思います)ということで、色々な想像を余儀なくされます。 AIの残存を許さないために世界中で電気の使用が禁忌となっていますが、そうはいっても人間が一度手にした便利な道具を易易とすべて手放す道理はないだろうとも思うわけです。全面的に禁止になったとしても、一部はロストテクノロジーとしての電気を活用して利を得ている人もいるのではないか? という第一印象を抱きましたが、それはおいおい作中でしっかりと語られていくため、安心して世界観に入り込めました。 世界設定と絵がベストマッチしていてとても良い上に、ストーリーも良質なので人気が出ないはずもない作品です。各エピソードに関しては王道をしっかりと踏襲している印象で、5話などはベタですが好きです。話を積み重ねながら根幹となる部分も少しずつ進行していく構成となっています。 カバー下などもこだわってスチームパンクの世界観を押し出しており、読めばこの世界にいざなってくれる力のある作品です。スチームパンク的世界や後退した文明での物語が好きな方、綺麗な絵の作品が好きな方、機械的でクールな美少女が好きな方、女の子同士で旅をする物語に興味がある方などにお薦めしたいです。

ヘブンリーブルー

青く美しい島の青い子供たちの謎 #1巻応援

ヘブンリーブルー 脇田茜
兎来栄寿
兎来栄寿

『妖精のおきゃくさま』や『ライアーバード』の脇田茜さんの最新作1巻が発売となりました。 美しい青い海に浮かぶ青い屋根の建物が並ぶ島・アージュア。 その島には魔法の修練に取り組む青い髪の子供たちがいて、主人公のリンドウもそのひとり。けれど、リンドウは他の子たちのように上手く魔法を使うことができず、空気も読めないので孤立してしまっている存在です。いつも一緒の人並外れた魔法が使える赤い髪のキキョウを除いては。 アージュアには謎や秘密も多く、第一話から不穏な描写が複数現れます。 夜の外出禁止は何のためなのか。 空に現れる巨大な虫は何者なのか。 リンドウの周りで起こる不可解な現象はどんな因果で起こっているのか。 島の子供たちは何のために魔法の訓練をさせられているのか。 なぜキキョウだけ髪が赤いのか。 二話、三話と読み進めていくと、更にさまざまな設定が明かされていきます。そして、衝撃と共に謎が謎を呼ぶ展開が巻き起こります。 脇田茜さんの画風はやはりファンタジー描写との親和性が高く、世界観にとても合っていると感じます。サントリーニ島やミコノス島を思わせる冒頭や表紙絵でカラーで描かれるアージュアの景観が好きです。また、三話に登場する″空″と″星″を見分けられるおじさんのように、綺麗なキャラだけじゃないのも良いです。個人的には本だけ読んで暮らすヒキコモリになりたいジュークくんを応援しています。 また、巻末の等身低めおまけマンガもとてもかわいいです。 サスペンスフルなファンタジーを読みたい方にお薦めします。

魚と水

コロナ禍下で育まれる想いと掴まれる胃袋 #1巻応援

魚と水 田亀源五郎
兎来栄寿
兎来栄寿

田亀源五郎さんの新作は、男性同士の友達以上恋人未満の関係性とグルメマンガとしてのふたつの軸を楽しめる一粒で二度美味しい作品です。 読切で描かれたお話が連載化された作品ですが、それもそのはずでメインキャラクターのふたり、アキラとコージの息衝きが非常にヴィヴィッドです。あとがきで田亀さん自身が「お、こいつらよく動くぞ」と語っていますが、本作はこのふたりの掛け合いだけでも十二分に成立しています。1巻完結ではありますが、何ならこの後もずっと追っていたいほどの良き存在感があります。 アキラは営業職で、食べる方の専門。 コージは在宅のフリーランスで、世界各国のさまざまな料理に精通している料理上手。 気心の知れた友人同士であるふたりですが、コージの卓越した調理技術によってアキラは次第に胃袋を掴まれていきます。恋愛において、料理ができるというのは本当に強いアドバンテージだなと思います。側から見ている私ですら、コージの作る料理はとても美味しそうで食べてみたくなります。逆に、アキラが美味しそうに食べてくれるのがとても喜ばしいコージの気持ちも伝わってきます。 中には、コージがアキラの手料理を食べてみたいと簡単なレシピを教えて作らせるお話も。「シンガポールチキンライス」はお手軽で美味しそうなので、その内作ってみたいです。 個人的には、初めてギリシャに行った時に食べてとても美味しく思い出に残っているものの日本ではなかなか食べられない「ムサカ 」が、作中にガッツリと登場して嬉しかったです。自分ではあの味を上手く再現できないのですが、ギリシャ名産のミソスビールと併せてまた味わいたいものです。 食というのはひとつの生活の中心なので、その時間を笑顔で幸せに過ごせる相手というのは理想だと思います。美味しい料理を作ったのにアキラが目の前におらず思わず食べたときの反応を想い描くコージや、逆に持っていく食材があればコージの所へ行けるのにと考えるアキラの通じ具合が良いです。日々の逢瀬に始まり映像作品を一緒に観たり、デートをしたり、男性同士が心を通わせ合って行く作品として細かいシーンの積み重ねで想いが募り行く構成が堪りません。 単行本ではふたりの出逢いのエピソードが描き下ろされていますが、お互いがお互いのどんなところに興味を持ち、そして惹かれて行ったのかが解る内容で非常に良かったです。連載を楽しんで追っていた方は必読でしょう(加えて、裏表紙もかわいいです)。 なお、本作は意識的にコロナ禍下の日常であることが強調されて描かれています。ウクライナ情勢に言及するシーンもあり、そうした中でのふたりの関係性を描いており正に「今」を切り取った作品でもあります。それ故に、ふたりの存在感のリアルさもまた重みを増しています。根幹にあるものは変わらなくても、時代の変化にしっかりとアジャストしていく田亀源五郎さんの物語作りの真摯さを感じるところです。 一冊で一旦の完結を見ていますが、最初にも述べた通りこの続きにあるであろうふたりの平和で尊い日常をまだまだ追って見ていたくなる、そんな作品です。

WHITE BLUE PINK

女3人×シェアハウス×恋愛譚 #1巻応援

WHITE BLUE PINK 原川ユキ
兎来栄寿
兎来栄寿

「ミスキャン→キー局アナ→プロスポーツ選手と結婚→海外移住→お城のような豪邸でお姫様のように暮らす」という完璧な人生設計を、まずミスキャンになるところまでクリアしてIT企業の社長からアプローチを受けるも、気になる男性が現れる20歳の亜矢。 27歳で、結婚までいくと思っていた同じ会社の男性と別れて疲弊している中で、後輩に言い寄られる亜矢の従姉でグラフィックデザイナーのマコ。 入社時から片思いしていた上司が結婚式を挙げることになった、OLでマコの友達の吏佳。 そんな3人が、シェアハウスをして暮らしていく中で、互いの恋愛模様も含めた共同生活の様子が描かれていきます。 最初は亜矢の視点から物語が始まりますが、他のふたりの視点からの物語を読むと、亜矢のときの物語で抱いた印象とはまったく異なる内面が見えてくる多面的な構成が面白いです。たとえ、一緒に暮らすような仲であっても他人に見せない部分はある、むしろ取り繕うために他人と一緒に暮らすというのはリアルさを感じます。 恋愛模様も三者三様ですが、しかし共通しているのは3人とも元々抱いていた理想ではない方向へと転がっていくところです。ここも非常にわかりみが強く、恋愛に留まらず人生全体にも言えることですが、時として全然予想しなかった方に向かって行き、まさかそんなところに道があるなんて想像もしなかったようなところに道が拓けていくものなんですよね。若い時分に「自分は絶対に○○にはならない/やらない」などと考えていたことがいかに覆されていくか。それは本当に「あのネクタイの色好きだな」くらいの軽さから動かされ転げていくものです。 それでも、何かあったときに共有できる人間が身近にいるというのはやはり心が助かるものだなあと読んでいて端々で感じました。実際は苦労も多かろうと思いますが、それでも得難いものがきっとあることでしょう。 「クレマチスは冬にこそ水やりが大切なのだと思い出した  落葉している間にも根を枯らさないように」 など、ところどころのモノローグもじんわり響いてくるフレーズがあり好きです。 大人の恋愛物語を読みたい方に薦めたいです。

正常生活 ノーマルライフ

ネコに嘔吐されながら人生を想う #1巻応援 #完結応援

正常生活 ノーマルライフ 川口まどか
兎来栄寿
兎来栄寿

『死と彼女とぼく』シリーズでお馴染みの川口まどかさんの最新作で、1巻完結です。 代表作がホラーなので、完全な日常生活のお話に新鮮さを感じながらも、従来の心に響く作風は健在です。 本作は、新卒から2年で鬱になり引きこもりとなった息子と、2匹のネコと暮らす半世紀を生きた女性の物語。若干シリアスな設定ですがコメディ基調でお話は進行しつつ、しかし時折しんみりと感じ入らせてくれます。 川口まどかさんももう還暦を過ぎてらっしゃいますが、それにも関わらずVRでドローンを操作して遠隔でネコに薬を飲ませたり、お絵描き教室の子どもたちにリモート授業やVRお楽しみ会をやったりする話を描く感性は流石だなと感服しました。 50年も生きると、嬉しいことも楽しいことも辛いことも哀しいこともたくさん経験して達観してしまうでしょうが、それでもその先にあるものを(特に最終話で)見せてもらった想いです。 「このあいまいな世界でつくづく思う  よくぞ みんな生き残ってるよね  偉いよね」 という6話のモノローグも、とても優しく心に響きます。 50,60,70……といくら年を重ねても人間は不惑とは程遠い存在でしょう。それでも、たとえ正常であろうとなかろうと笑顔が1つでも増やせる人生を過ごせたら良いですね。 なお、ネコを飼っている方であれば共感必至であろう、顔面への唾液スプラッシュや絶妙な場所への嘔吐、病院へ連れて行ったり薬を飲ませたりするときの苦労などが解像度高くコミカルに描かれます。犬しか飼っていない私でも、仕える従者口調で語り掛けるところなどうんうんと頷いてしまう描写が多々ありました。強いネコ愛を感じます。 「人は世界を広げた方がいいけれど  ペットは世界の広さより  ご主人の愛の深さだよ」 は蓋し名言です。

今日、駅で見た可愛い女の子。

この女子あるある、めっちゃ好 #1巻応援

今日、駅で見た可愛い女の子。 さかなこうじ
兎来栄寿
兎来栄寿

「俺も君の様な、ミルボンが似合う女の子に生まれたかったです」 がTwitterで公開された際に10万いいね以上の特大バズを生み、その後も最新話を掲載するたびにバズっている人気作品の待望の単行本が発売となりました。 タイトルと表紙だけ見ると「ヤバそうなストーカー男の話かな?」と勘違いされかねませんが、中身を読むとアラサー~アラフォー女子のノスタルジーやシンパシーをさまざまな角度から刺激する、優しい世界のコメディとなっています。 水道橋の出版社に勤め日々の激務でボロボロになり枕からは酢飯の、手からはネギの臭いがしてきたダウナーな37歳の青年・亀山は、駅でいつも出会う女子高生の持つさまざまなアイテムやその使いこなし・着こなしに多大なエネルギーを貰い内心でテンションを爆上げしながら生きています。 セボンスター、キャンメイク、リップモンスター、365日のバースデーテディ、プチコロン、ハイブリッドミルキー、フェリナンダのマリアリゲル、ビジュー付きのあみあみの靴、リプトンのミルクティー、プロフィール帳、プリクラを撮る際のアヒル口あごピースやテーブルに鎖で繋がれたハサミetc... 「あったあった」「なつい~!」となること請け合いのネタが1話8ページ構成でテンポよくたくさん繰り出されます。作中では亀山は「自分はバトルえんぴつだった」という述懐がありますが、まさに男の子にとってのバトルえんぴつやベイブレードや遊戯王・ポケモンカード・デュエマやミニ四駆やハイパーヨーヨーやエスパークスやドラゴンの裁縫道具セットや修学旅行で買った木刀のようなものが詰まっている作品です。 個人的には特にゴスロリの話で登場する伏せ字のブランド名が大体解ってしまい、強い郷愁に駆られました。あのころ目黒や橋にいた方々は今もお元気でしょうか。 「かわいい女の子が昭和~平成の男性向けのちょっと懐かしいものにやたら詳しい」という建付けはたまに見ますが、この「おじさんが昭和~平成の女性向けのちょっと懐かしいものにやたら詳しい」というのはなかなか珍しく新鮮です。 何しろ、アラフォーのおじさんがそんな女児文化やメイク用品に詳しくても何か工夫しないとちょっと変な感じになってしまいます。普通は。しかし、本作における亀山は熱量こそ爆高いですが微塵も嫌な感じはしません。そこが良いんですね。生まれ育った性別が男だっただけで、女の子向けのカワイイ文化・カワイイを作る心意気が心底好きで憧れを抱く女の子の心も持ち合わせている100%無害な存在。何なら、現代社会において仕事で疲弊しながらも、そうしたものを心の支えに生きているというところは応援すらしたくなるキャラです。 私自身も、男性でありながら昔からかわいいものが大好きで高校生の時もミッフィーグッズを愛用してクラスメイトにバカにされて生きてきたので、多少なりとも共感します。かわいいもので自分がアガればそれでいい、という今では当たり前の価値観も本作ではナチュラルながら力強く提示してくれるのもいいです。 そして、本作の最大の特徴は亀山が知らないかわいい女子高生の秘密。非常に現代的な設定に加え、そこを取り巻く周囲のキャラクターたちのありようも非常に令和的で良さが溢れています。いつか亀山は真実を知る日が来るのでしょうか。 さかなこうじさんの美しい絵も、間違いなく本作の魅力を形成しています。しかし、どうやってこれだけ解像度の高いあるあるネタをコンスタントに出しているのかちょっと気になります。

うちらのはなし 木村恭子デジタル短編集

個々の地獄の相対化を優しく制する物語 #1巻応援

うちらのはなし 木村恭子デジタル短編集 木村恭子
兎来栄寿
兎来栄寿

一昨年の暮れに『りぼんスペシャル』に掲載された読切「ママの友達」が、こちらの短編集に収録されると共に『ジャンプ+』にて掲載されて話題を呼んでいます。 埋もれさせてしまうにはあまりにも惜しい作品だったので、こうして日の目を浴びて嬉しいですし『ジャンプ+』への掲載を決めた方は英断だと思います。 同時収録の、こちらも『りぼんスペシャル』2023冬号に掲載された「一緒に起きてる」共々、ただの友達という枠を超えた特別な繋がりが生じる少女たちの関係性を描いており、『うちらのはなし』というタイトルでまとめたのは言い得て妙です。 「ママの友達」の方は『ジャンプ+』で読めるので、まず読んでいただければと思いますが1コマ目から「私と生理」という書き出しで始まる生理の重い高1の女の子・星野の物語です。 この作品では「生理」という現象で描かれていますが、たとえ同質の苦しみであっても人によって多寡や軽重があるにも関わらず「自分は大丈夫だったから/できたから、他人も大丈夫/できるはず」のような想像力の欠けた考え方をされてしまうことは実社会でもままあります。 親にも友達にも先生にも理解されず悩みを抱えることがどれだけ辛く苦しいか。逆に、そんなときに初めて理解を示してくれる人が現れることのどれだけ嬉しいことが。「ママの友達」には、そんな辛みも嬉しさも余さず描かれています。 また、もう一篇の「一緒に起きてる」もその辺りはとても顕著です。 大きな辛苦を抱えて生きる少女が 「ここの施設には私よりしんどい子もいる」 と語る際に主人公が 「ふつうとか私よりとかないよ」 と、個々人にそれぞれある地獄を相対化して矮小化させてしまうのは良くないことで悲しいことであることを、シンプルな言葉で力強く伝えてくれます。たとえどれだけ世間に似たようなことで苦しんでいる人がいて皆それを堪えて生きているとしても、あなたが今抱えて泣いている苦しみはあなただけのもので、それが大したことはないのだなんて誰にも言う権利はないのだと、優しく抱擁してくれるような作品です。 「一緒に起きてる」は、その他の部分も含めて大いなる崇高さを感じる素晴らしい短編です。普段少女マンガは読まない、という人にも推したい短編集となっています。デジタル限定なのが惜しいくらい、最高です。 これらの作品で木村恭子さんに興味を持った方は、ぜひ『小さな恋のでっかいメロディ』や『好きにならずにいられない』も読んでみてください。『こどものおもちゃ』と並べて語られていますが、まさにそうした大人が読んでも楽しめて子供にも読んで育って欲しい意義ある作品群です。 少女マンガソムリエの田舎はるみさんもこれらの作品についてマンバ通信で大絶賛しているので、こちらもご参照くだされば。 https://manba.co.jp/manba_magazines/15045 https://manba.co.jp/manba_magazines/13370

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